叡智を集めた帽子は悩んでいた。 帽子はひっそりと囁いた。 「君は知恵が在り、勤勉であり、狡猾でもあり、そして勇敢でもある。そして君には強い望みも在るようだ…」 帽子は唸り、そして尋ねた。 「君は何処に行きたいのかい?」 白い指先がそれを摘み、コトリ、黒のポーンが歩を進めた。 「トロールの件、どう思う?」 反対側から伸びた指先がそれを持ち上げ、黒のルークが盤上から消える。 コトリ、白のビショップが進んだ。 「確実に関与している。尤も、“石”を盗む事には失敗しているがな」 白のビショップが盤上から消え、コトリ、黒のクイーンがそこに居座った。 「次は何時かな」 コトリ、白のポーンもまた進む。 「暫くは無いだろう」 コトリ、黒のポーンが白のビショップに並んだ。 「暫くってどれぐらい」 黒い爪の、白い指が、白のキングを持ち上げる。 「さぁな」 コツン、キングの座す台の端が黒のクイーン弾く。 「だが…」 カタン、黒のクイーンが倒れた。 「チェック・メイトだ」 白の王が終わりを告げた。 「これは予知?」 用を為さなくなった黒の王を桃色の爪の、白い指が摘み上げ、バイオレットの目の前に翳す。 ふらふらとそれを揺らしながら、気怠げな声で問うた。 「外れる事が望みなのか?」 嘲笑を含んだ答えが返る。 「まさか」少女は嗤った。 「惨めな負けをお望みよ」 帽子が尋ねた。 君は何処に行きたいのかい? 少女は答えた。 アイツを殺せるその場所に。 back |