◎ 視線と視線でつなぐ(白石)
廊下から視線を窓の外に向ければテニスコートが見えた。
ここはテニスコートを見るのにはとっておきの場所で女の子達に邪魔されず尚且つ目立つことなく見学することが出来る素晴らしい場所だ。
私の視線の先にいるのは同じクラスの白石君
テニスをしているとよりキラキラしたオーラが増してるような気がする。
何だか輝いてると小さく笑ってしまった。
言わなくても分かると思うが私は白石君が好きだ。
けれど恥ずかしくて彼の顔を見ることも他の女の子達みたいに声に出して応援することなんて勿論できるわけなくて私はいつもひっそりと此処で彼の応援をしている。
頑張れ、頑張れ白石君、頑張って
恥ずかしくて声に出せない声援を心の中でひたすら白石君に送る。
テニスをする白石君は生き生きとしてカッコイイと思わず笑った。
やっぱり白石君が好きなんだと再確認しながら彼に視線を向ける。
きっと思うだけなら誰にも迷惑にはならないだろうとテニスをする白石君に視線を向けて心の中で呟いた。
好き、好き、大好きだよ白石君
言葉にできない溢れる想いをありったけ視線にのせて彼を見つめた。
しばらく彼を見つめていると不意に彼と視線が合った気がしてドキリと心臓が高鳴ったが、テニスコートは此処は少し遠いのできっと見間違いだと高鳴る自分の胸に言い聞かせた。
小さく息を吐いてもう一度テニスコートを見れば白石君の姿がなくて少しがっかりしてしまった。
休憩かな、と窓ガラスに背中を預けて大きく息を吐くと誰かにガラスをコンコンと叩かれた。
誰だろうと振り返ればそこにいたのはガラス越しに私に爽やかな笑顔を向ける白石君だった。
突然の憧れの白石君の登場にパニックになってフリーズしてしまった私は白石君がもう一度ガラスを叩く音にハッとして窓を開けた。
「し、白石君…」
「いきなりびっくりさせてしもうたな、堪忍やで苗字さん」
「ううん平気だよ、白石君こそ部活行かないと駄目じゃ…」
「今は休憩中やから平気やで」
「そ、そっか…」
間近でキラキラしたオーラを振り撒かれて私は気絶するんじゃないかと思うくらい眩しくて彼が見れない。
視線をさ迷わせる私に白石君はまるで王子様のように笑うと私に声をかけてきた。
「自分、さっき俺のこと見てたやろ?」
「えっ…」
「いや、今日だけやなくて結構前から此処でずっと応援してくれとるやろ?知っとったで」
「あ、…うえっ…その…」
白石君のまさかのカミングアウトに顔が熱くなった気がした。
気付いてたんだと嬉しい反面恥ずかしくて堪らない。
白石君をまともに見れなくなって視線をさ迷わせる私に気付いたのか、白石君はいつもの笑顔で窓枠に肘をついて私を眺めている。
いたたまれない気持ちで制服のスカートをきつく握った私は聞こえてきた白石君の穏やかな声に顔を上げた。
「……ちゃんと伝わっとるで苗字さん」
「白石君…?」
ジッと白石君に見つめられ驚いて肩が揺れたが、くじけそうになる気持ちを何とかとどめて負けじと彼を見つめ返した。
優しく穏やかな瞳の奥に揺れる彼の視線が酷く熱っぽい。
私はこれによく似た視線を何処かで見たことがある。
「…苗字さんには伝わらへんかな…俺の気持ち」
「あ…」
そうだ、私はよく知っているはずだ。
だってこれは、この視線は私が白石君に毎日向けていたものと酷く似ているから。
穏やかな笑顔を浮かべたまま私を見つめる白石君に熱を持つ自分の頬に気付かない振りをして首を横に振った。
だってありえない、彼が私と同じだなんてありえないんだ。
「む、無理…視線だけじゃわかんない、ありえないよ…だって、白石君は…」
「…視線だけじゃ足りへんなんて苗字さんは案外欲張りさんやね」
「え…ええっ!?」
クスクスと穏やかに笑う白石君に恥ずかしくなって俯いていれば、彼は私の耳元で優しく囁いた。
「好きや、大好きやで、名前…その視線をずっと俺だけに向けて欲しいねん」
「……うん」
窓越しに紅い頬をそのままに小さく頷いてはにかめば、白石君も照れたように笑って私を見つめた。
お互いに熱い視線を注いで
視線と視線でつなぐ(気付いて私の気持ちに)
企画サイト「板挟み」提出
積極的な白石と消極的なヒロインで←
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