一人エッチがバレまして

その夜の審神者は一人であった。
いつもならふわふわとした象牙色の髪を撫でながら眠りにつくのだが、今夜はその相手がいない。相手は四日前に出陣し、明日戻る予定となっている。
数日を費やす任務ゆえ、審神者の指示を汲み取ってくれるものが隊長に良いと考え、此度は近侍である髭切を部隊長として送り出した。今日の夕方の報告では任務は既に完了し、隊の皆も怪我はなく、諸事抜かりなく、とのことで、やはり此度の任務で彼を部隊長にしておいて良かったと審神者は安堵した。
約五日間の任務を終えて帰ってくる隊を、明日はいっぱい労わってやらねばと考えながら床に就く。目蓋に思い浮かぶのは、送り出した隊の皆と、行ってくるねと頼もしく微笑んでくれた恋刀の顔。久々の出陣に勇んでいたのかわからないが、髭切の表情はやけにやる気に満ちていた……。いや、わからないだなんて知らないふりをしてはいけない。
審神者は落ち着かない気持ちでごろりと寝返りをうつ。
髭切の表情はやる気に満ちていた、というのも、出陣を終えた後のことを考えていたのだろう。そして、それは髭切だけではなく、審神者も同じだった。ふたりに一体何があったのか、それは至極単純な話。そして犬も食わぬ話。
話は隊が出陣する前夜。ふたりは恋人同士の時間を楽しんでいた。そして今夜も秘めやかな夜を一緒に過ごすのかと思ったのだが、その夜の審神者は月の障りがあった。
ゆえに体を重ねることはできないと謝った審神者に髭切は、何を言っているんだい、君の体が一番だよ、と優しく抱き締めた。そして、楽しみは任務を終えてからにしようと唇を重ねた。
その日のふたりは体を重ねはしなかったものの、髭切の手は審神者の体に触れ、撫で、まさぐり、着物の向こうには触れずとも心に触れた。そしてその心に熱を残す。
――帰ってきたら今よりもっと気持ち良くしてあげるから、いい子で待っているんだよ。
いいや、あれは呪いだった。無垢だった娘の体を女にする呪いだ。おかげで審神者は髭切が帰ってくる日を指折り数え、月の障りがおさまれば触れてくれる手がないことに身を焦がした。一人で眠る夜には髭切が夢に出てきた。一日だけ髭切に抱かれる夢さえ見てしまった。夢の中の審神者はなんともはしたない言葉を繰り返し、自ら足を開き、髭切の熱に溺れていた。翌朝の眩しい朝日にどれほど己を恥じたことか。
ゆえに髭切のあれは呪いだった。髭切を恋しく思わせ、審神者を淫らにする呪い。
しかしその呪いも今夜で解ける。ここ数日の落ち着かなかった心も、明日になれば解消される。
解消……、いやいや何を言っている。まるで解消するためのそれを待ち望んでいるかのような。明日は隊の皆が帰陣する日だ。それ以上のことなど無い。
審神者は反対側に寝返りをうつ。
……嘘だ。すごく待ち望んでいる。髭切に抱かれたくて仕方がない。髭切の熱に触れたい。触って欲しい。あの綺麗な手で、薄い唇で、長い睫毛に囲まれた不思議な色をした目で、この身を可愛がって欲しい。
審神者は布団の中で小さく体を丸めた。
しまった、髭切のことを考えていたら恋しい気持ちが増してしまった。何をやっているのだ、審神者のくせに。帰ってくるのは髭切だけではない、隊の皆だ。そうだというのに欲に負けてこんなふしだらなことばかりを考えているなど、恥ずかしい。
きつく目蓋を閉じ、溜息を吐く。
それでも訪れるのは虚しさと寂しさ。明日になったら審神者の顔に戻るから、せめてこの小さな布団の中では一人の女でいさせてくれ。そう、もぞもぞと太腿を擦り合わせた。
一人の部屋に衣擦れの音が響く。審神者は閉じた目をそっと開けた。
胸の奥が、腹の奥が、何やらむずむずとする。目に見えない何かが体の奥底に潜む。体の違和感を覚えると、急に目が冴えてしまい落ち着かない。自身の体を宥めるように肩を擦る。むず痒さが少しだけ弱まった気がしてそっと息を吐いた。しかし擦った手を止めるとまたすぐに新たな疼きが生まれる。
