彼は最愛の人を助けるため仲間を裏切った。
短い間だったが共に助け合い、痛みを知り、同じ時を刻んだその仲間に、彼は刃を向けたのだ。
その冷徹な仮面を付けたまま、戸惑う仲間を躊躇することなく斬り刻む。その中でも未だ自分の裏切りを否定し続ける一人の青年を、彼は真っ先にこの手で殺してやろうと思っていた。

だが天才と呼ばれた彼も、強くなった彼らを相手に勝つことは出来なかった。
出会い際では三人を相手にして圧勝したのに、今では自分が地面に膝をつく羽目になってしまった。
しかし、それでも彼は諦めなかった。自分を唯一愛してくれた彼女のために。
そんな彼に一声浴びせたのは自分が最初に殺そうとした青年だった。青年は彼を論し共に戦おうと手を差し伸べてくれた。彼は、その手を取りかけた。
だが…!


彼は仲間を救うために自らその身を捨てた。
一人残らなければいけないなら自分が行くと彼はレバーを動かした。そんな彼を助けようと最期まで彼の名を叫んでくれたのはやっぱりあの青年だった。自分を大切な友だと言い、氷の様に冷え切っていた自分の心を溶かしてくれたその青年は、彼が残ることを受け入れようとはしなかった。
だからこそ彼は青年に託したのだ。世界の命運を、そして最愛の彼女の存在を。

大量の水が流れ出るその場所で、彼は息を引き取った。
自分を看取ってくれたのは…最後まで自分の傍にいてくれた大切なパートナーだった。


彼は再び利用されるために生を受けた。
けれど蘇った世界に彼を認める場所は存在しない。だから彼は自分を隠すための仮面を被った。それは外見にも心にも…。
彼は青年の息子と出会い、導かれるまま共に旅を続けた。青年の息子は彼からすればまだまだ子供で、まるであの時の青年を見ているような感覚で彼は放っておけなかった。
旅を続けるうちに共に助け合い、痛みを知り、同じ時を刻む仲間が出来た。本当の自分を認めてくれる仲間に彼は心の仮面を外して接した。そして今度こそ裏切らないと、自身と共に蘇ったパートナーに誓った。それは自分自身のためであり、旅に出ていると言われている青年のためでもあった。
もうこの世界で青年と再会することはないけれど、それでも…彼は青年のために二度目の命を使おうと決めていた。

『……は、もうすぐこの世界から出ていけるはずだから、その時にさ、どうしても守れなかった俺の息子を…守ってほしいんだ。』

彼の覚悟はここから始まった。
この青年のために息子を守ろうと。例えどんな過酷な運命が訪れようとそれに立ち向かうだけの強さを与えようと。
そしてその時は訪れた。世界と最愛の人を天平にかけた青年の息子が、英雄としての選択をし、世界を救ったのだ。
だがそれは自分を知り、自分を受け入れてくれた仲間との別れの時でもあった…。
不思議と、寂しさはなかった。
新たな仲間と新たな旅が出来て、彼は自分にも良い経験になったと思えたのだ。前回の旅では知りえなかった…大切なことを知れたと。
裏切り者と呼ばれた彼は世間には知られずとも、かつての仲間と同じ英雄になれたのだ。


そして、彼はまた青年と再会した。
深い闇の中、その青年だけがその場には不似合いな輝きを持っていて、当時は眩しく感じたその輝きも今の彼にはちゃんと見えるようになっていた。


「約束、守ってくれてありがとな。」

「あぁ。」

「…もうすぐ、俺はこの世界から消える。」

「代わりにお前は蘇るんだ。逆に僕の存在は消える。皆の記憶の中から僕の存在がなくなるんだ。」

「……そんなことは…」

「ないとは言い切れないだろう。だが、それが苦にならない程の幸せを僕は受けてきた。だから…良いんだ。」


彼は切なく笑う。
その切ない笑みを青年は見ていられなかった。同時に、絶対に忘れないと言い切れない自分が歯痒かった。
嘘でもいいからそう言えればいいのに…。だが青年は当時彼を救えなかったことを気に病み、彼に嘘を吐くことを拒んだ。嘘を言って、それで彼を余計に傷つけるのが嫌だったのだ。


「!?」


青年の体を青い光が包み込む。彼も青年も理解した、青年が消えるまでもう時間がないんだと。
青年は唇を噛みしめ、その蒼き瞳から流れる雫を堪えながら目の前の人物に視線を向けた。


「……ッッ。ごめん、リオン。俺…」


彼は静かに首を振る。


「いや、むしろ謝りたいのは僕の方だ。すまないスタン。そして、ありがと。」


優しい声音で伝えると、弾かれた様に青年…スタンの瞳から涙が溢れだし、その一滴が地面へ落ちていく。


「……ッッ。リオ…」


スタンは何か言い返そうと口を開きかけたが、その前に光に包まれて消えてしまった。彼は静かにそれを見守り、そして消えていったスタンの跡を優しい笑顔でずっと見つめ続けた。

しばらくして、彼は闇の中を歩きだす。また一人で闇の中を彷徨い始めるのだ。
今度は蘇ることもない。
永遠に、一人で、誰もない闇を進んでいく。
だが昔とは違う、どんな闇を前にしても今の彼には立ち向かう強さがあった。胸に残る沢山の仲間が、彼の気持ちを奮い立たせてくれる。


「スタン、お前達に永久の幸福があらんことを。」


人は問う…何故彼にこんな運命を選ばせたのかと。





無情の雨は止むことを忘れ、少年に降り注ぐ。




―――――――――
リオンの人生をまとめようとしたらすごいことになってしまった。
すみません(´・ω・)








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