※デートプラン(公式)のネタです。
 「優しい彼氏の作り方」と同設定。


今日は予定がないからと、ユニット練習が終わるのを待っていてくれたなまえと久しぶりに一緒に帰った。毎週日曜に放送している戦隊物の話や、なまえの最近お気に入りのカフェのことなど他愛ない話をしていると、なまえがふと思い立ったように「ねぇ、今度の休みにデートしようよ!」と笑顔で手を握ってきた。俺はどうもこの笑顔に弱いようだ。そして時は三日後の今に至る。


「……千秋、これは真面目に考えてくれたのかな?」

「あぁ、もちろんだ!なまえとの初めてのデートだからな、頭をフル回転して三日三晩寝ずに考えたぞ」

「寝ずに…?それは嬉しいんだけど、このデートプランは申し訳ないけど却下」

「な、なんだと!?待ってくれ、このプランのどこがいけなかったんだ?」

「どこっていうか…もう全体的に駄目。遊園地ってとこは良いんだけど、内容が幼稚園の遠足レベルだし。なんでデートのメインがヒーローショーなの?パレードとかじゃなくて?フライドポテトなんて2回も食べれないし、もう17時解散ってとこがクソ。」

「はっはっは、なまえは可愛い顔してたまに瀬名みたいなことを言うな。だがそんなところも好きだぞ…☆」

「ふざけてないで真面目に考えてよね!デートは明後日だよ!?」

「す、すまん…!ふざけたつもりはなかったのだが…」

恋人になってから初めてのデートということで、当日のデートプランを考えることになった。流星隊のライブ企画もよく考えているから、まぁそれと大差ないものだろうと甘くみていたが、いざプランを練ってみるとデート経験の無い俺はまず行く場所を決めるのに丸一日かかってしまった。そうして考えること三日もかかり、ようやく完成したデートプランはクソと一喝されてしまったのだ。大好きななまえの笑顔が今は無く、まるで高峯のような冷やかな目で俺を見ているではないか。視線が痛い。

「俺はどうもこの手の企画を考えるのは向いていないようだ…すまないなまえ…俺はヒーローとして、いや彼氏として失格だ……こんな俺を殴ってくれ…!」

「いや、別にそこまで落ち込まなくても…」

「はい、邪魔〜。こんな狭い場所でなに土下座なんてしてんの。あんた達の揉め事に興味ないしさぁ、通れなくて邪魔だから夫婦喧嘩なら他所行ってくれない?」

なまえの足元で頭を下げていると、綺麗に磨かれた靴が目に入った。上から降ってきた声に顔を上げると、眉間に皺を寄せた瀬名が「早くどいてよねぇ」とイライラした様子でこちらを見下ろしている。

「あぁ、道を塞いですまないな瀬名!しかし俺たちはまだ夫婦ではないからな、夫婦喧嘩と言われると少し照れくさいぞ…☆」

「はぁ?バカなこと言ってないでさっさとそこどきなよねぇ」

「うっ、蹴るな蹴るな!」

「…泉はさぁ、デートする時ってどこ行くの?ちょっと参考までに聞かせてよ」

足蹴りにされている俺に見向きもせず、なまえは机に頬杖をついて瀬名に問いかける。さらに眉間に皺を寄せた瀬名の足に力が加わった。とにかく痛いのでまずはこの足を退けて欲しい。

「前も言ったけど、あんたにプライベートなこと教えるわけないでしょ。いい加減学習しなよねぇ、ほんとバカなんじゃないの」

「強がらなくてもデートしたこと無いなら無いって言っていいよ」

「ちょっと!ほんっとムカツク!!」

頭上で口論が始まったので、瀬名の足をなんとか退けて立ち上がることが出来た。なまえの机上に置かれたままのデートプランを手に取り、再度練り直しになってしまったことに心が沈む。さて、明後日までになまえの満足するプランをたてることが出来るだろうか。考えながら瀬名に視線を向ける。すると、まだ口論中だった瀬名が俺の視線に気付き、「なに?」と腰に手を当てて向きを変えた。

