家族がひとり増えました








寒空の下、2人で手を繋いで帰った。
部活帰りの遅い時間、この季節は真っ暗で人通りも少なく、どちらともなく自然に指を絡めた。
秘密の関係、と言ってしまえば聞こえはいいけれど。
なかなかにして不便なこともある。
たとえば、こうやって堂々と手を繋いだり、肩にもたれかかったり、することは難しい。

「みとべー」
「?」
「なんもないよー」

背の高い彼の肩にぐりぐりと額を擦り寄せる。
顔は見えないし水戸部は話さないが、和らいだ雰囲気で微笑んだのがわかった。
そんなことでさえ自分は嬉しくなってしまう。
風は冷たく吐く息は白いが、繋いだ手も、胸の内も温かい。
満たされた時間だと思う。
こんななんでもない時間が、限りなく愛しい。

でも、そんな時間はいつまでも続かなくて。

「……」
「…水戸部?」

ぴたりと止まった水戸部に首を傾げればそこはもう自分の家の前で、途端に小金井は顔をしかめる。
こういうときに限って時間の経つのは早い。
立ちすくむ小金井を不思議に思ったのか水戸部が顔を覗き込んでくる。
明日も朝練があるし、水戸部には小さい弟妹がいるから頻繁にはお泊まりできない。
だから我が儘を言って困らせたくない、でも。

「…みとべ、ちょっとぎゅってして」
「……」

別れ際はいつも離れがたい。
今日みたいな日は、特に。
明日も明後日も会えるし、こんな遅い時間だから風呂入って飯食べて寝たらすぐ朝になるのに。
ほんの数時間が忌々しい。

水戸部は何も言わずに抱き締めてくれた。
光が当たらない一層暗い場所で、温かく広い背中に腕を回す。
吸い込んだ空気は冷たくて、微かに水戸部の匂いがした。

「…離れたくないな」

ぽそりと呟いた言葉は水戸部のコートに吸い込まれて消えた。
どれくらいそうしていただろう、ぎゅうと、突然腕に力を込められて驚いて顔を上げる。
ふわりと近づいた空気。
唇に触れ合うだけのキスが降り、ぺろりと頬を舐められた。
びっくりして固まれば、薄暗い中でもわかるくらい悪戯っぽく水戸部が笑って。

『早くいかないと食べちゃうよ』

抱き締められていた腕が離れ、手を振られる。
暗闇でもわかるくらい真っ赤になった小金井は水戸部のバカー!、と叫んで後ずさった。
楽しそうに水戸部が笑う。
それを見て、ちょっとだけ胸が晴れた。

「また明日ね、水戸部!」

振り切るように手を振って、玄関をくぐった。
だから、水戸部が寒空の下しばらく佇んで、小金井が消えた後の扉をじっと見つめていたことを誰も知らない。










「あ、水戸部からメールだ」

あれから時が経って、自分たちは大学生になった。
水戸部と小金井は同じ大学に通っているが学部が別々で、部活は相変わらず続けているがなかなか会う時間が減った、と思う。

「…っ!!」

そんな矢先にとんだメールが飛び込んできた。

「嘘…超うれしい」

小金井は大学に通い始めてから一人暮しをしていた。
しかし水戸部は、やっぱり弟妹もいるからと実家から通っていたのだが。


『ようやく色んな準備が済んだよ。
…一緒に住もう?
そうすれば、帰り道にバイバイしなくてすむよ』


何度も何度もメールを見直し、昔の情景が蘇る。
ドキドキする鼓動が止まらない。
抑えきれずに震える指でメールを打った。
今から会いに行くから!!と。
この嬉しさを、伝えたくてたまらない。
メールじゃ足りない、言葉で直接伝えて、あの広い胸に飛び込みたい。キスしたい。
今まで幾度となく繰り返された2人の帰り道、その別れ際に同じように離れたくない、と感じていて、
しかもそれを解決しようと頑張ってくれたことが嬉しくて仕方ない。

靴を履いて振り返った自分の部屋。
何もかもが1人分。
でもそれが、もうじき2人分に増える。
駆け出した小金井は満面の笑みで思うのだ。
もうこれからは我慢も寂しい思いもしなくていいのだ、と。


『家族が一人、増えました』







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