リヴァイ、先輩

大学に入ってしばらく。気が付いた事がある。
それは、校内でよくリヴァイさんを見掛けること。別に故意に探してるわけでもないんだけど、ふとした瞬間、講義室から講義室へ移動する時とか、お昼休みとか、今みたいに掲示板のところに立ってるのを見掛けたり。どうしてか目につく。まるで私の目に彼専用の探知機でもついているかのように正確に迅速に、目の焦点を合わせるように見付けることができる。何故だ。
あと気が付いた事、もう一つ。


「リヴァイ兵長!」

「…オルオか。」


彼のことを兵長と呼ぶのはペトラだけじゃなかった…!ということ。
今リヴァイ先輩に声を掛けたのは、ペトラと仲がいいのか悪いのかよくわからない同学年のオルオ、くんだ。多分オルオ君はペトラの事嫌いじゃないっていうか好意を持って接しているけど(どういう好意かまだ見定め中だけど)(今度ペトラとコイバナとかしてみたい)、ペトラは何かと偉そうな態度をするオルオ君のことを冷やかな目で見てる。でも嫌いではないみたい。


(色んな人に、慕われているんだなぁ…。)


と、思わずリヴァイさんとオルオ君が話しているのをじっと見ちゃう。ペトラ以外でリヴァイさんを兵長と呼ぶ人を見たのはこれが初めてではない。ちょいちょい、リヴァイさんを見掛けては先程のように「リヴァイ兵長!」と嬉々として駆け寄る人を見る。一体何者だ、リヴァイ兵長。
色々考えて、実は地元では名を馳せていたヤンキーなのでは。というのが私の予想である。そしてこれがまたベタなヤンキーで悪いことするやつはボコボコに倒すけど、弱いやつとか仲間にはめっちゃ優しい、守ってくれる、みたいな。腕っ節は身長低…小柄なわりには超強くって地元最強とか言われてて、それを慕って小さなグループとか出来てて、そのグループでの愛称が『兵長』なのでは!というのが!私の!予想なんだけどどうかな!(って言っても答え合わせする人いないんだけどさ)


「それでは、自分はこれで!」

「ああ」


それにしても、なんか皆リヴァイさんに話し掛ける時物々しいっていうか、本当に本当の兵長に話し掛けるみたいにするよね。ペトラも「了解です」とか言うし。………もしかするとリヴァイ兵長が築いたグループは私が予想するよりももっと大規模なものだったのかもしれない。


「おい」


…え、そうすると兵長兵長言ってるペトラももしかしてそこの所属していた…!?ペトラ、あんな可愛いのに元ヤン…!?ああでも時々俊敏な動きするときあるよねペトラ…!しかもリヴァイさんに対してすっごく憧れているみたいだし!


「おい」


でもそう考えるとすごく頷けるよね。学内でのリヴァイさんへの熱いの眼差し、聞えてくる兵長という呼び名、軍隊みたいな言葉遣い。グループよりももっと組織っぽかったのかもしれない。でもそれってすごい、よね。大学入る前にそんな規律ある組織(勝手な想像)作っちゃうなんて、学生運動みたい!


「おいなまえ。」

「っ、はい、兵長!」

「………は…?」

「………あ…。」


考え(ただの妄想)に耽りふいに声を掛けられ、その声を誰かと深く考える前に返事をしてしまった。
……のわりには、しっかりとその人物だと理解していたようで、まるで条件反射のようにその人の愛称を呼んでいた。


「あー…え、えっとぉ…、す、すみません!ペトラがリヴァイさんのこと兵長って呼んでるので、私も、つい、うつっちゃいました!」

「………」


え、えへへ、と笑ってみせると、リヴァイさんは何度か瞬きをした後、「そうか」と小さく呟いた。その小さな呟きと一緒に、微かに肩を落としたように見えたのは気のせいだろうか………。


「時間割り。」

「はい?」

「時間割りはどうした。」

「あ、おかげさまで無事申請終わりました。」

「そうか、良かったな。」

「あっ……」


短い会話を数秒。
リヴァイさんは私の横をすっと通り過ぎようとした。


「あ、あの、リヴァイ、…先輩…っ」


一瞬、彼をどう呼ぼうか迷った。
リヴァイさん、リヴァイ先輩、リヴァイ兵長。
どれも私が口にするにはまだ親しすぎるような気がした。(だってまだ会って数回)(せめてファミリーネーム教えてくれれば)
でも口にした『リヴァイ』という名前は数回しか口にしたことがないのに、妙に口馴染みがして、自分でも少し驚いた。


「時間割り、ありがとう、ございました……。」


別に、今すぐ去ろうとした人物を呼び止めてまで言う言葉ではないだろう。
でも、私の中で、何かが「彼を呼び止めろ!」と強く叫んだのだ。だからお礼を、そう、お礼をきちんと伝えなくちゃ、って彼を呼び止めた。


「…それだけか。」

「は、はい…。」


ああやっぱり引きとめない方が良かった。それだけか、なんて言われてしまった。すみません、引きとめて、すみませんでした。そう苦笑した。


「………」


するとリヴァイ先輩は持っていた鞄を持ち直し、再び私の前へと、近寄ってくれた。それで何を言われるわけでもなく、じっと私を見詰めてて、私もその目を見詰め返しながら首を傾げた。そして、先輩はゆっくりと口を開いた。


「…また何かあったら…、」

「…?」

「また何かあったら言え。話くらいは聞いてやる。」

「……わ、」


そう、背のわりには大きな手を私の頭にぽすんと落として、リヴァイ先輩はその場を去って行った。


(リヴァイ先輩に、頭、撫でられ、た…?いや、置かれた…?)


なんとも判断しかねるアクションに、私はしばらくぽかんと立ち尽くしてしまったのだけど…、未だ残るリヴァイさんの大きな手の感触に、私の胸は再びふわふわし始めた。(あ…、まただこの感じ…。)
ぽすんと置かれた手の感触を、何処か懐かしく感じた。


リヴァイ、先輩


掲示板を離れようとした先で、ペトラに会った。これから同じ講義なので一緒に教室まで行こうと廊下を歩いて、先程リヴァイ先輩に会ったこと告げたらすごく驚かれた。


「あ、ペトラ。さっきね、兵長に会ったよ。」

「えっ…!?」


ペトラに合わせるようにそう言うと、ペトラは足を止め、大きな目を丸くして私を見詰めていた。


「ん?」

「……なまえ、さん…?」


そう、おそるおそるといった感じでペトラが私の名前を呼んだ。何故か敬称付き。
どうしたのペトラ?


「ペトラ……?どうかした?兵長ってペトラ、リヴァイ先輩のことそう呼んでたよね?」


あ、あれ通じなかったのかな。もしくは私ごときがリヴァイ先輩のこと兵長って呼んじゃまずかったのか…!と聞き直したら、ペトラは髪を耳にかけながら、少し悲しそうに笑った。


「……あ、う、ううん、そ、そうだね。……そう、ですよね。」

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