お夜食(2/3)


「――っ!」


口いっぱいにご飯を含んだ膝丸は「誰だ」と声を上げることもできず、その音がした方向へと勢いよく顔を向ける。
そしてそこにいた人物に、これ以上ないくらいに目を見開いた。


「……あ、ご、ごめんなさい、覗き見るつもりはなくて……そ、その……」

「………………………………」


膝丸の鋭い眼光に気まずそうに姿を現したのは、夜着に羽織を肩にかけた審神者……であった。


「………………………………」


頬をぱんぱんに膨らませたまま膝丸はしばらく固まり、審神者はそんな膝丸を気にした様子もなく、むしろ膝丸に気付かれた事に恥ずかしそうにしていた。


「あ、あの、帰ってきたみたいだから、その、無事な姿を一目、見たくて……」


もじもじと細い肩を揺らす審神者は厨へと足を踏み入れ、少しずつ膝丸の方へと歩み寄る。膝丸は審神者の登場に一体いつから見られていた……? と、ぱちぱち目を瞬きながらも口の中の親子丼を飲み込んでいき、最後の一口を大きく呑み込んだ後、溜息と共に肩を落とした。


「ひ、膝丸……?」


急に項垂れた膝丸にどうしたの、と審神者は心配そうに距離を詰めたが、膝丸はなかなか顔を上げることができなかった。それはそうだ。審神者である主に、恋仲である女性に、頬いっぱいに食べ物を詰め込んでいる姿を見られたのだ。


「…………忘れてくれ……」

「え……?」


がっくりと肩を落とした膝丸から聞き逃してしまいそうな程小さな声が聞こえ、審神者は耳を寄せた。
しかし次の瞬間、膝丸が勢いよく顔をあげた。


「忘れてくれと言った……! こんな、食事にがっつく俺など……」


睨むような目を向けられた審神者ではあったが、膝丸の目は、覗き見が見付かったように登場した審神者よりも恥ずかしそうに潤んでおり、今度は審神者が大きく目を見開く番だった。それから何度か瞬き、膝丸の口にした言葉を何度か反芻するような間を置いた後、華奢な肩が細かく震えた。


「ふ、ふふ……。そんな、気にすることないのに」


おかしそうに肩を震わせる審神者に膝丸はまだじっとりとした目を向けては唇を尖らせるようにした。


「……寝ているのではなかったのか」

「ふふ、横にはなっていたよ。でも、やっぱり起きたの」


あえて『眠っていた』と言わない審神者に、帰還が遅い場合は先に休むこと、と説得した言葉はあまり意味をなしていなかったようだ、と膝丸は小さく溜息をつく。


「こんな遅くまで起きて寝不足で明日辛くなるのは君だぞ」


体を冷やして風邪でもひいたらどうするのだ、と続ける膝丸の言葉を聞き流しながら、審神者は膝丸の向かいの椅子に腰掛ける。そして膝丸が手にしている丼の中をちらりと見ては、僅かに首を傾げて膝丸にたずねた。


「親子丼、おいしい?」


掻き込んで食べるほどうまいのか、と問われているような気がして膝丸はぐっと返答を詰まらせた。
しかしあれだけ掻き込んでいて不味いと答えるのは無理がある。だいたい、嘘でも不味いと言えないほどこの親子丼は美味い。それに、心のこもった食事に嘘をつくのは作ってくれたものに対して失礼である。


「………………おいしい。とても」


素直な感想を審神者へ伝えると、審神者はほっとしたように顔を緩め、微笑んだ。


「……そう」


柔らかく目を細める審神者に膝丸は心の中で、可愛い、と呟く。
つられて頬が緩みそうになったが、これ以上彼女の前でだらしない顔はできないときゅっと眉間に皺を寄せる。


「あ、気にしないで、続き、食べて」

「………………」


向かいの席に座った審神者がそう言った。
そう言うものの、正直食べ辛くはなった。互いに食事をしているのならまだしも、膝丸だけが食事をし、審神者は何も食していない。おまけに眺めるようにされている。
しかし用意された親子丼をそのままにしておくわけにもいかず、膝丸は咳払いを一つして、先程より落ち着いたペースで再び食べだした。
その間も審神者は膝丸が食べる様子を嬉しそうに見ており、目が合うとまた目尻を下げるものだから、膝丸はいちいち見惚れてしまい、食事の手が止まってしまう。


「……た、食べにくいのだが」

「…………えっ……、あ、そ、そうだよね、ごめんっ」


思わずそう口にしてしまえば、審神者は今気付いたとばかりに慌てて顔をそらした。


「ええと……、あ、お茶、お茶いれるね」


両手をぱちりと合わせては立ち上がり、審神者はヤカンを手にしては流しへと向かった。
刀剣男士を何十振も抱える本丸の厨は純和風、というわけにもいかず、レンジ含め所々現世造りの厨は審神者もよく使用する。蛇口を捻って水を入れ、それを入れたヤカンを火にかけ、審神者は茶箪笥から何個か茶筒を手に取り、その内の一つを片手にまたヤカンの元へと戻っていく。
膝丸はその後ろ姿を眺めながら、残りの親子丼を口に運んでいく。
主である審神者に茶をいれさせるなど、いつもの膝丸ならば絶対にありえない、やらせない事であるが、今日は大人しく黙っていることにした。
何故なら、審神者のその後ろ姿がなんとも言葉にし難いほどに、…………いい、のだ。
てきぱきと茶の支度を整える審神者の後ろ姿に、膝丸はとある『妄想』をしてしまう。そしてそんな妄想してしまった自分が恥ずかしくなり、妄想ごと親子丼を掻き込む。


「はい、お茶置いておくね」

「す、すまない」

「…………………………」


膝丸が審神者の甲斐甲斐しい背中に妄想……いや、見惚れていたからか、いつの間にか湯飲みに茶をいれた審神者が膝丸の元へと戻ってきていた。
そしてその茶を手元に置くと、 またじっと見詰められる。
なんだ? と言いかけた膝丸の口に審神者の指先が触れる。掠めるように触れた指先はすぐに離れてしまい、ほんの少しだけ触れた温かい指先に膝丸の胸は僅かに高鳴った。


「ご飯粒、ついてた」


ふふ、と目を細める審神者の笑い声がくすぐったい。
口端に米粒をつけるなど、まるで幼子のようなそれに膝丸はまた恥じ入るのだが、審神者は手にした米粒を躊躇いなく自分の唇に運び、ぺろりと舐め取る。
桜色の唇に吸い込まれていった米粒は、赤い小さな舌先に誘われてすぐに消えてしまう。
膝丸はその米粒一粒が手元の親子丼よりもはるかに美味そうに感じ喉を鳴らしたが、まさかそんなわけがあるまい、と慌てて目をそらす。
また審神者と目が合って手が止まってしまわぬよう、丼に残っていた分を口に運び、米一粒も残っていない丼を机に戻し、匙を置いて両手を合わせた。


「じゃあ、お皿洗っちゃうね」

「いや、それくらい……」

「いいよ、座ってお茶でも飲んでて」


膝丸が食べ終えると、審神者が膝丸の丼を持っていき、そのまま洗おうとしているのを見て膝丸は慌てて止めようとした。
しかしそれは審神者によってやんわりとかわされてしまう。疲れているでしょう? と浮かせた腰を戻すように肩を押されてしまい、膝丸は座っているように言われてしまう。
いいや、自分が食べたものの片付けくらい……と返すところではあるが、何やら機嫌のいい審神者の笑顔に負けてしまう。まるで、膝丸の世話をしているのが嬉しいと言わんばかりの後ろ姿だ。

