君の玉座(2/2)

***


「よいしょっ」
と、部屋に運ばれてきた大きな椅子に膝丸は眉を寄せた。
「兄者、それは……」
部屋で寛いでいたら、兄の髭切が何か大きなものを運び入れた。
一体何を持ってきたのだと見れば、それはまあ大層な座椅子で。そんなものを部屋に置くなど一つも聞いていなかった膝丸は突然どうしたのだと訝しめば、部屋の奥に座椅子を置いた髭切がそこに腰掛けた。
「ふふ」
長い足を組み、気持ち良さそうに腰掛ける髭切はすごく機嫌が良さそうだ。……怖いくらいに。
「あの子からもらったんだ。汚れちゃったからいらないって」
「はぁ……?」
あの子とは、おそらくと言わず審神者のことだろう。
つまり、なんだ。審神者から汚れていらなくなったものを譲り受けてきたのか。
……それは……、どういうことだと少し混乱する。
あの審神者が「汚れたからいらない」という理由で髭切にお下がりを譲るようには思えない。なんたってあの娘は人に気を使い過ぎる性格の持ち主だ。気を使い過ぎて自分のことを疎かにしがちで髭切が心配するほどだ。そんな娘がお下がりを……? 物をやるとしたなら新しいものを寄越してきそうだが。
それに、髭切が譲ってもらったという座椅子は見る限り新品に思える。プレゼントの理由として「汚れたから」なんて言ったのか。しかしそんな風に髭切へプレゼントを渡す審神者も想像がつかない。更に言えば審神者が髭切だけにプレゼントを寄越すのも不自然過ぎる。それに……。
「そう言えば、主は座椅子が欲しいとぼやいていたな」
何やら最近は出掛けの用事が減ったらしく、デスクワークに勤しんでいたら腰を痛めたと苦笑まじりに話していたのも聞いている(「は、恥ずかしいから髭切には黙っててね……!」と言われたのは黙っておく)。
もしや、髭切はそれを譲り受けたのだろうかと首を傾げていると、その髭切は腰掛けた座面を撫で、ふふふと小さく肩を揺らす。
「そう。僕がね、その座椅子を汚してしまったから。主を怒らせてしまったんだ」
怒らせてしまったというわりには楽しそうにする髭切に、この兄はまた審神者を困らせるようなことをしたのかと嘆息する。
「兄者……」
「あ、でも汚したのは主……? 僕……? ……まあ、細かいことはいいや。この椅子は僕のものだから、お前は座っては駄目だよ」
「興味がない」
「そうなのかい? 駄目とは言ったけど、座り心地はいいよ」
「座り心地がいいのなら、主に使わせてやればいい」
何で汚してしまったかは知らないが、一人掛けのソファ程度もあるこの座椅子なら、それなりの値段がしたのではないかと思う。汚してしまったというのならその汚れを丁寧に拭って、謝罪と共に渡してやれば突き返されることもないだろう。
呆れながら言えば、髭切は伸ばした足を抱え、その膝に頬を乗せて膝丸に微笑んだ。
「だめだよ。あの子にはもう、立派な椅子がいるからね。これはあの子には不要だよ」
「…………」
…………いる……? 
ある、の間違いではないかと聞き返そうとしたが、何やら含んだ笑みを見せた髭切に不穏な気配を察知した膝丸は、これ以上の詮索はやめておこうと口を噤んだのであった。


後に、その時の兄は腰を痛めた審神者から部屋を追い出されたのだと聞き、膝丸はきつく目頭を押さえたのであった。

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