とらハート
僕、五虎退はかつて自分の主様だった人とお付き合いをしている。
桜が満開を迎えた入学式、僕は真新しい制服を身に纏いながらとある女性を見付けた。彼女とはここで初めて出会ったのに見付けたなんて言い方おかしいのだけど、でも本当に見付けてしまったのだ。満開の桜の下、穏やかな風に髪をとられて柔らかそうな髪を耳にかけたその人を。その女性を視界に入れた瞬間、全身に雷が落ちたかのように脳天から足の爪先が鋭く痺れた。なんで今まで忘れていたのだろうこの人のことを、と僕は唐突に思い出したのだ。
彼女が、僕の主だった時のことを。
僕は気付いたら涙を流していて、それを見た彼女が「どうしたの!?」と駆け寄ってくれた。優しい、ああ、彼女だ、主様だ、と僕は泣きながら彼女の手を取って「好きです、結婚してください。絶対に幸せにします。」と取った彼女の手を額に押し付けて懇願した。その時の彼女の慌てぶりといったら思い出すだけで目元がゆるくなるくらい可愛かった。ああじゃなくて、その時は断られたのだけど、でも入学式の生徒会長挨拶で彼女が壇上に上がってて、生徒会長だなんて流石主様だ、と惚れ惚れして入学式終わってすぐにまた僕は告白していた。それから僕は何度も断られて、何度も告白し直した。毎日毎時、僕は彼女に告白して、一年くらいかけて僕は彼女を交際という形で口説き落とした(彼女が折れたともいう)(でもそれでもいいのだ。結果、彼女が僕のものになれば)。
「五虎退。」
さくらんぼ色のふっくらとした唇が僕の名前を呼ぶ。ああ、なんて心地いい響きなんだ。形のいい控え目な唇はまさに、凛としつつも優しさをまとった彼女、なまえ先輩そのものだ(入学式、彼女が生徒会長として挨拶をのべていた時はその可愛い唇が動くのをたっぷりと堪能することができて正直背筋がぞくぞくした)(まぁ他の生徒もそれを見ていたと思うと正直一人一人目を刺してやりたいくらいなのだけど)。唇だけじゃない、こうして眺める横顔もとても美しい。俯くと長い睫毛が影を作るし、その奥にある瞳もビー玉のように丸く純度が高い。
「五虎退、」
以前、低いから嫌だ、と友人にこぼしていた鼻は確かに高くはないけれど、広がってはいないし小さいから僕としてはぱくりと食べてしまいたいほど可愛いと思っている。何より自分の鼻を気にしている彼女の姿は可愛いからずっと見ていられる(ああ食べたくなってきた)。桜色の頬は見てるだけでも柔らかくて(実際柔らかいし温かい)卵形の輪郭にそってぺろりと舐めたいくらい。
「五虎退……!」
ダンッ、と彼女が机を両拳で叩いた。僕はその振動で肘をついていた顔をあげた。彼女は耐えきれないとばかりに先程まで持っていたシャーペンを握り締めてふるふると肩を震わせていた。それからキッと目をつり上げて僕を睨んできた。と言っても彼女から睨まれてもただただ可愛いだけなのだけど。
「見すぎ!だから!」
「えぇ?なまえ先輩が目の前にいるのに先輩以外何を見るんですか?」
すぐそばに大好きな先輩がいるというのに、先輩以外の何を視界にいれろと言うのだろうか。首を傾げて先輩にたずねれば先輩は「なっ、そ、わっ……、ばっ」と、何言ってるのそんなの私が知るわけないじゃない馬鹿じゃないのっ、がうまくいえず口をぱくぱくさせていた。うん、可愛い。
「ま、漫画とか、いろいろ、あるでしょ!?」
「僕の部屋に漫画は置いてません。」
「ざ、雑誌とか!」
「雑誌もあまり読みません。」
「教科書でも見てなさいよ!」
「テスト期間でもないので、置いてきてます。」
僕の部屋には、残念ながら必要最低限なものしか置いていない。というか、今まで生きてきて何が自分に必要なのかよくわかっていなかったのだ。漫画も雑誌も見ていればおもしろいと思うことはあるけれど、それでも自分の空間に置こうとは思ったことはなくて、だから部屋にあるのは机とベッドとクローゼットと、その他当たり障りのないものばかりだ。
でも入学式、彼女を見付けて僕は自分の足りなかったもの、欲しかったものを思い出したのだ。見付けてしまったら喉から手が出るほど、よだれを滴らせるほど欲しいものを。
まぁ、それ本人は丸机の上に生徒会で使う資料(次の生徒総会?のやつ)を広げてここ数十分その資料にがりがりと付きっきりだった。本音を言えばこちらを向いて僕に構ってくれたら嬉しいのだけど、彼女が生徒会長という役職を大事にしていることは知っていたし(主様の頃からお役目を忘れない方だった)、彼女と一緒の空間で同じ空気を吸えてれば一通り満足する僕はじっと彼女の横顔を眺めていた。
「あ、あのねぇ…、そんなに見詰められると、集中できないんだけど。」
「僕に見詰められて集中できない?」
「なんでそうなる…!……いや、ち、違うような、合ってるような……いやいや、違う違う。」
「嬉しいです。少しは僕を意識してくれてるんですね。」
「いやだから、ちょっ、」
押し付けるように先輩と恋人同士になって早数ヶ月。先輩が僕の告白を受けてくれた(折れたともいう)(何にせよ結果オーライ、だ)日に僕は彼女の唇を奪った。だってずっと好きだったから色々我慢していたのだ。といっても初めて奪ったわけでもないのだけど(我慢が足りなくて告白を受けてもらう前からハグも手を繋ぐこともキスもしてきたことをここで白状しましょう。)(我慢できなかったんだもん)。僕の気持ちはほぼほぼ一方通行で、もちろん先輩も僕を好きだと思ってくれたら嬉しいけれど、とりあえず僕が先輩を好きだという気持ちを知って受け止めてくれればそれでいいやと思っていた。
先輩の小さい手を取って、華奢な指と指の間に僕の指を捩じ込む。
あの頃は、小さな僕の頭を撫でて手を繋いでくれていたあの頃の彼女の手は、僕の手より大きくて、男として人の形をもらったのに彼女より全てが小さいことがとても悔しかった。それによって彼女の視界に子供としてしか映らなくて、近侍として側にいた一兄は尊敬はしていけれど、それ以上に羨ましくて仕方なかった。
