蜂蜜入り卵焼きの作り方


『スパダリ』という言葉を、燭台切光忠と出会って初めて知った。スパダリとは、スーパーダーリンの略で、所説色々あるが、主に非の打ち所がない男性を指す言葉だという。そう考えるとウチの光忠はそのスパダリとやらに激しく当てはまっていて、正直なところ審神者の私はとても困っている。彼がスパダリであってどう私が困っているかというと、例えば。


「……ん…………っ、やば!寝てる!!」


穏やかな眠りから目を覚まし、自分の目蓋が落ちていたことにショックと驚きを混ぜて飛び起きた。昨夜の私は提出期日の迫った報告書を作成していて、報告書本文は完成したものの添付資料がまだ作成途中で、でも本文が完成していれば添付資料など画像をぺろっと貼って終わるのだから、少しだけ、ほんの少しだけ寝ようと机に突っ伏した…までは覚えている。その後の記憶がないが、何故か私は机ではなくきちんと敷かれた布団の上で寝ていた。


「まじか…いつ布団で寝たんだ私…。ていうかやべぇ、添付資料まだ終わってな………ん……?」


少し寝たら添付資料を作成して製本しなくては、と作業をしていたはずの机の方へ目を向けた。しかしそこには昨夜散らかした机などなく、綺麗に整頓された机と、その机の上にきちんと製本されている報告書が置いてあった。ど、どういうことだ、と私は布団から這い出るようにして机の目の前に行き、その製本された報告書を両手で持ち上げた。報告書の表紙は、昨夜私が書き上げた件の報告書で、その後ろには作成した覚えのない添付資料が一緒に添えられていた。


「え…、なんで…。」


ぺらぺらとページを捲って確認するも、昨夜添付資料一覧までは作っていたそれに沿って添付画像が貼られていた。だがしかし自分がそこまで作業した記憶はない。私は添付資料の最後のページを確認し終えると、まさかと思い、先程寝てしまっていた布団の方へ視線を戻すと、布団の上には男性ものの羽織が掛けられており、その見覚えのなる濃藍の羽織に私は額を手で覆った。


「…………光忠か…。」


深く吐いた息は自分へか、それとも近侍である彼へのものか。どちらともわからない溜息をゆっくりと吐きつくして私は身支度を整えようと立ち上がった。

私の近侍の燭台切光忠はなかなかにデキる男だ。いや、なかなかなんてものじゃない。もっと言えば私ごときがデキるデキないなんて言えた立場じゃないような程、仕事のできる男であった。本丸の当番として炊事洗濯掃除を任せれば私が女の自信を無くすほどに完璧にこなすし、個性豊かな本丸の刀剣達も審神者の私に代わってうまくまとめてくれる。もちろん出陣時だって彼が攻撃の要であり、隊の中心である。戦術にあまり長けていない私にアドバイスをくれたり、私じゃどうにも口出しできない戦闘中だって最良の判断をして隊をうまくまとめて帰ってきてくれる。それだけで私は十分助かっているというのに、彼はこういった報告書や本丸経理関係の事務仕事も手伝ってくれるときもあって、『ときもあって』というのはもちろん私が「そんなことまでしなくていい!」と言っているのだけど、彼が「でも二人でやれば早く終わるよね」と微笑むものだから私がそのイケメンパウダーに目を眩しくさせている内に彼がテキパキと仕事をこなしてしまうのだ。かと言って、手伝ってもらうというのも、出した数字に間違いがないか確認してもらうとか、添付資料に付箋をはってもらうとかそんな簡単な仕事をさせていたのだが、今日のこれはもう完全にアウトだ。「これお願い」なんて指示もなく、私が出した資料に付箋を貼るわけでもなく、完璧に私の仕事を引き継いで報告書を完成させられている。


「光忠に会ったらお礼言わなきゃ…。」


支度を整え、少し寝不足気味な顔をさすりながら洗面所へと私は向かった。
私は光忠に甘えすぎている。彼にちょっと頼めば200点のものが返ってくるものだからついつい光忠に何事も頼んでしまう。彼は刀剣男士であるのだから戦うのが本分だ。もちろん本丸で過ごすためには当番はしてもらうけれど、でも当番はしても審神者の事務仕事は彼とは関係ないことであり、私の仕事である。事務仕事の合間に美味しいお茶とお菓子を持ってきてもらえるだけで本当に大助かりなのに、そのついでにと事務仕事を手伝ってくれる光忠は、多分私にべらぼうに甘い。言い訳を言わせてもらえば、私が光忠に甘えているのではなく、光忠が、私を甘やかしてくるのだ!ちょっと私が思案していると「僕に任せて」ってすぐ解決してくれるし、多くなった刀剣男士達の扱いをどうしようかと思っていたら「僕に任せて」っていつの間にか近侍になってて皆をまとめてくれてるし、駄目審神者製造機とはまさに彼のこと!
なんて言ってみるもそれは私の言い訳であり、優しい彼にはまったく非のないこと。


「もっとしっかりしなくちゃ…。」


光忠に報告書を作らせるようじゃ駄目審神者だ…!と洗面所がある角へ曲がろうとした時だった。


「わ、ぶっ」

「わ、ごめん!」


曲がり角で誰かに正面からぶつかった。大きなしっかりとした手に、ふらついた私の体を支えられ、その声の持ち主を見上げる。


「ごめん、鼻ぶつけたよね?主。」

「み、…ただ…。」


声の持ち主は金色の綺麗な瞳で心配そうに私の顔を覗き込んできた。固い何かに鼻を思いっきりぶつけた、と思った何かは彼の鍛えられた厚い胸だった。今日もジャージの下のシャツがぱつぱつである。


