我慢ならない

剥きたての卵のような白い肌を目の前に深夜はごくりと唾を呑んだ。一度達したなまえの肌はほんのりと色付き、しっとりと汗ばんだ肌を撫でるとびくびくと震える。これが初めての行為というわけでもないのに、荒い息を整えるなまえと目が合うと恥じらう顔を背けられて自然と顔が綻んでしまう。


「可愛いね。気持ち良かった?」

「やっ、おにい、さま…、」


細い腰を抱き上げると汗ばんだ肌と肌がぴったりと合わさって気持ちがいい。他人の汗が気持ちいいなんて、きっと彼女だけに思える感情だ。ちゅ、ちゅ、と顔にキスを降らせるとなまえは身を縮めるようにしたが、何度目かで気持ちよさそうに震えた。


「はぁ、もうほんとたまんない。」


求めても、求めても切りがない。足首を掴んで、繋がったままなまえをころりと横に転がす。深夜の前になまえの華奢な背中が広がり、汗が流れた跡を追うように舌を這わせる。首筋から髪の生え際まで口付けると、噎せ返るような甘い香りが広がり、鼻いっぱいにそれを嗅ぐ。


「やっ、…ん、おにい、さま…っ」


はぁ、と首筋に呼吸を当てるだけでも可愛いらしい声をあげるなまえの腰を抱き上げ、両手でなまえの胸を揉みあげる。


「ねぇ、なまえ。いつになったら、名前で呼んでくれるの?」

「んっ、あ、」


とん、となまえの奥を突いて深夜は尋ねた。なまえの手が、白いシーツを掴む。
深夜となまえが体を繋げるようになったのはこれが一度や二度というわけではない。深夜としてはその小さな唇で、可愛らしい声で、是非とも自分の名前を呼んでほしいのだが、その後に続く『お兄様』が何とも憎らしい。


「あ、あぁ…っ!」

「は〜い、じゃ、呼んでみようか?」


押し込むように腰を進めると、なまえが甘い声で高く鳴く。むにりと胸を揉み、深夜はなまえの耳を甘噛んだ。これでは名前を呼ぶ前に呼吸さえもうまくできないだろう。それでも、自分の行為で息を乱すなまえを見て素直に我慢などできない深夜なのである。


「ん、あっ、だ、だめ、おにい、さまぁ…っ、」

「ん〜聞こえないなぁ。」


体が熱く蕩けてしまいそうな気持ちよさに体を捩るなまえに、深夜は逃げられないようきつく抱きしめながら胸を愛撫した。ぷっくりと立った先を指先で優しく抓り、柔らかい胸を堪能するように下からゆっくりとすくいあげ可愛がる。


「あっ、んんっ、お、おく、もう、だめ、だからぁ…っ」

「奥?こう?ここも、きもちいい?」


奥をもう突かないで欲しいと言った言葉が何故か「もっと」と解釈され、深夜がそこを狙って何度も同じ場所を突き上げる。一際嬌声が高くなったなまえの声に、深夜が耳元で囁く。


「ちゃんと呼ばないと、ずっとここばっか苛めるよ?」

「ふ、ぁあっ…、や、だめ、お、おかし、く、なる…っ」

「ふふ、それはそれで、僕は、楽しい、けどね。」


彼女に『お兄様』と呼ばれるのは嫌いではない。むしろ好きな方だ。誰もが呼ばれる呼称ではない。しかし、近しいものだけが呼ばれるそれには、自分以外にもあと何人か呼ばれるのを許されている奴らがいる。それとひとくくりと考えると、深夜はおもしろくないのである。


「ちなみに深夜様も駄目だからね。グレンと一緒だから。」


なまえは滅多なことが無ければ呼び捨てなどしないだろう。真昼の妹シノアだって、シノア様と呼ぼうとしていた、というのを聞いたことがある(今でもシノアの方が年下なのに呼び捨てで呼んだりしない)。親しいグレンにも、グレン様だ(まぁ彼は年上ということが大前提だが)。深夜は、兄ということも、彼女よりも年上だということも、全部なくしてなまえに「深夜」と呼ばれたい。早く、早くその可愛い声で自分を呼んで欲しい、そうなまえの耳に、低く甘く、囁きかける。


「なまえ、ほら、いい子だから…」

「んっ…!ああぁっ……!」

「…くっ、」


きゅうう、っとなまえの中が深夜を締め付ける。そのまま持っていかれそうなのを深夜は何とか堪え、ずるりと落ちるなまえの体をそっとベッドに寝かせた。滑らかな背中が激しい呼吸に上下し、ひくんひくん、と体をびくつかせる。シーツを手繰り寄せ、はぁはぁと息を荒くするなまえに深夜は覆いかぶさるように抱き締める。


「んっ、はぁ、ぁ、…し、ん、」

「……ん?」


シーツを握り締めるなまえの手を取り、自分の指と絡めながら何かを言い掛ける唇に顔を寄せる。やっと言ってくれるのかな、そう身を屈めると、絡めた指を、ぽってりと赤く火照った唇に引き寄せられた。そして、吐息と喘ぎ混じりに彼女は深夜の名を口にした。