小さい自分はどう頑張っても体をはって彼女を守ることなど難しかった。それが情けなかった。でもまぁ、今そのときのことを彼女が覚えていないのは心底ほっとしている。今の男としての自分を見てて欲しい。
「なまえ先輩、今は好きじゃなくてもいいので、その内僕を好きになってくださいね。」
手を取られて、ちょっとのことですぐ恥ずかしがる先輩は頬を赤くした。この瞬間が、可愛くて仕方がない。いつもツンとした顔の先輩が少し距離を縮めると言葉を詰まらせて頬を赤くして俯くのだ。前髪からのぞく目は戸惑っていて、僕にこういうことをされて困ったりどうしたらいいのかわからなくなってるようで、ほんとうにかわいい。
「ご、ごこたい……、あの、私……。」
「いいんです。むりに答えようとしなくても。」
僕は、こうして貴女と同じ空間にいて同じ空気を吸えることで幸せを感じられる。おまけに二人きりだから、この空気を邪魔するものはいない。僕の吐いた息を、彼女が吸っているなんて、これほど嬉しいことはない。逆もまた然り。
「ちが…、あの、だから、五虎退、わたし……、」
「せーんぱい」
睫毛を震わす先輩に、僕は先輩の小さなおでこに自分の額をそっとくっけた。きゅ、と目をつむった先輩が僕の指を掴む。ああ、だから。
「あんまり可愛いことばかりしないでください。我慢、できなくなっちゃいます。」
せっかく先輩の仕事の邪魔をしないよう、おとなしく先輩の横顔をじっと見ていたというのに、先輩が可愛いことするとおとなしくなんてできなくなってしまう。
「五虎退…聞いて……、あのね……。」
僕の指を握りながらちらちらと僕の顔を見上げる先輩にこくりと喉がなる。上目遣いの彼女というのに、僕はとても弱い。何故ならこのアングルは、以前の僕の記憶にはないものだから。あの頃の僕は何もかも小さくて、主様に届かなくて、僕が彼女を上目に見ていたのだ。見上げた彼女は優しくも凛々しくて、じっと見詰めていたら自然と背筋が伸びてしまうような人だった(もちろん、今の横顔も凛としている)。しかし今の僕は以前の僕とは違う。彼女より頭一個分以上に背は伸びたし、抱きついていた短い腕は伸ばせば彼女の華奢な体を抱き締めて閉じ込めてしまうこともできる。手だって、関節一個分くらい違う。どうこうしようと思えばどうこうできてしまう僕の前で、彼女は無防備にも僕を見上げる。この角度の彼女は、よくないと思う。だってあまりにも可愛すぎる。丸い瞳が僕を見上げると、何か困ったような、おねだりをされているような、そんな風に彼女の顔が幼く見えるのだ。元々面倒見のいいしっかりした性格の彼女だけど、その裏、人に頼ることが苦手でいつも自分を追い込む。そんな彼女の上目は、こう、守ってあげたくなるとか助けてあげたくなるとか、そういうのを通り越して可愛すぎて困るからちょっと鍵付きの部屋で閉じ込められててくれるかな!?と言いたくなる程で。そんな可愛い姿の彼女に半分目眩に近いようなくらりとした感覚を味わいながら僕は先輩の言葉を待った。
「す……、すき、だから…………。私も、ちゃんと五虎退のこと、好きだから……。」
「…………………………。」
「ご、ごこ…?」
愛称で呼ばれて僕はハッと息を吹きかえした。
危ない、今、僕、多分死んでた。
なまえ先輩が僕の予想をはるかに超える言葉をいって、その言葉を理解するのにブラジルを経由して宇宙まで思考が飛んで今先輩に名前を呼ばれて一瞬で戻ってきた。
「ごこ……?だ、大丈夫……?め、目が落っこちそうだよ……。」
「え、本当?……しまってくれますか。」
「え……?あ、こ、こう……?」
先輩の小さな白い両手が僕の目元を覆った。(あっ、死にたい)(可愛い)(無理)
「戻った……?」
「はい多分戻りました。でも、もう少しこのままでお願いします……。」
「あっ、五虎退?」
僕の目を覆うことで少し腰をあげた先輩の腰を抱き寄せて先輩の胸元に顔を埋める。顔に先輩の柔らかい胸があたり、思わずむずりと顔を動かすと甘い香りが立つ。すう、はあ、とゆっくりと呼吸すれば先輩の手が僕の頭をおそるおそる触れて、ゆっくりと髪に指を入れてふわふわと撫でてくれた。ああ、なんて幸せなのだろう。
「なまえ先輩……、」
「は、はい……。」
「今のは、本当ですか?先輩も僕のこと好きなんですか?本気なんですか?出会い頭にプロポーズするような気味が悪い男ですよ僕は。いえもちろん軽い気持ちで言ったわけではありませんけど。」
「………………。」
ふわふわと頭を撫でる、というより、僕の癖っ毛を指に絡めるようにしていた先輩の手が止まる。多分(出会い頭にプロポーズして気味が悪いっての自覚あったんだ……。)とか思ってる絶対。失礼な。ただ先輩と出会ってしまって気が付いたらそう口にしていただけで、普段の僕がそうな訳じゃ、なかった、はず。
「先輩が、そう言うのなら僕はもう、我慢、しませんよ?」
違う、できませんよ、だ。
そう言って先輩を抱き締めながら見上げれば、先輩は我慢しないと言った僕にぽっと頬を赤くしてから、拗ねるように顔をそらした。
「が、我慢してたことなんて、ないじゃない……。」
「………………。」
違う?なんて少し睨んできた先輩の表情が照れ隠しのような気がして、ああ本当に先輩は可愛い、と僕はくすりと笑った。
「確かに。我慢なんてできた試しがありません。」
こんなに可愛い人の側にいて、よだれを抑えられるかなんて、愚問中の愚問だ。よだれを飲み込むのだって、一苦労だ。
「えっ、いや、ちょっ、五虎退っ!?」
ああ、両思いになれた先輩のお胸……、とばかりに胸に鼻先を埋めながら先輩のブラウスのボタンを手当たり次第に外そうとすると、上から焦った先輩の声がした。
「な、なにして……!」
「ナニしよう、かと……。えっ!しないんですか!」
「いや!なんか私が変なこと言ったみたいな言い方!」
「りょ、両思いに、なったんですよね……?」
「……ッ、……な、なった、というか……、…い、いつの間に…なっていた、というか……。」
「……ぶち犯す」
なら問題ないですね。
