わがまま



たまに、自分が男の子だったらなぁ、と思うときがある。
例えば、とても暑い日とか気軽に薄着になれたり、そのまま水浴びができたり、なんだかんだ時間がかかる化粧だってしなくていいし(と言ってもここに来て化粧など数えるくらいしかしたことがないが)、おしとやかに振る舞ったりしなくてもいい。
あと、突然尊敬する上司に呼ばれ、視察もかねた遠乗りに二つ返事で出掛けてしまえるところ、とか。
ーいいや、違う。
これは男の子どうこう、陸遜だからだ。(そして誘った相手が誰でもない呂蒙だからだ)


「うう、呂蒙様になにたい……」


何度そう思ったことか。
…正直、陸遜に尊敬されている呂蒙が羨ましい。もちろん、彼の聡明さはなまえにも充分理解できていてなまえだって彼のことを尊敬しているし、陸遜が憧れるのもよくわかる。孫策や周瑜からの信頼も厚いし、戦の時も一緒にいればすごく心強い。かといって傲ることはないし、こちらの常識に何かと無知ななまえを馬鹿にすることなく理解するまでとことん教えてくれる(また教え方もわかりやすい)。すごく素晴らしい人物だ。
だからそんな人物に羨ましいとかそうなりたいとか思うこと事態大変オコガマシイのかもしれないが…。

(「はい!呂蒙殿!」って返事をする陸遜のあの顔を見ると、もう何も言えない……。)

陸遜は、呂蒙だけに弾けるような笑顔を向ける。それも見たこともないような眩しい笑顔だ。普段の笑顔だってそりゃ(顔が整いすぎてるので)眩しいことは眩しいのだが、いつも見る笑顔は道端に花がぽん、ぽぽんっと咲いたような笑顔なのだが、呂蒙に向けるのは日差しに向かってカッと咲いた向日葵のようなのだ。若くして陸家当主となった陸遜が唯一年相応な笑顔を見せるのだ。呂蒙に呼ばれれば子犬のように嬉しそうに返事をし、褒められればすごく照れてはにかむし(これを運良くみた女官があまりの可愛さに倒れた)、呂蒙が功績をあげれば尊敬の眼差しが向けられる。あまつさえ陸遜が「私も呂蒙殿のように髭を生やしてみようかな」なんて言い出すものだから女官長と一緒になって全力で考え直してももらった(でも髭を生やした陸遜なんてちょっとワイルドで見てみたい気もした)。
こんな小娘が急に呂蒙のような人徳のある人になりたいとは言わない。せめて、せめて、その遠乗りに「お、遠乗りか!いいねぇ!」と便乗してついていった甘寧のような男子のノリが欲しい(…それでついていけたとしても、あの三人の馬のはやさについていけるか不安だが)(多分、きっと、無理だ)。
しかしその前に、なまえはまだ一人で馬に乗れないので遠乗り以前の話だったりする。


「うま……一人で乗れるようにしなくちゃぁ……」

「何処か行きたいの?」


中庭に面した三人掛けのベンチに凭れるように顎をあげると、その弛みきった顔を覗き込むようにして陸遜が現れた。


「り、りくそん…!」


慌てて居住まいをただすが今更取り繕っても遅い。こんなところ練師にでも見られたら「もう」と溜め息をつかれそうだが、陸遜にもう何度こんなところを見られただろうか。いや、陸遜がいつもこんなタイミングにひょっこり現れてなまえを驚かすのが一種のテンプレートでもある(そして陸遜も半分なまえを驚かせるためにやっていたりもするのだが、それを言ってしまうとなまえが拗ねて陸遜の楽しみが無くなるから彼は毎度知らぬ顔でやっていたりする)。