(まるで…………、まるで、夫婦のようだ…………)

払い退けようとした膝丸の『妄想』が今まさに願望と現実の狭間を彷徨っている。
彼女と自分が審神者と刀剣男士という関係でなければ、こんな風景もあり得たのだろうか。
そんな事を思いつつも、膝丸は夢でも見ているかのように審神者の背中をぼんやりと眺める。
夜着の袖をまくり、審神者の白い腕が肘上まで剥き出しになる。柔らかい髪を小さな耳にかけ、蛇口を捻る。食べ終えた丼を洗うために少し俯くようにすれば、細い首からうなじが無防備に晒された。その白いうなじにごくりと飲み込んだのは茶か、それとも生唾か。


「…………………………」


渇きを覚えた喉に茶を一口二口流し込み、膝丸は審神者の背後へと立った。
洗い物をする審神者のすぐ横に使用した湯飲みを置くと、気付いた審神者が顔をあげる。


「あ、ありが……と…………」


不意に審神者の言葉が切れてしまったのは、その審神者の腕を膝丸が撫でるように触れたからだ。
肩の付け根から二の腕のあたりを、ゆっくりと。


「ひ、膝丸……?」


羽織越しから膝丸の手が審神者の二の腕に触れる。緩やかな手つきで上下する膝丸の手に審神者は思わず身を捩る。


「な、なに……」


どことなくあやしげな触り方に洗い物の手が止まってしまう。


「あっ、あ、あの……っ?」


膝丸の息遣いを首裏で感じ、審神者はそれから逃れようと体を動かしたが、背中にはぴったりと膝丸の胸が押し付けられている。
ふう、とうなじに息が吹き掛けられ、審神者は込み上げる声を堪えるように顎をそらす。すると反らした顎下に膝丸の指先が滑りこみ、獲物の首を支えるかのように捉えては審神者のうなじに甘く吸い付いた。


「っ……、ひ、膝丸っ、洗い物、してるからっ」

「ああ、していればいい」


ちゅ、ちゅ、と首の後ろを吸われる音と感覚に審神者は手にしていたスポンジを落としてしまう。
膝丸の手が柔らかい果物の皮を剥くように、審神者の丸い肩を撫でては少しずつ少しずつ羽織と夜着をずらしていく。


「だめ、つ、疲れてるのだからっ、こんなっ」

「……む、また俺のいないところで根をつめたのか? 明日の朝はゆっくりできるよう君の予定を調節しておこう」

「ちが……っ、疲れてるのは私じゃなくて、膝丸の方……っ」


剥かれた丸い肩に膝丸がかじりつき、果汁をすするように舌先で肩から首元までをつうとなぞった。


「ん……、俺が疲れている、と?」

「そ、そう……っ!」


だからこんなことはやめてさっさと休むべきでは!? と審神者がこくこくと頷くと、その頷きを止めるように膝丸の指が審神者の顎裏を撫で、またうなじに吸い付く。


「そうだな、今日は少し疲れているかもしれん」

「な、なら……」

「だから、君が癒してくれるんだろう?」


…………誰が、なんだって? と審神者が振り向こうとするよりも先に、審神者の肩を撫でる膝丸の両手がゆったりと下り、柔らかな双つの膨らみを、その形に沿ってそっと包む。


「……っ」

「君が恋しい」


まるで、しばらく会っていなかったかのように耳元で切なげに囁かれ、固く寄っていた審神者の眉が呆気なくほどかれてしまう。
膝丸の熱っぽく潤んだ声に審神者はぶるりと身震いをした。そしてそんな審神者の温かな膨らみを包み込みながら、膝丸が呆れ混じりに言う。


「……君はまた下着をつけず…………。誰かと出くわしたらどうする」


あとは寝るだけであった審神者の恰好は、下着を外した体に夜着と羽織だけの姿であった。膝丸が触れた箇所は薄い夜着一枚を隔ているだけで、触れればすぐにありのままの形を感じとることができた。


「……っ、こんな遅い時間に、誰も起きてないよ……っ」

「だからといってこんな無防備な姿でうろうろしているとは、褒められたものではないな」

「……ぁっ」


叱るように膝丸の親指が審神者の胸の先をかすめた。かすめたそこは既に夜着をちょこんと押し上げており、膝丸は見なくてもわかるとばかりにその先を親指と人差し指で優しく摘まむ。


「んっ、……だって、も、もう寝るだけ、だったから」

「結局寝ていないではないか。遅くなる時は先に休めと俺が言っていたにも関わらず」

「あっ」


優しくも責めるように摘ままれ、審神者は膝丸の腕の中で小さくなる。
膝丸はその小さな体を抱き締めるように閉じ込め、可哀想なくらい大人しくなった審神者を見下ろした。身を守るように体を縮こまらせた審神者だが、それを膝丸の腕の中でやられても、転がすように目の前に差し出されたようなものだ。


「これでは食べてくれと言っているようなものだ」

「あ……」


膝丸の手が夜着の合わせ目にするりと忍び込み、何もつけていない審神者の膨らみに触れる。それは触れてもらうのを待ちわびていたかのようにしっとりと膝丸の手のひらに収まり、膝丸の手に合わせて柔らかく形を変える。
その柔らかな弾力に、膝丸が感動したかのように呟く。


「やわらかい……吸い付くようだ」

「……っ」


恥ずかしいことを口にしないで欲しい、と審神者は一人頬を染める。
膝丸はそんな審神者に気付き、何度夜を共にしても初心な反応を見せる審神者にくすりと笑い、色付く頬に唇を寄せた。


「君の可愛い顔を見せてくれ」

「やっ……」


自分でもわかるくらい赤くなっている顔が可愛いわけがない。審神者は小さな手で顔を隠すも、膝丸には審神者がそうすることが分かっていたかのように審神者の腰紐に手を伸ばし、しゅるりとそれを解いてしまう。
そのまま紐を引くようにして審神者の体を自分の方へと向け、正面から審神者の恥じる顔を覗き込む。


「あっ……やだ……」

「なに、そのように恥じても可愛いだけだぞ」

「……っ」


可愛がっている言葉だというのに、苛められていると受け取っているのか、細い腕を顔の前で交差させる審神者に膝丸の顔は緩んでしまう。
本当に、大事に可愛がっているはずなのに、そんな反応を見せられると苛めたくなってしまう。
膝丸の言葉ひとつひとつに過剰なくらい反応を見せる審神者の手を取り、膝丸は審神者の口元へと唇を寄せる。
すると、あんなにも恥ずかしがっていた審神者が膝丸の唇に気が付くと、そっと両目を閉じたのだ。
睫毛を震わせながら静かに伏せられたそれに膝丸は心の中で舌打ちをする。

(まったく……)