頬を更に赤くする先輩ににっこり微笑めば先輩は「ひぇっ」と短く悲鳴をあげた。あれ、なんかおかしいこと言ったかな。(思ったことと言ったこと、反対のこと言ったかな?)(まあいいや)
「先輩…。」
「……んっ、」
先輩の唇にちゅっとキスをすると、先輩は目をきゅっと瞑った。驚いて目を瞑ったというより、急いで目を瞑った先輩に僕は口元のにやけが抑えられなかった。だって、これ、僕が教えたんだよ?キスするときは、目を閉じるんですよって。ま、僕はそんな先輩のキス顔をじっくり堪能するために目なんか閉じないんだけどね。
ちゅ、ちゅ、と先輩の唇を吸うようにキスをして、角度をつけては深めていく。先輩の細い首に手を添えて、後ろ髪を撫でるようにして頭裏を支える。
「あっ、……ふ、」
何度も口づけると先輩の唇がふにゃけたように微かに開くので、その隙間に舌先をちょっと当てると先輩はびくりと小さく跳ねる。何度もしていることなのに、先輩は仔猫みたいに小さなことでも反応してくれるから、ああ、苛めがいがあるよね。頭裏に置いていた手で先輩の顔が逃げないよう支えて、ねぇ開けて?とばかりに舌先を滑り込ませる。空いた片手は先輩の小さな手に指を絡めて、親指で手の背を撫でる。すると少しだけ先輩の肩の力が緩むので頃合いを見計らいながら先輩の口内に舌を捩じ込む。
「ふっ、……ん、」
「先輩、好き。好きだよ。」
「んんっ、」
キスしながらぴくぴくと震えるなまえ先輩が好き。今日は一段とぴくぴくしている気がする。引っ込み思案な先輩の舌を絡めとり、舌先でもっとこっちにおいでといつもは僕がするのだけど、心なしか今日はそれをする前に先輩がきてくれる気がする。
「……ふ、……先輩、キス、したかったの?」
少し濡れた自分の唇をぺろりと舐めると、先輩がはっと目を開いてもじもじと膝を擦り寄せた。
「……だ、だめ、だった……?」
恥ずかしそうに視線を外してはおそるおそる僕を見上げた先輩に、なんだこの可愛い生き物は……、と僕は心臓が止まりかけた。いや多分三秒くらい止まっていたと思う。息が、苦しい。困った。
「全然、まったく。むしろ、僕は、すごく嬉しい、のだけど。」
本当にどうしたのだろう。(先輩が好きすぎて)息苦しくなるのをなんとか堪えて、ごくりと唾を飲み込んでそう返すと先輩は僕の膝に手を置いて、ちゅ、と唇を押し付けてきた。押し付けてきた、と言っても、ほんと、天使の羽が触れたくらいの、かすめるようなそれだったのだけど、それだけで情けないことに僕の下半身はとても元気になってしまって、ああ一兄ごめんなさい僕はとても一兄のような紳士にはなれない。と思った。
「あの、もっと、していい……?」
「え、何?何をですか?こ、呼吸ですか?」
「こ、呼吸は、してると思うのだけど……。」
いやもう呼吸以外のことはしないでくれますかね先輩。先輩のおかげで僕の心臓はとてもじゃないけど色々もちません。
「なまえ先輩、ぼ…、僕と、キス、したいんですか……。」
「し、したい……。」
赤くなる頬をぱんっ!と音が鳴るほど両手で叩くようにして抑える。(僕、肌が白くて赤くなるの目立つから、本当に勘弁して欲しい。)指の隙間から先輩を見れば先輩は珍しく赤面してる僕をじっと見詰めていた。
「……っ、むり……っ。」
「五虎退…っ!?」
いつもは僕が先輩先輩言って勝手にじゃれついては追い払われるようにされているから、こう、逆に来られるのはとことん弱いのかもしれない。上向きに顔を覆ってそのまま後ろに倒れこめば、先輩のびっくりしたような声が聞こえた。そりゃ、結構勢いをつけて後ろに倒れたら驚くよね。少し背中痛いけど、それ以上に先輩がつらい。先輩は五虎退大丈夫?頭打ってない?と心配そうに僕の顔を覗き込んできて、僕は指と指の間から先輩を見て、はぁぁあ、と溜め息のような何かわからないものを吐き出した。それから先輩へ手を伸ばせば、先輩がそれに指をきゅっと絡めてくれた(あ、今、僕の心臓がきゅってなった)。
「おいで……。」
「うん……。」
「……先輩から、してくれる……?」
「…………う、うん……。」
握った手をそっと引き寄せて、先輩は僕の方へ顔を近付けた。落ちる細い髪を耳にかけて先輩の目が伏せられる。ふわりと香った先輩の匂いに唾を飲み込む。ああ、なんて贅沢なことをされているのだ僕は。かつての主から、キスを頂けるなんて。
ふにり、と触れた唇は一瞬だった。
それでも、世界中の時が止まったようだった。世界はもうここの空間、僕と先輩だけで、先輩が僕にこうしてくれるだけに世界が生まれたのではないかと思えるほどだった。
「……先輩、もっと…。」
「ぁ……、んっ、ぅ、」
そっと離れていく唇が惜しくて、上げようとしていた先輩の頭に手を置いて離れていく唇を追い掛ける。先輩の柔らかい唇を優しく噛んで、食んで、吸い付いた。ちゅくちゅく鳴るキスの音の合間に先輩の声が混じる。は、と僕は短く息を出す。いい。すごく、いい。気持ちがいい。
「なまえ先輩、もっと、触っていいですか。」
きっと、既に僕の目はぎらぎらしているに違いない。僕のとは違ってとろんとした瞳の先輩は恥ずかしそうに瞳を揺らしていた。うっ……可愛い……。
スカートに入っているブラウスを引っ張り出して、その隙間に手をするりと入れる。細い腰のラインをなぞって、下着の上から先輩の胸に触れる。僕の手にすっぽりと収まる可愛い胸を優しく包むと先輩から声が出る。
「……んっ……」
キスの時とはまるで違う、何かいけないものに触れてしまったような、声。うん、いけないものかもしれない。だって、主様の、なまえ先輩の、胸、なんて。いやでも、今、たった今僕と先輩は両思いになれたのだから、いけなくはない。うん。(両思いじゃない時から触ってはいたけれど。)
「先輩、脱がせていい……?」
「……う、うん……。」
と聞きつつ、既にブラウスのボタンをぷつぷつと二、三個外しているのだけど。ボタンが残りあと一、二個というところで先輩が自分で脱いでくれて、「し、下着も?」とブラのことを聞かれたので「あ、はい。」なんて随分と間抜けな声で返してしまった。少し屈んだ状態のままで先輩が背中のホックを外すと先輩の柔らかそうな胸(そうなって、実際柔らかいんですけどね)が下を向いて現れる。体を曲げているからか、胸が重力にならって落ちそうに見えて僕はそれが落ちてしまわぬように両手でそっと支えるように包んだ。