どうしたものかとごろごろ寝転がっていると、腕が自身の胸を掠めた。何かが小さく引っ掛かった気がした。審神者は確かめるように手の平を自分の胸に添える。すると、手の中でつんと尖ったものが当たった。まさか、そんな。おそるおそる体を見下ろせば、恥ずかしげもなく、そこがぷくりと衣服を押しあげ、立ち上がっていた。
衣服の上から、それに触れみる。
「……っ」
体が震えた。小さな電流がぴりっと走ったような気がして審神者は驚く。着替える際や入浴中など、自分の体に触れる機会はあったものの、こうして慎重に触れることはなかった。なんとなく髭切に触れられた時と同じような感覚がして、これが、その、か、感じるということなのかと、別に初めてでもないのに驚いてしまった。途端、何だか後ろめたい気持ちに襲われるものの、審神者の手は好奇心に動かされたかのように止まらなかった。
「は……」
柔らかい自分の胸、尖った小さな乳首を思いつく限り触れてみる。いや、違う。髭切はどうやって触れていた? 寝衣の合わせ目から手を差し入れ、乳首を捏ねるようにして触れる。すると、乳首がきゅうと悲鳴を上げるように固くなった気がした。どうしよう、気持ちが良い。そうだ、自分は髭切に優しく先を捏ねられるのが好きだ。反対側はちろちろと赤い舌で舐められ、もう片方は、こうして、親指と人差し指で優しく苛められるのが好き。
「あ……っ」
声が出た。恥ずかしかった。自分で、一人で、こんなことをして。しかし、声を出してしまったせいか、審神者の中の何かが外れた気がした。掛布団を除け、審神者は自分の下肢を見下ろした。ごくりと喉を鳴らす。胸に触れていた両手をゆっくりと下降させ、裾を開く。やけに白く見える自身の足が、膝を擦り合わせていた。そっと腰に手を掛け、そろりと尻を持ち上げ、下着をずり下ろす。何をやっているのだ、こんな恥ずかしいことをして。そんな言葉が脳内で痛いほど叫びをあげる。しかし審神者はやめなかった。自分の和毛に触れ、その奥に触れる。
「…………」
あれ、おかしい。いつもなら恥ずかしいくらい濡れているはずのそこがちっとも濡れていない。こんな、ものなのだろうか。髭切が触れていた時はもっと、自分でも驚くほど濡れていたはずなのに。触れていれば濡れだすだろうか。しかしあまり自信がない。いいや、思い出せ、髭切はどう触れていた? どう審神者を気持ちよくしてくれていた? 必死に記憶を辿り、審神者ははっと思い付く。そうだ、あの、触られると一番困るところに触れてみよう。和毛のすぐ先にある場所に、つんと触れてみる。
「んっ……」
ひくっと肩が跳ねた。同時にまた体に電流のようなものが走る。でも少しだけ弱い。髭切が触れてくれた時はもっと、体の底からぞくぞくするような怖いほどの快感が頭を突き抜けていくのだ。
気持ち良くなる場所はここのはずなのに、自分で触れるのと髭切が触れるのとじゃ全然違うらしい。それはそうだ。だって髭切はここを開くまでに審神者へたくさん甘い声をかけてくれて、触れてくれて、口付けてくれて、微笑んでくれて、たくさんの段階を踏んでやっと触れてくれる。審神者が自分自身を慰めても意味はない。髭切がいて、髭切が触れてくれなければまったく意味が無いのだ。
「ひ、げきり……」
目を閉じ、名を口にすると髭切の姿が思い浮かぶ。すると、少しだけ髭切に触れられているような気がして気持ち良さが増した。といっても、ほんの少しだけだが。それでもいい。この寂しさをなんとかして埋めようと審神者は必死になって足の間に触れた。髭切の声、手、唇、熱を懸命に思い出しながら触れ続けていると、徐々に中が綻んできた。脳裏に逞しい髭切の裸を思い浮かべると、指先にぬるぬるとしたものが触れて、やっと濡れだしたと審神者は薄く目を開ける。
