先輩とキス



部室の向こうは、部長の声と部員のかけ声がうるさいくらい飛び交っている。それを聞きながらそろそろ戻らないと、と思いつつも、俺はこの腕の中の温もりを離さずにはいられなかった。ていうか、離すとか、ムリ。


こうしてなまえ先輩を後ろからすっぽり抱き締めていると、今までそうできなかった分(身長的な意味で)嬉しいのと、不思議な気持ちになる(あと少しムラっとする)。


「…先輩、背縮んだ?」

「アンタがデカくなったのよ…!」


腕の中で俺を見上げて(ここポイント)言う先輩は女の子って感じがしていい。もちろん、中学の時も先輩に女を感じていたけど、俺の身長が残念だった(今だから言える)から、こうすっぽりおさまってくれる感はなかった。むしろ昔の俺がなまえ先輩を後ろから抱き締めたら抱き着いているみたいなもんになってしまう。
だからこそ、こうして(逃げようとジタバタはしているものの)(逃がすかっつーの)抱き締めているのは、気分がいいのと、不思議な感じがする。


「リョーマ、そろそろ離しなさい。怒るよ?」

「(もう怒ってんじゃん)ヤダ。」

「ヤダって…。あのね、私仕事あるの。」


聞き分けのないガキに向かって喋るように言うなまえ先輩は健在だ。それは俺だけに向かって言われる特別な言い方(っていうか俺が先輩の言うことなかなかきかないからだケド)。丸い目をきっと上げて柔らかそうな(ていうか柔らかい)唇をむっとさせるなまえ先輩は今、俺を見上げているバージョンだ。たまらなく可愛い。ずっと見下ろされてるバージョンだったからな。先輩、可愛い。そんな顔したって全然怖くないし、むしろもっと見ていたいとか思ってしまう。(先輩可愛いなってにやにやしてたら腕叩かれた。)


「ねぇ先輩。」

「なに。…って、ちょ、リョーマ!」


声を掛けると更にむっとする先輩が可愛くて、それを理由にするわけじゃないけど、腕の中にいる先輩へと頭を屈めてキスをしようとする。もちろん(もちろんって何だ…)先輩は逃げようとするんだけど、昔みたいに俺の方が小さいんじゃなくて先輩が小さいから封じ込めるのは簡単だ。ロッカーに先輩を押し付けるようにして腕で退路を断つ。保険として、先輩の足の間に膝を入れとく。(なんか卑猥でいいねコレ)


「キスしよ?」

「し、す、するわけないでしょ…!?」

「なんで。誰も見てないじゃん。」

「誰も見てなくても、今部活中…!」

「うん。」


部活中だね。
早く俺をコートに戻さないと。


「そろそろ手塚部長が来るかも。」

「だったら早く…!」

「うん、キス。」

「だからどうしてそうなるのよ…っ」

「ほら、なまえ先輩もまた怒られちゃうよ。」

「うっ…」


俺をコートに連れ戻したり、やる気にさせるのは中学の頃からなまえ先輩の仕事。というのも、俺が手塚部長となまえ先輩の言うことしか聞かないからだけど(ま、きかない時も多々あるけどね)。それでなまえ先輩はマネージャー兼、越前係りっていう業務を抱えているらしい。俺がコートに戻るのもやる気出すのも部長曰く先輩にかかってるらしい。ほら頑張ってセンパイ。
キスを促すように頬を撫でる。柔らかい先輩の髪が手に触れて気持ちいい。俺の手の中でびくって反応する先輩にすごく興奮する。早く先輩に色んなことしたい。
見上げるのと見下ろすのとで、こんなに違うんだな。俺に閉じ込められて先輩が小さく見える。先輩耳まで赤いし。可愛い。今それ舐めたいんだけど、舐めたら殴られるからな。…殴られるだろうな。おとなしくキスで妥協。妥協とか、俺も成長したな。ま、高校生になったしね。


「先輩、好きだよ。」


びくん。
先輩が反応する。マジ、可愛いすぎだから。
俯く先輩を唇ですくい上げ、やんわりと自分のを押し付ける。柔らかすぎるそれは俺の口を溶かしそうな勢いだ。
きゅ、と握られたのは俺のジャージの裾。あんだけ逃げようとして最後はこれだもんな(どうせなら抱き付いてくれても構わないんだけど、これはこれで可愛いから良し)。先輩は今流行りのアレだと思う。あの、ほら。そう、ツンデレ。


「…先輩、舌いれていい?」

「だ、だめ…!」

「なんで。」

「なんでって…、も、もう戻らなくちゃ!」

「うん、だから舌いれていい?」

「あたしの話聞いてる!?」


聞いてる。聞いてるよ。
先輩が俺に話し掛けてくれる言葉声表情全部拾ってるよ。中学と高校で離れちゃった分、埋めるように聞いてる。
テニスは楽しかったけど、先輩のいない学校と部活はつまんなかった。やっぱ俺、先輩いないとやる気出ない。学校生活とテニス含め、やっぱ俺はなまえ先輩が欲しい。そばに置いておきたい。


「先輩、」

「んっ…」

「なまえ先輩。」


キスするたび先輩の名前を呼んだ。呼んだらぴくぴく反応してくれて、名前を呼んだらそれがそこにあるってすごく大事だと思った。先輩、これからは当分、ずっと一緒だね。一ミリも離してやんないから覚悟しておいてよ。


「先輩、俺のこと好き?」


聞いても先輩は顔を赤くするだけで答えてくれない。それでもいい、先輩がいるだけで俺は十分高校生活やっていけそうだから。


「ばかリョーマなんて、しらない。」

「そう。ありがと。」

「〜〜うぅ〜…!」



先輩、ねぇ、先輩。

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