「…俺も聞きたいな、瀬名だったらどんなデートをするんだ?週末のなまえとのデートプランを考えたのだが、残念ながら却下されてしまったんだ」

「ふぅん。どうせちあくんのことだから、ヒーローショーとかそんなの見に行く予定したんじゃないの?」

「ぬぉっ!瀬名はエスパーだったのか…!?」

「せっかくのデートなのに、ヒーローショーなんて嫌だよ。私とのデートで行かなくたって、普段から千秋は見に行ってるでしょ?もっと恋人っぽいデートがしたいのに」

なまえに溜め息をつかせてしまった。彼女にこんな顔をさせてしまうなんて…。俺の気持ちが沈んだのを察したのか、瀬名が俺の頭をべしっと叩いて椅子に座る。

「なまえの言う恋人っぽいデートってさぁ、結局は女の理想で決めてるわけでしょ?男にとっての恋人っぽいデートはあんたが思ってることと同じとは限らないわけ。それをちあくんに押し付けるのはどうかと思うけど。まぁ、デートがヒーローショーってのはちょ〜うざいけどねぇ」

「そんなもんなの…?じゃあ泉がデートするなら何するわけ?」

「そうだねぇ…まぁ俺は忙しいから相手に合わせてる時間なんてないし、レッスンに付いてきたいなら来ても良いよって感じ。ランチの時間くらいは取ってあげるし、撮影終わったら少しは時間あげてもいいかな」

「何それ〜すっごい上から!却下!」

「はぁ!?あんたが聞いてきたんでしょ!ちあくんこのバカ今すぐごみ置き場に棄ててきて!」

終わったはずの口論が再度始まってしまった。瀬名のデートプランを参考にと思っていたが、どうやら俺には真似ができそうにない。言い合いを続ける二人を他所に、俺はアイデアが浮かばずに頭を抱えてしまった。そこへ、聞き慣れた陽気な声が耳に響いた。

「やっほ〜!また皆で仲良くお喋り?楽しそうだから俺も混ぜて混ぜて〜」

「これのどこが楽しそうだと思うわけ?バカばっかりでやってらんないし。かおくん、俺と交代ねぇ。こいつらどうにかしてやって」

「何々?もしかして俺の専門分野かな〜、なまえちゃんの為なら一肌でも二肌でも脱いじゃうよ♪」

「うーん、私っていうより千秋かな」

千秋くん?と丸くした目をこちらへ向けた羽風は、「千秋くんが悩みごとなんて珍しいね」と、俺に向かい合うようにして椅子に腰かけた。さぁどうぞ、と言わんばかりの表情で俺の言葉を待っているようだ。そういえば、羽風はほぼ毎日といって良いほど女の子とデートをしていると言っていたな…。彼に相談するのが確かにベストかもしれない。立ちっぱなしだった俺も、羽風に向かい合うようにして椅子に座る。

「実は週末になまえとデートをする約束をしたのだが、俺の考えたプランは気に入らなかったようでな…」

「え、デートするの?いいなぁ、俺もなまえちゃんとデートしたいな〜♪ねぇねぇなまえちゃん、俺ともどこか行こうよ」

「だ、駄目だぞ羽風!なまえは俺の大事な彼女なんだ!いくら友人とはいえ愛するなまえと男を二人きりにするわけには…」

必死に止める俺を見て、羽風はきょとんとしたあと大声で笑いだした。そんなに笑うことだったか?不思議に思いなまえへ視線を向けると、彼女は耳まで真っ赤になっていた。瀬名はまた大きな溜め息を吐いている。皆して、一体なんだというんだ?

「あはは、ごめんごめん。いやー、千秋くんのそういうところ良いよね。俺は嫌いじゃないよ〜。ね、なまえちゃん?」

「ごほごほっ、ん、まぁ…ね」

褒められたのかよく分からないが、とりあえず本題に戻り羽風にデートのアドバイスを貰いたいとお願いをしてみた。羽風は嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに「もちろん!」と承諾をしてくれた。なまえは変わらず顔を赤くしたままである。まさか熱でもあるのか…?