「いや、大丈夫…、こっちこそごめん…。あと、おはよう…。」

「うん、おはよう。」


ぶつけた鼻を手で抑えていると、光忠にそっと手を外されて鼻が赤くなっていないか確認された。寝起きの、しかも顔も洗っていないそれをじっくり見られてイケメンにすっぴん寝起きの顔見られるとかどんな羞恥プレイだ!と「大丈夫だから!」と彼の胸を押した。彼はそれでも心配そうにしてたけど、「本当に大丈夫だから!」と声をあげればやっと手を放してくれた。朝から寝起きドッキリもいいところなことをされて心臓に悪い。


「今、ちょうど起こし行こうと思ってたんだ。早く顔を洗っておいで。朝ごはんを食べよう。」

「うん。」

「昨日は遅くまで頑張ってたみたいだから、朝はキミの好きな甘めの卵焼きを焼いたよ。」

「甘いたまごやき!」


わぁ!私、光忠の甘い卵焼き大好き!と目を輝かせると、光忠は金色の瞳をとろりと蜂蜜色にとろけさせて目を細めた。そしてついうっかり彼の作ってくれる好物に流されてしまいそうになったが、私ははっと思い出して彼の腕を掴んだ。


「そうだ光忠!」

「うん?」

「報告書!やってくれたでしょ!?」

「ああ、あれで大丈夫だった?一応一覧通りには作れたと思うけど。」

「いや完璧でした!!………じゃなくて!」

「?」

「報告書は私の仕事だからそんなことしなくていいよ!あとお布団にも移動させてくれたでしょ!」

「うん。よく寝てたから。」

「お、起こしてよぉ…!」

「あんなに疲れ切った顔して寝てるキミを起こせるわけないよ。」

「審神者にもやらねばならないときがあるのだよ!」

「でも、それももう僕がやったからいいよね?」

「そ、それは、そうだけど……。」


でもそれは私がしなくちゃいけないもので、光忠はしなくていいのに。と小さくなる声で続ければ、光忠の指がそれを塞いだ。唇の先に、光忠の人差し指が触れる。


「…早く顔を洗っておいで。卵焼きが冷めちゃうよ。」


蜂蜜色の瞳を私がぽけぇっと見上げていると、彼はくすりと小さく笑い、私の前髪を横に流して額に唇を寄せた。額からちゅ、と音がしたと思えばもう彼は踵を返していて、私は少しずつ空気をなくしていく風船のようにへなへなとそこにへたり込んだ。それでも体がどっと力を無くしたかのように倒れそうになるので両腕を床に突っ張るようにして体を支える。


「無理だ…私にはあの男を止める術が見つからない…!」


やはり光忠は私にべらぼうに甘い。私が光忠に甘えているのではなく、光忠が!私を全力で甘やかしてくるのに言葉の間違いはなかったのだ!いいわけでも何でもない!事実だ!!

と言っても、私が彼に甘えていい権利などなく、かといって彼の私を全力で甘やかすスタンスは私ではどうしようもない事もわかった。となると、私は彼に何をすればいいのだろうか。
皆とわいわい食卓を囲みながら、光忠が作ってくれた卵焼きの一口一口を噛みしめる。結局寝てしまったが、でもなんだかんだ疲れた体にこのふわふわあまあまな卵焼きが最高に美味しい。卵焼きの美味しさにじーんと感動していると、ふと光忠と目があった。目が合うと光忠は嬉しそうに微笑んでいて、「光忠、卵焼き今日も美味しい、ありがとう」と言えば更に目を細めてくれた。
こんなにも私を甘やかしてくれる彼に、私は何ができるだろうか。きっと光忠が私を甘やかさないようにするのは多分、きっと、無理な気がする。世話好きというかなんというか、人を甘やかすのが好きな性格なんだろうな、と私は都合のいいように解釈した。だからといってこれからも彼に甘え続けるのはよくないから個人的に気を付けるとして、今までの感謝の気持ちというのを、少しでも彼に伝えるのはどうだろうかと私は考えた。そういえばここ最近報告書の期日が立て続けにあってだいぶ缶詰だったので、彼とゆっくり話す機会もなかった。報告書も完成したし、たまには彼とのんびりお話でもして感謝の気持ちを伝えよう。そう、私は決めた。


「と、いうことで。今日は光忠にゆっくりしてもらおうと思って。」

「……うん?」

「日ごろの感謝を込めて、ね。」


打掛を返したいからという理由で光忠を私の部屋に呼び、私は彼にいつもありがとう、と深く頭を下げた。光忠はそれにびっくりして「顔を上げてよ!」と言ってて、この人本当に私を甘やかしているという自覚がないんだな、と思った。


「いつもお世話になっているので、感謝を伝えたくてね。」

「感謝だなんて、されるようなことしたつもりはないよ。」

「何か褒美制とかの方が良かった?何か欲しいものとか。」

「いや、だから…。」


少し困ったように眉を下げる光忠に打掛を渡し、私は彼に詰め寄るように膝を詰めた。光忠は頬を掻くように視線をそらすのだけど、彼が私にいつも何かしてくれるように、今日の私は彼に何かをしてあげたい気が満々なのである。「何かない?」と首を傾げると、光忠はしばらく黙り込んでから、ゆっくりと口を開いた。


