黒猫のワルツ


「やだ…、自分のセンスの良さに吐き気がする…。」

「リナリーそれは一体どういう例えですか…。」


今日はご主人様のお家で、ハロウィンパーティをしましょう!とリナリーさんが大きな紙袋を持ってやってきたのはついさっきのこと。ハロウィンとは確か幼い人間の子がお化けの格好をしてお菓子をもらいにいくイベントだった気がしますが、最近ではコスプレをして楽しむ日、みたいになっている気がします。


「どう!天使なまえ!」

「無論可愛いさ!」


リナリーさんは、蝙蝠みたいな羽に、先が三角になった細い尻尾で、多分悪魔のコスプレをしています。ふりふりのミニスカートから伸びる細くて長い足に、つい、目がいってしまいます。その隣のラビさんはウサギの耳がついたフードパーカーをお召しになってます。モヤシさんは白衣を羽織ってて、お医者様のような格好です。そして、ご主人様はというと。


「ユウもコスプレするさー」

「誰がするか。」


いつも通り、です。


「なまえすっごく似合ってるよ!写真!写真撮ろう!」

「僕が撮りますよ。」


あ、あの、い、一応ハロウィンだということで、お、お菓子、ケーキとか作ったんですけど、わ、私を撮るよりもそちらの方が有意義かと…!それか今からお茶とケーキの準備しますので、その間皆さんで写真を撮られてはいかがでしょうか…!!


「天使の白となまえの黒耳尻尾の白黒がいいわ!でも悪魔で全身黒も見たいから後で交換しようね、なまえ!」


強く肩を揺さぶられ、え、わ、は…、は、はい…?と頷けばリナリーさんはぎゅうぎゅうと私を抱き締めてくれた。り、リナリーさん駄目です、よ、汚れちゃ…!ああ、でもリナリーさんの匂いが…!いい匂いです…。リナリーさんの匂いにふにゃりと尻尾が落ちると、ラビさんとモヤシさんが「いいなー!」とお声を揃えていらっしゃった。す、すみません…っ、わ、私なんか獣人がリナリーさんに抱いて頂いて…!


「おい、離れろ。」

「む、コスプレしない人はパーティにもなまえに抱き付くことも許しませんー。」

「そのパーティ会場は俺ん家だ…!」

「あっ…!」


ひょいっ、とリナリーさんの腕の中から今度はご主人様に抱えられて、リナリーさんと似たデザインのスカートの裾を慌てて押さえてた。私を下ろしたご主人様は私とリナリーさん達の間に壁を作るように立たれた。


「なまえ、コーヒー頼む。」


は、はいっ。
ちりんと返事の代わりに鈴を鳴らしてキッチンに逃げ込む。その後ろでラビさんが「ぶー」と声をあげていて(ぶ、豚の真似?)、でも、た、助かりました…。私がリナリーさんとツーショットだなんて…、そんな、


「なまえ。」


ご主人様にコーヒーを頼まれたついでにケーキも用意しようと、冷蔵庫から大皿に乗せたケーキを取り出すと、ご主人様が傍に立っていた。は、はい、何かご用でしょうか、と見上げると、ご主人様は少し困ったようなお顔をされて、私の頭を撫でた。


「…か…、」

「?」

「……い、すぎる、だろ…。」


あの、すみませんご主人様、何を…?と聞き返そうと首を傾げると更に頭をくしゃくしゃと撫でられた。わわっ、な、なんでしょうか。


「あ…いや、騒がしくて悪いな。アイツらいつもあんな感じで。」


とリビングの三人を顎でさしたご主人様に、私はふるふると首を振った。騒がしいなんて、とんでもないです、思ったことも、ないです。
あの、ご主人様、私、みなさんが、とても好きです。獣人が人間に何言ってるんだ(言えてないけど)って話ですが、それでも、私、みなさんが大好きです、ご主人様も、とても大好きです。だから騒がしいなんてとんでも…。賑やかで、私、みなさんが大好きです。
そう、伝えることができたら嬉しいのにな。なんて、ご主人様を見上げると、まるでご主人様は私の思ったことが伝わったかのように、私の頬を撫でてくださった…。ああ、ほんとうに、だいすきです、ご主人様…(貴方様は、とくべつ、だいすきです)。


「ケーキ、作ったのか。」


ふと、ご主人様がキッチンに置いたケーキに目をとめたので、頷く。あの、甘いもの苦手なご主人様が、も、もし食べて頂けた時用に、甘さ控えめに、作ったんです…。ほろ苦、仕立て、なの、です。
用意したお皿にケーキを乗せて、リナリーさんの分、ラビさんの分、モヤシさんの分、それから、あの、ご主人様はいかがしますか…?とご主人様をみやると。


「…ん?何だ。」


と首を傾げられて、ご主人様、あの、ご主人様も、その、け、ケーキ、召し上がりますか…?とケーキとご主人様を交互に見詰めると、ご主人様が納得したように「ああ」と呟いた。


「Trick or Treat.」


だったか?と言われて、わ、す、すごいですご主人様!いま、すごい発音お綺麗でした…!さすがご主人様です…!と感動していると、ご主人様は私の手を取った。あの、何か…?とご主人様の目を見ると、その目がすっと細められる。


「でも、まぁ…。ケーキより、俺はこっちでいい。」


なんて、指についたクリームを舐められて、あまりの不意の出来事に私はびくんっと耳と尻尾を逆立てた。
不敵に笑われたご主人様が、す、す、素敵すぎます…!!


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