そう躾られている
純粋に、なまえさんが欲しいと思ったのはいつからだろうか。
兵長に蹴られた際に治療してもらった時?ベルトの薬(食い込み痕の)をもらった時?自分のふがいなさに優しくしてもらった時?いや違う。リヴァイ兵長になまえさんが頭撫でられて恥ずかしくも嬉しそうにしてた時。リヴァイ兵長が昼寝してるのに優しく微笑みながら毛布かけてた時。リヴァイ兵長となまえさんがこっそり唇を重ねてた時。全部が全部、兵長にしか見せない顔を見せられた時。
それをみて俺の心臓はぐっと誰かに掴まれたように苦しくなったと同時に、彼女が欲しくて欲しくてたまらなくなった。
リヴァイ兵長に向けるあの表情、声、仕草、全てが欲しい。
兵長補佐という肩書きを完璧にこなしつつも、兵長の前では女の子に戻るなまえさんが欲しい。欲しい。ほしい。
「なぁに?エレン。」
「あっ…いえ、特に、あの…」
それでも、俺は必至に自分を抑制する。
駄目だ。彼女を欲しいと思っては。
兵長と同じことをして、同じ表情を向けられたいとか、思っちゃ駄目だ。俺は、ここでいい。『ここ』がいい。リヴァイ兵長となまえさんが、幸せそうにしているのを眺める『ここ』がいい。そう、それでいい。
「…なまえさん、」
でも、せめて。せめて。
「耳の後ろ、ゴミついてます。」
「え、ほんとう?………どう、とれた?」
「まだ。動かないで。」
貴女に手を添えるくらいは、
「はい、取れました。」
「ありがとう、エレン。」
許して欲しい。
「エレン、また背伸びた?」
「え?そうですか。」
「うん、ほらまた目の高さが違う。」
ね?と上目に見詰められると、俺の心臓がどんな脈の打ち方をするのか、彼女は知らない。知らなくていい。知られたくない。俺はなまえさんが好きであって、兵長のなまえさんも好きだ。貴女が欲しい。兵長のものである貴女も欲しい。でもそれは許されない。
何故なら、俺は―
「エレンよ」
「…リヴァイ、兵長……」
いつの間にか俺の後ろに立っていた兵長が、気だるげに俺の肩に腕を乗せた。(ああ、確かに俺の身長はまた伸びたらしい。)
「いつ、触れていいと許した…?」
「…すみません…、」
ぼそりと、低く、鋭く、冷たく、耳の奥が抉られた気がした。ただ一言いわれただけなのに、うなじがヒヤリとした。
「…リヴァイ兵長?如何しました…?」
「なんでもない。なまえ、あまりエレンを甘やかすな。」
「甘やかしてなど…」
「甘やかしすぎた。お前はいつもそうだ。俺がいないと隙が多すぎる。」
「…そんなこと…」
「あるだろう?」
「………うう、…はい…」
俺の、俺たちの前では兵長補佐として完璧である貴女が、兵長の前だけに見せるその瞳が、欲しい。でもそれは叶わない。叶わなくていい。叶わないことが、わかっているのだから。
何故なら、俺は―
兵長にそう躾られている。
(アレは俺のものだ、と)