帳を下ろして

報告書の紙をめくることすら躊躇してしまうほど静かな夜。審神者は細心の注意を払いながら、部隊長が書いてくれた簡易報告書を読んでは上に提出する報告書を作成していた。時刻は皆が寝静まった深夜であったが、少しだけ進めておこうと寝る前に作業を始めたら妙に目が冴えてしまったのだ。書き進められる内に進めておこうと、審神者は部屋の灯りを落としては煌々と光るモニターの前で報告書作成に勤しんでいた。
もう少し、あと少しだけ。ここを書き終わったらいい加減寝ようと静かにキーボードを叩いていると、審神者の目の前が帳を下ろしたように真っ暗になった。
「……眩しい」
視界が覆われたと同時に頭の上から膝丸の声がして、まるでモニターから遠ざけるようにして後ろから長い腕が審神者の体を抱いた。
「ご、ごめん、うるさかった……?」
突然膝丸の手に目元を押さえられながらも、後ろで寝ていた膝丸を起こしてしまったと審神者は謝った。出陣から戻ったきたばかりゆえ、ゆっくり寝かせてあげようと静かにしていたつもりだったが、やはり戦に身を置く膝丸相手には難しかったようだ。
「いい加減休みなさい。報告書なら……明日、俺が手伝う」
不機嫌そうな膝丸の声に審神者もそろそろ一区切りをつけるところだったと告げようとしたが、膝丸の腕が審神者の体をぎゅう……ときつく抱き締める。
「せっかく君の部屋で寝ているというのに、隣に君がいないのでは、意味がない……」
腕の力は強いのに、聞こえてくる手は今にも寝てしまいそうなものだった。目を覆っていた大きな手もするりと落ち、そっと頭上を見上げれば眠たそうに目を閉じる膝丸がいて審神者は微笑んだ。
「ごめんね。もう寝るね」
「…………うん……」
こくりと頷く膝丸は普段の涼しげなそれと打って変わって可愛らしく、審神者は膝丸の手を握ってそっと立ち上がる。
「起こしてごめんね。もう寝るから、安心して」
膝丸の手を両手で包み込むようにして握れば、その手はもう離さないとばかりに握り込まれた。
「君…………、隣に……」
実は寝ぼけていないのでは……と疑う力の強さだったが、白緑の髪から見える目は眠たそうに閉じかかっている。
審神者は笑みを深め、今にも寝入ってしまいそうな膝丸の頬に口付けた。
「うん。おやすみ、膝丸」
その夜は、膝丸に抱かれて眠りに入った審神者だった。
翌朝、起きた膝丸が嬉しそうに目を細めて「おはよう」と言ってくれる姿を思い浮かべて。

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