「んっ、ひげきり……」
髭切は、いない。寂しさを塗り潰すように指先を動かした。でも、中に入れる勇気はない。指の腹で、ぬるぬるとした体液を小さな粒に擦り付けるので精一杯で、はぁはぁと息を上げながら「髭切、髭切」と恋しい名前を繰り返す。しかし審神者は一人で達する術を持っていなかった。だんだんと動かす指と腕がだるくなり、なんとなく快感は拾えているものの、髭切が与えてくれる時のような激しさはなく、疲れが勝ってしまう。
「……は、ぁ…………」
審神者の指が止まる。動かすのを止めると急激に体の熱が下がり、腕のだるさだけが残ってしまった。訪れるのは、先よりも増してしまった虚しさと寂しさだ。
「……何、やってるんだろう」
自分の体液にまみれた指が汚い。見たくもない、と重たい肩を持ち上げ、拭くものを探そうと身を起こした時だった。
審神者は聞こえてきた声に全身を凍らせた。
「――駄目だよ。途中で終わらせちゃ」
そこから離そうとした手が、がっしりと掴まれる。起こそうとした背中に固い胸がぶつかって、審神者の耳に薄い唇が触れた。そこから伝わる甘い声の振動に、脳が揺れた。
「ほら、最後までやってごらん」
酩酊しそうなほどの甘ったるい声だった。
「あ……う、そ……」
いるはずのない存在を背中に、耳に、全身に、感じて動けなくなった。先よりも、うんと体の熱が下がり、後ろへ振り向けなくてかたかたと震えだす。そんな、まさか、だって、戻るのは明日の昼前のはず……。そう戸惑う審神者に、任務でいないはずだった男の目が細くなる。
「君の鍛えた刀剣達は皆優秀だね。僕が君恋しさにはやく帰りたいって『お願い』をしたらすぐに頷いてくれたよ。だからはやく戻って来てしまったのだけど、君は僕がいなくても一人で楽しんでいたようだね……?」
「……っ、あ、こ、これは、ち、ちが、くて……」
「なぁに、何が違うの? 指、濡れているよ」
濡れた指先が持ち上がる。どこに連れて行く気だと目で追えば、象牙色のふわふわとした髪が見え、その奥にある不思議な色をした目が妖しく光る。
その目を求めていたはずなのに、今見てもその目は恐怖しかなくて審神者は言葉を詰まらせる。しかし、取られた手が形のいい唇にぱくりと食べられてしまい、目を剥いた。
「ひ、げきり……っ」
汚れた指を躊躇いもなく口に含んだ男の名を呼べば、男はぞくりとするような妖艶な笑みを浮かべた。そして、審神者の細い指にべろりと舌を這わせ、丹念に体液を舐め取る。まるで垂らした蜜でも舐め取るかのように口にする髭切に審神者は目の前がくらくらとし、眩暈が止まらなかった。不浄の場所から出てきたものを美味しそうに舐める髭切の姿に気が遠くなる。
……ちゅ、と音をたて髭切が審神者の指を開放し、目を細めた。
「もう一回やってごらん」
言われた言葉に、遠くなりかけた意識が激しく揺さぶられた。やはり、見られていた。自分が何をしていたかを。髭切の名を口にして、自慰に耽っていた事を。
「い、いや……、で、できな……」
「さっきまで上手にやっていたじゃないか。ほら、手伝ってあげるから」
「お、おねがい……、できない……っ」
しっかりと手を掴まれ、下肢へと戻される。一体どこから見られていたのか、どこまで見られていたのか。絶望に襲われ、布団を蹴るようにして逃げ出す審神者を髭切が後ろから抱き締めた。ぎゅっと抱き竦める腕が、今は飛び出したくなるほどに恐ろしい。
「いい子で待っているよう言ったのに、待ちきれなかったのは誰だい?」
「あ……っ、ご、ごめんなさ……」
「謝るくらいなら、ほら、やってごらんよ」
「……っ」
