奥底

「っ……」

「息、止めないで。」

「……ぁっ、」


深夜に腰をするりと撫でられ、なまえは深夜の指先を辿るように喘いだ。彼の指先はなまえの呼吸を促したようで、愛撫のようでもあった。どちらの意味で撫でられたのか、深夜のものを奥の奥まで受け止め余裕のないなまえには判断がつかない。
無意識に止めてしまう呼吸を、彼は見逃さない。なまえが少しでも痛そうだったり、辛そうだったりすると、彼はいつも優しくしてくれる。実際、彼女が深夜との行為で痛みを感じたのは初めて交わった時だけ。破瓜の痛みを味わったなまえは二回目の行為をひどく躊躇ったが、その時の深夜はなまえを抱かなかった。その代わり、うんと愛撫を受けた。もうやめてくれ、と叫びたいほど(いや実際叫んでいたかもしれないほど)たくさん喘がせられたし、足腰が駄目になりそうなほど愛撫を受けた。彼の手が、指が、唇が、舌が、彼女から溢れ出る蜜をすすっては舐めて味わった。


「ふふ、中から、溢れてきた。気持ち良かった?」


色素の薄い彼の髪が汗ばんだ額にはりつき、その前髪から覗く蒼い瞳を一層妖しくさせた。
気持ち良い?ああ、溢れてきたね。など、恥ずかしくて返答に困る言葉を深夜はよく使う。憧れのお兄様がそんな言葉を自分に使うのかと最初は戸惑いもしたが、今では彼が自分を女だと思って扱ってくれていることに胸の高鳴りが止まない。


「あっ、ちょ……、なまえ、そんな締めないで。」


気持ちいいから、と深夜はうっとりとした溜め息を吐きながら折り重なるようになまえに口付けた。降ってきた口付けをなまえは甘く受け止め、彼の肩甲骨に指先を伸ばした。軍服に包まれた体は無駄な肉などない、引き締まった形をしている。深夜の体を初めて見たときは鍛えられた体の凹凸に驚いたものだ。


「ああ、もう駄目だ。足腰がぐずぐずに溶けそ……。」

「あぁ、んっ、」


僅かに深夜が動き、なまえは鳴いた。あまりにも無防備な自分の声にはっと両手で口を覆うも、深夜に甲を口付けられ、その手を再度彼の背中に回すよう持っていかれる。


「もっと聞かせて。僕で、めちゃくちゃに乱れるなまえを、よく見せて。」

「……め、めちゃくちゃは、や、です……。」


恥ずかしげになまえが言うと深夜はくすりと笑った。そんな些細な動作でもなまえの中は切なくなる。


「めちゃくちゃじゃなければいいの?めちゃくちゃじゃない方法もあるけど。それも試していいの?」

「えっ、あっ、いや、そ、そういうわけじゃ……」

「いいよ、なまえのリクエストだからね。じっくりじわじわ可愛がるコースを今度してあげる。」

「!!」


それでなまえが泣いて僕を欲しいって言うまで可愛がってあげる。と言った深夜にいやそれはもう既にめちゃくちゃにされてないだろうか、となまえは困ったように眉を下げたが、すぐに深夜の動きに流されてしまう。


「でも、今はもう僕が我慢できないから、今度、ね。……は、」

「あっ、……っ、んん、」

「くっ、ぁ、……はぁ、可愛い、」


可愛い、僕のなまえ。なまえ。熱に魘されるように深夜は繰り返し、なまえもその言葉に応じて深夜をきゅう、と締め付ける。深夜に与えられる行為が、フッと底に落ちていくようにぞくぞくとして、怖くて、恐ろしいほどに気持ちがいい。自分だけが気持ちよくなっては駄目だと気を叱咤するが、いつも深夜という大波にさらわれてしまう。さらわれているだけなのに、どうしてこんなにも息が上がってしまうのだろうか。


「あぁっ、んん、ん…!」

「奥、ぐりぐりされるの、好きだよね。気持ちいい?」

「あっ、やぁ、おにい、さま……っ!」

「うん。僕も、気持ち、いい。ねぇ、もっとなまえのいいところ、教えて?」


たくさん可愛がって、もう僕無しじゃ生きられない体にしてあげるから。
そう呟かれた言葉は蕩けるほど甘い声で囁かれたのに、ほの暗い底に突き落とされるようにも聞こえた。


(底なんかじゃない。もっと、真綿でくるんで、僕だけしか開けられない秘密の箱に、閉じ込めて、鍵をかけて、閉じ込めて、僕のものだけに。)

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