「……それじゃぁ、」

「うんうん。」

「お腹が、すいた、かな。」

「…………?」


朝ご飯、さっき食べたけど。と瞬きを繰り返すと、光忠は困った顔から一変、瞳孔を細くさせた。詰め寄った膝の上に置いてた手を取られ、その指先を唇に押し付けられる。


「最近、キミを食べてないから、僕はとてもお腹がすいているのだけど。」


言われて、頬に火がついたように熱くなった。


「えっ、や、わ、わたし…!?」

「うん。食べていいかな。」

「ま、まま、待って、お腹すいたって、そ、そういうこと!?いやいや、な、何か美味しいもの、食べたいとか!ふぉ、ふぉあぐらとかキャビアとか」

「美味しいものなら、すぐそこにあるからそれがいいのだけど。」

「ぺ、ぺぺ、北京ダックとか!!」


光忠に取られた腕を引っ張るも、優しく掴まれているはずなのに全然腕が戻ってこない。光忠は長い睫毛を伏せ、私の指に口付けるようにちゅ、と音をたてて吸い付いた。


「報告書はもう終わったから、もう、いいよね…。」

「……っ、」


息が、止まるかと思った。
光忠の金色の瞳に射貫くよう見詰められ、心臓を一突きにされた気分になった。


「待って、ま、まだ明るい時間、だし、」

「暗くなったら好きにしていいの?」

「そ、そういうわけじゃ、な、なくて…」


詰め寄っていたはずが、いつの間にか両手首を取られて詰め寄られている。少し背をのけ反るも、光忠が支えるように腕を取っている。


「ご褒美、くれるんじゃないの?」

「………っ、」


それをここで持ってくるのは違うんじゃないのかな!と心の中で叫んだ。


「お願い、主。…焦らさないでよ。」

「…っ!」


光忠の頬が頬にすり寄ってきて、耳元でそれを囁かれて全身がぞくりとした。思わずびくりと肩を震わせてしまった後、体がふにゃりと崩れ落ちてしまう。しかしその前に光忠の腕が腰に回って、優しいはずなのに妖しく笑う光忠が私を見下ろしていた。


「……主は本当に僕に甘いね。」

「…え…、えぇ?…んっ、」


甘いのは光忠の方だよ、と言いかけた唇に光忠の唇が触れる。唇に吸い付くようなキスをされる。ちゅ、ちゅ、と啄むような口付けをされるたびに体が身構えてはふにゃりと蕩けそうになって、その間あいだに光忠の目と目が合うと、「待って」と言い損ねてしまう。光忠の口付けに応えていると、床柱が背にあたり、部屋の真ん中で話していたつもりが気付かない内にこんなところまで追い詰められていたのか!と小さく驚いているとそれに気づいた光忠が唇に触れながら「キミが逃げるからだよ」と笑った。触れた唇から伝わる吐息がくすぐったい。キスをされるたびに縮こまるようにしていると、光忠が私の腕を引いて腰を抱き寄せた。


「あ…、ん、ん、」


いつの間にか彼に返した打掛がそこに広げられていて、彼はそこに私を寝かせて覆い被さるようにまた唇を重ねてきた。口内に光忠の舌が入ってきたと思えば、光忠の大きい手が首筋をなぞって私の胸の形にそって手を這わせてきた。ゆっくりと円を描くように指先が動き、その円をだんだんと小さくさせていき、中心の部分を中指が優しく撫でた。


「ふっ、…、み、つただ…」

「もう、脱がせていいかな…。ゆっくり味わうつもりだったけど、早く食べたくて仕方ないみたい。」


そう言って光忠は私の返事を待たずに(というか聞くつもりなかっただろうし、私も多分そんなこと言えない)私の襟元を寛がせた。光忠は自分の手の甲を噛むようにして手袋を外し、少しだけさむいと感じた肌にその手で触れた。固く大きな手のひらが私の肌を覆い、触れたところから光忠の熱が伝わる。光忠の手の動きに頭を奪われていると、唇をちゅっと吸われ、いつの間にか閉じていた目をはっと見開く。そこには金色の瞳を細めて微笑む光忠の顔がそこにあった。そして、こっちも集中しようねと言わんばかりに微笑まれてしまう。でも正直、光忠のキスと手の動き、どちらも頭で追っていたら恥ずかしくてまだそこまでしていないのにも関わらずぶっ倒れてしまいそうだ。再度唇が重なり、舌が絡む。光忠の、キスをする前は笑っているのに、唇が重なる直前に真顔になって口付けてくるのは、本当に卑怯だと思う。狙いを定めて、というよりも、獣が噛み付くような目を、一瞬、そこに向けてくる。でも光忠のキスは乱暴じゃない。顎を痛くさせるようなことはしない。優しく、やわらかく、じっくり味わられるようなキスをしてくる。唇が触れあっている時間がそもそも長く、キスをしていたら服を脱がされていたなんてわりとしょっちゅうだ。