「なまえ、馬に乗りたいの?どこに行きたいの?連れていこうか?」

「えっ、いや、そ、そういうわけじゃなくて……」


優しい陸遜はなまえが馬に乗って何処かに行きたがってるように取ったらしい。すぐさま予定をつけようとしてくれるのをなまえは違う違うと首を振った。


「ええと……、あの……、あ、そ、そうだ!遠乗りはどうだった?楽しかった?」


甘寧はちゃんと大人しくできてた?と聞けば陸遜はきょとりと顔をしたあとに、何か察したかのようにくすり、と小さく笑った。


「なまえも遠乗りに行きたかった?」

「あ、あぐ…ぅ…、」


陸遜は、なまえの気持ちなんて手に取るようにわかってしまう。なまえ自身わかりやすい性格をしているという自覚はあるが、陸遜はそれ以上に人の感情の変化に聡い。流石軍師とでも言えばいいのだろうか。気付いて欲しくないことに関してはピカイチだ。
なまえが遠乗りに一緒に行けなくて小さく拗ねていたのがわかると、陸遜は嬉しそうににこにことしだしてなまえの隣に腰掛けた。


「言ってくれれば連れていったのに。」

「うう……だ、だって、」


なまえは一人で馬に乗れないので、誰かしらの同乗となる。そこで当たり前のように手を引いてくれるのが陸遜なのだが、毎度毎度陸遜に乗せてもらうとなるといつも申し訳ない気持ちでいっぱいになる。自分が居なければもっとスピードを出して駆けることだって、戦であれば単騎で敵陣に突っ込むことだってできる。そこになまえがいるいないで機動力がまったく違うのだ。軍師でありながらも武人として武勲をたてることもある陸遜は敵陣に馬を走らせることもある。そんな時なまえが同乗していたらせっかくの好機も逃してしまう。
そう考えたことは少なくない。戦では常に考えさせられる。やはり自分も一人で馬くらい乗れるようにならなくてはいけないのだ、と。


「私が馬に乗るとなると、陸遜に乗せてもらうことになるでしょ…?それはなんというか、いつも申し訳ないというか……」

「誰かに何か言われたの…?」

「まさか!」


馬に一人で乗れるようになりたい!と言えば甘寧や尚香あたりが喜んで面倒を見てくれそうだけど、練師に知れたら「なまえ様までそのような事をしなくてよろしいです」とピシャリと言われてしまいそうだ(優しい練師のことだから頼み倒せば折れてはくれそうだけど)。だから馬に乗りたいの、と言って咎められることはあっても、馬にも乗れないのかと言う人はこの孫呉にはいない。


「後々のことを考えると、やっぱり馬くらい一人で乗れた方がいいんじゃないかと思って。」


そうすれば陸遜と肩を並べて馬を走らせることもできる、というちらりと過った邪心は見てないフリをしておく。陸遜の顔色をうかがうように彼の顔を覗き込むと、陸遜は細い顎に指をあてて少しの間口を閉じる。数秒も待たずしてなまえと向き合った。


「私との同乗は嫌になった?」

「そんなわけない!」


考えていた返答のどれでもない検討違いな答えが返ってきて(あまりにも検討違いすぎる答えに)思わず大きな声を出してしまった。はっ、と両手で口を抑えるが思いっきり否定した言葉に頬が赤くなる。それに陸遜は苦笑ながらも嬉しそうに目を細めた。


「良かった。嫌われたのかと思った。」

「そんなことないっ」


またそういうことを言う、と頬を膨らませると陸遜はますます嬉しそうな顔を浮かべる。


「なら、馬に乗りたいときはいつでも私を呼んでくれると嬉しいのだけど。」

「そ、それは……、」


陸遜がなまえを同乗させることを迷惑だと思ってないことはとても嬉しいのだが、それとこれとはまた話が別なのだ。なまえはできるのなら陸遜と肩を並べて馬を走らせたいのだ。