「俺が女の子に一番喜んでもらえたのは、海辺デートとクルージングかな〜。夜は海を見ながらディナーしたら、感激して泣いてくれたんだよね」

「うわぁ、それ素敵!海や夜景を見ながらとか、そういうの憧れるな〜。恋人って感じだよね!」

「あんたら二人、少女漫画の見すぎなんじゃないのぉ?」

「男こそが少女漫画を読むべきだと俺は思うんだよね〜♪女の子が喜ぶポイントが沢山出てるからさ」

「うーむ、なるほどな…少女漫画か……」

確かに、最近よく映画になっているラブストーリー物は少女漫画を元に作られているらしい。そういえばテレビで「壁ドン」だの「カーテンの刑」だの取り上げられていて、俺はてっきりサスペンスドラマのタイトルか何かだと思っていたが、それをなまえに言って呆れられたことがあった。ともあれ、羽風の言う少女漫画を読むという行為は非常に参考になるかもしれない。

「よし、なまえのために俺も少女漫画を読んで勉強することにしよう…☆瀬名、俺に少女漫画を貸してくれ!」

「持ってるわけないでしょ!?バカなんじゃないの!!」

「でもデートは明後日だよ。今から千秋が少女漫画読んでも、間に合わないんじゃないの?もう私がデートプラン考えようかな〜」

どうやらなまえは諦めモードに突入してしまったようだ。初めてのデートは自分がなまえをリードして、あの大好きな笑顔を沢山見たいと思っていたのに…。駄目だ、やはりここは俺が何とかしなければ!

「…なまえ!!ちょっと待っていてくれ、5分で戻る!」

「え、ちょ、千秋!?」

制止するなまえに振り返ることはせず、駆け足で教室を飛び出した。向かった先は普段なかなか行く機会のない、一年生の教室だ。休み時間で賑わう中、目的の人物を見つけ急いで駆け寄る。

「高峯!南雲!」

「げっ、守沢先輩…!?」

「あ、隊長!こんなとこまでどうしたっスか?」

「恥を忍んで単刀直入に聞く!男と女が行く場所といえばどこだ!?」

「「男と女が行く場所…??」」


***

自分の教室に戻ると、3人は先程と変わらぬ位置で楽しそうに談笑をしていた。教室のドアを入ったところで立ったままの俺に気付いたなまえは、眉を下げながらこちらに駆け寄り「急にいなくなるから心配したよ」と、俺の手をそっと握った。

「すまなかったな、なまえ。明後日のデートだが、俺は自分のしたいことばかりを取り入れて、なまえがしたいと思っていることに全く気付いてあげられていなかったな…。俺は男女の交際というのは初めてだから、すべてにおいて無知だった。だが、やっと気付いたんだ!なまえの気持ちに!」

「千秋…!嬉しい、それじゃあ明後日は…!」

「あぁ、初めてのデートだ…☆行こうじゃないか、ラブホテルに!!」


ばっちーーーーーん!!!


練習用のタオルを水道で冷やし、左の頬に当てるとジンジンと痺れを感じた。羽風が哀れみの、瀬名は呆れた眼差しで俺を見ている。なまえは怒って教室を出ていってしまった。どうやら俺は少女漫画に出てくるような青年にはなれないようだ。高峯と南雲なら良いアドバイスをくれると思っていたが、どうやら俺の思い違いだったようだ。ゆるキャラと鬼龍しか頭にない彼等は、ヒーローばかり追いかける自分と何ら大差なかったのだ。溜め息を吐きながらタオルを手で押さえていると、新しい人影が目の前に現れ、一冊の本が置かれたので顔を上げる。

「蓮巳、なんだこれは?」

「先程から貴様らの会話が煩くて勉強に集中ができん。これは俺の私物だが、特別に貴様に貸してやる。以前、なまえに貸してやったら気に入っていた。これでも読んで少しは静かにしていろ」

それだけ言うと蓮巳は席に戻り、分厚い参考書を広げ出した。机上に置かれたカバーの付いたそれを開く。それは絵柄が非常にキラキラしている、紛れもなく少女漫画であった。

「うわ、これ蓮巳くんの私物なの?ゲロゲロ〜」

「…そうか、なまえはこんな恋愛やデートがしたかったのだな。俺にはなまえの彼氏でいる資格なんてないのかもしれないな…」

漫画に出てくる少年はとても爽やかで、口にする言葉は男から見てもドキッとするものだった。ヒロインの女の子は頬を染めてばかりいる。俺はなまえにこんな顔をさせたことがあるだろうか。そう呟くと、羽風でも瀬名でもない、少しふてくされたような声が「何言ってんの」と降ってきた。