「ふ、ぁ…、」

「うん。美味しい。もっとちょうだい?」


美味しいソースを舐めるかのように自分の唇をぺろりと舐めて光忠は私の肌に吸い付いてきた。脇腹をなぞるようにして衣服を脱がされ、あっという間に上半身を裸にされてしまう。あまりにも自然に衣服を脱がされてしまい、恥ずかしくなって腕を交差されるも小さく笑われて腕を取られてしまう。おまけにその腕に光忠の唇が触れ、ちゅ、ちゅ、と吸い付いて下りてくる。最後は脇にキスされてしまうというところで、がっつり彼の目と目が合ってしまった(というよりも、待ち伏せされてたような)。形のいい唇の先を少しだけ尖らせて、私の脇に口づけられる。


「や…っ、」

「ふふ、可愛いね。もっと見せて。」


何を、見るつもりだ。
どきどきと鳴る心臓は緊張なのか恐怖なのか興奮なのか、よくわからない。光忠の一挙一動に心臓をどきどきさせてしまい、心臓でも握られているかのようだ。
心臓、ではないが、光忠の手が左のふくらみを包み、やわやわと揉む。大きな手のひらに包まれている感覚と触れているだけのような揉み方に先端がつんと立ってきているのがわかる。すると光忠が右のふくらみに顔を寄せ、そっと唇を開いてそこに甘く吸い付いた。


「あ…っ、」

「いい声。」


唾液をふくませて吸われたと思えば、舌先でアイスクリームの先を食べるかのように舐められる。その動きがひどく緩慢で、それが絶対わざとだ!とわかって光忠を睨めば、きゅっと左胸の先を摘ままれた。


「やっ、ん」

「…いいね。本当にキミは可愛い。そんな顔したって、」


光忠の手足が私の体に絡みつくようにして圧し掛かってきた。でも、そこまで苦しくないので、多分全身で圧し掛かられているわけではないのだろう(彼に全力で圧し掛かられたらきっと私は顔を動かすこともできないだろう)。でもそのせいで彼の熱が勃ち上がっているのに私は気付いてしまう。


「…僕が興奮するだけだよ。」


耳元で掠れた低い声がそう囁く。囁かれただけで声が出そうになるのをなんとかこらえると、それさえもわかっているよとばかりに耳たぶを甘噛みされる。内腿の付け根に彼の熱いものを押し当てられて体がひくりとする。


「…ほらね。」

「なっ、も、は、…恥ずかしいこと、しないでぇ…。」


あけすけにそれを押し付けられて言葉を失ってしまう。恥ずかしくて顔を覆えば、その腕を取られては金色の瞳に見下ろされる。


「キミが恥ずかしがるからするんだよ。恥ずかしがってる顔、すごく可愛いんだ。」

「…し、しらない…。」

「ほら、そういうところ。……もっといじめたくなる。」


ふいっと顔をそらせば頬に唇が触れてきた。彼は私にべらぼうに甘いだなんて誰が言った!全然甘くない。むしろすごく攻めてくるしいじめてくるし。いやでもいじめてるからって痛いことをされているわけではないし、正直光忠のキスとか大きい手とか、すごく好きではある。触れ方が、とても甘いから。


「もっと恥ずかしくなろうか。」

「も、もういいよ…っ、うっ、」


ニヤリと笑った光忠が体の位置を少しずらし、割った衣服の隙間から内腿の中へと指を潜ませた。指先がひたりとそこに当てられ、何をするわけでもなくじっと光忠が私を見下ろしていた。まるで銃口をつきつけられたかのように私の体は固まる。でもあてられているだけのそこにじわじわと熱がこもっていき、今少しでも身じろげば私の体はきゅんと気持ちよさに締め付けられるだろうと思った。


「どうして欲しい…?」

「え…、」

「ちゃんと言えたら触ってあげる。言わないと、ずっとこのまま。」


つ、と当てられた光忠の指にほんの少しだけ力がこもった。それでさえ私はびくりと震えてしまい、光忠の浮かべている笑みを濃くさせた。その表情に、唇を噛んだ。多分、彼がそう言ったのならそうなのだろう。足に触れる彼の熱は確かなものだけど、私の表情や声、反応を見ながらゆっくりとほぐしてくる光忠がそういうのなら、きっとその通りになってしまう。全身の神経はもう、光忠の指に集中してしまっている。私はおそるおそる口を開いた。


「………わって…」

「ん?聞こえない。」

「〜〜〜っ…、さ、…触って…?光忠…。」

「んー、どうしようかな。」

「み、光忠ぁ…っ、おねがい…」


意地悪しないで、と半分泣きそうになりながら彼を見上げると、一瞬だけ光忠の顔が真顔になる。でもそれはほんの一瞬で、私が瞬きをした後にはもういつもの余裕のある笑みを浮かべていた。そしてあやすような口付けが優しく降ってきた。額、目尻、鼻、唇と。


「ごめん。意地悪だったね。」


なら、しないで欲しいのに。でも体は光忠にキスをしてもらえるだけでざわざわと喜んでいて、全身が彼を求めてしまっていることがわかる。意地悪なことをいう彼は嫌だ、でも、彼が好き。どうしもうないくらい好き。


「みつただ、光忠…、」

「うん。いっぱい可愛がってあげるね。」


彼の首に腕を回し、意味もなくうわごとのように彼の名を呼べば、彼がすごく嬉しそうに微笑んだのが空気でわかった。光忠の手がするりと私の衣服をすべて取り払い、脱がせるために少し持ち上げた体を大事なものを扱うかのようにゆっくりと丁寧におろした。光忠もジャージの上着を脱いだ。暑そうに一息つく姿がやけに艶っぽい。その姿をぼうっと見詰めていると、光忠が私の太股を撫でて腰に手を添えた。