「なまえは目を離すとすぐどこかへ行ってしまうから馬など与えた日には……」

「そ、そんなことない!」

「私が軍義で席を外している時、甘寧殿に遠乗りに行こうと誘われたら?」

「それはっ…………、行ってる…かもしれない……。」


軍義なら尚更だ。
込み入った軍義(主に周瑜、呂蒙、陸遜で行われる)になまえは参加しない、というより参加できない。討論している内容がなまえには付いていけないし、その都度陸遜や呂蒙がわかりやすく解説して話の腰を折ってしまうので、全体の軍義は参加しても軍師達の軍義には参加しない(と言いつつ、話している内容が時には非情な決断を含むこともあるので陸遜があまり参加させたがらないのが本当だったりする)。
なので陸遜も呂蒙も軍義に籠ってしまうと残されたなまえはなんとなく自分の力不足を感じてこのように小さく拗ねているのが常だ。ゆえに馬に乗れるようになって空いてる時間など見付けたら馬を走らせてない、とは言い切れない。


「出掛ける時は必ず陸遜に言うよ!」


そう言うと陸遜は少し困ったように微笑んだ。
何か、陸遜の気にさわるようなことを言ってしまったのかと不安にかられるが頬を包むようにして親指で撫でられる。優しくそっと触れてくる手のひらと指はいつもなまえを柔らかく甘やかしてくれる。


「我儘を、言ってもいいかな?なまえ。」

「……?」

「なまえに馬を教えるのは、出来れば私でありたいのだけど…。」


控え目に、あの陸遜が少し自信なさげに言った言葉になまえは噛みつくようにして返した。


「本当!?馬、陸遜が教えてくれるの!?いいの!?」


陸遜は忙しい。周囲の期待も信頼も厚く、それに応えようとする姿勢も実力もある彼は毎日どこかへ引っ張りだこなのだ。本音を言えば馬を教わるなら陸遜がいい、となまえは思っていたのだが忙しい彼を思うとやはり甘寧や凌統らへんを捕まえてせがむしかないと思っていたのだが。


「あっ、あの、すごく暇な時でいいからね、無理に予定をあけなくていいからね、陸遜が忙しいのはわかってるから、あの、構ってくれるときでいいの!大変なときとかは、ほら、甘寧とか凌統に頼むから、」


身を乗り出すようにして言ったあとに彼はとてつもなく忙しい身だというのを思い出し、慌てて言い直す。優しい陸遜はむりくり時間を作ってでもなまえに時間を作ってくれそうだ。……そうだ、と言いつつ今までがそうだったのだが。せっかく陸遜がゆっくり休める時間を邪魔したくないのと、体をしっかり休めて欲しいのと、でも自分ともある程度遊んでくれると嬉しい気持ちがせめぎあって泣きそうになると、陸遜は少しだけ身を離そうとしたなまえの腕を優しく掴む。待って、と引き止めるように。


「嫌だ。なまえと過ごす時間が欲しいから、無理にでも時間を作る。」

「り、く……っ」


目が笑ってない、とはまさにこのこと。
優しそうに笑顔を向けられているのに、どこか怒りの感情を向けられている。ひくり、と肩が震えて無意識に逃げようとなるのを陸遜が掴んだ腕で引き寄せられる。ぐい、と引き寄せられて陸遜の胸に倒れ込みそうになるかと思えば、少しだけ視線の位置が高くなって陸遜との距離がぐっと近くなっていることに気付く。近く、というよりも、息遣いさえ聞こえるほど、すぐそこ。そして腰掛けていた椅子よりも柔らかい場所に自分のお尻があたる。柔らかいのに、しっかりとした安定感があるのは陸遜の両足だった。


「目を離してもないのに、すぐどこかへ行こうとするなまえに私はどうすればいいんだろうね。」

「えっ、え…!?」


気付いたら陸遜の足の上で座らされているうえに笑っているのに目が怖い陸遜を目の前に軽いパニックに陥るなまえだが、一方の陸遜はたっぷり、何かに怒ってはいるけれど笑っている。


