わからないのは

明日も出陣を控えた夜だった。
いつものように審神者を部屋まで送り、部屋の前で他愛ない会話を少しだけし、口付けをして別れる。出陣が続いている日は何もなければそうして一日を終える。
――そう、何もなければ。
「……おやすみ、膝丸」
柔らかい唇からそっと顔を離せば、今日はこれで終いだと審神者の微笑みが告げる。小さな手にやんわりと胸を押された膝丸はその笑みを愛らしいと思いつつも、つれないと感じる。
細腰を抱き締めながら、あと少しだけと額を擦り合わせ口付けを強請れば、胸だけでなく唇も押さえられてしまう。細い指先が押し返す力はたいしたものではないのだが、何故か妙な力がある。
「駄目……。明日も出陣でしょう」
「少しだけ」
「ん、ぜったい、すこしじゃない……」
これまでの経験からその「少し」は全く少しではないことを知る審神者は、指先を押し退けようとする膝丸から僅かに顔をそらした。
……わかっているのならさっさと諦めてくれればいいものを。
膝丸は頬を染める審神者を追い掛け、的を唇から外し、小さな耳に吸い付く。柔らかな耳朶の裏を舌先で持ち上げては口先で吸えば、腕の中で華奢な体が震える。
「んっ……、だめ……、膝丸、疲れてる、でしょ……」
連戦続きの体を審神者はいつも心配してくれる。
出陣を決めるのは審神者だが、部隊長を任される信頼に応えたいと思えば疲労など忘れる。彼女の刀として胸を張れる名誉がもらえるのなら、例え出陣がいくら続こうとも気にならない。
しかし、疲労を心配してくれるのなら是非とも他の面の心配もして欲しいところだ……。
「君はわかっていないな。疲れているからこそ、だ」
逃げ腰の審神者を抱き寄せれば、密着した体に審神者の頬がますます赤くなり、それと同じように膝丸の熱も上がっていく。
(可愛い。時間の許す限り、いじめて、可愛がってやりたい)
ぐりぐりと押し付けると、審神者は赤く、困った顔で膝丸を見上げる。その顔で見上げられると膝丸の加虐心はむくむくと膨れ上がり、もっとその顔が見たい、もっとひどいことをしてやりたいという気持ちが強くなってしまう。
腕の中でかたまる審神者を喉奥で笑う。
そして首筋に唇を添え、薄い肌を甘く食みながら低く囁いた。
「覚えておきなさい。疲れているからこそ、男は興奮する」
かくっと審神者の膝が折れかけ、ふらついた体を抱える。のけ反る背中を支えつつ、どんどんと顔を寄せれば審神者から今にも泣きそうな声が漏れる。
弱々しい手が膝丸の袖を掴んだ。
「お、おねがい……、困らせないで……」
震える睫毛と濡れた瞳。熟れた果物のようなぽってりとした唇から紡がれる小さな声はどんな言葉であろうとも膝丸の理性を焼き焦がす。恥ずかしそうに外された視線を良かったと思えばいいのか、惜しいと思えばいいのか。
「君は、わかっていない。本当にわかっていない」
――その目、表情、声が、どれほど膝丸を困らせているかを。
破裂してしまいそうな愛しさには最早苛立ちが混ざる。
膝丸は口早に告げたのを誤魔化すように、審神者へと噛み付いた。

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