「食べさせてもらうね。」

「え……、みっ……ちょっ、待って……!」


てっきりいつものように指を使って触ってくれるのかと思えば、腰を持ち上げられその下に光忠の体が滑り込み、私は彼の顔を跨ぐような姿勢を取らされた。


「それはっ、だ、だめ……ん、んんっ、」


光忠の顔に座るような姿勢に慌てて腰を引こうも、光忠の手がしっかりと私の体を固定していて、すぐにぬるりとしたものが私のそこを這った。ぬるりとしたものが何かだなんて、彼の舌なのだけど。


「いやぁ、み、光忠……っ、だめ、あっ、」


舌先でちろりと舐められるだけで体が崩れ落ちそうになる。両腕をついて四つん這いになってしまうが、そんな姿勢がまた恥ずかしい。格好だけじゃない、光忠の綺麗な顔が自分の到底口に出せないような部位にあるなんてとてもじゃないが耐えられない。その体勢から逃げ出したいのに光忠が押さえ込むようにしてホールドしているものだから、彼が本気を出したら私の動きを封じるなど造作もないことなんだ、なんて考えてしまう。


「うん、いっぱい溢れてくる。」

「や、やだぁ、光忠、おねがっ、あっ、」

「ん……駄目だよ。今日は僕にご褒美くれるんでしょ?なら、たくさん食べさせて。」


くぐもった光忠の声があらぬところからする。
恥ずかしい、信じられない、信じられない。


「ひうっ、」


潤んだ芯を舐められ、体が大きく跳ねる。そこで光忠がくすくすと笑ったけれど、その触れる吐息でされ勘弁して欲しいと思えるほどの震えがくる。光忠の舌と唇は私の襞を一枚吸い付いては舐めとる。また一枚吸い付いては舐めとるを繰り返し、開いたそこから零れてしまうそれをべろりと舐めとった。


「ぁっ、あ、ああぅ、」

「もっと食べていいかな。」

「ひやぁっ、ああっ、」


私を抑え込む腕に力が入ったかと思えば、顔を埋めるように強くそこを吸われた。それこそ、食べられるかのような勢いに突っ張っていた腕の肘がかくりと折れる。しかし折れてしまうと更に光忠に顔を押し付けるような形になってしまい、力の入らない腰でなんとか持ち上げようにも一度落としたものは戻さないとばかりに光忠の腕が強くなる。


「あっ、ぁっ、みつ、ただぁっ、おねがい、やめて、ぁ……っ、」

「ん…、無理。」

「〜っ、あぁっ……、んっ、やぁぁっ…!」


光忠の腕がするりと私のお腹をなぞって胸へとたどり着く。ふにりと胸を揉まれたかと思えば、迷いもなく先をきゅっと摘まられ、私は大きく背中をしならせた。びくびくと震え、ずるりと落ちかける全身を私の下から起き上がった光忠が支えてくれて、くたりと光忠の胸に頭を預けるようにされて、頭を撫でられた。


「いっぱい食べさせてくれてありがとう。」


行為的には舐められたのはだろうけど、気持ち的にはそう、光忠のいった通り食べられた気持ちの方が大きい、と優しく掛けられた声にぼんやりと頷いた。浅く何度か呼吸を整えている間、光忠は女の子がお気に入りの人形の髪を整えるように何度も優しく頭を撫でてくれた。


「目がとろんとしてる。そんなに気持ち良かった?」

「気持ちよかったというか……、も、ものすごく恥ずかしかった……。」

「それは良かった。また今度させてね。」


ぜ、絶対に嫌!と首を振るもにっこり笑う光忠に何を言っても駄目だろうと悟る。


「ねぇ、もう少し味わってもいい?」

「えぇ…っ!? 」

「ああ、多分、キミが考えてるようなことじゃなくて。」

「……?」

「うん…、さっきのはたくさんキミを味わえて良かったんだけど、あの体勢だとキミの気持ち良さそうな顔が見えないんだよね。」

「……は……?」

「だから、もう少し…いいかな。」

「何言っ……あっ、ちょ……っ」


私の……顔がなんだって?と顔を顰め、彼の言葉の意味を考えるより先に彼の手がするりと内腿を撫でて足と足の間に滑り込む。了承もなしに光忠の指が襞を割って、先程光忠に散々舌を入れられたところに入っていく。


「あっ、や、だめ……っ、」

「うん、その顔。可愛い。よく見せて。」


一点に迷いなく入っていく指に腰が逃げるも、背中には光忠の胸板が当たる。逃げ場などもう最初から無いに近いのに、光忠にされることは、もう、き、気持ちよすぎて怖くて逃げたくなってしまう。せめて彼の言う気持ち良さそうな恥ずかしい顔を見せたくなくて顔を背けようにも、それを見越したかのように先回りした光忠が顔を寄せてくる。


「恥ずかしいの?」

「は、恥ずかしくない、あっ、…わけが、ゃんっ、」

「大丈夫、可愛いよ。こっち向いて。顔を見せてごらん。」

「んっ、やぁっ……、」

「主、僕を見て。」


内壁をくすぐるようにこすられ、中の指を増やされる。痛くはない。けれど、広げられていく感じはする。光忠を受け入られるように、じわじわと甘い痺れが全身を満たす。主、主、とそちらを見るよう、促されるように首筋に口付けられた。中の指がくっと曲がり、親指が芯をくちゅりと撫でた。