寄せられた唇に合わせて目を閉じる審神者が恐ろしいほど無防備で腹が立つ。
いや、他の誰でもない自分が審神者に口付けるのだから何も問題はないのだが、あんなに恥ずかしがっていても膝丸が口付けようとすればすぐに目を閉じるだなんて……。
これが自分でなくても審神者は目を閉じるのか? いいや、貞淑な審神者は決してそんなことをしないだろうが、万が一、零に等しいが万が一、膝丸以外の誰かが審神者へこれを強要した際、審神者はつい目を閉じてしまうのではないだろうか。
そんなことをされたら、こんな可愛い審神者を前に暴れない男などいない。膝丸でさえ毎度理性と戦っているのに、免疫のない者がこれを前にしたら確実に暴れる。大暴れだ。
……腹立たしい。
そんなことはこの膝丸がいる限り、絶対、絶対、絶……………………っ対にありえないことだが、そんなことになってしまったらこの無防備が許せない。
許せないくらい…………、可愛い。


「ひ……ひざまる……?」


待っていた口付けがなかなか来ない、と審神者がそろりと目を開けようとする。しかしそれを封じるよう、膝丸は審神者の唇に噛み付いた。


「んっ、ぁ、……む」


角度を変え、一度、二度、三度と審神者の唇に口付け、小さな顔を両手で包む。
審神者の小さな舌を追い掛け、少しでも触れるとすぐさま絡んでくる膝丸の舌は荒々しく獰猛だ。それなのに審神者の頬を包む手は優しく、崩れそうになる腰を支え、撫で、抱き締めてくる。ぶつけられる愛しさと劣情に審神者の下腹部が切なく疼いた。


「あ……、ひ、ざまる……」


ちゅ、ちゅ、と音をたてて膝丸の唇が審神者の肌に吸い付き、首、鎖骨と下がっていく。
腰紐を取られ、肩に掛かっているだけの夜着の襟元から膝丸の手が審神者の胸を撫で、唇はその反対側にある、つんと立った先端に寄せられる。


「あ、だ、だめ……っ」


胸の先に膝丸の視線を感じた審神者は、膝丸の後頭部に手を添えた。
短く跳ね上がった後ろ髪を撫でるように指を絡める審神者に、早く舐めて欲しいと求められているようで膝丸は一つ喉を上下させた。
駄目と口にしておきながら早くと急かすとは……。
おそらく審神者にはそんな意識はないのだろうが、都合のいいことは都合よく受け止めようと、膝丸は審神者のぷっくりとした先端を咥えた。


「んんっ、ぁっ」


審神者の胸をやわやわと揉みながら胸の先を口に含む。舌先で転がすようにしてやれば膝丸の頭を撫でる手が無意識に膝丸の頭を抱きかかえ、押し付けられるかのようにされるそれに膝丸は「……ここが極楽か」とこっそり溜息をついた。

(……今宵の君は、何か…………)

審神者の柔らかな胸に顔を埋めながら膝丸の頭にそんな言葉が浮かぶも、後に続く言葉が思い付かない。
しかし確実に審神者の様子がいつもと違う気がする、と考えながらも膝丸は審神者の体に口付けていく。
夜着を開き、もう片方の胸も同様に舌先で擽る。小さな円を描くように色の変わる線をなぞれば、審神者の口から甘い吐息が零れる。


「はあ……、んっ」


審神者の胸から顔をあげ、吐息ごと口付ける。唇に触れた吐息さえ甘い気がした。
膝丸は浅い呼吸を繰り返す審神者を宥めるかのように白い肌に切なく吸い付いていく。唇を滑らせるように審神者の体に口付け、薄い腹を通って審神者の下肢に辿り着くと、膝を折り、審神者を慎ましく守る薄い下着に手をかけた。


「やっ、膝丸……、も、もう、だめ、こんなところで……」


すると審神者がこれ以上は駄目だとばかりに弱々しく首を振った。
……ここまで俺を盛り上げさせておいて君は鬼か、と膝丸が審神者を見上げたが、薄っすらと色付いた肌と赤く膨れた唇、潤んだ目に、ああ、と悟る。
そして確かめる、というよりも、審神者の言ったことを言い当てるかのようにそろりと審神者の秘所に指先を滑らせる。


「やぁ……っ」


滑らせた先からくちゅりと音がし、膝丸は口端をあげる。


「いつもより、よく熟れている」

「……っ」


かっと赤が走った審神者の頬に膝丸はうっとりと目を細め、一度立ち上がってはその赤い頬に自分の頬を寄せる。


「『こんなところで』、君も随分興奮しているようにみえる」


耳を擽るようにして囁けば、審神者はふるふると首を振った。


「し、してない……っ」

「ほう……?」

「してない、からっ」


してないから、どうなのだろう。止めてくれと言っているのか、それとも確かめていい、と。
否定されればされるほど、暴きたくなる。
膝丸は審神者の耳殻に舌先を潜り込ませ、薄い耳朶を噛む。


「では、確かめてみようか」


耳元でそう囁き、逃がさないように審神者の腰を抱き、足と足の間に指先を滑らせる。


「……っ、い、いい、そんな、こと」

「そのいいは承諾と受け取る」


審神者の顎を上に持ち上げ、溶け出しそうなほど潤んだ瞳を見下ろす。流れる前髪をさらりと揺らして微笑めば、審神者が瞳を大きくし、ひくっと体を固くさせた。
審神者も、膝丸が審神者に対してそうなるよう、自分に見惚れてくれたのだろうか。だとしたら、付喪にとってこれほど嬉しいことはない。
審神者の甘く苦しげな表情を満足そうに眺め、膝丸は審神者の下着に指を掛けた。
腰の線をなぞるように下着をするすると下ろせば、薄い茂みが見え、その奥がとろりと溶け出しているのが見えた。
そこから零れる蜜は下着を引き戻したがるように透明な糸を引いており、慎ましい審神者が隠した淫靡な光景に膝丸は熱い息を吐き出した。
逸る気持ちを抑え、細い足から下着を抜き取る。
見上げれば期待と不安がまじった目でこちらを見下ろす審神者と目が合い、思わず渇いた唇を舌で舐める。
するとそれを見た審神者がふるふると首を振り、やめろと訴えていた。しかし残念ながらそんな顔をされてもせいぜい膝丸を焚きつけるくらいにしかならない。
膝丸は審神者の口から制止の言葉を聞く前に、前髪を耳にかけ、震える足の間に顔を埋める。


「あ……あぁっ……!」


身長差のある体を屈め、柔らかいそこに吸い付けばとろけた蜜が舌先に触れる。しとどに濡れたそこを啜るようにすればひくひくと審神者の薄い腹が震えた。


「ふっ、んんっ、あ、だめぇ……っ」

「可哀想に、こんなに濡らして……。気付いてやれなくてすまなかった」

「ん……っ、い、いい、から、やめてぇ……っ」

「大丈夫だ、責任をとって全て舐めとろう」


どんな責任だ、と審神者は膝丸の顔を離させようとするが、それよりも先に片足を掴まれ、膝丸の逞しい肩にまわされてしまう。
膝丸は湧き水を飲むかのようにそこに口付け、溢れる蜜を舐め取る。
蕩けるような舌触りと審神者の甘い声で蜜がいつもよりも甘く感じ、膝丸は夢中になって吸い付いた。何より審神者の蜜は触れるとすぐに溶けて無くなってしまう。舌先で無くなるよりも先に、審神者を深く味わいたい。


