我慢の一線を越える
「ねぇ、なまえ。僕は何処まで触っていいのかな?」
教えてくれないと、メチャクチャにしちゃうよ?耳元でそう囁かれ、下着の隙間から深夜の指が潜り込んできた。
「だ、だめ、お兄様、そんなところ触らないで……!」
こんな時でも、お兄様と呼んでくるなまえが憎くていとおしい。血の繋がりも、本当の兄でも何でも無いからお兄様なんて言わせなくても良かったのだが、彼女から「お兄様」と呼ばれるのは、深夜にとってかさついた心を優しく宥める響きを持っていた。
「やっ……!」
自分でも触れたことのない場所を大好きなお兄様に触れられ、ショックと驚きのあまりなまえは反射的に腰を引こうとした。しかし柔らかなソファに掛けた腰ごとぐっと引き寄せられ、深夜の指がひたりと閉じた割れ目をなぞった。指先が上下にゆったりと動き、なまえの蕾を開かせようとしている。
「なまえ、楽にして。たくさん可愛がってあげる。」
「やっ、」
甘く、掠れた声でそう囁かれると、深夜の指がぬるりと滑った。
「……濡れてる。」
嬉しそうに目を細めた深夜に、じわっと何かが溢れた感覚をなまえは強く感じた。先程深夜が言った通り、きっと触れられている場所が濡れてしまっているのだろう。月のものか、それとも粗相をしてしまったのではないかと、なまえは深夜から身を捩った。
「だ、駄目、触らないでください、あの、ご、ごめんなさい、ごめんなさい」
しかしなまえの捩りなど構いもせず、深夜は指を動かし続ける。深夜の指が動くたび、くちゅりといやな音がして、それを深夜に触れさせていると思うと死にたくてたまらない。
「なまえ?どうしたの?」
「き、汚い…、私、も、漏らして……、お兄様の、指を、よ、汚してしまって……」
死んでしまいたい。大好きな深夜お兄様を前に粗相をしてしまうだなんて。
恥ずかしさと極度の緊張により涙が一つ流れたと思うと二つ三つと後から止まらなくなる。とうとう小さな両手で顔を覆ってしまったなまえに深夜は愕然としたように思わず弄っていた指を放しまった。
「……なんてことだ…。僕は試されているのか……?」
そう呟いた深夜だが、ひくひくと泣いているなまえに無条件に胸が締め付けられる。自分の愛した女性はこんなにも純粋で無垢で穢れがない。そんな彼女を今、私欲のために蹂躙しようしている。深夜の心に一抹の罪悪感が滲む。しかし、僅かな滲みに深夜は首を振った。
(そんなもの、今更だ。)
自分が彼女を愛してしまった時点で、罪悪感は常に付きまとっていた。それでも、自分は彼女を離したくないのだ。誰にも譲りたくはないし、ましてや勝手に死地へと行くだなんて、縛り付けてでも絶対許さない。
深夜はなまえの泣き顔を隠す小さな手をどかせ、涙に濡れる彼女をいとおしげに見詰めたあと、しっとりと唇を重ねた。優しく、甘く塞がれた唇は何度も角度を変え深まっていく。
「んっ……、」
「汚いわけないだろ……。」
そう小さな唇に乗せるように囁き、深夜はなまえの下着を取り払った。内腿に舌を這わせ、ふくらはぎ、足首、桜色の爪先に吸い付くようなキスを重ねる。
「んっ、ん、く、」
再びなまえの体奥から何かがじわりと溢れ出た感じがした。止めたくても、止められない。もうこんな事は止めてほしくて、すがるように深夜を見詰めても深夜は目を細めて優しく口付けるだけで止まる気配がない。むしろ再び指がなまえのそこに這わされて、溢れ出るそれを指先ですくうようにして撫でてくる。
「やっ、ぁ、な、なに…あっ、」
「気持ちよくなってきた?大丈夫。なまえの気持ちいいことだけしてあげる。」
深夜の指が少し動くだけでもなまえの腰がひくんひくんと動く。深夜のいう「気持ちいいこと」に反応しているようで、恥ずかしくて堪らない。
一方深夜は自分の指で初めての感覚に戸惑うなまえをたっぷりと見詰めていた。
「可愛い、なまえ、可愛い。」
「やっ、深夜、ん、」
お兄様、と続けられる前に口をキスを塞ぐ。濡れた入口を執拗に指先で撫で回しながら口付けるとなまえが苦しそうに喘ぐ。彼女の呼吸も声も快楽も、今この手にあると思うと嬉しくて仕方がない。気持ちいいことだけしてあげると言ったのに、既に理性ががたついている。とろりとした目で見詰められたら、尚更だ。
「お願いだよなまえ。それ以上煽らないで。」
がちがちに膨らんだ欲望が彼女を早く暴きたいと騒いでいる。
僕は今も昔も変わらず、彼女をただ優しく愛してあげたいだけなのに。
ごめんねなまえ。
僕の大事な愛しい女の子。