「あっ、光忠……っ、」

「…そらすな。」


びりっとした刺激に光忠を見上げると金色の瞳の奥が、まるで蛇のように縦長になっているのが見えた。穏やかな彼から聞こえた命令口調に全身が粟立ち、一瞬の瞬きも許されないような鋭い瞳に私は貫かれた。


「……大丈夫?」


大丈夫じゃないと言ったらこの行為を中止してくれるのだろうか。いや、ないだろう。
ひくひくと痙攣する体を抱きとめながら光忠は優しく私を見ていた。あの時の瞳はなんだったのだろうか、光忠が与える刺激があまりにも強すぎて見えた幻なのだろうかと思うほど、今の光忠の瞳は甘かった。今の彼の瞳は蜂蜜色の、とろりとした瞳。ぼんやりをそれを見詰めていると光忠は私を横にし、残っている衣服を脱ぎ出した。脱いだそこから見える、綺麗に凹凸の出た腹、張った胸、広い肩。けれど腰回りは細く引き締まり、その弧を描くようなしなやかな線はまるで、うねる龍のようで。


(ああ、さっきの光忠は、龍だったんだ……。)

「なぁに?」

「あっ、いや……、その、き、綺麗な体、だと……。」


まさか光忠に龍を見た、なんてこんな状態で言えるわけもなく適当に言葉を濁らせてみるもそれもなんだか変な言葉だった。言ってしまった後でもう遅いのだけれど……。光忠はそんな私に片眉をあげて見せて、両腕を広げた。


「触ってみる?」

「……えっ、」


おいで、と言わんばかり広げられた腕に私はゆっくりと体を起こした。自分の体とはまったく違う、太くて、固くて、厚そうな体に、私は気付いたら引き寄せられるように指先を伸ばしていた。光忠の張った胸に指先を置く。やはり、固い。指がぱん、と押し返されるようだ。そして。


「…………熱い。」

「キミが触れてるからね。」

「え……?私、熱い?」

「違うよ。……ほら。」

「…………わ……、」


まるで熱でもあるのかというくらいに熱い彼の体に驚いていると、その手を胸の下あたりに持っていかれた。今度は手のひら全部を使って触れていると、その奥からどくどくと激しくなる、心臓の音がした。


「わかった?」

「光忠も、どきどきするんだね。」

「するよ。僕を何だと思ってるの?」


苦笑する光忠に、小さくスパダリ…と言ったのは内緒だ。
でも、それは少し意外だった。光忠は何でもそつなくこなすように見えたから。こういう行為だっていつもすごく余裕で、私が翻弄されるだけ翻弄されて、光忠は笑っているのに私はひたすら溺れるだけだったから。


「なんか、私ももっとどきどきしてきた……。」

「なんで?」

「光忠がどきどきしてくれてると思ったら、どきどき、してきた。」

「本当?かっこ悪くないかな。」

「ううん、全然。あのね、」


光忠の胸に頬を寄せ、心音を聞くように抱き付いた。どくどくと鳴る音が、一段と大きく聞こえた。


「…大好き。」


光忠が、私でどきどきしてくれるとわかって、そんな言葉が口から出ていた。好き、大好き。そう気持ちをこめて光忠と唇を重ねた。少しだけ光忠が辛そうな顔をして、また口付けてくれた。


「僕も、主が好きだよ。誰にも近侍を譲りたくないくらい。なんなら、初期刀も僕なら良かったのに。」

「それは、難しいんじゃ……。」


お互い額をくっつけて笑いあう。その距離が妙にくすぐったくて、何もしていないのに気持ちが良かった。
ゆっくりと光忠に押し倒され、光忠の一番熱をもったそこが私の中に触れる。つるりとしたその先が私の零れ出るそれを擦り付け、入口に口付けるようにつついた。


「ん……」


汗でしっとりとしてきた肌が触れあう。それと一緒に息苦しいほどの圧迫感が迫ってきて思わず首を竦める。


「うっ……あっ、ああっ、」


光忠にしつこ…長く時間をかけてほぐされたそこは光忠をゆっくりと受け入れていき、全身を光忠で満たした。奥まで入りきると詰めた息がやっと吐き出せたのだけど、中の光忠が小刻みに揺れた。


「や、ぁ、な、なに……?」


光忠は笑っていて、光忠が笑うだけの振動でも私の中は気持ちよくて体がざわついた。


「ごめん、その……。僕がキミを食べるつもりだったのに、なんだかココは僕をもぐもぐしてるみたいで。」


光忠の指先が私のお腹に触れ、つまりその奥が、光忠をもぐもぐしていると彼は言っていて私は一気に赤面した。


「も……っ、ち、ちが、そんなんじゃ……!」

「うん、わかってるけど。でも、」

「……あぅ、」


ぐっと光忠が身を屈めた。屈めた分だけ、入りきったと思った奥が深くなる。


「……ねぇ、僕は美味しい?」


目を細めて、光忠は言った。瞳孔が細い。あの、龍の目だ。


「あっ、や、」

「僕は、美味しいよ。キミが。どこもかしこも甘くて、柔らかくて、瑞々しくて。」


ゆっくりと腰を押し進められながら、光忠は私の首や胸に口付けてきた。たまに舐めたり、吸い付いたり、でも美味しいとか食べる食べたいと言うわりには歯は立てず、ひたすら私の気持ちいいことをしてくれる。