「なまえ……」

「さっきは、その、叩いてごめん。ちょっとびっくりしただけだから…。それと、彼氏でいる資格とか…そんなの関係ないよ。千秋は気付いてないだろうけど、私は千秋の言葉や行動にいつもドキドキさせられてばっかりなんだから……」

「そ、そうなのか…?」

「まぁ、千秋は無自覚なんだろうけどね」

「む…?何が無自覚なのかは分からんが…。俺はただ、なまえのことが何よりも一番大切なんだ。ヒーローとしてではなく一人の男として、全力で守りたいと思っている。なまえの全てが愛しい。その笑顔を見ると俺はどんな逆境も乗り越えていけそうな気がするんだ…!なまえは本当に可愛い彼女だし、俺には勿体ないくらいだな…」

「……っ!」

「どうした、なまえ?顔が赤いぞ。先程も気になったのだが、まさか熱でもあるんじゃないのか!?」

「もうっ、だ、だから無自覚だって言ってんの!バカっ!」

顔の赤さを増したなまえは、俺の腕を引いて教室の外へ連れ出した。屋上へ続く階段の下まで来ると人は少なく、「まったく…」というなまえの囁くような声も聞こえることができた。階段下で足を止めると、なまえはこちらへ向き直り、腕を引いていた手離して俺の両手を握り直した。少し口を尖らせている。

「……明後日のデートだけど、特別に今回は千秋の考えたプランでもいいよ」

「い、いいのか?だが…」

「そのかわり…」

他所を向いていた視線をこちらへ向け、上目使いで俺を見上げる。先程の赤さは引き、頬はほんのりとピンク色に染まっている。

「17時解散は駄目。その後も、もっと一緒にいてくれる?」

俺の大好きな笑顔を、やっと見ることができた。最近の俺は、この笑顔を見るために生きている、いや生かされていると言ったら大袈裟だろうか。「もちろんだ」と返すと、なまえはまたその笑顔を咲かせてくれた。俺は心底彼女に惚れているらしい。

「千秋が一生懸命だから、もうそれで良いかなって。理想を押し付けるなっていう、泉の言うことも一理あるしね。それに、千秋の気持ち沢山聞けたから」

「だが、俺はなまえを怒らせるようなことばかり言ってしまったようで…」

「怒ってないよ。千秋が皆の前で愛してるとか言うから、ちょっと恥ずかしかっただけ。でも嬉しかったよ。…次は二人の時に言ってね?」

「そ、そうだったのか…!」

自分の行動を振り返り反省する。女の子というのは、やはり難しい。だがなまえが向けてくれている花のような笑顔を見ると、反省よりも嬉しさが勝ってしまうのは不謹慎だろか。思わず頬が緩む。

「明後日のデート、楽しみにしてるね!遊園地では沢山遊ぼうね」

「あぁ、最高の一日にしよう!」

「千秋…、大好きだよ」

「なまえ……!!」

こんな気持ちをくれたなまえに、感謝の気持ちと愛してる想いを込め、そっと口付けをした。一度離したが我慢出来ずに再度唇を重ね、五度目で「やりすぎ」と止められてしまった。慌てて謝ると、なまえがクスクスと可笑しそうに笑うので、俺もつられて笑ってしまった。

「そうだ、なまえ!」

「ん、なぁに?」

「ラブホテルはどうする!?初めてでよく分からんが、予約制なら17時に予約するぞ…☆」

「ばかっ!!出直して来い!!」

まだまだ女の子の気持ちを理解するのは難しいようなので、教室に戻ったらまずは蓮巳に少女漫画の続きを借りてみようと思う。あの漫画のように、なまえを喜ばせられるような男になる。そしてなまえだけの立派なヒーローになってみせよう。「もう知らない!」と教室へ向かうなまえの耳は赤く見えた。そんな彼女を追いかけて手を繋ぎ、並んで歩く。彼女が少し微笑んだ。その花のような笑顔を、これからもっともっと咲かせてみせると心に誓った。

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