私達は小さい頃から向かい合ってた。 同じ大きさの家は途を挟んで向かい合ってて、私達も向かい合う様にして遊んでた。 悪戯が好きな貴方は面と向かって私にも悪戯してきて、だから私も対抗するみたいに向かい合って貴方に悪戯し返すの。 不思議な事に喧嘩にまでは至らない悪戯の試合は、けれどエスカレートしていって、私のママと彼のママに怒られてやっと終わる。 私達はその時だけ、隣り合ってた。 私達が隣り合えるのは、その時だけだった。 懐かしくて、優しくて、そしてきっと、一番輝いていた頃の…私の記憶。 思い出。 「お前が、預言を奪うのか」 「そうよ。我が君直々に頂いた私の最期の任務」 私の言葉にセブルスが顔を顰めた。 葛藤の浮かぶそれの理由を、私は知っている。 それを我が君に伝えれば、きっと私は助かる。 私は生きていられる。 でも、それを言う気の無い私は、きっとその程度には生きる事に絶望していて、その程度には我が君を慕っていて、それを受け入れる程度にはこの男の事を好いている…。 私の様に逃げなかった…、スリザリンの癖に優しく、勇敢な、この男を。 「いいのか?」 ほらね。 私に生への道を示そうと、語りかける。 何て優しく、何て愚かで、残酷な善意。 「いいのよ。 この道を選んだのは私だもの。 ブラック家の長男が家の意向と相反する獅子を選んだ様に、私も、私の意志で彼の元から蛇の道を選んだんだから」 「………」 「だから私の事はいいの。 でも、そうね…。 私の事を心配してくれるんだったら…」 「…だったら?」 「だったら、略奪愛でもして私を喜ばして欲しいわ」 「……」 「彼に目にもの見せてやって? そして、私の分も貴方は…」 幸せになって。 その言葉が音になる事はなかったけど、彼は、セブルスは悟ったのでしょう。 彼の土気色の顔が泣きそうに歪んだ。 彼が残酷なら私も大概残酷ね。 私は彼に在りもしない未来を望む。 彼が彼女の傍らで私の分も幸せになる夢。 有り得ない未来予想図。 それは私も彼も嫌という程分かりきっているのに、それでもそれを言葉にしてセブルスに突き付ける私は残酷だ。 けど、それがもし本当に叶ったなら。 そんな奇跡が起こったなら、…私はきっと救われる。 私にも可能性があったのだと思える。 例えその時、私にその可能性が無かったとしても。 私の未来が、今が、存在が、無かったとしても。 きっと私は、冥府の中で笑えるから。 私にあった可能性と、私の欲しかった奇跡の疑似を知って。 私は救われる。 だからこの程度の意地悪は赦してね? もう一人の、私。 同じ、苦しみを知る人…。 back |