人類最強のおさなづま三日目(1/4)

彼は言った通り、その日は帰ってこなかった。でも逆に、その時の私には好都合だった。だって、あれを見付けてしまってどういう顔で彼を迎えていいのかわからない。彼とは恋愛結婚ではないのだからそういう相手くらいいたって構わない、構わないはずなのに、……やっぱりこれから一緒にやっていこうとしている先でこんなものを見付けたら、誰だって気分が悪くなる。はず。
これから愛を育もうとしている相手の心の中に、既に愛を育んでる相手がいるなんて…。


(お母様の言った通りね。私は、『家』のために生きる。決して他人のため、自分のためには生きられないんだわ。)


結婚三日目の朝はなかなかの気だるい目覚めだった。
大きいベッドを独り占めできたにも関わらず、夜は色々考えて考えて、眉間に皺を作ったまま眠ったようだ。桶いっぱいに入った水に映る自分の顔が険しい。その顔を掻き消すように水に手を思い切りさし、ばしゃりと頬を叩いた。
顔を拭い、髪をまとめると、少しは気分が晴れる。さて、今日は何をしようか。その前にお腹に何か入れよう。簡単なメニューを一つ二つ頭に浮かべつつ、はて、朝食は一人分でいいのかと台所へ向かう足を止める。


(…いつお戻りになるのか聞くのを忘れてたわ…。)


そもそも戻る時間を言われてない。いつ戻れるのかわからないから戻りの時間を言われなかったのか。
それとも、教える必要がないからだろうか。


「………………。」


…やめた。今私とてつもなく嫌な事考えた。
一度悪い方に考えを持っていくと、他のも引き摺られて悪い方へいってしまうのは私の悪いクセだ。彼が私に戻りの時間を教えようが教えまいが彼の勝手だ。それに帰れない仕事がいつ終わるかなんてわかるわけがない。
取りあえず…朝食は二人分用意しておこう。戻られなかったらお昼にでも食べればいい話だ。そう考えながら台所と居室が一緒になった部屋へ向かうと、私の心臓がどくっと跳ねた。


「っ…!」


声を出さなかったのを褒めて欲しいくらい。


(リヴァイ、さん…。)


あ、あの人がテーブルに肘をつき、椅子の上でこくりこくりと寝ていた。窓から差し込む朝日に彼の髪がきらきらと輝いていた。普段険しい顔は幾分治まっていてすうすうと静かな寝息が聞こえる。


(い、いつ帰ってきたの?というか、どうしてここで寝ているの?)


いきなり視界に飛び込んできた彼の姿に心臓が盛大にどくどくと鳴る。落ち着かせるように胸に手をあて、静かに一歩踏み出すと、見えない領域に入ってしまったかのように、彼の目がぱちりと開けられた。


「………おはよう。」

「…おっ、おはよう、ございます…。」


彼はすぐに私を見付け、それから大きな伸びをした。伸ばした腕、腰からぱきぱきと音が聞こえる。


「い、いつお戻りになったのですか?」

「…夜明け前くらいだ。」



…起こしてくだされば良かったのに…。
そうしたら、こんな所で寝ずに済んだし、寝る前にちょっとしたものだって用意したし、ベッドだって…。
お帰りになった旦那様のお世話をするのは、つ、妻の役目。お帰りになったのも気付かず寝ていたなんて…。ああ、と頭を抱えたくなるのを堪える。


「ええと…、朝食はいかがなさいますか?それとも、一度お休みになりますか?」

「…いや、どっちももらう。メシができたら呼んでくれ。」


そう言って彼は私の横を通って寝室へと向かった。
私が起こされなかったのは、もしかして気を使わせてしまったのだろうか。だとしても、旦那を椅子で寝かせるなんて…。やはり頭を抱えたくなるほどの失態だ。


(…夫の女の影を心配する前に、きちんと妻としての役目を果たさなければ…。)

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