兵長先輩



「トリックオアトリート」

「………………」


一瞬、聞き間違いか何かを期待した。およそ彼からは想像できない単語を聞いた気がして私は固まる。そしてそんな私に再度、彼は、兵長先輩は、あの顔で「トリックオアトリート」と私に告げたのだ。


「い……、今、とりっくおあとりーと、言いました…?」

「言った。菓子よこせ。」

「(よこせって…)え、いや、まさか先輩からそんな言葉が…」

「早くしろ、1、2、3…、」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」

「4、」

「待った!タンマ!確か鞄に男梅が…っ!」

「5…。時間切れだ。」


って、あなた待ってくれる気なかったでしょう!と鞄に手を突っ込んだまま兵長先輩を見ると、先輩はさらっと前髪を揺らして私へ一歩詰めた。しょ、正直ガラの悪い先輩が近寄ってきて私の心臓は「ひやぁ…っ」と静かに悲鳴をあげているのだけど、香る兵長先輩の香水の香りに足が動かない。その香りが距離の近さを語って、ぐっと胸倉を掴まれた。


「っ、せん、ぱ…っ」


ひいっ、かなり怖いんですけど…!!と肩を縮めると、はあ、と耳に熱い息を感じた。そして。


「痛っ!!!!」


がぶり、そんな音が聞こえた気がして噛まれた耳をおさえた。


「な、なっ…!なに、して………!」

「イタズラ。……じゃあな。」


なんて兵長先輩は何事もなかったかのように私の横を通り過ぎて行って、残された私は耳をおさえながら、い、痛いんですけど、と思いつつ、落ち着いて今何が起こったのか確認して、彼の吐息がかかった耳を真っ赤にさせた。


「り、り、……リヴァイさんっ!!!!」


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