零崎刹識の人間刹那 | ナノ

第二十三章






忙しなく、日々は過ぎていきその日々の藻屑となった一部の出来事。

黒幕の真相、新たな家賊祭奏朱鷺夜――零崎朱識との繋がり。
祭奏椿姫――零崎散織の突然の死。

2人の心の底に隠された血筋の多さ。
その所為で隠された家賊の絆。
刹識は今その日々たちの処理に追われていた。


刹識「友、ごめん。急なことで、こんな頼みを…」
友『何言ってんのさー。せっちゃんの頼みなら断らないよー。せっちゃんは、いーちゃんと同じくらい大好きな人なんだから。』
刹識「それは知っているよ。何十年も前からね。…ありがとう、友。出来れば散織の墓にお参りしてもらえないか?伝えて欲しいんだ、"君の情報は遺言通り全て消しておいたよ"って。」
友『わかったよー。今せっちゃん忙しいもんねぇ…。忙しいのが一通り終わったら僕様ちゃんに会いに来てよー。』
刹識「わかったよ。」
友『うに。じゃ、またね。』


そう言って相手は電話を切る。
電話の相手は刹識の大親友であり、生みの親の一人である玖渚友。
予定していた散織の黒雀の入団を取り消し、そのついでに祭奏椿姫として生きていた時の出生などの全ての情報を削除してもらうために電話したのだ。

刹識は電話を置くと、一息ついた。
自分には荷が重たい、と。
そこにスッと義手でお茶を差し出したのは大切な姉を失ったばかりの朱識であった。


朱識「お疲れ様です、刹識さん。」
刹識「…さんはやめてくれ、朱識。呼び捨てか、…イルかファイと呼んでくれ。」
朱識「…わかりましたよ。では、刹識と呼ばせていただきます。」
刹識「敬語も直してくれ。」
朱識「……。善処します。」


苦笑いで刹識に向かってそう答えた朱識。

3日4日で姉を失った傷が癒えるわけもなく、笑顔を出せないのが彼の現状である。
刹識は無理に笑えとも言わず、普通に接している。
何も言えず彼の傷が癒えるのを待つしかないのは本当は凄くもどかしくある刹識は、必要最低限のことしか言わないように努力をしている。
そこに朱識は彼女に話をし始めた。


朱識「刹識には《陽上月下》と《最後の舞台》、二つの別名がある。俺にはまだ何もない。」
刹識「何か欲しいのか?」
朱識「いや、今すぐってわけじゃ…」


「んじゃ、ちょっくら考えようぜ。」


そう言って部屋に入ってきたのは輝識だった。
寂しそうに笑いながら。
黎織も一緒にいたのではなかったのだろうかと、刹識は不思議に思い尋ねた。
それを聞いてうんうん、と朱識も頷く。
それを見て輝識は苦笑いして返した。


輝識「あいつならまだ落ち込んでる。それに、迂闊に近付いたら殺されるよ。」
朱識「輝識さん。」
輝識「さん付けなし!ってか、ロードって呼んでもらっても構わない。」
朱識「…わかった。」
刹識「それにしても、大変だな。」


それを聞いて輝識が朱識の隣に座る。
散織と黎織は刹識が認めるほど仲がよく、その上散織にとって黎織は恩人なのだ。
そして黎織にとっても散織は恩人であるのだ。
朱識と同じで3日4日で立ち直るわけ無いのだ。


朱識「…俺に別名をください。」
輝識「朱識?」
朱識「俺に別名を下さい。俺はそれを支えに生きる。」


目の前で宣言した朱識を見た刹識は決意した。
今の彼に似合う別名はこれしかない、と。


刹識「二つ名は《九尾雷狐 サンダーフォックス》。通り名は《永遠の嘘 エターナルフェイク》。」
朱識「《九尾雷狐》に《永遠の嘘》…」
輝識「いいじゃねえか!朱識にぴったりだ!」


勇気を貰ったらしい朱識は刹識と輝識にお礼を言うと急いで部屋を後にした。
輝識は笑顔を崩さず朱識に与えた別名の意味を刹識に聞いた。


刹識「《九尾雷狐》は、彼は狐のように悲しみや苦しみを紛らわすために人を騙すからね。雷は彼にあうから。《永遠の嘘》は義手からとったの。義手は本物の手ではないからね。温もりのない、冷たい、偽りの手。」
輝識「…義手、か…。」
刹識「なにがあったんだろうね、彼の過去に。」


そう言って刹識は、朱識の出て行った扉をじっと見つめた。







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