萌葱の翼

雷のような一閃が巨人のうなじに落ちる。視界の端に入れても早い。そして流麗で、美しい。立体機動装置で鋭く空に高く上がったと思えば、ふわりと頭上で飛ぶ。そして刃と瞳を光らせ、急速に落下し巨人を倒す。
相変わらず、凄い。となまえは剣の血を振り払うリヴァイの背中を見た。その背に見惚れたいのも山々なのだが、生憎こちらも巨人と対峙している状況だ。涎を垂らしながら、まるで子供がお気に入りの玩具に手を伸ばすように向けられた腕を立体機動でするりと抜け、股下をくぐって腱を断つ。血飛沫をあげながら巨人は派手に転び、地に伏す。それと同時に空を仰ぎ、弾丸のように飛び出した人物に声をあげる。


「ペトラ!」

「はい!」


飛び出したペトラがなまえの声を合図に倒れた巨人のうなじ目掛け刃を光らす。いい体の捻りだ。斬撃を深くするため腕を腰を捻るペトラの一閃が巨人のうなじに落ちるも、なまえは顔を顰めた。


「ペトラ!下がって!」

「は…、………っ!?」


鋭いなまえの声に彼女は倒した巨人の背中で首を傾げるも、うなじを削いだはずの巨人が腕を立たせ起き上がる。体の捻りも削いだ一振りも悪くなかった。しかし出だしが飛び出し過ぎた。目標がほんの少しだけずれ、巨人の急所であるうなじより下の肉を断っていた。起き上がろうとする巨人の背の上でペトラがワイヤを飛ばすもバランスを崩し、ワイヤの先が弾かれる。


「……きゃっ、」

「ペトラ!」


すぐになまえがバックアップに入り、体勢を崩したペトラの体に立体機動で突っ込み、ぶつかるように巨人から弾き飛ばす。ペトラが巨人の視界枠から外れたことに安堵するも、今度こそなまえの前に巨人が立ち塞がる。再びワイヤを飛ばし、ペトラを飛ばした逆方向に横移動しようとした時だった。


「うっ…!」


嘘でしょう!?と上げたかった声は、立ち塞がった巨人の後ろにいたもう一体の巨人に掻き消された。いつの間にか巨人がもう一体増えていたのか(巨人がのっそり起き上がった際に近寄ってきたのだろう、巨人に隠れて見えていなかった)、もう一体の巨人の方がワイヤの途中を踏み、なまえの体が地面に叩きつけられる。幸い、あまり高く飛んでいなかったため受け身を取り地に肌を擦るだけで済む。が、擦りつけられながらも思考は次のことを考える。


(片方のワイヤは取り外してもう片方で持ち直さなくちゃ…!)


そう見下ろされる巨人を睨んだ時だった。
空に一つの影が走った。
あれは―………


「……へい、ちょ」


影は一秒と待たずに巨人のうなじを正確に断った。派手な砂埃と音をたて巨人は倒れ、もう一体の動向を確認する前に萌葱色の翼が空に舞った。


(ああ、本当に……)


綺麗だ。
巨人を倒す姿が綺麗なんてどうかしている。しかしそう思わずにはいられない。
再度大きな音をたて巨人が倒れ、萌葱色のマントがなまえの前に翻った。


「リヴァイ、兵長…、……ッ!」


強く打ちつけた右肩を庇うように左腕で上体を起こそうとすると、そのままリヴァイの腕に抱かれた。強く抱き締められたことに目を丸くし言葉をのみ込むと、耳元で擦れたリヴァイの呼吸が耳を擽った。


「なまえ補佐!兵長!」


舞い上がる砂埃の中からペトラの声が聞こえると、リヴァイはなまえの肩を離し、背中を支えるように持ち替えた。砂埃からペトラの影が見え、目を凝らすと泣きそうな顔をしたペトラが駆け寄ってきた。


「なまえ補佐…!!」

「ペトラ…!大丈夫?ごめんなさい、勢いよく突き飛ばし過ぎたわ。」

「そんなこと…!それよりも、補佐、すみません、わたし、わたし…!」

「おい、反省は後にしろ。」


涙を浮かべ、その場に崩れてしまいそうなペトラにリヴァイが言う。


「ペトラ、俺はコイツを中央に下がらせる。お前はこっちの戦況をエルヴィンに伝達、増援を要請しろ。」

「…っ、了解!」

「ま、待ってください兵長!私まだ行けます。」

「…その腕でまだ使えるってほざくなら正常な判断が出来てないということで救護に送るぞ。」

「………っ、」

「行けペトラ。」

「はっ!」


ペトラが後方のエルヴィン向け飛び出したのを見送り、なまえは項垂れる。いや、まだ救護送りにされないだけマシかもしれない。しかしそれでも前線でリヴァイの補佐をする自分が中央に下がらされるのはなかなか苦いものがあった。そう唇を噛み締めていると、リヴァイの指がその顎を捉え持ち上げさせられた。


「へい、ちょ」


それから左右に顔を向けさせられ、擦った頬を確認させられる。そして、頬にぴりっと痛みが走る。
擦ったからではない。リヴァイの舌先がそこを撫でたからだ。


「…ペトラを可愛いがるのもわかるが、状況も確認せずに突っ込むな。」

「…はい。」

「後輩を育てる前にお前も後輩だってことを忘れるな。指導者じゃねぇんだ。」

「…………はい。」


リヴァイの瞳が鋭く細くなまえを見詰め、なまえは目を伏せた。そうだ。確かにペトラを次の補佐にと気にかけてはいるが、自分もまだ補佐としては勉強の身だ。できることを精一杯やらずに、まだできない部分に手を伸ばすなど、それこそ半人前のすることだ。悔しさに奥歯を噛み締め、リヴァイに小さく「申し訳ありません」と呟くと、リヴァイの腕が再びなまえの肩を抱いた。
そして、あの擦れた声がなまえの耳を優しく擽った。


「俺の補佐はなまえ、てめぇだろう。しっかり俺の補佐できるよう生き残れ。」


目を閉じて聞えたリヴァイの心音が、珍しく早く打っているように聞こえた。


萌葱の翼

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