「……んっ、」
手のひらに吸い付くような、僕の手にぴったりと形を変えてくれるそれに僕はいつもいつも感動してしまう。それは他に例えようがない程の柔らかく、危うくも触れられずにはいられない。今日はこんな姿勢だからか更にむっちり感が感じられて手のひらが幸せに満ちている。指に少し力を入れると先輩がふるりと震えて可愛い声がこぼれる。
「……あっ、」
「先輩……柔らかい……です……」
「い、言わなくていい…!」
「でも、こんなに立ってて、可愛い……。」
「い、言うなぁ……!」
既につん、と可愛らしく立っている柔らかい膨らみの先を、親指で優しく掻くようにすると先輩から泣きそうな声が上がった。可愛い。恥ずかしいの?すごく、可愛いです先輩。何度かそうしていると、赤い顔で唇を噛むようにしてた先輩から甘い声が漏れてくる。
「……んっ、ん、」
「先輩、気持ちいいの、我慢しなくていいですよ。」
少し頭を持ち上げて、先輩の耳元でそっと囁けば先輩はびくりと震えて「……あんっ、」と声をあげた。すぐにハッと口を抑えて僕を睨んできたけど、そんなことされても残念ながらただただ可愛いだけです。
「堪らないな……。」
「……え?わっ、」
腹筋を使って起き上がり、先輩の細い腕を掴んで小さな耳朶に唇を寄せた。ふう、と息を吹き掛ける。
「やっ、」
「先輩、耳、好きですもんね。」
ちゅる、と音をたてて耳朶に吸い付く。なめらかな白い背中に指先を滑らせ、擽るように触れると先輩が身を捩る。でもごめんね、もう逃がしてあげられない。
「ふっ、……んぅ、」
両手ですくいあげるようにして先輩の胸に触れ、耳から唇をずらして先輩の唇にキスを繰り返すと、先輩の吐息が僕の唇にかかった。くすぐったい。気持ちいい。可愛い。そんな思いを込めて先輩にキスを繰り返す。
「あっ、ふ、」
少し息苦しいくらいのキスの応酬から漏れる先輩の声をもっと引き出すように、指先で先輩の胸の先をくりくりと捏ねまわす。無意識で身を捩る先輩に唇を重ねながらふふっと笑う。可愛い。逃げたいの?逃がさないよ?少し強張った体をほぐすように、白い首筋に吸い付いた。そこから鎖骨、肩、脇と小さく口付ける(ああ、僕がキスしたところ全部消えない印でもつけばいいのに。そうしたらまだ僕がなまえ先輩にキスしていないところがわかっていっぱいしてあげられるのに)。柔らかい膨らみの線を唇でなぞり、花でも咲きそうな赤い蕾に唇で触れる。
「あっ…」
先輩の口から可愛い甘い声が出る。学校で聞くようなハキハキとした声じゃない、僕だけが知ってる、僕だけの、あまい声。すごく可愛い。鈴を転がしたみたいに、ちりん、って。何度も聞きたくなってちりちり鳴らしたくなるよね。
「やっ、ごこ、…んっ、」
「ん、先輩、可愛い…。」
蕾の先に吸い付いて、自然と溢れ出る唾液を絡ませて舐める。唾液、とまらない。こんなに綺麗で美味しそうな先輩の体を前にして唾液を抑えろなんて無理な話だし、実際吸い付くと柔らかくて甘くて、こんなの病みつきになってしまう(先輩を前にしなくても味を、食感を、思い出して涎が出てしまう)。ぴん、とたった先輩のそれにちゅるちゅると吸い付き、舐めながら、時折優しく歯をたてながら、僕は先輩を眺める。先輩は細い指の背を口元にあてて短い声と吐息を出し弱々しく睫毛を伏せていて、僕の動きに集中しているようだった。いいね、もっと僕を感じて、集中して、僕だけを感じて。
「先輩、なまえ先輩…。」
「あ、んん、」
はぁはぁ、と短く繰り返される先輩の吐息さえも何だか綿菓子のように甘い気がして、先輩の息ごと先輩の唇を奪った。ああ、やっぱり甘い。美味しい、気持ちがいい。交わすキスの合間、ちろりと見えた赤い舌は飴のようで、美味しそうだからといってがっついて歯を立てぬよう、そっと舐めてみた。触れた瞬間ぴくんっ、とその飴は逃げてしまったけれど、大丈夫、痛くしませんよ、と唇に何度もキスをするとおずおずと顔を出した。(あー、もー、可愛いー。)
「んっ、ふぁ、」
「先輩…、ん、かわいい…。」
「…っ、」
キスを深めながら先輩の腕を摩るように撫で、白い足にそっと手を置く。校則より少しだけ短くしたスカートからのぞく、真っ白な足。先輩は僕の顔や腕を見て「白くて羨ましい」と良く言うけれど、先輩も十分に白いと思う。言ってしまえば僕の色白は体質的な話だし、もっと言えば血色が悪いだけ(あと好きな女のひとに色白いって褒め言葉じゃないからね)。先輩の色白は温かいミルク色だし、健康的な色だから、僕は好き。(もちろん、体育祭でこんがり焼けた先輩も可愛かった。)(靴下焼け、可愛かった。)とても、そそられる色だよね。
「あっ、ごこ、」
「大丈夫、怖くないですよ。」
指先で先輩の足をつう、と撫でながらスカートの奥へ奥へとゆっくり侵入していく。ぴったりと合わさった太腿を宥めるため、丸い円を描くように撫でる。何度もしてる行為なのに先輩はいつもガードが固い。毎度そのガードをどう壊そ……安心させてゆるめようか色々思案するのが僕の楽しみだ。
「せーんぱい?」
「う、うぅ……」
「足、開いてください、ほら。」
「や、やだ…っ」
「でも、ほぐさないと痛いの先輩ですよ?」
「そ、それも、やだ…っ」
「じゃぁ、ほら、ね?」
「む、むり…。」
ふるふると首を振る先輩に、今日はやけに粘るな…と感じながら俯く先輩の額やつむじにキスを落とす。なんだか緊張しているような、恥ずかしがっているような(恥ずかしがってるのはいつもか…。)先輩に苦笑しつつ、先輩の耳元に唇を寄せる。
「…先輩、お願い。」
「…あっ…!」
耳に触れるか触れないかの距離で囁くと、一瞬だけ固い堤防が崩れる。その一瞬の隙を逃さぬよう手をするりと忍ばせる。
「やっ、やだ、だめだめ…っ」
