「なあ、お前、俺の事好きだろ。」


ニヤリとした笑みと一緒に吐き出された言葉は、
僕の思考を止まらせるには十分だった。












甘くない果実















哉太がひどく憧れている人物。
月子がお父さんみたいな優しい人、と言っていた人物。
最初はただ気になったから。それだけだったのに、
イベントとか生徒の為に全力で、
すごく自信満々な傲慢ともとれる態度。
ただ気になってただけなのに、
気づけば何となく、惹かれてた。

多分、顔も知らないであろう生徒の
どんな質問にもきちんと向き合ってて、



ほんと、気づいたら、なんだ。

気づいたら目で追ってて、
でもこれは、好きとかじゃないのかもしれないし、
分からないし、

だから、これは。








「土萌、逃げるなよ?」


「逃げてなんて、ないですけど、」






僕ら以外誰もいない、二人きりの生徒会室。
一歩、近づいてきた会長に思わず一歩、下がる。
これを繰り返して、あ、と
気づけば壁に背を預けるような体勢になっていた。







「もう一度聞く、土萌、俺の事好きだろ?」







追い詰められた壁に手をついて、
僕が逃げられないようにして、じっ、と目線を合わせてくる。
何となくいたたまれなくて俯けば、
逃げるなって言っただろ?って耳元で、言われ、た。










「べ、つに、」


「ふうん?その割によく俺の事見てたよな」


「あ、れは、ただ気になっただけ、ですけど、」


「それだけか?」







そう言われて、動きが止まる。
嫌いではない、嫌いじゃない、と思う、けど。

 好き? 好きって言われたら、それは。








「分かんない、よ」


「俺は好きだけどな」


「っ!…うそ、でしょ?」


「俺がこう言うことで嘘をつくとでも?」


「しら、ない!」








答えなんて本当は分かってる、けど。
答えられないのは意地とかプライドとか、そんなもののせい。









「もう、帰る、」


「帰さねェよ?」


「どう、して、」


「帰して欲しいなら、ほら。」


「っ…」










だんだんと近付いてくる顔、
うつむいた僕の耳元で囁かれる声、
徐々に上がっていく体温。


思考が、溶ける。
あついあついあつい!








「だ、大っ嫌い!」











ぐるぐるぐるぐるなにも考えられなくなる。



(なにこれ、なにこれなにこれ!)


頭のてっぺんから爪先まで全部熱くて、溶けちゃうんじゃないかと心配になるくらいに、熱くて。

火照りを冷ますようにあてもなく全力疾走した。














end
(残された会室で)
(ニヤリと笑った会長を)
(彼は知るはずもなかった。)








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