第十八章 出夢「いいか?今、三人をいっぺんに会わせることは出来ない。先に刹識と輝識に会わせてやる。黎織は後からでも十分だろ――」 そう言って出夢さんは、僕のことを案内してくれている。 敵だと知っていてもなお、僕を信用してくれるのか…? そんなわけは当然無いに等しいだろう。 僕は敵なんだから、当たり前じゃないか。 それでも、僕を案内してくれるのか…? 出夢「…どうしたんだぁ?今更イヤになったとかは言わせねぇぜぇ?」 朱鷺夜「わかっています。けど、僕は敵なんですよ!?そんな油断していたら後ろを突かれても文句を言えない!!」 そうだ、こんなんじゃもし僕が後ろを突いても出夢さんは文句を言えない。 それに、今から会う刹識さんと輝識さんもそうなのだったら協力してもらう必要もない。 出夢「心配はいらねぇ。俺はお前がそんなことしねぇって知ってる。」 朱鷺夜「でも…っ!!」 出夢「アンタは優しすぎる。本当に敵ならそんなことはしねぇぜ?大丈夫だ刹識たちはそんなに油断する奴らじゃねぇからな。」 そんなやつらだったらもうとっくの間に俺がつぶしてるな、って出夢さんは笑いながら言った。 それだけ僕を見てくれた、信じてくれたってことだ。 これほどの器をしている出夢さんが信じて憧れている存在なんだ、刹識さんって人は。 少し、期待が出来そうだな…。 出夢「ほら、着いたぜ。ここが刹識たちの住んでいる家だ。」 朱鷺夜「ここが… って…!! でかぁーーーっ!!!!」 なんだよ、これは家じゃないよ!!何これ、別荘!? あり得ないってば! 器が大きければ他も大きいみたいな感じか? それでもこれは… 出夢「でかいだろぉ?俺も初めて見た時は、なんじゃこりゃ!?って思ったぜ。」 朱鷺夜「ここに刹識さんたちが?」 出夢「ああ。入るぞ。迷子になるから、ちゃんと付いて来いよ?」 建物の中に入ると、見た目以上に広かった。 前を歩く出夢さんに付いて奥まで行くと、大きい扉に差し掛かった。 出夢さんは開くぞ、と言うと大きい扉を開いた。 刹識「珍しいお客様ね。どうしたの、出夢」 そこに居たのは、綺麗な女の人だった。 艶やかな藍色の髪、藍色と紫色のオッドアイ。 その姿は、噂にある伝説の―― 朱鷺夜「世界に根を張る人類最上の殺人鬼…!!」 出夢「気付かなかっただろ。あの傍らに居るのが人類最恐の輝識だぜ。」 僕は言われた通りに彼女から傍らに居る青年に目を移した。 パッと見ただけじゃ恐いとかなんて分からないけど、其処に居るという存在感と威圧感だけはひしひしと感じられた。 流石は人類最恐。 其処に存在するだけで恐ろしいとは言うものだ。 刹識「…出夢、そいつは?」 朱鷺夜「は、はじめまして。僕は祭奏朱鷺夜と言います。祭奏と聞いてわかると思いますが、祭奏椿姫の弟、です…。」 恐る恐る告げた自分の存在。 何か言われることなんて覚悟していた。 だから、深く目をつむり跪いた。 足音が近づいてくる。 叩かれるのか、と思い覚悟をして目をギュッと瞑ったが何も痛みもこない。 ただ単に、頭を撫でられただけだけだった。 刹識「…苦労したね、朱鷺夜くん。」 朱鷺夜「っ…!!」 声もなく泣き出した僕を刹識さんは黙って撫でていてくれた。 そのうち背中も輝識さんと出夢さんに撫でられていた。 みんなの手つきはまるで子供をあやすように優しくて、安心した。 僕は泣きながら謝った。 ごめんなさい、ごめんなさい、って。 刹識「貴方も、椿姫ちゃんも悪くない。悪いのは別に居るんだね。」 輝識「刹識…」 僕は泣き止んで心が落ち着いた後、本当の事を全て話して自分の立てた仮説を話した。 僕は自分たち祭奏の本家――天吹が僕らのことを操っていたんじゃないかって考えた。 刹識さんはそれが一番怪しいな、と言って協力してくれた。 刹識さんたちなら安心だ、そう思えた。 <<|back|>> |