掴まれた手は力強く、そこから離してくれないのが感じ取れた。髭切の腕はしっかりと審神者の腰に回っており、背中からは熱く燃えるような熱を感じた。この熱は自分だけではない、では誰の熱だと狼狽えていると、耳元で悩ましげな吐息を聞いた。耳朶を溶かすような、熱い吐息だった。
「君も、一人で慰める夜があるんだね」
「ち……、違う、の……っ」
「恥ずかしがらなくていいよ。僕だって、ほら」
腰にある腕が審神者を抱き寄せた。背中に熱く硬いものが擦り付けられ、びくりと怯える。ベルトの金具かと思ったが、そこまで無機質な硬さではない。でも、柔らかいわけでもない、これは。
「昨日もね、君を思って僕は自分を慰めた。あの夜も、君におやすみと告げた後ひとりでこれを慰めていたんだよ。それだけじゃない、君が疲れて眠ってしまった夜や、君が出掛けて本丸を離れた夜も、君が恋しくてひとりで済ませたことはたくさんあるよ」
同じだね、と嬉しそうに頬を擦り合わされ、審神者は息を飲んだ。同じ……、同じなのだろうか。審神者のこの熱は、腰に当たるこれと同じなのか。ならば髭切は、一人で慰めていた審神者を見て、この熱を昂らせたとでも言うのか。
「ねえ、さっきみたいに僕の名前を呼んで」
黒い手袋をした指が審神者に絡む。隙間という隙間に滑り込み、するりと撫でるようにして審神者を雁字搦めにした。握られたのは手だというのに、心臓を掴まれたようで息が苦しい。吐き出すようにして名前を呼んだ。
「ひ、髭切……」
「うん、ここにいるよ」
耳に触れる唇が微笑んだ気がした。あんなに恋しく呼んでも返事のなかったひとから、やっと待ち望んでいた返事を聞き、胸が高鳴り、目の前がくらりとした。
「あ、あぁっ……」
しかし甘い眩暈に気を取られた内に、髭切の長い指と共に審神者の手が足の間へと導かれた。先程まで触れていた場所へ指が掠めた瞬間、鋭利な刺激が走り、全身がぞくぞくと震え上がった。
どうしたことか、先程と同じ場所、同じように触っただけだというのに、髭切にそうされるだけで全然違う。
「おや、あまり濡れていないね」
「んっ、ん……」
「……ああ、言っていたら溢れてきたね。いい子、いい子」
僕を待っていてくれたのかい? と嬉しそうに囁かれると、返事をするように中から蜜が溢れ出た。こぽりと、押し出てきたかのようなそれに審神者は首を振る。違う、そんなはしたない返事はしてないと強く言いたいのに、髭切の熱や声を感じてしまった体がまったく言うことを聞いてくれなくなった。恥ずかしげもなく、髭切を求めて蜜が零れ出てしまう。
「は、ぁっ……、んんっ」
指が更に奥へと導かれる。指が狭い小さな口にかかると、流石に怖くなって固まる。すると、髭切が迷い子の手を引くように優しく囁く。
「中はまだ触ってないのかな。そこまでは怖かった?」
何をどう答えたらいいのか。本当に迷子になってしまったかのように導かれるまま頷けば、頬に唇が触れた。擽るようなそれにさえ全身が甘く痺れ、声が出てしまいそうになる。
「そうだね、この体は僕しか知らない。君のここは慎ましくて、恥ずかしがり屋さんだから、例え君だとしても、突然僕以外のものが入ったら驚いてしまうかもしれない。君が一人で触れていいのは、ここまでにしておこうか」
まるで、審神者の体を全て把握しているような口振り。
審神者の体に触れるには、審神者さえ髭切の許可をもらえないといけないような図々しさ。しかしその傲慢さが震えるほど嬉しくて、苦しくて、気持ち良かった。
「あっ、んんっ、だ、だめ……」
「ん? ……いきそう?」
「んっ、んーっ」
くるくると指先が動かされる。自分の指だというのに、絶妙な加減で動かされ、快感に支配される。時折掠める髭切の指が痺れるほどに気持ちがよくて、手袋越しだとしても自分が触れる以上の快感を与えてくれる。
