◆瀬名泉

「瀬名先輩〜!」
「チョコならいらないよ。肌荒れるから」
「ま、まだ何も言ってないのに…!当たり前のようにチョコを貰えると思っているこの自信!全世界の女は間違いなく自分を好いていると思っているこの自信!バレンタインは別名セナンタインだと思っているこの自信!!」
「ちょっと!あんたバカみたいなこと大声で叫ばないでよねぇ!?俺まで変人だと思われるでしょ!」
「瀬名先輩、チョコ嫌いなんですか?」
「嫌いっていうか、進んで食べないだけ。あんな糖と油の塊食べてたら、ニキビ出来るし体重増えるしで良いことないからねぇ。食べるとしたらオーガニックとかカカオ率が高いやつくらいかな」
「おぬしはハリウッドセレブか…」
「そもそもバレンタインなんてチョコレート会社が売上目的の為に考えた施策でしょ。そんなのに踊らさせてる世間もどうかと思うけどねぇ。毎年貰っても食べきれないから処分に困るし」
「せ、瀬名先輩のバカ!チョコレート会社に謝れ!勇気を出してチョコを渡している女の子たちに謝れ!」
「はぁ!?ちょ、ちょっと何泣いて…」
「世の女性が、好きな男性にチョコレートを渡すという行為がどれほど勇気がいることなのか分からないんですか!?」
「そりゃまぁ、勇気はいるだろうけどさぁ。それとこれとは…」
「そんな女性の気持ちも知らないで、食べきれないだの肌が荒れるだの…!」
「ちょ、ちょっと落ち着きなよねぇ。俺は別に…」
「オーガニックだのカカオ率だの…!」
「い、いや、だからさぁ…」
「ジョニーデップだのデカプリオだのトムクルーズだの!!」
「それは言ってないから」
「そんな乙女心も理解できない瀬名先輩になんて、バレンタインなんてあげませんから!」
「はぁ!?なんでそうなるわけ?」
「先輩にあげたって、どうせ糖分の塊としか思ってもらえないんでしょう。だったら喜んでくれる人に渡します」
「何なのそれ、他に渡すアテでもあるってわけ?」
「甘く見ないでください!こう見えて私、男子に人気あるんですから!スバルくんや羽風先輩だって、私からチョコ欲しいって言ってましたもん」
「…はぁ、あんたいい加減に…」
「もう瀬名先輩なんて知らないです!さようなら!」
「ちょっ、待ちなって!」
「放して下さい!瀬名先輩なんか…先輩なんか…」
「ったく、泣かない。女性の気持ちを考えずに発言したことは謝るよ。でもだからって、なまえのチョコまでが他の人達と同じ扱いになるなんて俺言った?」
「うぅ…それは…」
「あんたのチョコは別。今までだってそうだったでしょ?」
「はい…、失敗しても残さず綺麗に食べてくれました…」
「そういうこと。分かったらあと三秒で泣き止む」
「瀬名先輩…大好きです!」
「はいはい、百万回聞いたよ。泣きやんだならほら、受け取ってあげるから」
「………………え?」
「………………は?」
「え、あっ、あーーー、あのっ…」
「…は、何?バレンタインチョコ渡しに来たんでしょ?」
「す、すすすすみません!!!」
「はぁ!?ちょっと意味分かんないんだけど!この流れから渡さないってどういうこと!?貰ってあげるって言ってんでしょ!」
「も、持ってないです…」
「持って…ない…?」
「持ってない…です…」
「…あんたここに何しに来たわけ?」
「昨日のテストが赤点だったので、宿題として出された難しい課題を先輩にやってもらおうと思って来ました…」
「は……………?」
「椚先生が激怒りで鬼のようだったので、バレンタインのこと…すっかり忘れてました…」
「………こんのバカッ!!あんた俺にあんなこと言わせといて課題手伝わせるつもりだったわけぇ!?」
「わーーーん、ごめんなさいごめんなさい〜!!」
「今日中に課題終わらせて、日付変わるまでにチョコ持ってこないともう二度と受け取らないからねぇ!」
「ひぃっ、またしても鬼〜!!」
「あんたには節分のほうがお似合いかもねぇ」
「ま、待って瀬名先輩〜!ハ、ハッピーバレンタイン〜〜!!」
「遅いわ!!」


◆守沢千秋
(「バレンタイン戦争2018」翌年編)