「あっ、んん、みつ、ただ……っ」

「痛くない?大丈夫?」


痛くない、全然痛くない。むしろ優しすぎて辛いくらいだ。光忠は、私の表情を見ながらゆっくりと腰を動かす。私の瞬き一つでさえ見逃さず、その反応でどこがどういいのかを、見定めるかのように。


「やっ、光忠っ、」

「……ん?」

「好きに、動いて……っ、私に、合わせなくて、いっ、いいっ、から、」

「合わせてるつもりはないよ。ただ、キミの気持ち良さそうな顔が見たいだけ。キミが気持ち良さそうな、恥ずかしい顔をしてくれれば、僕はとても気持ちがいい。」

「あっ……そん、なぁ……っ」

「うん、その顔。それだけで僕はすっごく気持ちがいい。」


ぴったりと隙間なく埋まるそれはじわじわと私の中をいっぱいにしていく。コップに水を少しずつ入れていき、少しずつ満たしていくように私の中の何かも積もっていく。この水が溢れてしまったら、私はどうなってしまうのだろう。でもたまにそのコップの中の水をこぼすかのように、光忠が中を突く。


「んっ、ああっ……!」

「うん、大丈夫、僕も気持ちいい……。」


ゆっくりと揺すられ、耳を塞ぎたくなるような水音が室内に響き渡る。恥ずかしい。けど、またそれが気持ちよさを高めている気もする。一気に駆け上がることはないけれど、じわじわと気持ちよさが蓄積されていくこの感じに喘ぎつつぼんやりし始めると、光忠がゆったり動くのを止めた。


「みつ、ただ……?」

「ご褒美、もらえるの忘れてた。」

「え……?」


そう言うと光忠は私の腕を引っ張り抱き上げ、光忠の胴を挟むようにして座らされた。


「あ、あの……、」

「僕はキミの気持ち良さそうな顔を見ていれば多分何をしても気持ちいいと思うから、それならキミが気持ちいいこと、してくれるかな。」

「えっ…!」


それはつまり光忠は動かないからお前自身が気持ちいいところを探して動けよ、ということで。ぼんやりとしていた頭が急に夢から覚めたようになる。


「いや、でもっ、」

「いつも主を甘やかしてる僕にご褒美、くれるかな?」


いつもなら。
いつもなら確かに私は光忠に甘やかされていただろう。だがしかし今はどうだ。絶対に甘やかされていないという自信がある。ご褒美という言葉を使ったのは多分大きな間違いだった。と今になって私は気付いてしまった。


「ご褒美、ちょうだい。」


耳元で低く囁かれ、そうなる薬でも飲まされた気分だった。
ぞくりとする甘い声に脳が、体が支配される。


「ん……、あっ、」

「……はぁ、」


私は息を整えて彼の言葉に従った。
中に当たる角度が全然違って、奥まで入り込む光忠のそれをぎゅうっと強く締め付けているのが自分でもわかる。そんなの恥ずかしくてできればやめたいのに、でも奥まで入る光忠のものに息が苦しくて、どうしても力が入ってしまう。


「いいね……、すごく切ない顔してる。」

「やぁ……、見ない、で……っ、」

「無理。こんな可愛い顔、見逃せない。」

「あっ、……うっ、ふ、深いぃ……っ、」

「もっと奥まで食べてくれていいよ。」

「……あっ、んんっ、」


光忠が緩くだけど腰を揺すった。もしくは身動いだだけかもしれない。それでも私はびくびくと体を震わせた。


「もっ、これ、やだ……っ、」

「早いよ、まだ僕は楽しめてない。」

「あっ、まっ……あ、ぁあっ」


私の動きに合わせて光忠が腰を突き上げた。そこから一直線に体に何かが走って、私は顎を仰け反らした。その首筋に光忠がすかさず吸い付いてきた。
喉元に、かみつかれたのかと、思った。


「ほら、頑張って。」

「んっ、あっ、だ、だめ」


私が光忠を跨がる必要はあったのだろうかと思うほど既にこの体勢の主導権は光忠だった。いやむしろ最初から私に主導権など無かったかのように思えるが。


「主、イキそう……?」

「ん、くっ、や、だめ……っ」

「いいよ、イっても。ちゃんと見ててあげる。」


尚更駄目だ。見ないで欲しい。
でも私の顔で気持ちよくなると言うのなら見てほしいという気持ちも少なからずあって、でもやっぱり恥ずかしいから見ないで欲しいという気持ちが混ざりあって息苦しくなる。


「ほら、気持ちいいんでしょう?」

「あっ、あぁぁ……っ!」


腰に当てられる手の力が強まり、まるで逃がさないとばかりに押し付けられ、その奥を深く突かれた。光忠がじっとこちらを見詰めている視線を感じながら私は爪先から頭の先までびりびりと電流が走るのを感じた。


「あ……ぁっ……、」

「…はぁ………はは、可愛かったよ。すごく。」


光忠は一緒にいってしまうのを我慢したのか、大きな溜め息をついたあと私の頬を指の背で撫でた。するりと撫でられる僅かな感触でさえぞくぞくと気持ちよくて私は喘ぎの混じった呼吸を繰り返した。光忠は私の呼吸が整うまで体のあちこちをゆったりと撫でて待ってくれた。正直、撫でられても高ぶりはおさまるどころかもっと高くなっていくだけなのだが、それでも光忠は宥めるように触れてくれた。