「縛るようなことはしたくないのに、縛らないとすぐ何処かへ行こうとする。」

「りく、そ、」

「いっそ印でもつけておこうか。」


陸遜の鼻先がなまえの首もとに埋まり、かぷりと軽く歯を立てられた。びっくりして身を離しても陸遜の腕がなまえの背と膝裏を支えている。


「り、陸遜、お、怒ってる……?」

「…怒ってないように見える?」

「!!」


あの陸遜が珍しく感情をぶつけてきている。何があっても冷静でいつも優しそうに笑っているポーカーフェイスなあの陸遜が!しかしぶつけられている感情は怒りだ。どうして怒られているのかも、どう宥めていいかもわからないなまえは陸遜の膝の上で「え、」「あっ、」「えっと」を繰り返す。わたわたとし出したなまえに陸遜は指先で髪をすいたり、頬に触れたり、小さな背中を撫でたりと好き勝手に触れていたのだが、なまえは怒っていると言った陸遜が優しく触れてくるのがわからないし、怒られているのか甘やかそうとしているのかもわからなくてひたすら戸惑っていた。
それを良いことに陸遜はなまえの腕を引き寄せながら、赤くなるなまえを見詰めながらそっと唇を押し付けた。唇の感触を確かめるような小さなキスになまえはぎゅっと目をつむり、唇が離れると涙目になっていた。


「…怒ってるの…?怒ってないの…?」


困りきったなまえの泣き顔に陸遜は幸せそうに微笑む。


「どっちも。」

「そんな、ん、」


再度重なる唇は今度はあむりと柔らかく噛まれる。
噛んだかと思えば慰めるように口付けられる。
何かなまえが言おうとすれば聞かないとばかりに口付けられて先程から陸遜となまえの間で「あ、」「待っ」「り、…ん」となまえの言葉が途切れる。角度を変えて深くなる口付けになまえの頭はくらくらとしだして無意識に陸遜の袖を掴んでしまう。


「ん、ぁ、……んん、」


息つく間もなく陸遜のキスは続き、空気を求めて開いた唇の隙間を縫って陸遜の舌が忍び込む。ぴくりと震えたなまえの肩を抱き、逃げかけるなまえの舌を捕まえて、絡む。熱に浮かされたような声がなまえから漏れ、それごと飲み込むような口付けが続く。まるで食べられているようだ。もっともっとと深くなる口付けになまえがびくびくと震えて、見かねたようにやっとそれが離れた。


「…ぁ、りく、そん……」


陸遜にくったりと頭を預けたなまえの頭を陸遜は優しく撫でた。潤んだ瞳でぼんやりとこちらを見詰めるなまえにもう一度唇を押し付けたくなるのをなんとか堪えて陸遜は濡れた唇をそっと撫でた。


「…りくそん…?」


白い肌を僅かに赤くさせ、そんな瞳で名前を呼ばれたら流石の陸遜も辛いものがある。覆い被さりたくなるのを堪え、なまえの耳の付け根にちゅ、と口付ける。


「馬の話は、また今度しよう。」

「ん…、」

「必ず時間を作って教えてあげるから、それまでは私と同乗で我慢してもらえると嬉しいな。」

「……うん……、」

「ありがとう。」


詫びるようなキスを額にされるが、こちらは一言も陸遜の同乗が嫌だとは言っていないのだが、言い直す気力がすっかり奪われてしまっている。おまけに一人乗りも多分、きっと、言いくるめられている(このトーンの陸遜はなまえの意見を汲んだように見せかけて自分の言い分を通そうとしているやつだ)。しかし先程の口付けにまだ少しくらくらしているなまえを見下ろす陸遜の瞳からは怒りの感情が消えていて内心ほっとしている。陸遜から感情を向けられるのはとても嬉しいことだけれども、やはり怒っているのなら宥めてあげたい(どうして怒ったのか、いつ落ち着いたのかなまえにはサッパリだったのだが)。


