真緒の手が好き。見た目よりも、繋ぐと大きくてしっかりしてるところ。真緒の髪が好き。触るとサラサラしてて、シャンプーの良い香りがする。真緒の匂いが好き。ぎゅっと抱き締めると真緒の首元からふんわりと匂ってくる。真緒の匂いを嗅ぐと胸の奥がキュンとして、もっともっと、と真緒を求めたくなってしまう。好きなところを挙げたらキリがない。つまりは真緒の全てが好きなのだ。

「ねぇねぇ…真緒は私の嫌なところってある?」

真緒のベットでうつ伏せになりながら訊ねると、ベット下に座りユニットの練習メニューを見ていた真緒がこちらへ顔を向けた。

「嫌なところ?何だそれ?」

「こっちが聞いてるの。私の嫌なところって何?」

「なまえの嫌なところ?はは、そんなもん無いって」

真緒は笑って答えた後、また手元の紙に視線を戻した。嫌なところがあると言われるのも悲しいが、たいして考えもせず「無い」と答えられるのもまた悲しいものである。真緒はどのくらい私のことが好きなのだろう。私が真緒を想っているのと同じくらい、真緒も私を好きでいてくれているのだろうか。少しムッとして、ベットの上から練習メニューの紙を取り上げた。

「あっ、こら!何やってんだよ!」

「質問の答えをちゃんと考えてよ!それまでこれ返さないから」

「はぁ…?質問って、嫌なところってやつだろ?だからなまえの嫌なところなんて無いんだって」

「嘘!何か一つくらいあるでしょ?ほら、私って真緒と違って全然しっかりしてないし…よく迷惑かけてるじゃない。真緒にやってもらってばかりだし」

「俺は迷惑だなんて思ってないんだけどなぁ…自分がやりたくてやってるだけだし。だからなまえの嫌なところは考えても出てこないな」

「え〜〜〜…」

「何だよ、え〜って。嫌なところがあったほうが良いのか?」

「それはそれで嫌だけど…」

真緒はいつもの困ったような笑顔をして、立ち上がりベットに腰かけた。私はうつ伏せの状態で手の上に顔を乗せる。足をぶらぶらさせたら「こら、ぱんつ見えるぞ」と頭をコツンとされた。真緒になら見られても良いのに。

「俺にそんなこと聞くけどさ、逆になまえは俺の嫌なところないのか?」

「真緒の嫌なとこなんて無いよ。真緒の全部が好きなんだもん。真緒の目も髪も声もぜーんぶ好き」

「おっ…前なぁ…!よくまぁそんな恥ずかしいこと簡単に言えるよな…」

「恥ずかしいかな?本当のことだもん。真緒のことが好きすぎておかしくなっちゃいそう…」

横向きになり、傍に座る真緒の手に触れるとぎゅっと握ってくれた。やっぱりこの手が好きだ。少しの沈黙の後、真緒が頭をガシガシしながらこちらに顔を向けた。

「やっぱり…あるかも」

「え、私の嫌なところ!?」

「嫌っていうんじゃなくて、困ってるって言う方が正しいかもな」

真緒を困らせていることがある。それを聞いて寝ていた体を勢いよく起こした。真緒は少し口を尖らせて、じとっとした目をこちらに向けている。

「真緒を困らせてることって何!?凛月みたいに寝坊ばっかりしてるところ?それとも真緒のお菓子を勝手に食べちゃうところ?」

「いや、別にそれはいいんだけどさ………はぁ…だから、そういうところなんだよ」

「?そういうところ…?」

「なまえが可愛すぎって意味。そんなに可愛いとさ、心配になるんだよ…色々と」

「へ……?」

予期せぬ真緒の言葉に思考が停止してしまったようで声も出せずに口だけがパクパクと動く。すると真緒は意を決したように私の両肩をぐっと押し、ベットが二人分の重さでギシッと音をたてた。起き上がったばかりの私は、また先程と同じ体勢に戻る。一つ違うのは、目の前には頬を染めた真緒がいるということだ。

