リヴァイの笑顔

兵長は、前よりもたくさん笑うようになった。
それはもちろん、嬉しいこと。嬉しいことよ?
でも、最近笑みを浮かべる兵長に私はとても困っていて、あ、兵長っていうと怒られるんだった。えっと、リ、リヴァイ。彼の笑顔を見ると心がほっこりする。ああ、やっと彼が笑ってくれる時が来たんだって、この平和な世の中で生まれ、また出会えた事に感謝をする。
でも、でもね。
笑ってくれるようになったのはいいのだけど、リヴァイが笑みを向けてくれるものにも種類があって、楽しそうな顔とか、嬉しそうな顔とか、なんでもない時にふと微笑んでくれる顔とか。それを見るたび私の心はひどく締め付けられてまともに兵長の顔なんて見てられない時があるの。でも、いいの、それはいいのよ、全然。だって私が堪えればいいだけのことだもの。心のシャッターを連射するよ。
でも、でもね。私が困っている兵長の笑顔っていうのは―


「おい、スカート短すぎじゃねぇのか。」

「普通です…」

「普通、なぁ。」

「やだ捲らないでください!」

「触っただけだ。」


大きなビーズクッションを背に座る兵長…の両足に挟まれるようにして膝立ちをする私。なんでこんな態勢なのかというと、テレビを見ていた兵長に指先で「来い来い」とやられ、そのちょっと前でテレビを見ていた私はその来い来いに釣られ、「もうちょっと近付け」「…はい?」って膝立ちで近寄れば、がしっと両足で胴を挟まれてしまった(まるで目標確保完了!みたいに兵長はテレビをぶちっと消した)。


「こんなに短くする必要はあるのか。怪我すんぞ。」

「制服で怪我するほどヤンチャしませんよ。」

「電車ん中で変態どもに痴漢されるぞ。」

「こんな可愛くない女に手を出すのは兵長くらいです。って、わ!触らない!」


兵長の指が太ももの裏を撫でた。


「テメェはいつまで俺の部下でいるつもりだ?あ?」

「…リ、リヴァイ…」


だって、そう呼んでいた時期があまりにも長すぎるんだもの。とは言えず、少し唇を尖らせて言い直せば、そうだそれでいいとばかりのキスが押し付けられる(んっ、)。


「ガキどもにこの短さは刺激的すぎるだろ…。」

「それは…どーも。こんな足でも男の子に生産的な潤いを与えられるのなら…」

「ズリネタにされてーのか。」

「そんなこと、い、っ、て、ま、せ、ん。」

「ならもう少し長くすることだな。」

「…兵長、おじさん臭くなりましたね。」

「あ?」

「いや、だって…」


前もあまり言葉とか躊躇しない人だったけど、この時代に生きてなんかその自由が更に奔放になったっていうか…。きっと兵長というしがらみとかそういうのが無くなったからだとは思うんだけど、でも、でも、なんか、おっさん臭い。


「ま、現にお前からすれば30のおっさんだな。」

「…、」


と見詰められ、ぐ、と固い何かを飲み込む。
…撤回。取り消す。おっさん臭くなんてない。ただの、色気の塊だ、この人は。なに、そのワイシャツから見える鎖骨。スカーフ、あのスカーフはどうしたんですか。その代わりに絞めてるネクタイもどこに投げたんですか。しまってよ、その、浮き出た鎖骨。


「ただ、お前も俺からすれば18のガキだな。」

「…っひぁ…!」


するっと。
小料理屋の暖簾をくぐるかのような手つきでリヴァイの指がスカートと太ももの境目を撫でた。しかもそれだけでは飽き足らず、するすると手を進め、


「お、おしり、なでない、で、く、だ、さい…!」

「悪いな、若い肌の触り心地が良くてつい。」

「お、お、おっさん…!」


思わずそう声をあげると、リヴァイはニヤリと私に笑ってみせた。


「…!!」


そう、それだ。
私が困っている兵長の笑顔っていうのは!!
目つきの悪い目をRPGの魔王みたいに細めて、口端をくいっとあげるその笑顔。最早笑顔って言っていいのかわからないくらいぞっとする笑顔だけど、でも分類としては楽しそうに笑っているから笑顔なんでしょうね!


「そのおっさんに、二度も惚れてるガキは誰だ…?」

「う、うるさい、ですよ…っ」


触れるか触れないか、まるで産毛の感触を楽しむような手つきで内腿を撫でられ、体がぞくぞくしてしまう。足が笑ってしまいそうになる。固い指が腿を擽る。大きな手が私の腰を撫でる。顔にふうっとかけられる吐息は少し煙草臭くて苦いのに甘く感じる。
ぞくぞく、ぞくぞくする。
彼の全てが、記憶が、私の体を知り尽くしているようで一ミリの誤差もない。あの時と同じ、あの時とは違う彼がそこにいて、怖いほど彼にぞくぞくさせられる。でも、もっと、って思ってしまう私は、やはり子供だ。


「…メスの顔をしてる。」


貴方のその嬉しそうな顔が、もっと見たい。



リヴァイの笑顔

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