とっさに僕の腕を掴んだ先輩だけど、一瞬の隙さえあれば懐に潜り込める(正しくは懐じゃないけど)。僕の機動舐めないでくださいね、と先輩の太腿と太腿の間に中指の腹をあてる。すると、いつもと違う手触りに僕は思わず顔を上げ、先輩の顔を見詰めた。先輩はやだやだと顔を両手で覆ってて、え、何それ、超、可愛い、です。
「…先輩、いつもよりめっちゃ濡…」
「う、うわぁあああああっ!!」
「…っ!」
中指で感じた感想を言おうとすると顔を真っ赤にした先輩が飛びついてきて、言うなとばかりに僕の首に抱き着いてきた。ぎゅうぎゅうと抱きしめられる腕の力に、なんだこれ、ここが天国かな、と思考が吹っ飛びそうになるのをなんとか引き留めて(いやだって、先輩から、思いっきり、だ、抱き着いて、む、胸とか、あ、先輩顔真っ赤なのすごく可愛い)先輩の小さな背中をぽんぽんと叩く。
「先輩、大丈夫ですよ、全然恥ずかしくないですよ。」
「やだ、むり、およめいけない…。恥ずかしい…、もうかえる…。おじゃましました…。」
「いや今この状態で帰すつもりはさらさらなので一人で帰らないでください。あと先輩は僕のお嫁さんになるので問題ないですねハイ。」
ううう、と小さく唸る先輩の頭を撫でながら、だから今日はちょっと粘られたのか、と納得する。触れた先輩のそこはいつもより熱く、とても湿っていて、下着越しに触れただけでも濡れている音が聞こえてきた。
「僕は、嬉しいですよ?先輩が、こんなにも感じてくれて…。」
「い、言わなくていい!もうっ、ばか、あ、あほっ、」
「ふふ、ありがとうございます。」
「褒めてないっ!」
「なまえ先輩、僕、褒められると伸びるタイプなんです。」
「だから褒めてなっ…あ、待っ!!」
僕に抱き着きながらミーミー鳴く先輩の声を聞きながら、僕は先輩の腰へと手をかけた。先輩からの抱き着きにより、先ほどよりもうんと無防備になったそこに触れるべく、僕は先輩のスカートを捲し上げ、下着をするりと下ろした。なめらかな肌のおかげで下着が滑るように脱げる。すると、脱がした下着から透明な糸がつうと引いているのが視界の端で見えてしまい、僕は内心すごく慌てた。ど、どうしよう、すごく、え、エッチだ…!
「先輩、今日はどうしてこんなに…?」
「…えっ、な、何聞いて…っ、し、知るわけ…っ」
「だって、こんなに…」
「…ん、ぅっ…!」
とろりとした蜜をたどり、たっぷりと濡れているそこに人差し指を這わせる。
「すごい…、いっぱい…。」
「だから、い、言うなっ…あっ…!」
濡れた花びらの合間で線を引くように撫でると指がすぐに蜜だらけになり、少しでも指を動かせばとろりとした音が聞こえてくる。指を滑らせた先にある小さな芯に触れると、先輩はぴくんっと背中を震わせて僕に抱き着く力を強めた。
「あっ…、や、そ、そこ…っ、」
「先輩、とろとろ、です。」
「んんっ、や、触っちゃ、や…っ」
無理を言わないで欲しい。こんなにもとろとろで気持ちよさそうなところを触らないで欲しいとか、触ってあげないと可哀想です。だって、こんなにも触って欲しいって、泣いてるじゃないですか。指にたっぷりと蜜を絡めながら小さな芯の輪郭をまあるく撫でる。指の腹で擦るようすると蜜がとろとろ溢れてくるので、塗り付けるようにそこに触れた。
「あっ、んっ、く、やぁ…っ」
僕の指が動くたびに先輩がひくんひくんと震えて可愛い声を出す。できるのならこれで三時間くらいやってみたいのだけど、そんなことしたら先輩泣いちゃうかな。先輩泣いてる姿も可愛いんだよなぁ。前これでもかっていうくらい愛撫し続けてイカせまくったら一週間くらい口きいてくれなかったから、あまり良くないのだけど。でも泣いてる先輩可愛かったし、ぷんぷん怒って僕から避けまくる先輩も可愛かった。なんか小動物が逃げ回ってるみたいで、ヒィヒィ言うまで追い掛けたくなるよね。
「なまえ先輩、ここ、気持ちいい?」
「やぁっ、も、もうやめ、あッ……!」
人差し指と中指で先輩のそこを何度も撫で上げ、最後は親指を使ってきゅっと軽く摘まむと先輩がびくんっと大きく跳ねて僕の肩に額を押し付けてきた(今日は早いな。…軽く達したみたい)。先輩はそのまま僕に凭れ掛かるようにして短い呼吸を繰り返しへたりと座り込んでしまった。
「ん…、は……、」
「……先輩、可愛い…。」
うっすらと先輩の肌が色付いてきて、ほんの少し汗ばんできた額やこめかみにキスをする。僕は先輩にキスをしながら、スカートが濡れてしまわないよう手際よくホックを外す。
「なまえ先輩、もっともっと気持ちよくしてあげますね。」
「……い、いい…っ、」
「遠慮なさらず。」
「いいいいらないぃっ…!」
「はい、ばんざい。」
いらない、と言いつつも僕がそう言えば先輩はしぶしぶ腕を上げてくれた。スカートをすぽんと上から脱ぎ取り(スカートの脱がし方違うけど)、僕も制服のネクタイに指をかける。先輩に夢中になって気付かなかったけど、結構体が熱い。汗もかいてきてるし。ネクタイをほどいて、シャツのボタンを二、三個外すと、先輩がぼうっとこちらを見詰めていた。
「せんぱい、見惚れちゃいました…?」
「…っ、ち、違っ、」
「でも、そんなぽやーっとした可愛い顔で見詰められたら、期待してしまうんですけど。」
「……………。」
指の背で先輩の頬を撫でると、先輩は悔しそうな恥ずかしそうな拗ねているような顔をして黙り込んでしまう。…可愛すぎか。なんて真顔でそれを見詰め、僕はネクタイとシャツを脱いで先輩へと距離を詰めた。
「先輩、あんまり可愛いことばかりすると、頭から食べちゃいますよ。」
「えっ…、食べ…く、口に…、は、入るの…!?」
「入りますよ。ぺろりですからね。」
「ぺ ろ り !」
…この人は一体どこまでが本気でどこまでが天然なのだろうか。目を丸くして僕を見詰めるなまえ先輩に胸がぎゅっと詰まる。短刀だった頃は主様の凛とした姿ばかり見ていたけれど、今は結構抜けているところとかある先輩に僕は何度も心を掴まれる。あの頃の主様にもこういう風に抜けていたところとかあったのだろうか。そう思うと、あの時近侍だった一兄がやっぱり羨ましい。