「なまえのその性格っていうか…ころころ表情が変わるとことか、一生懸命なとこが凄い可愛いんだよ。それに、近付くといつも良い香りするし、髪も綺麗で触れたくなる。…学校が別だから、俺の知らないところで他の男もなまえのこと同じように思ってたらって考えると、気が気じゃない」

「ま、真緒…」

言いながら真緒の手がブラウスに伸びてきて、上からボタンを一つずつ外していく。それを体で感じてはいるが、真緒から目を逸らすことが出来ない。

「こんな可愛い彼女持つと、心配ばかりで困るよな。本当は誰にも見せたくないんだ、なまえのこと。いつも傍に置いておきたい」

「あ、やっ…ま、真緒……」

はだけたブラウスから覗く素肌に、真緒の唇が触れる。そこが急速に熱を持ち、どんどん体中に広がっていくような感覚だ。私の好きな真緒の匂いがして、ぞくぞくしてくる。

「スカートも短すぎって言ってんのに、全然直さないだろ。これ、誰かに見られたらどうするんだよ」

これ、というのは勿論下着のことで、いつの間にか真緒はスカートも取り去ってしまっていた。以前、真緒が「なまえに似合うな」と言ってくれた薄ピンクのショーツが姿を表している。恥ずかしい。でもそれ以上に、真緒がくれる言葉の一つ一つが嬉しくて、溢れ出る涙を堪えるのに必死だ。

「…なまえの嫌なところなんてあるわけないだろ。好きすぎて困るくらいだ。むしろ俺がこんな狭い心の持ち主だって知って、俺のこと嫌になっただろ?」

「嫌になるわけ…ないでしょ……ぐすっ、真緒のこと、もっともっと好きになったよ…。私の全部が真緒でいっぱいなのに、これ以上好きにさせてどうするの…!」

堪えていた涙がぼろっと溢れると、真緒が「泣くなよ」と微笑んで熱い口付けをくれた。真緒のキスはいつも優しいけど、たまにくれる熱いキスは私の心も体もどろどろに溶かしてしまう。誰にでも優しい真緒が、女の子から人気者の真緒が、私のことを独り占めしたいと言ってくれている。私が真緒に対する想いと同等あるいはそれ以上の気持ちを持ってくれているのかもしれない。こんな嬉しいことがあっていいのだろうか。

「真緒…すき、だいすき。私ばっかり真緒を好きだと思ってた…。そんな風に思ってたなら、もっと早く言って欲しかったな」

「なまえの学校の奴らに妬いてたなんて言えるわけないだろ〜、男はいつだってカッコつけたいもんなんだよ」

「そうなの?でも、どんな真緒も格好いいよ。優しい真緒も、ヤキモチな真緒も、私はいつだって真緒にドキドキしてるんだよ」

「…はぁ、だから本当にそういうとこがだな……」

「真緒…」

「…………」

真緒のシャツの下に手を入れて体をなぞると、真緒の瞳が熱を帯びた。二人を遮るものを全て取り外して抱き締めると、真緒の逞しい身体と熱さにそのまま溶けて吸収されてしまいそうになる。

「なまえ…綺麗だ」

「ま…お、あっ、真緒…!……ふぁ…っ、」

「はぁ…っ、なまえ……!」

真緒の手が好き。優しく、時に激しく触れてくれる手が好き。真緒の髪が好き。肌にかかってくすぐったいその髪が好き。真緒の匂いが好き。汗と熱と欲の混ざりあった色っぽいその匂いが好き。真緒の全部が好き。そう言うと真緒は、「それは俺の台詞」と言って苦笑した。これからも真緒を困らせることに変わりはないのだろうけど、真緒のためにスカートを少し長くしてみるところから始めてみようと思う。

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