紅葉
赤、黄、橙、緑。
庭には色とりどりの枯葉が鮮やかに散りばめられていた。
散らばった色を集めるように掃けば、かさかさと乾いた音が心地いい。
審神者は竹箒で枯葉を集めては、飛び込みたくなるほどふかふかの山を作っていた。
「よし、これでいいかな」
「だいぶ集まったんじゃないか」
同じく落ち葉を掃いてくれていた膝丸が審神者の横に並び、集めた枯葉の山を満足げに見下ろす。
「でもまたすぐ落ちてきちゃうんだろうけどね」
「秋だからな」
仕方ない、と苦笑しあえば、竹で編んだ箕に落ち葉をたくさん乗せた今剣が仔犬のように駆け寄ってきた。
「あるじさま! おいものじゅんびですか?」
「うん、お願い」
「わーい! いってきまーす!」
今剣は拾い集めた落ち葉を山へと移し、箕を帽子のように掲げては「ばびゅーん!」と厨の方へと駆け出していった。
集めた落ち葉で作る焼き芋が楽しみで仕方がないとばかりに元気いっぱい走る今剣を審神者と膝丸は穏やかに見送り、「さて」と使用した箒を抱え直した。
「あとは火消し用のお水とかの準備?」
「そうだな。重いだろうからそれは俺がやろう」
「ありがとう」
では自分は箒やちりとりを片付けようと膝丸から箒を受け取ろうとしたが、優しく微笑んだ膝丸が軍手をはめた手で審神者の額あたりを指差した。
「君、落ち葉がついてる」
「えっ? ほんとう?」
膝丸にそう指摘され、審神者は慌てて額を払った。しかし腕や膝のように目に見える場所でもなく、鏡もないこの場ではうまく取れたかがよくわからない。
「……取れた?」
「いや……。待て、俺が取ろう」
そう言って膝丸は軍手を脱ぎ、長い指で審神者の額と前髪を優しく撫でた。触れる指先に審神者は目を閉じ、その指先が落ち葉を取ってくれるのをじっと待った。
そして、静かに待つ審神者の唇に柔らかいものが触れた。
「…………ん?」
確実に何かが押し付けられた感触に審神者は僅かに眉を寄せ、目蓋を持ち上げては膝丸を見上げた。
見上げた膝丸はぱちぱちと瞬きを繰り返す審神者をじっと見下ろしてはゆっくりと顔を離した。
……顔を…………離した…………?
「取れたぞ」
審神者についていたのは紅葉だった。あたたかな橙色から鮮やかな赤への色の移りが実に美しい。膝丸はそれを指先でくるくるとまわしては、未だ何が起きたのかわかっていない審神者の口元へとかざす。
「すぐ目を閉じるからだ」
だから悪いんだ、とばかりに言った膝丸に審神者はすぐに唇をおさえた。おさえた唇には、まだ柔らかな感触が残っている。
「……っ!」
どうやら落ち葉を取ってもらうはずが、違う何かが審神者へと落ちたようだ。
口元に浮かべられた意地悪な笑みに審神者は一瞬で赤面しては、小さな肩をぶるぶると震わせた。
膝丸はかざした紅葉を可愛がるように唇に寄せては、頬を赤く染める審神者へとゆっくり目を細めた。
「おお、実に見事な紅葉だ」