「陸遜って、やっぱりいじわる、だよね。」

「誰も性格がいいなんて一言も言ってないよ?」


にっこり、360度どこから見ても完璧な笑顔に、その裏の感情がどこかしらに隠されているのを読み取れるようになってきたなまえなのであった。







その夜、同じ牀で眠るなまえの寝顔を見下ろしながら陸遜は一人呟いた。


「本当、かなわないなぁ。」


今日の遠乗りで呂蒙に『なまえと一緒にいるお前はよく笑うな。そうしていると年相応でいいぞ。お前は陸家当主として立派にやっている分、我慢してきたものも多かっただろう。おそらく、それをなまえがうまく引き出してくれてるのだろうな。大事にしなさい。神子としても、一人の女性としても。』なんて言われてしまい、赤面してしまった。呂蒙の言葉ではないが、やはり長く孫家に遣えてきた陸家としてその家名に泥を塗らぬよう、若い当主だからといって軽んじられぬよう、侮られぬようしてきた陸遜は常に気を張って生きてきた。しかし長くそれで過ごしてきたため、期待に応えるのも、当たり障りない笑顔を浮かべているのも既に呼吸に等しい。それなのに、何故かなまえの前だと、そう、年相応に見えているらしい(と言われたが、一緒についてきた甘寧は「そうかぁ?」なんて首を傾げていたのでわかる人にはわかる、程度のようだ)。

今日、馬に一人で乗りたいと言われた時、すぐに甘寧や凌統に誘われて遠乗りに出掛けようとするなまえが思い浮かんだ。自分が居ないときは好きにしていい、なんて言いつつも実際は逐一彼女が何処で誰と何をしているのかが気になって仕方がない。縛り付けたくないと思いつつも、すぐ自分の腕の中から出ていってしまいそうに思えて縛り付けたくなる。不自由な思いはさせたくない。けれど自分のすぐそばに置いておきたい。馬なんて与えてしまったら彼女はすぐ目の届かないところへ行ってしまう。


(私の、我儘だ。)


しかも難癖つけてその我儘を正当化する(早い内から登城していたおかげでそういう知恵だけはまわる)。だから馬の話だって適当な理由をつけてうまく流した。本音は、一人乗りなど教えるつもりも教えたくもない。何故自らなまえに足を与えるようなことをするのか。


(でも、すごく嬉しそうにしてくれた。)


自分が馬を教えるといったときの嬉しそうな顔を思い出すと、無下にはできない。自分が教えると言っただけであのような反応をされると、


「……ああ、」


自然とにやける口元を手で覆い隠す。思い返してにやけるなど、たとえ誰に見られていなくとも恥ずかしい。


(呂蒙殿のようになりたい。)


何があってもどっしりと構え、落ち着きのあるあのお方のようになりたい。もちろん、自分のような若輩者が呂蒙のような人にいきなりなれるわけではないと十二分に理解している。しかしなまえは何かとわからないことがあれば呂蒙に頼り、理解すると「さすが呂蒙様!」と嬉しそうに微笑むのだ。わからないことがあれば私にも聞いて欲しい、あわよくば呂蒙と同じ笑顔を向けられたいと思うのだが、なかなかに難しい。せめて、「んなことより、飯でもいこーぜなまえっ」と気軽に肩を抱いて(この時点で陸遜の笑みが冷ややかなものになるのを気付くのは呂蒙と周瑜、あと凌統くらいだろう)なまえに「甘寧はいつもそれだよね、だから凌統にアホって言われちゃうんだよ」と軽口を叩かれながらなんだかんだ市場に出掛けるようなノリが欲しい。


「なまえといると、私はつい我儘になってしまうね。」


そう一人苦笑した陸遜は、自分ももう眠ろうとなまえをそっと抱き寄せる。
いつもこの距離になまえを置いておきたい。
彼女を手放したくない、そんな我儘ばかりが増えていく。けれど、彼女をずっと大切にしていきたいから、ずっと一緒にいたいから、この我儘はこれからも際限なく増えていく一方なのだろう。この感情とうまく付き合っていかなくては、と苦笑する陸遜は、これはなまえのせいでもあるんだよ、と意地悪そうに目を細めて彼女の唇にそっと口付けた。

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