「なまえ、ハッピーバレンタイン!!!今日、2月14日は何の日か知っているか!?」
「いや、モロに自分で言っちゃってるじゃん…。バレンタインでしょ」
「その通り!大正解だ!正解した君にはこれをやろう、さぁ受け取ってくれ!」
「え?何これ。可愛くラッピングされてるけど…」
「俺からバレンタインのプレゼントだ。世に言う逆チョコというやつだな!」
「ふーん、こんなの初めてだけど急にどうしたの?」
「…………………」
「千秋?」
「い、いや!さぁなまえ、せっかくだからチョコを食べてみてくれ」
「うん、ありがとね。あ、これゴ●ィバ!?こんなに数が入ってるけど、高かったんじゃない?」
「値段のことなど気にするな!なまえへの愛は、こんなものでは足りないくらいなんだからな」
「も〜千秋ったら、えへへ。じゃあせっかくだから、いただきまーす」
「うむ!いっぱい食べてくれ!」
「んーー、美味しい〜!やっぱり高級なチョコは違うね、口の中で濃厚な味が広がる〜」
「それは良かった!さぁもっと食べてくれ!」
「じゃあ、もったいないけどもう一個。うーん、美味しい!」
「さぁさぁ!もっとだ!!」
「うぷっ、一気に5個も食べたからさすがに胃がもたれてきた…」
「どうだ?満足か!?」
「ん?まぁ…胃は満足だね」
「よし!これにて今年のバレンタインは終了だ!解散!!」
「え!?ちょ、ちょっと千秋?」
「今年のバレンタインは俺からチョコを贈ったので、俺たちのバレンタインイベントは無事に終わったな!残ったチョコは家でゆっくり食べてくれ!」
「終了って言われても…」
「何も言わないでくれ、俺の気持ちを受け取ってくれたのだからもうそれで十分だ。じゃあ、俺はこれで…」
「あ、待ってよ千秋!私からも手作りのバレンタインがあるんだけど」
「い、いや!待ってくれ!すまんが今年は逆チョコをしてしまったから、なまえからのバレンタインを受け取ることが出来ないんだ…。贈る側と受け取る側、つまりは光と闇…」
「えぇ、最後のは意味分かんないけど。そういうもんなの?」
「気持ちはすごく有り難いぞ」
「せっかく作ったのにな〜頑張ったのにな〜もったいないなぁ」
「(くっ…!なまえにこんな顔をさせてしまうとは…。だが昨年なまえからのバレンタインを食べて緊急入院をしてしまったし…流星隊のライブが近い今、身体を壊すことはできない…)…はっ!そうだなまえ、せっかくだからそれを瀬名にあげたらどうだ?きっと喜ぶぞ!」
「泉に?」
「そうだ、そうしよう!瀬名なら喜んで受け取ってくれるだろう!なんともタイミング良く、ここに瀬名が忘れたレッスンバッグがあるではないか。ここになまえのチョコを忍び込ませ…」
「あ、待って。それ名前書いてないから誰のか分からないんじゃない?私の名前書いておかないと」
「名前を書いてしまったら確実に食べないだろうから気付かれないうちにこのままバッグに…ゴニョゴニョ」
「ん?」
「何でもない!さぁ瀬名が戻ってくる前に俺達は早いところこの場を去ろう!」
「ち〜あ〜く〜〜〜ん?」
「うぉぉぉ!!せ、瀬名!!」
「俺のバッグに何か怪しげな影が動いてると思ったら…。なまえのチョコを忍ばせるなんて、爆弾仕掛けた宅配便の荷物を配達してるのと同じなんだけど!お茶に毒薬混ぜて差し出してるのと同じなんだけど!アポトキシン4869飲ませてる黒の組織と同じなんだけどぉ!!あんた俺のこと殺す気!?」
「お、落ち着け瀬名!アポトキシン4869は飲むとコナン君になれるぞ!」
「ちょっと泉!あたしのチョコを爆弾だの毒薬だの失礼でしょ!」
「バカの言うことは置いといて…。ちあくん、それって本当にヒーローがやることなわけぇ?」
「はっ………!」
「自分が助かりたい為に、罪のない人間を犠牲にする。それってちあくんが一番嫌いなヤツなんじゃないの?」
「そうだ…俺は今、ヒーローが倒すべき悪と同じになってしまっていた…。瀬名を犠牲にしてチョコを食べずに生き延びようと…」
「まぁ、あのチョコを食べたくない気持ちは分からなくもないけど。でも自分を見失うのは違うんじゃない」
「…ありがとう瀬名。その通りだ、俺は大事なことを見失っていた。愛するなまえが作ってくれたチョコだ!例え恐ろしい味によってこの命が失われようとも、愛する者のためにチョコと戦う!それが真のヒーローだ!」
「はぁ…、ったく世話が焼けるねぇ。じゃあこの毒チョコ返すよ」
「…………ちょっと2人とも……さっきから聞いてれば随分な言い方してくれてるわねぇ…」
「はっ!ち、違うんだなまえ!これには深い訳が…」
「千秋、これ昨年作ったチョコレートドリンクにプロテインと青汁とにんにく卵黄も加えたの。レッスンも部活も頑張って欲しくて。飲んでくれるよね?うふふふふふ」
「ま、待ってくれ、俺は……」
「はい、あーーーーーん♪」
「ぐぅおぇぇぇぁぁぁあ!!!」
「かおくーーん!!救急車ー!!」
「も〜、何でタイミング悪く通りがかっちゃうかなぁ…。今年もバレンタインの履歴が119番になっちゃったよ〜ゲロゲロ〜」