一定以上あがる気配のなかった波が、髭切の存在だけで決壊しそうなほど飛沫を上げている。指の動きが速まり、与えられる快感だけを追おうとして審神者は息を詰めた。蜜をすくってぬるぬると動く指が気持ちいい。もう自分の指なのか髭切の指なのか判断がつかない。達してしまいそうだ。達したい。髭切に抱かれて、髭切に手を引かれて。
「んっ……、あぁ……っ!」
撫で回していた場所を優しく押し潰され、審神者の体が強く跳ねた。頭は既に指の動きを追うのに必死で、じわじわと高みに上げられると同時に、審神者は髭切と自分の手を太腿で強く挟み込み、達した。
「――……ぁ……、はぁ……」
太腿の痙攣が収まり、収縮した体がずるずると崩れ落ちそうになるのを抱き寄せられた。審神者の髪を鼻先で掻き分け、髭切が耳元でそっと囁く。
「上手にいけたね」
「……っ」
こんな状態でなければ、うっとりと聞き惚れてしまいそうな声だった。髭切に見られてはならぬ光景を見られてしまったというのに、そのまま手を引かれて自慰をしてしまった。そして、そんな中でも気持ち良くなることを受け入れた自分の体が恥ずかしかった。髭切に手を動かされていたとはいえ、己の指で達してしまったことも信じられない。愕然とする審神者の顎を取り、髭切が口付けた。
「んっ……」
重なる唇は優しくて、言い訳を考える審神者の唇を塞ぐように吸い付いてくる。体を僅かに仰け反らせると、その分髭切が覆い被さり、押し倒されるようにして布団へと転がされた。寝転がると、その上に髭切がのし掛かる。いやらしい姿を見せてしまった手前、その姿をどう思われしまうのかが恐ろしくて怯えていると、髭切にうっとりと微笑まれた。
その笑みを問う間もなく、すぐに上から押さえ付けるような口付けがされ、審神者の華奢な体が髭切の体で見えなくなる。重ねられた唇に怯えたものの、触れ合った唇は甘く蕩けるようで、唇と唇を混ぜ合わせるように髭切の舌が動いた。舌裏を撫で回されると腰のあたりが粟立ち、胸の奥がどうしようもなく疼き出す。止まらぬ震えに流され、審神者は掻き混ぜるような髭切の舌で達してしまう。
「……ふっ、……ん、んっ……!」
「……ありゃ、キスでいっちゃったかな」
「あっ……、ご、ごめん、なさい……」
我慢のできない体か、髭切の帰りを待てずに一人で慰めてしまった弱い心か。口から出た謝罪はどちらのものか審神者にも区別がつかなかった。口付けだけで達した体をひくひくと震わせていると、それを見下ろす髭切が手袋の端を噛んで脱ぐ。革の手袋を脱いだ温かい手が寝衣の襟を撫でるようにそっと開く。ほんのりと色付く肌が開かれ、髭切がそこに唇を寄せた。
「ん、可愛いから許してあげる」
「は、ぅ……っ」
髭切の手は迷いなく審神者の乳房を揉みしだき、ぷくりと立った乳首を口に含む。薄い唇の中に消えてしまった胸の先は、温かい口内で柔らかい舌に踊らされてしまう。先を尖らせた舌先でちろちろと嬲られ、微弱ではあるが確実に翻弄されてしまう。見えない口の中で髭切の舌がどう動いているのかがわかるほど敏感になり、息があがる。
「あっ……!」
反対側の胸を揉んでいた手がきゅっと乳首をきつく摘まんだ。じんと乳首が熱くなったあと、くるりくるりと指先で捏ね回され、その先から痺れるような快感が全身に走る。その気持ち良さに、ああこれだと審神者は溜息をつく。全然違う。自分が触っていた時の否ではない、体の内側からくるこの震えこそが、審神者の求めていた快感だ。
「んんっ、あぁんっ……」
待ち望んでいた気持ち良さに淫らな声が出てしまった。恥ずかしくて顔をそらすと、それを見た髭切がくすくすと笑った。
「ふふ、恥ずかしそうな顔。気持ち良かった? 好きだもんね、これ。いいよ、もっと可愛い声聞かせて」
