#悲劇
『ありえない...。』
「またか。いい加減に意地の張り合いもなんとかしたら?それ、本当に付き合ってるって言わないじゃん。」
『意地なんて張ってないもん..。』
「どこが。ま、藤真も藤真もよね。」

なまえは翔陽一の王子様と呼ばれる藤真健司と一年前から付き合っていた。
スポーツの出来る美男子藤真、勉強のできる美少女なまえ。
2人が付き合い始めたころは非難も多かったが、二人の仲良さっぷりに“お似合い”だと言われていた。

ずっと順調だったはずなのにいつのまにか二人の間にズレが生じた。
大会前に忙しくしている健司に冷たくあたってしまい、その時から会うたびに喧嘩をしてしまうようになった。
2人でいても喧嘩を避けるためなのか分からないが、会話も少なくなっていた。

最後に二人きりであったのもいつか覚えていないほど前で、なのに二人とも別れを切り出そうとしない不思議な関係。
二人と親しい人以外の周りはもう別れたと思っているだろう。

廊下で見かけても挨拶をしない二人は本当に他人のようだ。


二人の恋愛はまるで少女漫画に描いたようなもの、そのものだった。

健司を初めて見た時、恋に落ちた。
一目ぼれだった。

『ね、あの人かっこいい...。』
「どれ...。あー、今ボール持ってる人?」
『そうそう!』
「藤真健司。翔陽じゃ有名だよ。」
『へぇ...。あ!こっち見た!』


「どうした、藤真。」
「いや...。あそこの教室って同学年?」
「ああ。そうだな。確か...1組の特進クラスだったはずだ。」
「ふーん...。」

その次の日、あまり人が訪ねてこない特進クラスに健司が現れたのが。
「ねぇ、君。名前は?」
『...あたし?』
「そう、君。」
これが二人の話した初めての会話。
お互い一目ぼれだったからか、知り合ってから付き合うまでの期間は短かった。

「ねぇ、ここ分からないんだけど...。」
『んーっとね..。あ、ここの公式を少しいじって..こうした方が分かりやすいよ。』
「へぇー。そういう使い方があるんだ。やりやすいかも。」
『でしょ?』
「凄いな、なまえって。」
『いやいや、それは健司にそのまま返すよ。』
「....。」
ちゅ、とリップ音が誰もいない図書室に響いた。
『ちょ..//ここ、学校だし..。』
「誰も見てないよ。...可愛いなぁ、そんな真っ赤な顏して。」
『何でいつもそんな余裕な顏なの...//』
健司はなまえの髪の毛に指を通す。
「余裕ないよ?俺だって。」
そう言いながらなまえの手を掴み、健司の胸元に持っていく。
『わ、本当だ...。』
「でしょ?」
と言って二人で笑い合った。



『あの時が懐かしい...。』
「は?」
『いや、何にも。ね、アキは図書室寄って帰らないの?』
「うん。どうせ期末前で人も多いし...帰ってみたいテレビあるし。つーか期末より模試の勉強しなきゃ。」
『...へぇ。じゃああたしは図書室行くし、また明日ね。』
そして鞄を持ち、図書室に向かった。

図書室のドアを開けると、アキの言った通りに人がたくさんいた。
テストに近い日以外は特進クラスしかいないので、人はまばらだがテストが近いと、人が多く集まり、勉強を教えあったりしている。
運よく、席が一つ空いていたのでその席に腰を落とす。

すると前の席に見覚えのあるペンケースだけが置いてあった。
まさか、と思ったときは遅く、本を取りに行っていたのだろうか、その席の主が女の子と戻ってきた。
まずい、と思いすぐに目を問題集に移した。
そしてすぐに問題を解き始めた。
だがどうしても目の前にいる彼氏の話が聴こえてしまい、気になってしまう。

「健司〜、ここ分かんない。」
「あー..俺も分かんない、かも。」
「えー!そんなんで大丈夫?」
「何とかなるだろ。」

“何とかなるだろ”これが健司のいつもの口癖だ。
試合の土壇場の時やピンチの時には、焦りを見せずにこの言葉で乗り切ってきた。
だからか健司にとってあたし達二人の関係も“何とかなるだろ”と思っているのであろう。

「ね、それよりテスト終わったら総体だね。応援行くね。」
「おー...」
「でね、翔陽がインターハイ行けるように神社行ってね...これ、お守り。」
「おー..」
おそらく健司は問題を解いているのであろう、見なくても分かる。

なまえは期末の範囲のテストの勉強を終えたので、本棚に大学試験の為の大学別に分けられた問題集を取りに行った。
第一志望は京都大学だった。
一応合格率としては9割で、何かアクシデントが起きない限りはほぼ確定だった。
だから必然的に神奈川から離れることになる。
なまえが問題集を手に取り、席に戻ると女の姿はなく、健司が問題とにらめっこしてる姿があった。

なまえも席に着き、問題集を開く。
だけどもどうしても頭が働かない。


2人して意地張って馬鹿だなぁ....。
涙で目がかすんだとき、「京都行くんだ。」と愛しい人の声が聞こえた。
何日ぶりだろうか、健司の声を聞いたのは。
顔を見たのは。
顔を上げ、大好きな人の顏を見る。
『うん。関西に行くの。』
「そうなんだ。」
『健司は?』
「多分東京。スポーツ推薦もらうかな。」
『そっか。』
そこで話は途切れた。
どちらかともなく話をしようと、口を開けたが、二人とも口をつぐんだ。

「寂しい」
「もう一度一から始めよう」
「好き」

そんな言葉を言いたかった。
だけどもどうしても口から出ない。
どういう風に口に出していいかも分からない。

どうしてこんなにも意地が、プライドが邪魔をするのか。


健司も何か言ってくれたらあたしだって意地なんて丸投げするのに。
この意地の張り合いの鍵は健司が握ってるんだから。

お願い、何か言ってよ。

なまえは健司を見る。
そして健司から出た言葉は




「試験、頑張れよ。」



私たちの話は喜劇だったはずなのにいつのまにか悲劇に変わってしまった。

こんな終わり方は想像もしてなかったよ、藤真健司。


fin


prev next

bkm
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -