「お、お、お!」
長期休暇が明けた今日。
偶然にも新入隊士の試験日で、道場には大勢の人たちが隊長達に力量を試されていた。
そのことを私が知ったのは、昨日だったりするんですけどね。 …まあ、監察方の隊長の役目は主に、人間観察。
「7番は試合中なのに、私が道場に入ってきた事気づきましたね。
監察に欲しいなあー!!視野が広い人が欲しい!!」
「逆にこっちには要らねェや。 ちょっとの隙が命取りになるんでねェ。」
ちょうど手の空いてた総悟さんと、入口付近で見学中。
(まあ彼は新人潰さないように土方さんから不参加命令が出てるらしいけど。)
「それよか飯食ったか。」
「食った食った。 だから、剥がないで下さいよ!!
あんた忘れてるかもだけど、この狐のお面は下着だから! 下着と一緒だから!!」
あの出来事から少しトラウマになってる私が、必死になりながら訴えると彼は納得したように、また道場内に目を向ける。
どうやら休憩が入るみたいで、隊長達は部下からタオルの差し入れを貰い、試験を受けてる人は隅の方で腰を落としていた。
「みんな初々しいなあ。」
「あぁ、コネ入隊の誰かさんと違って。」
「馬鹿野郎!推薦入隊だ! そもそも選り取り見取りだったわ!」
並んで立つ総悟さんの肩付近をお面のデコ辺りで軽く頭突く。
と、すかさず面を鷲掴みされた。
「ヌォオオオ!!!」
「相変わらず仲がいいなあ!!」
「まぁ親友なんでねィ。」
「こんなバイオレンスな親友いらねェエ!」
ガハハハと笑う近藤さんは私の隣の壁に背中を預ける。
私は総悟さんの手を振りほどき、少し近藤さん側に移動した。
「お前ら気になるやつはいたか?」
「いきなり一番隊に入れるようなやつはいやせんぜ。」
「監察にも欲しいって言える人はいませんね。 もし入るなら退さんに一から教えてもらわないと。」
「7番はどうしたんでィ。」
「彼は見たことある人なんで… あ、近藤さん資料あります?」
ほいっと渡される履歴書的な物を、総悟さんと一緒に覗き込む。
書いてる事は普通。至って普通。 特別目を引くようなところはない。
が、7番の男がトイレにでも向かったんだろう。 外に出て行ったのを見て近藤さんに資料を返し、総悟さんの手を引いた。
…見たことあるというのは、前々回ぐらいの任務で。 この前、数人逃げられてしまった攘夷浪士の一人だったはずだ。 (彼は直接的には真選組と接触してないけど、私が忍び込んだときに確かにいた人物。)
「近藤さん。 今度は試験の前に履歴書検査しましょう。」
「おぃ、何俺まで巻き込もうとしてんでィ。」
「私達親友ですよね。」
「親友なら尚更巻き込むんじゃねェや。 ただ休み明け働きたくねェだけだろ。」
「頼みますよー。私コソコソと卑怯な事しか出来ないんで。」
ポカンと見ている近藤さんに
「鼠取りしてきます。」
と耳打ちすると、ため息をつく総悟さんの手を握り、7番の彼を追った。
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「早々に片がついたらしいが、あいつらはなんで帰って来ねェんだろうな、近藤さん。」
「きっと連れションだろ。 二人ともうんこのキレが悪いだ、きっとそうだ。親友だからな。」
「だとしたら、親友の域越えてんな。」
馬鹿みたいにあのアホ共を信じる近藤さんにため息をつき、タバコに火をつける。
道場内はまだ試験中だというのに、この屯所内にあいつらの姿はない。
…百発百中サボりだろう。
「でもまあ、愛ちゃんも人らしくなったなあ。」
「総悟の前では隙見せるようになったしな。」
「総悟も総悟で、愛ちゃんの事だと言う事なら聞くし。
お互い初めての友達だから大切にしたいんだろう。」
いい事だと笑う近藤さんを横目にため息をつく。
…愛が長期任務中のときの総悟のイライラを受け止める俺の身にもなってほしいけどな。
「お、そろそろだな。」
試験が終わりそうで、近藤さんと目配せし、タバコの火を消す。
道場内に入っていく、近藤さんの背中を見ながら、頭の中にフと出てきた疑問。
と同時に軽く頭が痛くなった為、頭を振り、近藤さんの後を追った。
嫌な予感 (あいつら親友の域越えんじゃねェぞ。)
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