人類最強のおさなづま



何かを背中に隠すようにして彼は言った。


「ナマエ、今日は何の日だ。」


今日は何の日だ、と確認するよりも、問うような言い方をされて私は首を傾げる。何の日…でしょう…。彼に問われるような大切な日だっただろうか、今日は…、それとも私が理解していないだけなのだろうか。そう彼の顔色を窺うようにして見詰め返すが、余程の事じゃない限り動じない彼の表情に答えは見付からない。


「あの…、ハロウィン、でしょうか…?」


間違えでしたらすみません、と付け足し、今日と言ったらこれしか思い付かない単語を口にする。


「そうだ、ハロウィンだ。」


でも多分違うだろう、思っていた言葉は予想を裏切り当たりだったようで、あまりにも意外な日を問われていた事に少し驚く。
しかし、彼はそれだけ応え、あとは何も続かなかった。今日はハロウィンだ。………で…?というところなのだが、彼は何も言わないし、かといってこの話がここまでという訳ではないようだ。また黙って私を見詰める彼の目が、何かを訴えている。何を……?と彼の真意を探り、私ははっと思い付いた。そして「ちょっと待っててください」と伝えて、あれを持って彼の前へ戻った。


「お菓子、ありますよ。今朝、気の早い男の子が早速お菓子をもらいに来てて慌ててクッキーを焼いたんです。たくさん焼いたので、あなたの分もありますよ。」


今朝一番の男の子にクッキーは間に合わなかったので飴を渡すことになったのだけど、見ての通り、籠いっぱいにハロウィン用のお菓子を今朝用意した。男の子の来訪により、今日がハロウィンだと思い出してクッキーを作ったのだが、たくさん用意したわりには(ここが人類最強のリヴァイ兵長の家だと知られているからか)あまり子供が来なかったのだ。
はい、どうぞ。と彼に籠ごとクッキーを差し出した。


「………美味い。」


彼は籠からお花型のクッキーを一枚取って口に入れた。もぐもぐと動く口からその言葉が聞けて思わず頬が緩んでしまう。彼は二枚目のクッキーを手に取ってまた口に運んだが、小さく首を振った。


「美味いが、違う。そうじゃない。」

「は、はぁ…。」

「ナマエ、ハロウィンと言ったら、だ。」

「ハロウィンといったら……?」


こくり、と頷かれて私は考える。その間、彼はクッキーを一枚、また一枚と食べていて、もぐもぐと租借する姿に目と思考を奪われながら「仮装…?」と答えるが違うと返される。「では、お化け?」とまた答えても違うと返された。はて、一体…。


「合言葉があるだろ。」


彼が答えを探しあぐねる私を見かねて、ヒントをくれた。もう答えに近いヒントに私はやっと「ああ、」と答えることができた。


「トリックオアトリート!」


やっとわかった答えに思わず声を張り上げてしまって、慌てて口を押さえる。恥ずかしい、と項垂れるも、彼は特に気にしていないようでほっとする。そのまま、ちらりと彼を見上げると、何やらずっと後ろに隠していた片手を目の前に持ってきた。


「ハンジから、もらった。ハロウィンだからと言ってな。」


目の前に拳が出され、あの…?と見上げながら、その下に両手を重ねると、ぽとりと小さな包みが落ちる。指の関節ほどの大きさのそれは薄い包装紙に包まれ、中のものを透かしていた。これは。


「キャラメル…ですか…?」

「ああ。嫌いか?」

「い、いいえ、そんな…!」


キャラメルを嫌いなんてとんでもない!そもそも、キャラメルを見たのが久しぶりだ。幼い頃はおばあさまからこっそり頂いた事があったが、それも昔の話だ。


「い、頂いてよろしいのですか…?」

「そのために喰わずに持ち帰ってきた。」


と言われて、胸が温かくなる。


「あ、あの、私、お茶いれます…!」

「大袈裟だな。…まぁ、俺にもいれてくれ。クッキーも食べる。」

「はい!」


もちろん、あなた様にもいれるつもりです。
そう返事をすれば、彼の目が少しだけ柔らかくなって、私もつられて目を細める。
すると、いつものように彼の大きな手が私の頬に触れて、擽るように指で輪郭を撫でられる。触れられた頬から彼の指先の温かさを感じて、手の中のキャラメルがほんの少しだけ蕩けた。



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