帰ってくれ!

「ねーグレンー。」


暇だなんだと言ってグレンの執務室に居座る柊深夜少将に、一瀬グレン中佐は隠しもせずに「邪魔だうるさい消えろ」という顔を浮かべていた。ついでに深夜が入室した時点で実際それを口にしていたのだが深夜は聞いているのか聞いてないのか「あ、コーラでいいよ」なんて笑顔でほざく始末。へらへらした顔が今日もウザイ。


「昨日、書庫の辺りを巡回してた短髪の真面目そうな顔の子って誰かわかる?」

「は?」


知るかよ、と続けたくなったが、足を組み直し神妙な顔をして言った深夜にグレンも眉を顰める。常に半紙並に薄い笑みをへらへらと浮かべている深夜だが、学生の頃からの付き合いであるグレンは、彼が意味もなく浮ついた顔を浮かべているわけではないのは良く知っている。そんな彼が笑みの影を潜めて言うその人物に、グレンは何事かと次の言葉を待つ。もしかすると我々にとって良くない話なのか。


「最近、そいつがなまえによく話し掛けてるんだよね。」

「…何か怪しいのか。」

「ううん、ただ気に喰わないだけ。」


がくん、とグレンの体が傾いだ。
机に置いた手で体勢を取り戻し、グレンは未だ眉を寄せる深夜を見る。


「なまえも嬉しそうに話しちゃってさ、すっごいつまんないんだよね。ていうか、僕の知らないところでなまえに話し掛けるなんて非常識にも程があるよね。」

「…いつからアイツに話し掛けるのに許可がいるようになったんだよ。そして誰の許可が必要なんだよ…!」

「うっそ、グレン知らないの?なまえに話し掛けるにはまずなまえのお兄様である僕に許可が必要だし、事務的な会話以外は絶対に許されないんだけど。」


この柊深夜という男は、義妹である柊なまえに甚くご執心だ。本来は彼女の義姉である柊真昼の婚約者であったにも関わらず、今じゃなまえに虫一匹でも寄り付こうなら消し去らんばかりだ。いや現に何人か消し去ったのをグレンは知っている(消し去ると言ってもなまえと一切接触できないであろう場所に配属させるというか)(職権乱用を呼吸をするかのように実行する。彼女に関わる時だけに)。なまえに関わってしまったばかりに、また新たな犠牲者が出るのか、とグレンは心の中で嘆息する。


「心を広く持てよ、『深夜お兄様』。」

「無理。こうしてる間にもなまえが僕以外の男と話してると思うと我慢ならない。」

「ったく、お前がそういう事してるからなまえは友達できなくて引きこもる結果になるんだろ?」

「…………………」

「…まさかと思うが、深夜テメェ、女まで牽制してないだろうな。」

「…なまえは僕とだけ話してればいいと思うんだよね。」


ぞっとした。
明日の天気の話でもするかのような声で言いのけた深夜に、グレンは思いっきり顔を顰めた。
コイツはなまえに対して異常な程の感情を向けているとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。気持ち悪いを通り越して恐怖さえ感じる。深夜はなまえが友達ができないのだと落ち込んでいるのを慰めているフリをしておいて、彼女に近付く人間(男女問わず)を排除していたのだ。


「…深夜お前な…、そこまですんならもういい加減兄妹やめろよ…。」


深夜が彼女を女として好いているのは知っている(彼女に対して向ける感情の形は置いといて)。彼女も深夜を好いているのも知っている。誰がどう見ても両想いなのだが(と言っても彼等の関係を知るのはごく一部だが)、深夜は深夜で何か考えているようで、なまえはなまえで自分など好かれるはずがないと思い込んでいる。一応、グレンは深夜に考えがあるのなら邪魔はしないよう、というより干渉しないよう(面倒事にわざわざ首を突っ込むつもりはない)何も言ってはいなかったのだが、ここまでくると流石に、と肩を竦める。
それでも深夜は組んだ両手を口元に当て、深く考えるように押し黙っていた。そして重い沈黙の後、ポツリと呟く。


「…なまえに『お兄様』って呼ばれるの、結構好きなんだよね、僕。」

「もう帰れ変態。」

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