口にしたことなどないのに、しっかり知られていることが恥ずかしい。しかし把握されていることが嬉しい。審神者は突き出る声を手の甲で押さえながら、細い指の隙間から髭切を熱っぽく見詰める。
「ん……、ひ、髭切、だから……」
「うん?」
「髭切が、触ってくれる、から……あっ、気持ちよくて、好き、なの……っ」
こんなこと、髭切だからだ。こんなことをされて喜んでしまうのは。髭切からされるのが嬉しいからだ。他のひとなど恐ろしくて考えられないし、自分でやっても意味がなかった。髭切の声、手、唇、熱がないと、審神者の体は寂しさで死んでしまう。
髭切は審神者の途切れ途切れの言葉を聞いたあと、大きな目を瞬かせ、蕩けるような笑みを浮かべた。
「……嬉しいことを言ってくれるね」
それから審神者の震える胸先に唇を寄せる。形のいい唇が自身の恥ずかしい場所のすぐそこにあり、審神者はその光景にやめないで、続けて、舐めて欲しいの、と潤む目で訴えた。
「僕が触るから気持ちいいって?」
審神者の期待に応えるように、髭切がちゅ、とそこに口付けた。触れた唇に審神者は目を瞑った。違う、口付けじゃない。もっと、もっと激しく触れて欲しいと髭切の柔らかい髪に指を差し入れる。慎ましさも忘れて髭切の顔を自分の胸に抱き寄せ、もっととせがんだ。
「う、ん……っ、自分で、触っても、全然きもちよく、なくて、髭切に触ってもらわないと、う、うまく、き、気持ちよくなれない……っ」
「僕じゃないとイケない?」
「んっ、ん……」
だから、だからもっと触れて欲しい。そう髭切の髪をくしゃくしゃと掻き乱すように撫で回すと髭切がふっと笑った。笑った吐息が濡れた胸先にかかり、びくりと体が震えた。
「……一人遊びを覚えるなんて悪い子、って怒るつもりだったのに、そんな可愛いことを言われたら許してしまうよ」
「んっ、髭切……っ、おねがい……」
「お願い……?」
わざとらしく小首を傾げる仕草がもどかしい。はぁはぁと息を上げながら審神者は髭切に懇願した。
「なめ、て……っ」
「舐めるだけ? 違うよね、もっと素直にいってごらん」
ぴん、と先を弾かれる。心が戦慄く。
「……あっ、んん、さ、触って……、そこだけじゃなくて、もっと、色んなとこ、触って、ほし……っ」
「色んなとこね。ふふ、いいよ。それで……? 触って……?」
言わねばほんの少し触るだけだぞ、とする髭切を審神者はとろりと溶け出した目で見詰めた。
「たくさん、苛めて……」
すう、と細められた目は笑っていなかった。しかし唇は弧を描いていて、蠱惑的で、ちぐはぐな表情に心がぞくぞくと震え上がる。
「可愛い……。そんなこと言われたら君が泣くまで苛めてしまいそう」
「あっ、い、苛めて、ほしい……、たくさん……、はやくっ」
「へえ……?」
髭切が体を起こす。急に離れてしまった重みと熱に審神者は行かないでくれと手を伸ばすも、じんじんと痺れる乳首を両方摘ままれ、引き止める声は嬌声へと変わった。
「あ、んんっ!」
「はやくなんて、僕を待てずに一人でエッチしていた主に言われたくないなぁ」
「あっ……、ご、ごめん、なさい……っ」
「本当に悪いって思ってる? 僕、君とエッチするの楽しみにしてたのに。一人で気持ち良くなろうとしていた君を見て僕がどう感じたと思う?」
「んっ……、ごめんなさい……、は、はした、なくて」
責め立てるように乳首をやんわりと引っ張られ、気持ち良さと痛さの狭間に追いやられる。感じて泣いているのか、詰られて泣いているのかわからない涙が浮かび、髭切に必死に謝罪すれば、その涙に髭切が恍惚と笑みを浮かべた。
「はしたないなんて思ってないよ。一人で僕の名前を呼んで、エッチしている君をみて僕はすごく、すごく……」
はあ、と熱い吐息が吐き出された。
「興奮した」
