補充するということ

リヴァイのなまえ不足は相当なものだった。
雑務が多い、悪いがなまえをしばらく借りたいとエルヴィンに言われ早一週間と半日。リヴァイの心身はなまえを急速に、迅速に、速やかに補給しなければ巨人一体…いやそれこそ一個旅団並に倒しかねない目つきだった。
しばらくっていつまでだ…そう考えながら自分も手元の書類を片付けていく。エルヴィンから下りてきた書類の写しを見ながら、きちんと束ねられたそれらになまえの手が入っていることがわかる。リヴァイが見やすいよう、要点や補足資料が纏められた、几帳面な書類。書類が折れないよう、混ざらないよう平らな木箱で渡された時点ですぐわかった。なまえのものだ。
元々なまえはエルヴィン付きの補佐だった。それをリヴァイが兵長就任とともに掻っ攫ったのだ。いや、譲り受けたのだ。最初は生真面目でおもしろみのない女だと思ったが一緒に過ごしてみると真面目な女も悪くない。実際、補佐面においては何も問題はないし、むしろ痒いところに手の届くような女だと思った。小さな針穴に、糸を通すような。かと思えば自分に関しては無頓着で危なっかしくて。親しくなれば控え目に甘えてくるところも可愛い。(結婚したい。むしろ、する。)
そう悶々と考えれば考えるほど、リヴァイのなまえ不足は重症になっていくのだった。


「失礼します。」


執務室のドアが叩かれた。
聞きなれた声と控え目なノックに思わず顔があがる。
…なまえだ。それがわかると体がなまえを欲しているかのように腰があがり、少し足早にドアに近付き、彼女を迎えた。


「っと、…お久しぶりです、兵長。」


ドアノブに手を掛けかけていたなまえがリヴァイの出迎えに少し驚きつつも、久々に会ったリヴァイにはにかんだ。


「書類をお預かりするついでに休憩を頂いたので、よろしければ兵長も休憩しませんか?紅茶いれますが。」


こういう何気ない会話もいつぶりだろう。エルヴィンが借りると言ってまさかここまで借りられる(離れる)とは思わなかった。昼はエルヴィンのところへ行き、夕方夜には自分の元に戻ってくるのかと思っていたが、まさか一日ずっと借りられ、それが一週間も続くとは思わなかった。久々のなまえの顔を黙ってじっと見詰めるリヴァイになまえは不思議そうに首を傾げる。そんな些細な仕草でさえ、ああ、もう駄目だと思った。


「へいちょ…っ、きゃっ」


なまえの腕を掴み、部屋に入れると同時にドアを閉める。そしてそのドアになまえを押し付け口付けを交わす。


「……遅い。」

「は…?」

「戻ってくるのが遅い。」

「あ…えっと、すみません…?あ、でもまだちょっと残ってて…」

「あ?」

「いえ!だ、大丈夫!もう片付くと思う、ので!」


お前がいないと仕事にならん。そう小さく呟いてなまえの首筋に顔を埋める。擽ったそうに肩を竦めたなまえの髪を撫で、その手触りの良さを思い出す。


「あの、兵長…?」

「…なんだ。」

「…えっと、すみません。」

「だからなんだ。」

「ちょっと、失礼します…。」


だから何をだ、と目を細めると、なまえの細い腕がリヴァイの腰を通って肩に腕を回した。華奢な体が、リヴァイを抱き締めた。リヴァイがそうしていたように、なまえもリヴァイの肩口に額を預け、まるで甘えた猫のようだった。


「…すみません、しばらくこうさせて頂けませんか。」


…拒む理由が見つからない。


「貴方を少し、補充したいです。」


安心したような、しかし切羽詰まったような。それこそ、そう、『補充』しているような声音だった。
俺を補充しているのか…?
小さな頭をゆっくり撫でてやれば満足そうな溜息がピンク色の唇からこぼれる。顎をすくい、再び唇を重ねれば追いかけるように唇が重なり、彼女が甘えているのがわかる。
どうする…たまらなく愛しい。


「…っ、兵長…!?」


ひやりとしたものがなまえの腹を走った。
それがリヴァイの手だと理解するのに時間はかからなくて。遠慮なくシャツを捲ってくる手首をなまえは慌てて掴んだ。


「兵長!私休憩にきたんですが!ちょっと休んだら戻るんですが!」

「俺を補充したいんじゃなかったのか。」

「そ、そういう補充じゃなくて…!」

「安心しろ、エルヴィンにはもう返せと言っておく。」

「貴方が決めることじゃないですから!!」


手首と肩を押し返しても、鍛え上げられた体のリヴァイには通用しない。


「リ、リヴァイ…お願い…」


やめてと懇願する瞳は、ただいたずらにリヴァイを掻き立てるものでしかないことを、彼女は知らなかった。
そしてリヴァイが一週間と半日分。急速に、迅速に、速やかに彼女を補給したのかどうかは、彼ら二人以外にエルヴィンしか知らないのであった。



補充するということ

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