「あぁっ……! ひ、ひざ、まる……っ、だめ、だめっ」

「……ん、はぁ、もっとだ。もっと君が欲しい」


室内には審神者の声とぴちゃぴちゃといやらしい水音が響く。
それだけでも十分恥ずかしいのに、膝丸の息遣いを耳と体で感じてしまい、審神者は耳を塞ぎたくなった。しかし塞ぎたくとも片足を取られたこの格好では自分の体を支えるので精一杯で、審神者は流しに両手をついて膝丸のひたすらに甘い責め苦に耐えた。


「あっ、あぁ……」


膝丸の舌が蜜で濡れる花弁を丁寧に掻き分けると、審神者の真珠のように丸い花芯が剥き出しになる。膝丸は誘われるようにそこを口を寄せ、ふうと優しく息を吹き掛ける。膝丸の熱い吐息と、その吐息が離れた瞬間にひやりと触れる外気に審神者は弱々しく叫んだ。


「ひ、あぁ……っ」


触れられたわけでもないのに大きな声を出してしまい、審神者は恥ずかしさに泣きそうになったが、膝丸はそんな審神者を愛らしいと見詰め、目を柔らかくさせた。
恥ずかしい声を出して膝丸を驚かせてしまったのではないかと審神者は不安に思ったが、もちろんそんなものは杞憂で、膝丸は審神者の甘い声をもっと引き出させるかのように花芯を指の腹で撫で、吸い取るように口付けた。


「んんっ、んーっ!」


ちゅう、と花芯を甘く吸われると審神者の足ががくがくと震えた。
膝丸は審神者の白い内腿に頬擦りするように口付け、次から次へと蜜を流す花壺に少しだけ指先を埋める。


「んっ……!」

「まだ零れてくる……」

「も、もう、お、おわり……」

「いいや、駄目だ。君が俺に流してくれた蜜だ。全て俺が舐め取ろう」

「やぁ……」


とろりと溢れる花壺の入り口を膝丸の指が撫で、またそこに顔を埋めようとしているのを見て審神者はもう勘弁してくれ、と夜着を手繰り寄せた。
甘ったるい声と吐息を少しでも塞ぐように夜着を口元に持って行き、再び訪れようとする快楽を耐えようとすると、それを見上げた膝丸が心奪われたように呟く。


「……君は、無自覚に煽る天才だな……」

「え……? ……あっ、んんっ!」


蜜の溢れる花壺に膝丸が再度顔を埋め、温かく柔らかな膝丸の舌が審神者を責め立てる。
勘弁してくれ、まだ続くのか。という言葉が審神者の頭に浮かぶ。しかしそれは決して嫌悪ではなく、果ての見えない気持ち良さに心と体がどうにかなってしまいそうだと感じているからだ。


「あっ、駄目……っ、も、もう、立てな…………っ!!」


膝丸のいやらしくも優しい舌使いに体を支える腕と片足がぶるぶると震えだすと、膝丸が思い切り唇を押し付けてきた。体の水分という水分を吸い取るかのごとく吸われ、そのはしたない音と少しだけ入れられた舌先に審神者の体が強張る。
奥へと入り込もうとする遠慮ない舌先に全身が震え、その震えが脳天まで突き抜けた途端、審神者はふつんと糸が切れたように力を無くした。


「あっ……」

「……っと」


がくんっと膝を折った審神者の体を膝丸が抱きとめた。
その腕に縋り、は、は、と息をする審神者を膝丸は愛おしげに抱き締め、その頬に、首に、肩に口付ける。
審神者の息は全身に走った快感に震えており、肌に落ちる膝丸の唇でさえ敏感に反応していた。
色付いた薄桃の肌からはじんわりと汗が滲んでおり、その汗を膝丸がぺろりと舐めると舌先に甘い味が広がる。


「ん、ぁっ……」


膝丸は甘い露を舐め取るように審神者の肌に口付けを降らせ、舌を滑らせていく。もっと味わいたい、と審神者の体を流しの方へと向かせ、縁に両腕をつくように誘導する。
最早腕に掛かっているだけの羽織と夜着はくしゃくしゃだというのに、審神者が身につけているだけでまるで天女の羽衣を思い浮かべさせる。膝丸は審神者がどこかへ飛んでいかないよう、細腰を掴むようにして撫でた。
柔らかな線を描く審神者の体はどこもかしこも華奢で、丸い肩も柔らかい二の腕も、折れそうな細腰も触るのを躊躇うくらいに頼りないというのに触れられずにはいられない。
甘く色付いた肌は優しくも艶やかな色を放ち膝丸を誘う。
膝丸はそのまま吸い込まれるように審神者の胸を両手で覆い、腰から背中、うなじまで線を引くように舌を滑らせた。


「ひぁぁ……っ」


つう、と滑る膝丸の舌先に合わせて審神者の体がのけ反る。
しなやかに反る体を逃がさないよう抱き締め、瑞々しい体をたっぷりと舐め上げた膝丸は感嘆の息を漏らす。


「君はどこもかしこも甘いな」

「そ、んな、わけ……っ」

「いいや、とても甘い」


――甘くて、美味しい。
膝丸は肩口に顔を埋めながらそう言い、薄い腹をなぞって足の付け根へと指を滑らせる。


「ほら、ここなんて特に……」

「あっ、ん、んんっ……!」


潤んだ音と共に膝丸の指がゆっくりと審神者の中に押し入る。
奥へ奥へと入ってくる指に審神者は体を捩らせたが、抱え込むように膝丸の腕が絡みついてくる。


「また溢れてきているな。もう一度舐めた方がいいか?」

「やぁっ……! だ、だめ……っ」

「しかし、このままでは君のがこぼれ落ちてしまう」


恥ずかしい音を聞かせるように膝丸の指が審神者の中をゆっくりと掻き回す。
膝丸が変なことをしなければ、膝丸が再度舐めることも、審神者の愛液がこぼれ落ちることもない。
しかし耳元で聞こえた膝丸の声はあきらかに笑みを含んでいて、審神者がなんと答えても彼を喜ばせてしまいそうだ。だが、からかうような意地悪な膝丸に胸を高鳴らせている自分もいて、審神者は理性と快楽の狭間で溺れかけていた。


「ひ、膝丸……んっ」


助けを求めるように膝丸の方へ首を向けると、そんな審神者を楽しそうに眺める膝丸と目が合い、唇が押し付けられる。
違う。いいや、それも違わないが、審神者が求めているのはもっと飲まれるような強い波で。
その荒れた波を与えてくれるのも、そこから助け出してくれるのも目の前の男なのだと審神者は膝丸を見上げた。


「ひざ、まる……っ!」


浚って欲しい、と潤んだ目で膝丸に訴えると、それを見た膝丸がぐっと息を詰まらせた。

(なんて顔をするのだ……)

いや、悪くない。決して悪くない。
悪くないのだが、心の臓が止まるのではないかと思うほど愛らしかった。
愛らしいと同時に色っぽくもあり、瑞々しさもあり、その中で恥じらいも忘れぬいじらしさも感じ、くらりと目眩すら覚えた。
決して悪くない。悪くないのだが、咎めずにはいられないほど、悪い。主に膝丸の心と体に。


「……君は、目の前にいるのが腹をすかせた獣とほぼ一緒だということに気付いた方がいい」

「えっ……、あ、んん」


膝丸は審神者の腰を引き寄せ、夜着をたくしあげては既に痛いほどにそそり立った自身を潤んだ蜜壺にあてがう。


「ん、ぁ……っ」


審神者のそこは当てただけでひくひくと震え、まるで膝丸を早く早くと促しているようだった。それなのにこちらを見る審神者の目は追い詰められた小動物のようで。

(可愛い……死ぬほど可愛い)

この可愛さをどう表現すればいいのかわからない。しかし審神者の愛らしさで息を詰まらせ目眩すら覚えるのだから、きっと自分はこの可愛さでいつか死ぬに違いない。
死ぬという感覚は刀剣男士である自分の知らないところにあるが、おそらくこの感覚で間違いない気がする。でなければこの胸の苦しさはなんだというのだ。
膝丸は試練を受けるかのように短く息を吐き出し、溢れ出る蜜を拭い取るように自身を審神者へと擦り付ける。


「あ、やだぁ、膝丸、膝丸っ」

「…………っ」


――可愛いが、過ぎる……!