上着を放り投げ、ベルトの金具が外される音を聞いた。心臓が頭に移動したのかと思うくらい胸が高鳴り、眩暈が押し寄せる。くらくらとしている内に、纏っていた衣服が全て奪われ、審神者は体を強張らせた。審神者を裸にむくと、髭切が煩わしそうに自身の前を寛げ、手早くずり下ろした下着から熱く滾った剛直を引きずり出した。眼下でぶるんと顔を出したそれに審神者は目が釘付けになってしまった。
「ほら、触って。もう、痛いくらい」
怒張したそれに息を飲んでいると、手を取られ、そこに導かれる。
「あ……」
触れたそれはとても熱かった。それに、とても硬い。これに突かれてしまったらと想像するだけで中が潤みだしてしまう。
「ねえ、少しだけ、触って。一人で慰めていたその小さな手で、僕のも慰めてよ」
 言われて、審神者はおそるおそる髭切の熱の塊に手を添えた。
「……うっ」
丸い切っ先に指先を置いただけで小さく呻いた髭切から、彼も審神者と同じように興奮しているのだというのが伝わる。嬉しさに似た高揚に突き動かされ、審神者は髭切のものを両手でそっと包み、何度か扱く。
「は……」
先から悩ましい吐息を繰り返す髭切が愛おしく、審神者の手でそんな切なげな表情をしているのかと思うと手の中の剛直が可愛いとさえ思える。赤黒く、筋のあるそれに審神者は体を起こして、そっと唇を寄せる。髭切の前で四つん這いとなり、少し濡れた切っ先に、ちゅ、と口付けると、ぴくんと熱棒が跳ねた。
「……いつから、そんなエッチな子になったの」
すぐに髭切が審神者の肩を掴んで顔を離させた。見上げると、困ったように笑う髭切がいた。駄目だっただろうかと眉を下げると、そうじゃないよと髭切が口付ける。
「ありがとう。もういいよ」
 そう言って審神者を膝立ちにさせ、両脚の間に指を埋める。
「あ……っ、ん」
「すごく濡れてる。僕に触って興奮した?」
「…………」
こくりと頷くと、髭切が嬉しそうに目を細め、中に指を埋めた。
「あ……っ、も、もう、い、いい、から……」
「駄目。一人でしてた時は入れてなかったんでしょう。しっかり解さないと」
髭切の指がゆっくりと審神者の中で出し入れを繰り返す。髭切の指は狭い入口を優しく広げているようだったが、既に綻んでいる口からは止めどなく蜜が出るだけで、審神者は髭切の指をきつく締め付けてしまう。
「んんっ……」
「そんなにきつく締めていたら、僕のが入らないよ?」
「だって、髭切が、触る、から……」
「触るから、なぁに?」
「……っ、き、きもち、よくて……」
髭切の指から蜜が滴る。一人でしていた時はただの体液で汚いとさえ思っていたのに、髭切にかかるとそれは愛液となって蜜となる。髭切は審神者へと口付けながら中をゆっくりと掻き混ぜる。口付けの合間から審神者の声が漏れるも、それさえも口付けるかのように唇を甘噛みする。
「あ……っ、ひ、髭切……おねがい……もう」
「もう……? ちゃんと言わないとあげないよ」
「んっ……、い、いれて……これ、ほしい……」
「……っ」
そっと撫でた熱に、髭切が小さく呻いた。その中で喘いだようなごく小さな声を聞いて審神者ははっとする。しかしすぐに審神者の体が布団へと転がされ、腰を高く掲げられた。髭切に尻を向けてしまう姿勢に顔を上げると、荒い息を吐き出し、舌なめずりをする髭切と目が合った。
「悪い子。お仕置きだよ」
「あ……っ、あぁ……」
大きな手に柔肉を左右に割られ、剛直が突き入れられた。ずぶずぶと入って行く熱の大きさに審神者は小さく震えた。熱くて、大きい。苦しくて息が詰まる。熱した杭を刺し込まれていくような感覚に、手元にあった髭切の上着を掴んだ。投げ出されたままの上着を引き掴み、体の中を開かれていくような熱棒に声を殺した。
「……っ」
すると、ずん、と奥を突かれ、髭切の腰が尻に当たった。ぴったりとそこが合わさると、髭切は審神者の背中へと雪崩れ、後ろから抱き締める。