「…本当、食べてしまいたい。」
「ごこ…?」
「僕だけのなまえ先輩にしたい。」
「…っ、ごこ…、…あ、んぅっ…!」
胸から込み上げる熱い息を深く吐き出し、先輩に口付けながらその体を組み敷いた。まるで本当に喰らうかのように先輩の唇に吸い付き、先輩の体の線を撫でながら濡れたそこに再び指を這わせる。指先をそろりと動かし、蜜を溢す場所へと忍び込ませる。
「あっ……あ、」
指先をゆっくりと中に入れると、先輩の中は僕の指をやわやわと締め付けてきた。
温かい。すごく。
「……ん、ん」
「すごい、溢れてくる。」
「やぁっ、」
少し指を動かすだけでくちゅりと音がして、中からとろりとしたものが溢れてくる。今日の先輩は、本当によく濡れてる。どんどん出てくる。
「ねぇ、先輩。どうしてこんなに濡れてるの?いつから?」
「し、知らな……っ、あっ、」
「僕が先輩の胸舐めた時?」
「やっ、違っ、ん、んん、」
入った指先をゆっくりと揺すり、円を描くようにくるりと回す。
「それとも、耳?」
「んっ、し、知らないっ……あっ、やっ、」
もう少しいけそうだな、と指の本数をひとつ増やして、上下に揺すりながら中へ中へと入れていく。
「……ああ、先輩が僕にキスしてくれた時から?」
「……ッ!」
きゅうっ、中が切なく締まり、僕の指が柔らかい襞にきつく締め付けられた。まるでそうだとばかりに返事をされて僕は目を見張る。先輩は顔の前で腕を交差させて顔をそらしていて、まさか、そんな、本当に?と僕は胸が高鳴った。あの時、先輩から僕にキスをしてくれていた時に、先輩はこんなにも濡らしていたのかと思うと、正直、すごい興奮する。
「……キス、気持ち良かったの…?」
「……ふ、…やぁっ、」
「自分でキスして、濡らしたの?なまえ先輩?」
「ちがっ、」
「ねぇ、先輩。ちゃんとこっち見て。」
「や、ぁ、」
「先輩。」
顔を隠す先輩の細い腕を取ってこちらを向かせる。恥ずかしくて涙目になっている先輩は、視線を外してから、不安そうに僕を見上げた。生徒会を務めるくらい真面目な先輩だから、きっとはしたないとか恥ずかしいとかそんなこと考えているのが、不安そうな目を見て手に取るようにわかる。先輩、杞憂です。僕はとても興奮してい…、違う、そんななまえ先輩がとても可愛いと思っています。
「はぁ、可愛い。先輩可愛いです。」
「あっ、やっ、ごこぉ……、」
「もっと、もっと可愛い先輩見せてください。」
奥深くまで進めた指を、お腹の裏を撫でるようにして引き、抜けてしまう寸前でまた奥へと入れた。そうやって指の出し入れを何度も続けるとセンパイが僕の腕を掴んで首を振る。
「あっ、ごこ、それ、そこっ……」
「ん?ここがいい?」
「あぁっ…!」
もう駄目、と言わんばかりの涙目にもっと追い打ちをかけたくなる。指の出し入れを早くし、先輩のいいところを何度も撫で上げる。先輩は僕の腕を掴んだまま何度も何度も首を振ってて、やめてって言っているようだけど、ごめん先輩、それ、僕にはもっとしてって意味だよ。
「気持ちいいの?いいよ?…いって」
僕で、僕の指で気持ちよくなって、先輩。
そう耳元に唇を寄せて言えば、先輩の中がきゅうきゅうと僕の指を締め付けた。
「やっ、ぁ、だ、め、あっ、あ…、ああぁっ…!」
びくんっ、と体を大きく震わせて、先輩の体はくたりと力を失った。
少し喘ぎが混じった呼吸をしている先輩の目はとろんとしていて、その顔を覗き込めば先輩はそのとろりとした目で僕を見上げた。
「…ごこ、」
「…っ」
濡れた唇が僕の名前を呼んで、背筋がぞくぞくした。僕の名前はこんなにも艶っぽい名前だっただろうか。いや、なまえ先輩が呼ぶからこんな艶っぽく聞こえるのだ。ごくりと喉を上下させ、僕は急いでベルトを外してスラックスとパンツを脱いだ。もう痛いくらいに膨らんだそれは待ちきれないとばかりにぺちっと僕の腹を叩いた。なんか余裕ないみたいですごく恥ずかしいんだけど、実際余裕がないのだから仕方がない。はやく、はやくなまえ先輩と一つになりたい。焦る気持ちをなんとか抑え込み、ゴムをつける。
「…先輩、いれるね」
「…うん…」
小さく頷いた先輩にキスをして、自分の先っぽを先輩のそこに宛がう。…やばい、くっつけてるだけで気持ちいいって、何事だ。でも先輩のそこはすごくとろとろで温かくて、小さな穴が僕の先っぽを早く早くって言うみたいにぱくぱくしてて、先輩が全身で僕を求めているような気がして、気持ち的に僕が先輩に犯されているようだった。
「…あ…、んぅっ」
「なまえ先輩、僕の首に、腕、まわして……そう。」
先輩の細い腕が僕の首に回る。ぐっと近くなる距離に、ゆっくりと腰を押し進める。あたたかい、あつい、やわらかい、くるしい、気持ちいい、きつい、気持ちいい、気持ちいい。頭がおかしくなりそうだ。先輩の中に自分を押し入れると、気持ちよすぎて何が何だかよくわからなくなる。
「…は…、」
「んっ、ぁ、……は、いった…?」
「……うん。全部入った。わかる?」
「……うん…。お腹、ごこのでいっぱい…」
「っ……、」
あ…ッ、んまり、余裕が無いので煽らないで欲しいのだけど、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに微笑んでいる先輩を見るときっと煽っている自覚はない。いつもの事だ。落ち着け五虎退。僕のなまえ先輩がいつも通りに可愛すぎるだけだ、そうだ。
「ごこ、は…?」
「え?」
「なんか…、つらそう…?痛い?」
「全然痛くないです…。むしろ、気持ちよすぎて…苦しいくらい。」
そう苦笑してみせると、先輩は安心したように目元を柔らかくさせた(う、わ、可愛い…)。
「嬉しい…、私も、すごく、気持ちいいの…。…両想いになったからかなぁ。」
無理だ。
ごめん、一兄。五虎退は先輩を前にとても紳士なんてできない。何故なら優しくしようと思っている彼女が全力で僕を煽ってくるからだ。僕は悪くないです。何もかも可愛すぎる先輩が悪いんです。これは仕方のないことなのです。先輩が可愛いのは最早罪レベルなのでもう諦めて頂きたい。