「あ……っ、ん、ぁぁ……!」


愛しい、恋しいと思う相手にあのようにねだられて耐えられる者がいたら見てみたい。
膝丸は審神者の腰を高く持ち上げ、熱くたぎった自身を突き入れた。
執拗に味わったそこは膝丸の痛いほど膨らんだ先を切なく締め付けた。先を入れただけでも搾り取られそうになり、散々審神者に煽られた膝丸は危うく熱を吐き出してしまいそうになったが、下肢に力を入れてなんとか堪えきる。


「くっ………………」


浅い一息をつき、審神者の腰を支えたまま膝丸は挿入を続けた。審神者の中は熱く柔らかく、膝丸のものを蕩けさせるつもりなのかと思ったが、中の柔肉はきゅうきゅうと膝丸を求めていた。
膝丸の形を確かめるかのように動く中に、心だけでなく体も求められている、と膝丸は満ち足りた笑みを浮かべる。


「んっ……、あっ、んん」


審神者の中を味わいながら膝丸のものがゆっくりと奥までおさまると、押し上げられるように審神者の上体が反る。膝丸はしなやかに反る背中に覆い被さるよう腰を折り、審神者の体を抱き締めた。


「こら、どこに逃げる。逃げ場などないぞ」


どこにも逃がさん、と膝丸は審神者の耳にかじりついた。


「ん、に、にげて、なっ、……やぁんっ、む、胸……っ」


それだけでなく、きゅっ、と膝丸の指が審神者の胸の先を転がすように摘まんだ。手のひらで胸をむにむにと揉みしだき、その手つきに審神者の中がきつく締まる。
まあ、この状態で逃げれるわけも、逃がすわけもないのだが、と膝丸は小さくほくそ笑む。しかしそれは膝丸も同様であるのだが、審神者が追い掛けても膝丸が逃げることはないだろう。むしろ今のように優しく抱きとめ、口付けを落とし、審神者に触れるものはこの膝丸以外許さないとばかりに囲うであろう。


「あ、ぅ……」


柔らかい体を全身で堪能しつつ、ひたすら唇を押しつける行為をどのくらい続けていただろうか。
腕の中の審神者が身を捩るようにしたのを見て、膝丸は上体を起こした。見下ろした審神者はくったりと流しの縁に凭れており、いや、縁を掴んでなんとか崩れ落ちずにいる、といったところだろうか。


(…………捕食、している気分だ)


自身をおさめたまま、膝丸はふと思った。
審神者の柔らかい肉に自分を突き刺し、逃げないよう抱き締めてはその皮膚にかぶり付く。うまそうに色付いたその肌は甘く、牙を立てずとも先が柔かく埋まっていく。その肉を傷付けぬよう、溢れ出る旨味だけを啜り、ひたすらその肉を味わう。

(いっそ頭から喰ってやりたい)

許されるのなら、審神者を丸ごと食したい。
白い肌に牙をたて、ぶつりと皮膚を破って喰らってやりたい。唇も、髪も、目も、手足も全て喰らえば、膝丸が審神者を恋しいと切なく思う隙などないくらいにひとつになれるというのに。そうすればこのように胸を苦しく締め付けられる感覚も無くなる。

(いいや、それは……駄目だ)

審神者を頭から食べて自分とひとつになるのは魅力的だ。しかしそうするともう二度と審神者の体に触れられなくなってしまう。
膝丸と呼んでくれる声も、柔らかい髪の感触も、微笑んでくれる目も、自分に触れてくれる手も失われる。
こうして、ひとつに合わさる二人だけの濃密な時間もなくなる。
何より………………、夜更かしさえ許さない膝丸が痛がる審神者を前にどうこうできるのか、という話だ。


「……あっ、やぁ」


馬鹿な考えに膝丸が笑うと、小さく揺れた振動が伝わったのか、審神者がぴくりと反応した。
膝丸は「ああ、すまない」と笑みを浮かべたまま審神者を抱き直した。


「な、なに……?」


急に笑いだしてどうしたのだ、と不思議がる審神者の頬に膝丸は唇を押し付ける。


「いや。君は美味しいな、と」

「…………はい?」


一体自分は何を言われたのだろう、と審神者が考えようとすると、その思考を奪うかのように膝丸が審神者の奥へと自身を押しあててきた。


「あっ、んんっ……あっ、……わ、わたし、食べ物じゃ、ない、よ……?」

「いいや、食い物、だな」


――とびきり極上の、膝丸だけの特別なご馳走だ。


「現にこんなにも美味い」

「ぅ、あっ……」


これを味わえるのは自分だけだと、審神者の腰を持ち上げ、膝丸がゆるりと腰を動かそうとした時だ。


「あ……あの……」


審神者が待てとばかりに膝丸の手に自分の手を重ねた。そしてちらりと膝丸を見ては気恥ずかしそうに視線を外した。


「…………お、親子丼、よりも…………?」

「……………………」


まさか、それを言い出されるとは思わなかった。
むしろなぜこのタイミングで出してきたのだと目を丸くした膝丸だが、もしや頬張っていた姿が審神者の記憶に濃く残ってしまったのだろうか。いや膝丸とてあんな姿を見せるつもりも、見られるつもりもなかったが、と眉を寄せ、審神者の手を握り返す。

「もちろんだ」

「………………そ、それはそれで複雑なんだけど……」

「うん?」

「う、ううん、あの、お、美味しいのなら、よ、良かった…………?」


あれ、良かったのかな? と自分でも言っていることがよくわからなくなっている審神者に膝丸は破顔しつつ、奥に押し込んだものを更に奥へと押し付ける。


「ふ、あっ、あぁ……っ」

「ああ、ほら、こんなにも美味しい」


押し上げるように審神者を後ろから突き上げ、膝丸の抽挿がゆるりと始まる。
自身を審神者の体によく馴染ませるように、焦れったいほどの緩やかな動作で膝丸は審神者を食した。といっても、審神者の呼吸が落ち着くまで動かずにいたおかげで、審神者の中はそれを待っていたとばかりに膝丸を締め付けてくる。
おまけに審神者のこの体は、膝丸に夜な夜な愛され、しっかりと膝丸の形を覚えてくれている。


