何処までも続く真っ暗な空間には僕一人しかいない。
右も左もどこを見ても広がるのは無限の闇。まるで世界が闇に呑まれてしまったかのように思える。だが不思議なことに僕はその闇に呑まれていない。この闇の中で僕の存在だけははっきりと映っているのだ。

ただボケーっと突っ立っている気にもなれないので、止まっていた足を動かして前へ進んでいく。何の音も響かないこの空間では僕の足音も聞こえない。まるで宙に浮いている気分だ。
不気味な場所にいるものだと思いながらしばらく歩いていると前方でゆらりと闇が揺れた。多分、人影だ。僕は躊躇することなくそちらの方へ足を進める。こんな場所に僕以外の誰がいるのか気になったからだ。
だがそこにいた人物は、思いもよらないものだった。
黒い髪、すらりとした華奢な体型、何より腰に掛けている独特な剣…あれは、僕だ。
俯いて座っているため表情は見えないけど、あれは僕に間違いない。

(なぜ僕がここにいる…)

座っている僕の下へ行こうとしたが何かに当たりそれ以上行くことは出来ない。触れた感覚から僕はそれが鏡じゃないかと推測した。確信はない。それにどのくらいの大きさかも分からない。映る人の行動をそのまま映さず、鏡として最低限度の行動も出来ない出来損ないの鏡。これは…それなんだと思う。

鏡に映っているのは僕の知らないもう一人の僕。
漆黒の服を身に纏い、隣には恐竜の頭蓋骨の様な仮面が置いてある。そんなもう一人の僕の姿を訝しげにじっと見つめていると、突然もう一人の僕が顔をあげてこちらを見てきた。
全く同じはずの紫色の瞳には今の僕にはない生きた瞳が宿っていて、僕はそれに恐怖を感じた。話さなくても分かる。この僕は僕が持っていないものを持っているんだ。

(これは、僕が望んでいた僕なのか?)


「それは違う。」


僕が思ったことを、もう一人の僕がはっきりとした声音で否定する。
こいつには…僕の心が読めるのか?


「………!?」


もう一人の僕に話しかけようと口を動かした瞬間、僕は驚いた。なんと声が出ないのだ。まるで声帯を奪われたように声が全くでない。口が動くのにそれが音にならないんだ。思わず喉に手を当てる。
僕が驚いている間に、もう一人の僕が身体を起こしこちらへ歩いてくる。音が響かない空間のはずだが奴の足音はしっかりと聞こえる。僕はもう一人の僕をまっすぐ睨み付けた。だが奴は怯まずただ淡々と前を歩き、そしてとうとう僕の目の前までやってきた。


「久しいな、リオン・マグナス。」

「…………」


至近距離で見ればよく分かる…これが僕であることが。


「こんな形で会うとは思わなかった。せっかく会えたことだし、一つだけ良いことを教えてやろう。」

「…………」


皮肉めいたその言い方に苛立ちを覚えるが、声が出せない僕は奴に何も言うことが出来ず唇を噛みしめる。


「周りのモノはお前が思うよりずっとお前のことを大事に想っている。特に、スタンはお前のことを一番大事な友だと…今でもそう思っている。」


何を言っているのか理解できなかった。同時に胸の内にナイフが刺さったような感覚に陥る。
あいつは今でも僕を友だと思っているのか?僕はあいつを裏切りそして殺そうとした。この身を挺しても守りたいものがあったから…。それなのに、あいつは僕を一番の友だと…本気でそう思ってるのか?


「お前も僕と同じだ。仲間というものを知りそれに出会えた。お互いかけがえないものを守ることが出来たんだ。」

「……………」


この僕が何を伝えたいのか、僕には理解できない。
だが僕と違って、この僕は僕以上に仲間を持ちそれを大事にしていることは分かる。

鏡に映るのは僕じゃない僕。
僕が歩まなかった道を歩み、僕が知ることの出来なかったことを沢山知っている。きっとその間に色々なものを失ったはずだ。
その僕がこうして僕に会って、僕と対話している理由は分からないが…。


(お前は、幸せだったんだな。)


すると目の前の男は微笑んだ。
それは僕にしては珍しく、純粋に心の底から喜びを表しているようで…この男の幸せがどれ程のものだったかが分かる。


「それは、お前が既に持っている幸せだ…。」





闇の中、尊き魂は光を灯す。




―――――――――
リオンさんとジューダスさんの会話。
リオンは死亡後、ジューダスはTOD2EDの後の姿。抜け出すことのない闇の世界に囚われてるジューダスの前に自分が死んだことに気付いてないリオンがやってきた。みたいな…。








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