◆衣更真緒

「まーおっ♪ハッピーバレンタイン!」
「お、なまえ!わざわざ家まで来てくれたのか?ありがとな〜、散らかってるけど上がってくれよ」
「うん、お邪魔します!…ぃよっこらしょ!!」
「うぉっ!?何だこれ?すげーでかい箱だけど、これ家から持ってきたのかよ?てゆーか斜めにしないと玄関入れないんじゃないか…」
「とりゃっ、ふー…なんとか玄関はいれたね。とりあえず真緒の部屋行ってもいいかなぁ?バレンタイン渡したいの」
「え、これがバレンタインだったのか!?反応に困るけど…とりあえず俺の部屋はここ」
「わーい、久しぶりの真緒の部屋♪」
「あ、あんまり見るなよ…。急に来るから片付けてないし…」
「平気平気!それよりも、はいバレンタインプレゼント♪」
「おっ、サンキューな!俺の身長くらいでかくて正直ひびったけど、なまえからのプレゼントだから素直に嬉しいよ」
「えへへ、愛情込めて作ったの。ラッピング開けてみて!」
「どれどれ……うぉっ!何だこれ!?」
「じゃーん!等身大の真緒チョコレートでーす!」
「お、俺チョコレート…!?しかも全裸…」
「スリーサイズに髪の長さ、眉毛に睫毛、爪の先まで全て真緒と同じサイズで出来ております」
「いやいや、ちょっと待て」
「そして乳首の位置から腹筋の割れ具合、お尻のラインとヘソの形、そしてその下の…」
「おぉい!待て待て!!チョコの完成度が高すぎて俺の頭が混乱している…てゆーかこれチョコだよな…いや、本当はもう一人の俺なんじゃないのか…?もしかして俺のほうが偽物だったのか…?」
「真緒は混乱すると中二病を発症するのだ」
「ま〜くん遊戯王みたいになってるね〜。もう一人の俺って失笑〜♪」
「うぉっ、凛月!いつの間にいたんだよ!?ったく、勝手に上がるなよな〜」
「む〜、そんなこと言っていいの?せっかく俺もなまえと一緒に等身大ま〜くんチョコレートを作ったのにさぁ〜」
「これ凛月も作ったのか?どおりでクオリティが高いと…」
「細かい部分は凜月が手伝ってくれたんだよ!」
「俺が担当したのは主に下半身〜♪」
「やめてくれ」
「さ、真緒。せっかくだからチョコレート食べてみて」
「え!?食うのか?俺が?俺を?」
「ほらほら、ま〜くん…」
「うぅ…何だか複雑な気持ちだけど、二人が頑張って作ってくれたんなら食べない訳にいかないよな…。とりあえず無難な腕から食べるか…もぐもぐ……うわっ!何だこれ!?血が出てきたぞ!」
「うふふ、それはラズベリーソースだよ。びっくりした?」
「笑えない…さすがに笑えない…」
「ま〜くん、次は頭を食べてみてよ〜」
「あ、頭…?」
「こうやって頭を割ると…、ほら、脳みそに見立てたモンブランが登場〜♪」
「これは凛月が作ったんだよ、本物みたいだよね!」
「いやお前らこれ顔は俺のままだから扱いをもうちょっと考えろ」
「ま〜くんの右脳はチョコモンブランにしてみたよ…♪」
「チョコの俺が泣いている…、俺には分かる…チョコが泣いている…」
「お腹を切ると、それぞれの臓器に見立てたお菓子を詰めてみたの!何が入ってるか楽しみでしょ、ほら真緒が切ってみて」
「これは拷問なのか…?バレンタインってヒトラーが作った拷問日だったのか…?」
「そしてお待ちかね、俺が徹夜で作った下半身〜♪」
「きゃーーーっ♪」
「待て!!ちょっと待て!!」
「三択クイズです、ま〜くんの下半身には何が入っているでしょう」
「…………………」
「@カラフルな金平糖、Aキャラメルソース…」
「……………………」
「Bコンデンスミル…」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あっ!真緒が窓ガラスを破って外に飛び出した!」
「ま〜くん、まだお尻の方が終わってないよ〜!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!バレンタインなんて消えてしまえぇぇ!!!」
「…これで真緒はチョコ恐怖症になって、もう他の女の子からチョコ貰わなくなるね!」
「ふふ、ま〜くんに悪い虫がつかないように…。俺たちの作戦勝ちだね〜♪(あとはなまえを消せばま〜くんは完全に俺のもの〜)」
「あはは、心の声聞こえてんぞコノヤロ〜」


end.

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