「いや、実際食われているのは俺の方かな」


きゅうきゅうと締め付けてくる審神者の中はもぐもぐと表現しても間違いではない。
食べる、というよりも食べられていると考えを改めるとそれはそれで悪い気はしない。


「ん……んっ、あぁっ」

「俺も、君の舌に合うといいのだが」


そんな言葉とは裏腹に膝丸の表情は満足げだ。
合わないわけがない、とばかりに浮かべた自信に充ちた表情は、膝丸の手を握る審神者の力が強いからだ。与えている気持ちよさの度合いを示されているようで、膝丸はその手を握り返しては応えるように中を穿つ。


「あっ……、んんっ、……いっ、あぁっ」


膝丸と審神者の肌がぶつかる音が響く。
乾いた音の間に二人の蜜が絡む潤んだ音と、互いを求める熱い吐息が混じる。
その音が膝丸を更に昂らせ、審神者の細腰を掴むようにして楔を打ち込む。
膝丸に腰を引き上げられ、爪先立ちを余儀無くされている審神者の足はふるふると震え、緊張が伝わる。
またそのふくらはぎの張りさえも美しく、愛らしく、膝丸の情欲を掻き立てては繋がりが深まる。


「やぁっ、あっ、待っ……、待って、膝丸っ……あぁっ」

「……ん、気をやる際の、待ては、聞かんぞ……」

「違っ……、あっ、……が、つ、つ……っ」


むしろたくさん気をやるといい。気をやる時の君は、何もかも一等美しい。
そう膝丸が激しく揺さぶろうとした時だ。
膝丸の長い足につられて爪先立ちとなっていた審神者の体が大きく傾いだ。


「……っ!」


流しの縁からずるりと崩れた審神者の体を膝丸が慌てて抱えた。
すると審神者も膝丸の体にしがみつくようにして抱き着き、その体に顔を埋めた。


「うっ……ご、ごめん、なさい……っ」


下肢の力が抜けたようにすがり付く審神者の力強さに一体どうしたのだ、と膝丸は驚いたが、審神者の体を抱え直すとその腕の中から痛ましげな声が聞こえた。


「あ、あ……っ」

「あ…………?」

「………………足が……」


消え入りそうな声で『足が』と聞こえ、膝丸は審神者の足を見下ろす。
すると審神者の白い足が棒で固定されたかのごとく強張っており、それを見た膝丸はまさかと目を大きく見開いた。


「……………………つった……?」

「…………っ」


こくこく、と何度も頷く審神者に膝丸はひゅっと喉を鳴らした。

(馬鹿か俺は……っ!!)

腕の中で痛々しい表情を浮かべる審神者に膝丸は自分のやらかした行為を激しく猛省した。
腰の位置はもちろん、頭一つ分ほど違う身長差があるのに、あんな体勢で審神者を揺さぶればそれは足も引き攣るだろう。
膝丸の欲望にまみれた記憶の片隅に、爪先でなんとか立っていた審神者が過り、何故気付いてやれなかったのかと深く項垂れる。あまつさえ、そんな爪先立ちにさえ欲情していただなんてとてもじゃないが言えない。


「すまない……本当にすまない……」


膝丸は審神者を机へと腰掛けさせ、おそるおそる、ぴんと張った足に触れる。
情けない。心の底から自分が情けない。
好いたひとを貪るのに夢中で痛がる様子に気付けないとは。
膝丸の脳内に、居るはずのない髭切が「お前って子は……」と肩を落とすのが見える。まったくだ。膝丸本人でさえ肩を落としてしまう。
膝丸は慎重に審神者の足首を取り、ゆっくりと引き攣った筋を伸ばした。


「……うっ……うぅ……」

「す、すまない……っ」


慎重にふくらはぎから足首を伸ばしたはずだが、審神者の口から痛みを堪える声がし、膝丸は伸ばす手を緩める。最早謝罪の言葉と溜息しか出ない。そう自分に深く呆れる膝丸だが、そんな膝丸を見て審神者が心配そうにも、申し訳なさそうに膝丸の顔を覗き込んだ。


「あ、あの、膝丸は、だいじょうぶなの……?」


足の痛みに顔を歪めつつも審神者は膝丸にそう訊ねた。
審神者はこのように足がつってしまったわけだが、膝丸とて条件は同じく、身長差のある審神者に合わせて無理な姿勢を取っていたのではないかと心配した審神者だが、目の前の膝丸は審神者の足を大事そうに包んでは頭を下げた。


「俺は……すごく気持ちが良かった……」


……気持ちが良い、良くないの話は聞いていない。
しかしそんな返し方をするのだ、おそらく膝丸の方は特に体を痛めてはいないようだ。
流石刀剣男士と言っていいのか、鍛えられた体は造りが違うらしい。


「君の姿を見れたのが嬉しくて……つい、いや……その、がっついてしまった……」


言い淀みながら申し訳なさたっぷりに足の強張りを解こうとしてくれる姿は、先程まで審神者を快楽に追い詰めていた膝丸とは大違いで、まるで叱られるのを待っているようだった。膝丸を見詰めればバツが悪そうに視線をそらすので、審神者はそんな膝丸の姿をこっそり可愛いなどと思ってしまう。


「膝丸、嬉しかったの……? その、私の姿を見れて」

「……………………」


審神者の足をつらせてまで行為に及んだこの状況を見て言って欲しい、と膝丸は審神者をちらりと睨む。
しかし審神者はそんな膝丸の睨みを気にする様子もなく、むしろ「それじゃあ……!」と声を弾ませた。


「夜のお迎え、いいよね?」

「――それは駄目だ」


この流れからなら行けるのでは、と目を輝かせた審神者の言葉を膝丸はばっさりと斬り捨てた。
どうやら遅い時間の出迎えを審神者は諦めていなかったようだ。


「それとこれとは話が違う。夜の迎えは引き続き駄目だ。遅い時間まで起きたら次の日辛いのは君だろう」


確かに審神者の姿を見て嬉しくなり行為に及んでしまったが、それとこれとは別問題だと膝丸は切り返した。
これまで、夜戦帰りなど、夜遅い時間の帰還でも審神者は直接出迎えをしていた。
しかし戻りの時刻が遅ければ遅い程、翌日の審神者は寝不足でふらふらと足取りが覚束ない。執務中も何度も机に額をぶつけそうになったり、そのたびに頬を両手で叩いたり、あまり得意ではないだろう苦めのコーヒーを飲んだりと見ている膝丸は可哀想で仕方がない。
そして寝不足によるふらつきで、審神者が廂から簀子への僅かな段差に足を踏み外そうとしたのを咄嗟に助けてから、夜の出迎えは膝丸によって禁止された。
まあ、そうなる前に膝丸がこっそりと審神者に昼寝を促せば良かったのだが、如何せんこっくりこっくりと眠たそうにしている審神者の動作が幼く見えて、ついつい微笑ましく観察してしまっていたのは膝丸の秘密だ。


「皆が遅くまで頑張ってきたのに、それを出迎えないで寝てる審神者なんて私くらいだよ……」

「出迎えなど、誰にやらせても同じだ。他のものに任せればいい」


よそはよそ、うちはうち。とばかりに言う膝丸に、どうしても許してくれないのか、と審神者は寂しそうに肩を落とした。
見るからにしょんぼりと落ち込んだ様子を見せる審神者に膝丸は「ああ、君はまた、そう」とうんざりしたように溜息をつき、前髪をくしゃりと掻き乱した。


