厩舎小屋で

「…よしっ。」


ブラシを通したあとの滑らかな光沢になまえは満足げに一息ついた。そしてそんななまえを真似るようブラッシングを施した馬もブルブルと唸り、なまえは微笑んだ。
丹念にブラッシングした馬は少し動くだけでも艶々と輝き、我ながらうっとりする出来栄えだった。
どんな荒地でも走れる逞しい四肢に、たとえ立体起動に移り離れたとしても合図をすれば必ず戻ってくる賢い瞳、そして綺麗好きの乗り手をも(多分)唸る(であろう)美しい毛艶毛並み。


「ちゃんと兵長の言うことをきくんだよ?」


そう首筋をぽんぽんと撫でると馬は了承したと言うかのように鼻を鳴らす。
逞しい四肢は壁外の巨人に怯えず走ってくれるだろう、賢い瞳は立体起動で誰もよりも早く、高く、遠く飛ぶ兵長の姿を追い、彼の合図を見逃す聞き逃すことなく彼の良き手足になるだろう、毛並みは…実戦で役立つことはないだろうが兵長が綺麗好きの面を考慮すれば…まぁ…。
しかしこの馬がリヴァイの良き手足になることは間違いなかった。彼の命令でどうしても傍を離れることになったら、この馬が自分の代わりにリヴァイを補佐し、守ることになる。と言っても彼はなまえの手助けを必要とする人でも実力でもないのだが。


(それでも…どうか私の代わりに…ー)


名前だけでも兵士長補佐官なのだ。与えられた使命は全うせねば。人類最強と謳われる彼を補佐し、彼の手足となり、彼のいざという時は…。


「…ここにいたのか。」

「……兵長、」


馬の肩に額を預けていると、厩舎の入り口にリヴァイが立っていた。


「すみません、馬の世話をしていました。何か用でも…」

「いい、特にない。」


なら、なぜここにいたのかなんて言ったのか。
意味もなく私を探してくれたのか、と思うとリヴァイがこちらに近寄る分だけ胸がときめく。


「そいつの調子はどうだ。」

「いいですよ。すぐにでも壁外へ出せます。」

「そうか。」


なまえが撫でた馬を見定めるかのようにリヴァイは見詰め、馬も臆することなく真っすぐにそれを返すが、決して好戦的な目ではない。穏やかで、従順な目だ。まるで仕える主人がすでにわかっているかのように。


「…ほお、悪くないだようだ。」

「はい。足腰も強いですし、頭もいいです。何かあったとき、必ず兵長のお役にたてると思いますよ。」


彼のために、と大事に育てた馬を本人に褒められる(彼の悪くないは褒め言葉の部類に入る)のは嬉しいことだ。そう微笑を浮かべたなまえだが、リヴァイはそんななまえを睨むようにして見詰め、しばし口を閉じた。


「兵長…?」


先程まで馬を眺め満更でもなさそうにしていたリヴァイが、途端に悪い空気を漂わせ瞳を細めたのに、なまえの心臓がひやりとした。


「…なまえよ、」

「は、はい…」

「お前、何を考えてこの馬を俺にと育てた…?」

「は…、」


男性ではわりと小柄の方であるリヴァイだが、それでも彼の威圧感というものはすごい。もともと小柄といってもそれは背丈だけで、筋肉の付き方は、それはそれは他の男性とでは比べものにならないし、それ以前に小柄通り越して彼の眼力が半端ない。そんなリヴァイが腕を組んだのを見たなまえは、彼の機嫌を損ねてしまったのかと慌てて彼の前に立ち姿勢を正す。


「この馬には、リヴァイ兵長の良き手足となるように……。」

「足はともかく、俺の良き腕は補佐官であるお前であるべきだろう。」

「…はい」

「だいたい兵長補佐であるお前が何故馬を育てる。何か特別な意志でもあって面倒を見てたんじゃねぇのか。」

「それは……、」


貴方に、全てを、心臓を、捧げるために。と心では返せるが、実際は言葉に詰まる。
何故なら、彼はなまえのその考えを酷く嫌がる。彼に心臓を捧げることにではない。


「お前は俺に心臓を捧げると言った。ならお前の命は俺のものだ。
…俺の許しもなく、勝手に死ぬことは許さん。」


彼はそれを嫌がる。
なまえが、リヴァイのためならと命を投げ捨てることに。


「自分の役目を馬になんて任せるな。お前の代わりなんていねぇんだ、だったら馬に任せる前に、死ぬ気で生きて俺の傍にいろ。」

「兵長、それは………んっ」


言葉が矛盾しているのでは、と言った言葉は途切れた。頭裏を力強くも優しく引き寄せられ、噛み付くような口付けが押し付けられる。


「ふっ、……ん、」


薄い唇が離れ、強張った息を吐き出す前に再び唇が重なる。何度も角度を変え、深く、深く、抉られるような荒々しい口付けをされ、微かなリップノイズをたて唇が離れるとなまえの体がふらりと傾く。しかし膝が崩れる前にリヴァイの固い腕が腰を支えた。


「何度言ったらわかる。お前には巨人全滅させた後、俺のガキをここに孕むっていう使命があんだろ。」

「〜〜〜っ、り、リヴァイッ」


口付けにより足腰の力が(情けないことに)入らないなまえをいいことに、リヴァイはなまえの臍下を、ちょうど子宮の辺りを撫でる。


「変なとこ、触らないでくださいっ…!ここを、何処だと…!だいたい馬が見てっ、」


と言っても馬が二人のしている行動の意味を理解しているのかは謎だが、ただあの黒々とした瞳がこちらに向けられているのが居た堪れない。そうリヴァイの胸を押し返すがこれがびくともしない。


「誰も見てなきゃいいのか?」

「そ、そういう訳じゃ……っ」

「…だそうだ。おいお前、視線外せ。」


視線を外せなんて一体に誰に、と眉を寄せたなまえだったが、リヴァイは馬に向って指先を外に向けた。
つまり、馬に目をそらせと合図をしたらしいのだが………。


「なるほど、確かに頭はいいらしい。」

「……!」


リヴァイの言う通り、つぶらな瞳を閉じ、顔をそらした馬に言葉を失う。いや実際は何も言えなくてぱくぱくさせているのだが。


「なまえ、」


この三白眼に掴まってから、何度も逃げることを試みたが結果は皆同じだった。終いには自分から彼に心臓を捧げてしまい、あまつさえ彼の子を産む約束までしてしまった。人類最強の遺伝子をこの体に宿すなんてそんな(酷な)事、確かに馬にはできない。


「何度言っても考えを正すことのできない兵長補佐殿にはどんな躾が必要だと思う…?」


リヴァイの指が、ベルトの隙間に滑り込む。


厩舎小屋で


「あ、ああっ、ハンジさんっ、助け、助けて!」

「あっはは!リヴァイ、なまえをお姫様だっこなんてして何するんだい?」

「調教」

「ちょ…!!(死んだ…!私死んだ…!!)」

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