◎ 毒の華(白石)
優しくてテニスが強い完璧な人間、きっと彼女は俺をそういう風に思っていると思う。
今、俺の腕の中にいる彼女を抱きしめる力を強めれば彼女が振り返った。
「蔵、どうかしたん?」
「んー?どうもせんけど?」
「そう?」
「おん」
気の抜けたようにへにゃりと彼女は笑う。
何も知らず笑う彼女はとても可愛い。
可愛くて愛しくて、そのまま無邪気に俺に溺れてしまえばいい。
いっそのことこのまま閉じ込めて俺だけを見てくれたら、なんて考えて思わず苦笑する。
きっと今俺が彼女を抱きしめながら考えていることを彼女が知ることはないだろう。
彼女には優しい完璧な彼氏で在りつづけたし、これからも知る必要もない。
こんなに黒くて醜い感情を知られたくはない。
彼女にとって俺は優しい彼氏に思えるように頑張って来たのも事実だ。
けれど本当の俺を知ったら彼女はどう思うのだろう。
本当なら彼女をめちゃくちゃに愛して愛して、この腕に閉じ込めて、俺以外に視線をそらせないくらいに愛し尽くしたいだなんてそんなの彼女に聞かせられない。
彼女の首筋に顔を寄せれば彼女はくすぐったそうに身をよじった。
「蔵、くすぐったい…」
「んー…」
「ふふっ…もー蔵ってば」
はにかんで笑う彼女に俺も笑顔を返す。
このまま彼女の首筋にキスして細い身体を押し倒してみたら彼女はどんな顔するのだろうか、と想像してしまって思わず苦笑する。
ぎゅうっと少し力を入れて抱きしめれば彼女は少し可笑しそうに笑う。
「蔵、何だか今日は甘えん坊やね?」
「そうかもなぁ……嫌?」
「うーうん、嬉しい」
ああ、可愛い。
へにゃりと笑った彼女に思わず眩暈がした。
同時に黒い感情がジワジワと沸き上がるが、それを振り払うように彼女を抱きしめた。
彼女の肩に額を乗せて目を閉じれば聞こえてくる緩やかな心音に意識を向ける。
それが無性に俺を安心させた。
「……蔵?」
「……もーちょっと、このまま…」
「……うん」
ふわっと彼女が笑ったのが空気でわかった。
愛しくて愛しくて仕方ない、優しくも激しく君を求めてしまう。
彼女は何も知らない、きっとそれでいい……それがいい。
そのまま何も知らないで笑っているといい。
そして俺に溺れて何もかも全て手遅れになってしまえ。
愛しい彼女のまま俺の腕の中で俺色に染まって此処まで堕ちて来い、だなんて
そんなことを考えてしまう俺はきっと、どうかしている
毒の華(無邪気に染まって堕ちて)
song by 白石蔵ノ介
企画サイト「Luv Fes」提出作品
テーマは白石の葛藤的な感じ
本当は仄かにエロくしたかったが無理だったという←
prev|next