「……やめてくれ、君のそんな顔を見ると何でも許してやりたくなる」


呆れたような溜息と一緒に吐かれた言葉は膝丸の態度とは随分と温度差があり、審神者は一瞬何を言われたのか理解ができず首を傾げてしまう。するとそれを見た膝丸がますます信じられないものでも見たかのように複雑な表情を浮かべ、根負けしたかのように深く項垂れてから審神者が腰掛ける机へと両手をついた。


「夜の迎えをしたい時は必ず俺に声を掛けてくれ。俺が出陣で居ないのであれば兄者をつけること。それから薄着で出てこないこと、必ず上着を羽織ること、あと出迎えが終わったらすぐに休むこと……」


それから、とまだまだ続きそうな膝丸に審神者はきょとりと目を丸くさせたが、つまり膝丸か髭切を伴っていれば出迎えが許されるということらしい。
真正面から「わかった」と言わず、遠回しに許可するような言い方をされたのは、おそらく膝丸が出迎えを心から許していないからだ。その証拠に膝丸の出迎えの条件は未だに続いており、素直じゃない膝丸の優しさに審神者は思わずくすくすと笑ってしまう。


「……おい、聞いているのか」


ちゃんと聞いていれば笑うところではないのだが、と膝丸は審神者の額に自分の額をこつりとつけた。


「ふふ、聞いてるよ」


それでもおかしそうに笑っている審神者に、もう審神者が何をしても可愛くて仕方のない膝丸だったが、無駄だとわかっていても睨まずにはいられない。しかしそれもすぐに崩れてしまい、困ったように眉を下げては審神者と同じく笑ってしまう。


「いいや、聞いていないな」

「聞いてる、よ?」

「なら先程俺が言った条件を言ってもらおうか」

「ええっと、髭切をつけること……?」

「ほら、全然聞いていない」

「ふふ……、膝丸、くすぐったい」


頬を摺り寄せ、叱るように審神者の耳にかじり付く膝丸に審神者は擽ったそうに肩を寄せた。
そのまま、更に擽るように耳に口付ければ審神者の足がぱたぱたと動き、もう足の突っ張りが解れていることを告げる。
それから二人は啄むような口付けを交わし、しばらく室内には二人の口付けの音と微かな笑い声だけが響いた。


「……さて」


膝丸は審神者の太腿を優しく撫で、審神者に触れるだけの口付けを押し付ける。


「部屋に戻って仕切り直す、か……?」


一度中断してしまった行為の続きを膝丸はやんわりと求めた。
控えめに、しかしまだ満腹にはなっていないのだが、と腹を空かせた子のようにおかわりを求める膝丸に審神者は照れてしまい視線を外した。しかし膝丸の夜着の袖を摘み、ちらりと膝丸を見上げる。


「……お部屋に戻ったら、ほっとしてそのまま寝ちゃう、かも……」


暗にこのままで、と言われてしまい膝丸は、一体どこからどこまでが審神者の計算でどこからどこまでが無自覚なのだ……! と叫びそうになったが、なんとか飲み込み、余裕のある笑みを浮かべているふりをして審神者に唇を押し当てる。


「それは、聞き捨てならんな」


据え膳食わぬはなんとやら。もう据え膳どころでもなんでもないくらいに食してはいるが、膝丸の頭にそんな言葉が浮かぶ。


「――では、君の熱が冷めぬうちに頂くとしよう」


誰もが寝静まっている深夜。
皆には内緒で、二人だけの夜食をこっそりと食べるように、二人の唇が重なる。


「ん……ふ……」


膝丸は審神者に口付けながら、下からすくい上げるようにして審神者の乳房に指を埋めた。手のひらに吸い付くような弾力を楽しみつつ、ぴんと立った胸の先を親指と人差し指で捏ねる。


「んん、ぁっ」


審神者の夜着を全て脱ぎ取り、それを机の上に敷いてはその上に審神者を座り直させる。
審神者を割れやすい陶磁器か何かのように扱う膝丸の優しい手を審神者が取り、その手に自分の頬を摺り寄せる。膝丸の大きい手にすっぽりと収まる小さな顔が幸せそうに目を細めたのを見て、膝丸も同じ表情を浮かべ口付けた。
口付けを交わしつつ、膝丸の手が審神者の足を割り、薄い茂みへと触れる。すると触れたそこから、くちりと濡れた音がし、審神者は頬を染めた。


「……欲しかった?」


そう膝丸が意地悪そうに聞けば、審神者はよく見ていないと見逃してしまいそうなほど、こくんと小さく首肯した。
するとそれを見た膝丸が難しそうに眉を寄せ、ぽつりと零す。


「………………君といると自分が変態にでもなった気分だ……」

「…………え……?」

「いいや、なんでもない」


何でもないのだ、と口にした膝丸の言葉は審神者へと向けたものか、それとも自分へと向けたものか。
……審神者を苛めれば苛めるほど、何故か自分に返ってきている気がする。
嬉しいような、嬉しくないような。いいや、審神者が可愛いのだから嬉しいに決まっているのだが、審神者が可愛い反応をすればするほど膝丸の胸が苦しく締め付けられる。今でさえ再びがっついてしまわぬよう優しくしているつもりなのだが、気を抜くとすぐに押し倒してむしゃぶりつきたくなる。
膝丸は審神者を食べるのに夢中でそのままだった自分の夜着へと手を掛ける。
腰紐を解き、前を開けば硬く立ち上がった欲望が審神者の中にはやく入りたいとひくつく。膝丸は自身に落ち着け、と息をついてから、先を蜜壺へと宛がった。


「あ……膝丸……」


膝丸は審神者の蜜を擦りつけるようにして自身で花芯を撫で上げ、審神者の快感を引き出す。


「……っ、ひざ、まる……っ」


切なげな顔と声で名を呼ばれ、膝丸のそれが早くと脈打った。


「……っ」

「あっ……あぁっ」


滑るように膝丸の先が審神者の中へと顔を埋め、柔らかい肉壁をなぞっては深く沈んでいく。
隙間を埋めるように膝丸のものが中へとおさまっていき、隘路を押し広げていく圧迫感に審神者は息を詰めたが、最奥へと膝丸が届くと得も言われぬ充足が心を満たす。
ぐう、と膝丸がおさまると同時に逞しい腕に抱かれ、審神者は膝丸の背中に腕を回した。互いに熱でもあるのではないかと思うぐらいに体が火照り、その心地よい熱の高さにどちらともなくうっとりと息を吐きだす。ほぼ同時に出た吐息に二人は鼻先を擦り合わせ、唇を合わせた。


「膝丸」

「……ん?」


審神者の細い指が膝丸の頬を包み、顎の線を撫でる。
見れば幸せそうに微笑む審神者がそこにおり、本当に彼女は天女か何かなのではないかとぼんやり思ったところに、桜色の唇が膝丸の名を呼んだ。