「はぁ……。すごく、気持ちいい」
「んっ、ん」
そのままゆるゆると腰を動かされ、奥を優しく擦られる。膝をついている格好なのに更に体勢が崩れそうになるが、抱き締めてくれる腕が逞しく審神者を支える。耳に触れる唇も気持ち良くて、審神者は髭切の上着に顔を押し当てた。しかし、すぐに顎を取られ、横を向いたまま口付けられる。
「僕がここにいるんだから、ちゃんと僕を感じてよ」
「あっ……ふ、んぅ」
「ほら、君が一人で慰める程に欲しかった僕だよ」
「ち、ちが……っあ、あっ……」
ぐう、と腰を押し上げられ、背中が仰け反る。反った背中、肩に髭切が口付け、上体を起こす。そのままゆるく揺さぶられ、優しく出し入れが繰り返される。熱い杭に中を擦られるたび、全身の力が抜けていきそうになるも、審神者は弱々しく首を振った。
「ち、ちがう……っ」
「……ん?」
「欲しかったの、髭切、だけど……、これじゃ、なく、て……」
審神者は揺さぶられながら、必死に言葉を紡いだ。
「『髭切』が、欲しかった、の……っ」
上着に頬を押し付けるようにして喘ぎ、涙で滲んだ声で髭切が欲しかったと告げる。
何日も姿を見ていない恋刀を恋しく思って一人で慰めはしたが、本当に恋しかったのは快楽でも何でもない。髭切自身だ。寂しいと思い、もて余した熱も肉欲からではない。髭切のいない一人の夜からだ。
そう涙ながらに言うと、審神者の中にある熱が大きく脈打つのを感じた。
「あっ……」
「やだなぁ。なんでそんなに可愛いの……」
「あ、あぁっ」
そのまま熱杭が審神者の奥へと押し込まれた。これ以上進まないだろう中に髭切がもっと、もっとと深く押し込んでくる。
「離したくなくなる。もうずっとこのままでいたい」
熱に魘されたように髭切が言い、審神者の腰を掴んで抜き差しを繰り返す。十分蜜に濡れているはずなのに、髭切の形がはっきりとわかるくらい大きく膨らんでいるのがわかる。いや審神者が締め付けているのか。
「ねえ、ひとつになろうか」
「んっ……、ひ、ぁ」
「君が僕を思って寂しいと思わないよう」
「やっ、は、もう、おく、入らな……」
「……そう。今夜はずっとそばに……」
ふたりの境目などわからなくなるくらいに、どろどろに、ぐずぐずにとけあってしまおう。
そう髭切が言ったのを聞いた気がした。力の入らない体は布団へと雪崩れ、寝そべる審神者を押さえ付けるように髭切が跨がり、杭を打ち付ける。遠ざかる意識を必死に繋ぎ止めようと手にした髭切の上着を掴むも、そんなものさっさと手放してしまえと取り払われる。代わりに与えられたのは横につかれた髭切の手で、審神者はすがるようにその手を握った。
「んっ、ひ、髭切……っ、髭切っ」
「満たしてあげる。ここも、君の心も。寂しいと思えないくらい、たっぷり」
「…………あぁ……っ!」
絡む指さえ気持ちいい。
ぎゅっと握り返された手と共に、審神者は白い喉をそらして強く達した。寂しいと思った心の隙間を埋めるように、溢れるように熱が注がれる。満ちていく中に、感嘆とした吐息が溢れた。審神者の中に髭切だけが満ちる。満たされていく。
温かい熱にくるまれ、そっと息をつく審神者だったが、ややあって中の熱が硬さを取り戻そうとしているのに気付く。振り返れば、珍しく額に汗を滲ませた髭切が、ぎらぎらとこちらを睨んでいた。
「今日は、ずっと、抜かないから」
一言ずつはっきりと告げられた言葉に、審神者の上げた悲鳴は甘い声へと塗り潰されてしまう。
「言ったよね……、興奮したって……」
薄っすらと笑みを浮かべた髭切に、審神者はなんて馬鹿なことをしてしまったのだろうと心の底から後悔した。

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