「し、…しんや、さん…、」


彼女の甘い吐息が、指に掛かる。


「深夜、さん…、」


切ない顔で呼ばれたそれは、お兄様でも深夜様でも深夜でもなく、深夜さん、と。
予想していたものとは違うそれは深夜の胸にぽつりと小さな花を咲かせる。反芻するように繰り返すと、また反芻した分だけぽつりぽつりと花を咲かせる。控え目な、遠慮がちな彼女らしい呼び名は実に奥ゆかしい。まるで、そう。
―新婚のような。


「…………………………」


ぱんっ、と音が鳴る程、深夜は自分の顔を両手で叩くように覆った。


「しん…、」

「うん。大丈夫。全然大丈夫。」


嘘だ。全然大丈夫じゃない。
自分で呼ばせといて、勝手にダメージを喰らっている。呼ばれたまでは良かった。嬉しかったし、可愛かったし、もっと聞きたかったのだが、その後に自分が妄想したのが駄目だった。仕事から帰ってくれば玄関から出迎えたなまえが自分のことをそう呼ぶのかと勝手に妄想したのが、駄目だった。


「はぁ〜…もう。…結局僕は、なまえに弱いなぁ。」

「んっ、お、にい、さま…?」


抱き締めるとまだ中に入ったままの深夜がなまえの中を甘く突く。
せっかく「深夜さん」と呼んでくれたなまえがまた「お兄様」呼びになっているのを、むにっと胸を鷲掴むことで攻めるが、再び「深夜さん」と呼ばれてもまた変な妄想が独り歩きしてしまいそうだ。


「ねぇ、いつからなまえは僕で遊ぶような子になったの。」

「え、えぇ…!?」

「楽しい?僕を弄んで。」

「も、もてあそんで…!?」

「悔しいから、なまえが泣いてもやめてあげないから。」

「え、え、えぇ!?そんな、あっ、待っ…!」


中断されてた抽挿が再開され、主導権はあっという間に深夜に流れる。と言っても、なまえの中では最初から今ままで主導権はずっと彼のままなのだが。体を起こされ、深夜の胸になまえの背中がひたりと重なる。深夜の荒い吐息が耳にかかる。我慢ならないとばかりの息の荒さに、思わずなまえが振り返ればギラギラと雄の目をした深夜と目が合う。


「んっ、ふ、ぁ、」

「ん、なまえ、」


さらわれる様な口付けをされると、深夜が吐息混じりになまえの名を呼ぶ。なまえはそれだけでもまた達してしまいそうになる。弄んでいるなんて、そんなの一生無理だと彼女は深夜に口付けられながら思った。彼の熱、吐息、声だけで自分はもう、どうにかなってしまうのだ。


「…駄目、僕のことだけ考えて。他のこと、考えちゃ、許さない。」

「あっ、あ、あぁ、いやぁ、だ、だめ、あぁぁ…っ」

「はぁ、なまえ、僕の、なまえ、」


首筋に顔を埋めながら、深夜の剛直がなまえを突き上げる。なまえの体内は既にごつごつと音を鳴らされているように突きあげられ、もう何度目かわからない絶頂にまた追い上げられる。もう逃げ出すのも拒む体力も残っていないというのに、深夜はなまえをきつく抱き締め、逃がしてたまるかとばかりに腰を打ち付ける。


「あっ、ぁ、だ、め、あぁ…っ」

「…あぁ、いい、ね。僕も、そろそろ……っ」


深夜の動きが激しくなり、最早揺さぶられるように突き上げられた。そしてなまえの甘い声と深夜の吐息混じりの艶っぽい声と共に二人はベッドへと雪崩れ込んだ。


「あっ、あぁぁっ…!」

「…くっ、…ぁ、はぁ…、」


なまえの白い尻にかかった深夜の飛沫は火傷してしまうのではないかと思えるほど熱く、なまえはそれにさえも喘いだ。なまえの横にどさりと体を横たえた深夜は、息を乱すなまえに甘く微笑んでキスを繰り返した。押し付けられる唇は優しく、しかしほんの少し強引で、なまえの息はなかなか整わない。やがて一通り満足した深夜が半身を起き上がらせ、なまえの頭をゆっくりと撫でた。前髪を撫でる指先が心地いい。


「はぁ…、気持ちよすぎて、なんかそのまま寝ちゃいそうだね。」

「…まだ、寝ない、んです、か?」


そう言いつつ、深夜の撫でる手が気持ちよくなまえは既に意識が消えてしまいそうだ。うつらうつらとするなまえに深夜はにっこりと微笑み、ぐっとなまえを抱き寄せた。そしてなまえは気付く。深夜の冷めていない下半身の熱さに。


「……おにい、さま…?」

「まだ寝ちゃ駄目だよなまえ。僕はまだ一回しかいってない。」


泣いてもやめてあげない、そう言ったよね?と微笑む深夜に、なまえは「ひっ」と声をあげた。

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