「……膝丸、おかえり」


おかえりさない、と重ねるように続けて、審神者が膝丸へと口付けた。
直後、口付けた審神者がびくりと震えた。


「やっ……、えっ……!?」


中の熱が質量を増した気がして審神者は狼狽えた。


「はー…………………………」


目の前の膝丸から息継ぎが心配なるほど長い息が吐き出された。


「ひ、ひざまる……?」

「今のは君が悪い……。絶対、俺のせいではない」


長い前髪に隠れる膝丸の目を覗き込むように、審神者の手が膝丸の前髪に触れる。すると膝丸はすぐさまその手を取り、引き寄せた手を自分の唇に押し当てた。


「俺をこんなにも掻き乱し、さぞ楽しいだろうな!」

「は、はあ……」


ちゅ、と審神者の指に口付けるわりには怒気が含まれたような言葉に審神者は困り果てた。
またそんな顔も可愛らしく、膝丸は審神者を強く睨んではぐっと奥を突きあげた。


「……やぁっ、んっ……!」

「出迎えなど、俺だけにしてくれ」


そんな可愛い仕草で出迎えられたらどんな疲れも吹っ飛び、嵐の中また出陣しろと言われても喜んで行ってしまいそうだ。まあその前に審神者をぎゅうぎゅうに抱き締め、口付けてからになるが。


「あ……あぁ……んっ、あぁっ」


ずるりと自身をぎりぎりまで引き抜き、また最奥まで押し込む。
びくんっと跳ねる腰を掴み、膝丸はゆっくりと腰を動かした。


「ひ、ぁ……っ、そ、それ、だめ……っ、あぁんっ」

「ん、どれが駄目だ……これか……?」

「あ、……あぁっ」

「それとも、こちらか」

「ひゃんっ……あっ、あぁっ」


膝丸が中から抜け出てしまいそうな感覚に審神者の全身はぞくぞくと震えた。しかし入口で膝丸の先を感じるほどに引かれた瞬間、最奥まで一気に貫かれ全身が甘く痺れる。


「んんっ、だめっ……、膝丸っ、だめ、なのっ……」

「駄目じゃない」


膝丸の下で膝丸の与える快感に身を震わせる審神者に、膝丸は恍惚の笑みを浮かべる。


「あっ……あ、んっ、ぅ、あぁっ」


甘い吐息を繰り返しながら押し寄せる快楽に戸惑う審神者は何度見ても愛らしい。余裕の無くなってくるさまが実にいい。追い詰められ、かたく目を瞑る審神者に、その視界に自分を映して欲しいと膝丸は頬を撫でた。
審神者の目に映るもの全てが自分であれば、と審神者の頬を包むと、潤んだ目の審神者がぼんやりと膝丸を見詰めた。とろりとした目が飴玉のようで、その目から涙が零れるのならそれはきっと甘いに違いないと膝丸は目を細めた。


「かわいい」


そして何度も心の中で口にした言葉が零れる。
瞬間、審神者の中がきゅうと締まり、膝丸は奥歯を噛み締めた。


「……くっ…………、はっ」


可愛いの一言に反応するように膝丸を締め付けた審神者に可愛さと興奮が募り、膝丸の腰の動きがはやくなる。


「あっ、やっ……あ、んっ」

「……嫌、じゃないだろう……?」


こういう時は、なんと口にするんだ? と教え込ませた言葉を引き出すよう、膝丸が審神者の顎を取って親指で唇を撫でる。柔らかい唇に少しだけ親指を押し付けると、甘い吐息と赤い舌の感触が伝わり、それだけでも膝丸は気持ちよくなってしまいそうだった。


「んっ……あ……き、気持ち、いい……」


いや、現にひどく気持ちが良い。
恥じらうように手の甲で口を覆った姿が艶めかしくも愛らしい。女を感じさせる色香を放ちながらも少女のような初心さと恥じらいを忘れない審神者に膝丸は軽い眩暈を覚える。


「いけないひとだ……こうも俺を篭絡して……」

「やっ……なん、でっ……あぁんっ」


前屈みになり、審神者を追い詰めるように突き上げた膝丸に審神者は甘く啼いた。
そう言え、と言われたにも関わらず、窘めるように激しさを増した腰の動きに何が正解だったのかわからぬまま審神者は揺さぶられ、膝丸の律動に合わせて喘いだ。


「んっ、あ、あっ、んん」


膝丸の太くかたいものが審神者の肉壁を撫で擦り、膝丸はその熱で、目で、体全てで、審神者を高みへと引き上げる。
互いに弾けそうな熱の出口を求め、審神者は背中をしならせたが、膝丸はそんな審神者に覆い被さるようにして体を押し付ける。
まるで逃がすものかと捕食するように。


「ん、んぅ、ひ、ざまる……っ、膝丸っ」


求めるように名を呼ばれ、膝丸は審神者へと口付ける。
しっとりと柔らかい唇を堪能しつつ、膝丸は審神者を切なくも愛おしげに見下ろした。


「はぁ……、う、……気持ち、いいな」

「あ、んっ、ふ、……んんっ」

「いや、美味しいの、間違い、かな」


喘ぐ審神者の唇をぺろりと舐め、膝丸が最奥を抉るように腰を打ちつける。
浮かせた背中のせいで膝丸の熱く膨らんだ先が審神者の最奥へと届き、ぐりぐりと抉られる感覚に審神者はどんどん追い詰められた。


「ひあっ……」


暴かれていく中に審神者はだんだんと自分の体がどこかへ放り出されてしまうのではないかと思い、膝丸の首に腕を回した。


「んっ、んんっ、も、もう、だめ……っ、あ、あぁんっ」


迫り来る強烈な快楽はもう気持ちが良いのか苦しいのかわからない。
いや、気持ち良すぎるから苦しいのかもしれない。


「そうだ、しっかり掴まっているといい」


激しく揺さぶられる意識の中、膝丸の口にした『掴まる』が『捕まる』にも聞こえた。
それはきっと、目の前の膝丸が切羽詰まったように息を詰めながらも、獰猛な獣のように笑ったからだ。


「骨の髄まで喰ってやる」


耳元で低く囁かれた声に導かれるようにして審神者はせり上がってきた快楽の波にのまれた。


「あ……あぁぁっ……!」


体が持って行かれる感覚に審神者の中がぎゅうと引き締まると、一拍置いて膝丸の腕が審神者をきつく抱き締めた。


「……くっ、ぁ」


膝丸の苦しげな声の後、審神者の中に温かいものが迸る。
それさえも甘い苦痛で、審神者は膝丸の腕の中でひくひくと小さく喘いだ。
膝丸の唇が宥めるかのように審神者に降り注ぐ。いや、宥めるつもりもなく、ただ審神者を細部まで味わいたいだけかもしれないが。


「ん…………」


目をとろんと蕩けさせつつも、少しずつ意識を取り戻してきた審神者が膝丸からの口付けに擽ったそうに身を捩った。


「ひ、膝丸……、ちょっと、待って……」

「……ん?」

「膝丸から、きいて、ない」


口付けをやめさせるように、審神者にやんわりと胸を押された。


「何を……?」


見下ろした審神者は少しだけ拗ねたようにも寂しそうにも見えるような顔をし、膝丸を見上げていた。


「……おかえり、のあとは……?」

「…………………………」


言葉の続きを強請る審神者に膝丸は目を丸くさせたあと、完敗だとばかりに苦笑した。
そこまで言われたら、審神者の出迎えに関しての熱意を認めざるを得ない。
膝丸は審神者の言葉の続きを口にし、審神者へと口付けた。
何故そうまでして出迎えたがるのだ、と審神者の衣服を整えながら膝丸が問うと、審神者は「やっぱり、好きな人が帰ってきたら一番に『おかえり』って言いたいな」と気恥ずかしそうに口にしたのを見て、膝丸は部屋に戻ったらもう一度審神者を抱こうと決めたのであった。

お夜食

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