「ひゃっ…、あ、待っ、やっ、んんっ…!!」
埋めたそれをずるりと引き、勢いをつけて先輩の奥に打ち込んだ。
「待たないよ…、待てないよ、こんな、ねぇ、先輩、僕をこんなにして、はぁ、楽しい?」
「あっ、ぁっ、ご、ごこぉっ、」
「っ、はぁ、なまえ先輩、」
先輩を揺さぶるようにして出し入れを繰り返す僕はもう獣そのものだ。だって仕方がない。先輩が、可愛いことばっかり言うから。ただでさえ体が気持ちいいのに、心までこんなに気持ちよくて、切なくて、幸せで、苦しい。こんなに激しくしてしまったら先輩が壊れてしまいそうだって思ってても気持ちが先走って、もっと僕の事を好きになって欲しい。好きだって気持ちを知って欲しい。体に僕を全部刻んでやりたいって。
「やっ、あっ、あぁっ…!」
僕がどれだけ先輩を好きか。
もっと言えば、どれくらい先輩を思っていたか。
もっともっと言えば、どれほど主様を思っていたか。
「もう、僕のものだ。」
「…っ、あっ、そこ、だめぇ…!あっ、いやっ、…あ、っあぁ…!!」
ぎゅう…、と先輩の腕が、先輩の中が、僕自身を締め付けた。まるで、離さないと言われているみたいで、きつくて苦しいのに、気持ちよくて幸せに押し潰されそうだった。
「…うっ…、」
持っていかれそうになるのを何とか耐えて、先輩の小さな体を抱き締める。細い。小さい。柔らかい。いい匂いがする。好きだ。色んな感情を噛み殺し、波がさるのをやり過ごした後、僕は先輩の体を抱き上げた。ふわりと持ち上げたついでにキスをして、おでこをすり寄せる。
「先輩ごめんなさい。つい、がっついてしまい、床でやっちゃいました…。」
「あっ……、う、うん…。」
先輩は言われて気付いたのか、先程まで致していた床を見下ろして恥ずかしそうに俯いた。先輩に入れる前に先輩の背中に自分のシャツを一応敷いたけど、やっぱり痛かったかな。先輩を抱き上げながらまあるい肩をさすり、ベッドに移動する。なんだか、びっくりするくらいがっついていたみたいだ。
「やっぱり、なまえ先輩を前にして我慢とかそういうの苦手だなぁ。どんどん欲しくなっちゃう。」
「……え、あ、あの……?」
先輩の細い腕を撫でるように引き寄せて僕はベッドに横たわる。先輩をその上に跨がるようにさせて、僕は先輩の頬を撫でた。小さな顔、本当に、頭から食べれそう。
「なんか、このままじゃひどいことしちゃいそうだから、先輩が動いてもらっていいですか?」
「……は…………えっ、……えっ!?」
綺麗な足が僕を跨ぐ。顔を赤くしてびっくりした声をあげた先輩を見上げる。滑らかなお腹にふっくらとした胸、色づいた可愛い乳首、細い首。絶景だ。先程まで突いていた中はきっととろとろで、指でいじったらすぐにイッてしまうんじゃないか、と想像するだけでぼくのが固くなる。
「お願い、なまえ先輩。」
「あ、わ、私が?えっ、で、でも、」
「大丈夫。先輩のペースでいいんだよ。」
「そ、そんなこと、言われても……」
早く、早くいれてくれ。
苦しい。なまえ先輩の中に入れたくて苦しいんだ。
「先輩は、嫌?僕とこういうことするの嫌?僕のこと、嫌い?」
「……っ!」
我ながらズルいことを聞いているという自覚はある(だって、早く先輩と一つになりたい)。こう言えば、優しいなまえ先輩はそんなことないってムキになるし、両想いだって言った手前、嫌いなんて言ってこないだろうし、だいたい先輩は僕のお願いと押しに弱い。ここまで追い込めば断れないのはわかっている。
「す、好きって、言ってるのに、嫌いなんて、きかないで……」
まるで捨てられた仔犬のように悲しそうな顔をした先輩に罪悪感よりも、可愛い!!って心の中で絶叫する僕を許してほしい。可愛い。無理。可愛いすぎる。僕のなまえ先輩が今日も可愛いだけだ落ち着け五虎退って思うのにまったく追い付かない。全世界の人間ひとりひとりの手を握って「先輩可愛すぎです世界ありがとう」って感謝したいくらいだ。
「す、するから、嫌いとか、思わないで……」
お、思わないですー!!絶対思わないですー!!というか逆に初対面でプロポーズして一年間で一万二百六十八回好きですって先輩に告げてる僕をきらいにならないで欲しいです!(まぁ嫌われても好きになってもらうよう努力しますし、好きになってもらえなくても先輩が諦めるところまでしつこくしますし、最終的には実力行使で閉じ込めて監禁……は、また今度話そう)
「あっ、え、えっと……、」
「あっ、手伝います。」
先輩がおそるおそる僕のを取ってそれを入り口に宛がう。だけどうまく入らないみたいだったので、僕は思わず挙手をして手伝いを申し入れる。いやこんな格好で手伝いも何もないけど。
「先輩、そのまま腰を落として。」
「うん…………んっ、ぅ、あっ」
くちゅり、と音をたてて、僕のが先輩に呑み込まれる。ゆっくりと腰を落としていく先輩が甘くて切なそうな声をあげた。たまらず声が出た、という感じで、すごく興奮する。なまえ先輩と僕が一つになるところも見たいし、先輩の表情も見たいし、目が忙しなく動いてしまう。そんな僕に気付けないくらい、先輩が腰を落とすのに一生懸命で良かった。とにかく目に飛び込んでくる光景があまりにも強すぎてチカチカする。いや、先輩の中に入っていくのが気持ちよすぎるのもそれに手伝っている気がするけど。
「は……、あ、」
「……はぁ、……全部、入ったね。」
「う、……うん……」
ぴったりと合わさったそこに、よく頑張りました、と先輩の頬を撫でる(全部はいってホッと息をついてる先輩可愛い)。けど、呑み込まれた先がきゅうきゅうと吸われて、意識しないと全部持ってかれそうになる。
「先輩、動ける?」
「んっ、……動く……、わ、わた、私、ちゃんと、ごこのこと、好き、だから……。だから、……ちゃんと、みてて」
「…………っ、」
熱っぽい瞳で僕を見詰めて、なまえ先輩がゆっくりと腰を動かしたものだから、不意をつかれた僕はあろうことか女の子みたいな声を上げてしまいそうになった。なんとか飲み込んだけど、なんとか飲み込んだけど!