「そろそろ、僕も食べさせてもらおうかな。」

「ん…、ずっと、食べてる、じゃん……。」

「はは、確かに。」


美味しく頂いてるよ。と光忠は言って繋がったままの状態で私を寝かせる。そしてそのまま体重をかけるようにして覆い被さってきて、中の圧迫感が増した。


「あ……ぅ……、は、」


ぐっと送り込まれるそれは熱く、固くて、大きい。呼吸がしづらくなるほど詰められ、呼吸でさえ逃げ場を失わされた気分になる。ゆっくりと深まる挿入と一緒に光忠がキスをしてきて、喘ぐ口を塞がれた。


「あっ……ん、んんぅ、ん、」


ただでさえ光忠の熱を受け入れるのに必死だというのに、構わず舌を絡ませてきて、舌先でくすぐるようなそれは優しいのに、息をつかせてくれる余裕は与えてくれない。息苦しさに胸を押し返そうとすればその手を取られ、指が絡む。光忠の大きな手に捕まると、私の体はきゅんと鳴いた。光忠の手が、好きなのだ。いつも私を甘やかしてくれる困ったこの手が。光忠の熱に魘され、もがくように呼吸をするのにそれさえも封じられる。けれど重なる肌も唇も指も甘く感じるほど優しい。
こういう行為は、光忠そのものな感じがする。痛いことも怖いことも彼はしない。けれど、そう感じる手前のぎりぎりのところまで彼は追い詰めてくる。そうやって彼のペースに流されるようにのまれていると、いつの間にか以前は駄目だったラインが少しずつ広がっていて、身を任せてしまうラインが増えていき、どんどんと光忠の思い通りになっているのだ。


「ふ、ぁ、……み、っ、ただ……、んっ、」

「良さそうだね。気持ちよくてどうしようもないって顔してる。」


顔にそう書いてるよ、と言わんばかりに頬を撫でられて、もうどうすることもできないこの甘い責苦に私はひたすら溶かされていくだけだった。そんな顔などしていないと首を振っても、光忠はこちらをうっとりと眺めていて、その視線の先が私だと思うと体の熱が上がる。もう、体の中も外も焼けるように熱い。


「あっ、んんっ、……あっ…!」


体が無意識に捩れる。暑くて、熱くて、その光忠の熱から逃げようとしているのか、光忠そのものから逃げようとしているのかわならないが、とにかく体がそこから逃げようとしていた。多分、怖いからだ。光忠の金色の瞳に見詰められると心臓がぎゅうっと小さくなり、体がどこかへ落ちていってしまいそうになるのだ。怖いほどの浮遊感が全身に走って、本能的に体が逃げてしまう。すると光忠は重いと感じるほど覆い被さってきた。


「……は、……逃げるな…。」

「ふっ、あぁっ…!」


ぞくりとする程の低い声で囁かれ、光忠のそれが突き立てるように私を抉った。光忠の体が重い。けれど、その息苦しささえも、ひどく気持ちがいい。


「やぁぁっ、……もっ、だ、だめ…っ…、光忠ぁっ、」

「うん……、いい、よ、許してあげる……」


触れたところから体が溶けてしまいそうだった。光忠の蜂蜜色にとろけだしそうな瞳を見詰めながら、すがるように首に抱き付けば、光忠の熱が一層鋭くなった気がした。耳のすぐそばで余裕のない彼の息遣いが聞こえてきて頭が真っ白になる。そんな中、光忠の掠れた声が、耳に、脳に、心臓に流れ込んできた。


「あるじ、……はぁ、……僕の、主……っ」

「っ……!」


光忠の声に自分の体がびくんっと強くしなった。全身がきゅうっと締め付けられ、声も出せないほどの痺れが全身を襲う。光忠は私の体をぎゅっと抱き締めながら、額、目蓋、頬、唇と口付けた。光忠の熱が中で弾けたのを感じながらそれを受け止めるも、光忠はまだゆったりと私の体を揺さぶる。おかげでその間も小さく達してしまい、私はくたりと気を失いかける。


「主……、寝ちゃうの…?」


光忠からの長く甘い行為と、連日の疲れにより私の体は泥のように沈んでいく。どろどろと溶けていく体を、光忠にそっと抱き締められた。


「いいよ。僕の腕の中ならいくらでも。」


おやすみ。その内、僕無しじゃ寝られない体と心にしてあげるね。
そんな物騒な囁きさえも拾えない眠気に、私は意識を手放した。



***


その後。昼食を通り越して夕飯の話なのだが(なぜ昼食をすっ飛ばしたかというと、私が次に起きたのが夕飯前だったからだ)(察してくれ)。夕飯にも私の好物である光忠の作る甘い卵焼きが出た。私はまた美味しい美味しいと言って食べたのだけど、そんな中、大倶利伽羅にじっと見詰められ私は首を傾げた。すると、また仕事をしていたのかと尋ねられ、私は首を横に振っておいた。どうしてそんな事を尋ねるのかと聞くと。


「あんたが疲れている時は、光忠の卵焼きがいつも甘い。」


私が赤面してかしゃーん!と箸を落としたのは言うまでもない。

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