褒美をねだる
頭裏を支える深夜の指がなまえの耳を掠める。ただ触れただけというのに、先程から深夜の口付けに蕩けさせられているなまえは重なった唇から甘い声を漏らした。
「…ふっ、ん、」
「ふふ、唇が赤くなってきた。…頬も、いい色。」
指先がするりと唇を撫で、頬を撫でる。深夜の腕はしっかりとなまえの腰を抱き、腹から下半身は体温を分ける様にぴったりと寄り添っている。というより、実際にそうなのだが。
「な、なら、もう…、」
「だーめ。まだ指先が、」
ほら、と深夜がなまえの小さな手を取って自分の頬にあてた。温かい深夜の頬に、指先がじんわりとほぐれていく気がした。そして、なまえの心も。
「まだ冷たい。あんな寒いところにいるから。」
「言う程、寒かったわけでは…。」
「はいはい。でも体はしっかり冷えますからねー。」
「…んっ」
深夜の前髪がなまえの額を優しく撫で、顔を傾けながら再び口付けてくる。柔らかい唇の表面が重なるとそこから深夜の体温が伝わって、なまえの体を少しずつ火照らしていく。
窓の近くで外をぼんやりと眺めていたところを、深夜に見付かった。ショールを肩にかけてはいたが、唇の色が薄かったようだ。心配した深夜に部屋に戻って温まろうと手を引かれ、口付けられた。
深夜の吸い付くような口付けに気分をふわふわとさせられつつも、なまえは深夜の胸を両手でやんわりと押した。
「深夜お兄様、会議があるって…、さっき…、」
「んー。なまえがもう少し温まってから。」
それに関しては、もう十分だ。ただでさえ深夜に腰を抱かれて胸が高鳴っているのに、こうキスまでされると、額が汗ばみそうなくらい体が火照る。ちゅ、ちゅ、と降り続ける深夜の唇に、赤く染まった頬をそらして胸をもう一度押し返す。そろそろ行かれてはどうですか、とばかりに深夜を見上げれば、むぅ、と深夜が唇を曲げた。
「そんなに行ってほしいの?」
「そ、そういうわけでは…。でも、会議に遅れたら、お叱りを受けてしまうでしょう?」
「散々グレンのフォローしてるんだもん。今更暮人兄さんのお小言くらい。」
「尚更です。…………ね…?」
言い聞かせるよう小首を傾げたなまえの可愛らしい姿にこっそりと胸を打たれた深夜だが、彼のポーカーフェイスは崩れない。距離を取ろうとするなまえの腰を抱き寄せ、小さな顎を上向きに持ち上げる。
「なら、なまえの言う通り会議に行く僕にご褒美を頂戴。」
「……会議は参加するものであって、ご褒美をねだるのはおかしくはありませんか…?」
「別にいいんだよ?僕はこのままなまえとずーっと…、ずーっとずーっとずーーーっと、キス、してても。」
ちょん、となまえの唇に触れた親指でふにふにとなまえの唇を遊ぶ。ぷちゅ、と指先を軽く唇の中に入れるとなまえは頬を真っ赤に染めて、深夜の指から逃れるように小さく首を振った。
「わ、わかりました…。ご、ご褒美は、何がいいんですか?」
「僕が決めていいの?相変わらず優しいね、なまえは。………そうだな、なまえからのキスが欲しい。」
「わ、私から、ですか…!?」
「うん。なまえが顔を真っ赤にして爪先立ちでぷるぷる震えながら僕にキスしてくれるって思っただけで会議頑張れそう。」
「あ…、あくしゅみです…。」
呆れたように言うなまえだが、頬を染めて唇を尖らせる彼女の仕草に深夜は目を細めた。なまえのそんな姿を見れただけでも深夜にとってはある意味ご褒美なのだが。
「うんうん。会議終わるのが楽しみになってきた。」
「か、会議ちゃんと行ってくれますか?」
「うん。なまえにもう一度キスしてからね。」
「も、もう!お兄様の…、の、の、…おたんこなす!」
「何それ。可愛過ぎなのもいい加減にしてもらえる?」
深夜が真顔になった瞬間だった。