「あっ、んんっ、」
「先輩、はぁ、なまえ先輩、」
「ごこ、気持ち、いい?」
「……と、とても……、」
「つ、伝わった……?私が、ちゃんと、好きなの、伝わってる?」
「……あぁ、……はい、すごく……」
溜め息が込み上げる。今日が僕の命日なのか。今日一日でたくさんの幸せが詰め込まれて今死ぬのではないかと思ってしまう。腰をゆっくりと動かす先輩の表情は艶っぽく、なんて綺麗なんだろうとうっとり眺めていた。ちゃんと見ててと言われずとも、ずっとずっと見ていますとも。
「は…、…んん、ん、」
「なまえ先輩、キス、して。」
「う、ん……」
先輩の腰を抱いて、上から降ってくる優しい口付けを受け止める。先輩の胸がむっちりと体に当たって全身に先輩の柔らかい体と甘い重みがかかる。僕は先輩の唇に吸い付いて、ああなんていとおしいのだろうと何度も口付けた。
「あっ、やっ、」
「今度は、僕が先輩に好きって伝えますね……」
小さくてまろやかお尻を鷲掴んで、先輩を下から突いた。
「あっ、ふっ、むっ、んんっ」
喘ぐ先輩の口に吸い付いて喘ぎごと先輩を食らう。美味しい、甘い、柔らかい。
「あぁ、なまえ先輩、好きです、ずっと、ずっとずっと好きでした……。」
これからもずっと、僕はなまえ先輩を好きです。だって、今の貴女と僕には何のしがらみもない、ただの男と女の子なのだから。ずっとずっと好きでいていいのだから。好きの感情も、憧れの感情も、やましい感情も全部貴女に向けていいのだから。
「んっ、やぁっ、お、おく、ばっか、んん」
「奥、好きでしょう?たくさん突いてあげます。」
突くのは得意なんですよ。
短刀は突き刺すものですからね。
間合いに入ったら僕らの領分です。
「先輩、僕の名前を呼んで……?」
「あっ、んんっ、ご、こ、……あっ、だめ、そこ、おかしく、」
「なまえ先輩、名前、もっと呼んで」
「んんっ、ごこ、あっ」
肌と肌が当たる音が響く。ごつごつと先輩の奥目掛けて自分を打ち付ける。先輩の中は僕を切なくて締め付けて限界が近いのを訴えていて、先輩も僕の肩に顔を押し付けて甘い声をあげていた。そう、もっとしがみついてて。もっと僕を欲しがって。僕はもうずっとずっと前から貴女が欲しくてたまらなかったのだから。
「あっ、ああっ、ご、ごこぉ……っ!」
「……っ、……うっ……!」
ぐりぐりと奥に僕を刻み付けると、先輩は僕に強くしがみついて達した。
ー最高だ。
イッたのと同時に彼女が僕の名前を呼んでくれるなんて。
言わせたのは僕だけど。
へにゃり、と僕の体に全体重をかけて力を失った先輩の体を抱き締める。上気して薄ピンクに色付いた先輩の肌が綺麗だ。荒い呼吸を互いに繰り返し、唇を探してはキスをしてそっと微笑む。柔らかくて気持ちいい。温かい、甘い、優しい存在。
僕がずっとずっと欲しかったもの。
ずっと両腕で掻き抱きたかったもの。
貴女という僕だけの幸せの塊。
「好きです、なまえ先輩。ずっと。」
離してって言われても、もう遅いですからね。
***
なまえ先輩が懸命に資料を作っていた生徒総会はつつがなく無事終了しようとしているところだった。体育館に全生徒が集められ、先生達も総会の流れを見守っている。先輩は生徒会長として壇上の上で、総会までにあがっていた案件を次々と片付け、その日にあがる生徒の要望についても丁寧に受け答えしていた。その姿は凛としていて、僕はそれをずっと眺めてはうっとりとしていた。流石先輩だ、ハキハキと答える姿、ピンと伸びた背筋に、よく通る声。貴女は今も昔も僕の憧れそのものです。でも、そんな先輩も先日ついに僕のものとなり、僕らはやっと本当の恋人同士になれた。そう思うと生徒総会に参加している生徒はじめ先生達が先輩を見ていることがなんだかむずむずしてしまい、僕は我慢できなくて口を開いた。
『以上で、生徒総会を終了致します。他に発言のある方はいらっしゃいますか?』
「はいッ!」
普段ならこんな場での発言なんてしない僕に壇上の先輩は驚いたように目を丸くしていた。それでも生徒会長としての冷静さは失わずに先輩は僕に発言を許してくれた。
『では、どうぞ。』
「二年の粟田五虎退ですっ。あの、要望や意見ではないのですが、」
生徒総会も終わりにさしかかる場面での発言は、全校生徒の注目を集めた。緊張したけれど、僕はこの日この時を逃したくはなかったのだ。
「生徒会長は、先日、僕の彼女になりましたっ!ので!!」
ので、勝手に見詰めたり、声を掛けたり、もちろん触ることは許されませんからね!と僕は鼻息荒く全校生徒と先生達にそう告げた。
生徒総会終了後、僕はなまえ先輩に殴られ五メートルくらいぶっ飛ばされた。