「ねえ、 どうしたい?」

いつもの笑みとは少しだけ違う笑みを浮かべて
一歩、また一歩と近づいてくる佐伯に
どうしてか逃げたくなって

困ったように笑って見せたけれど
それも佐伯には聞かなくて。

ねえ、不二。

名前を呼ばれただけで跳ねるこの鼓動を
どうにかしたい、と切実に願った。














炭酸シャワー









幼馴染というのは本当に不思議だ。
どんなに長らく合わなくても
会った瞬間すぐ距離を近づけられる。

お互い別々の中学に進んだ時から
会うことは中々叶わなくなった。
それでもふと、声聞きたいな、と思う頃
佐伯から電話がかかってくる。


どうしたの?と聞くと
不二の声が聞きたくなって。なんて言うから
本気なのか冗談なのかわからなくて
奇遇だね、僕もだよ、と返すと
嬉しそうにくつくつ笑う佐伯が僕は好きだった。








「不二、」





目を閉じて思い返してるうちにも佐伯との距離は縮まっていてそれを認識してまたどきりと跳ねた




「さ、えきはどうしたい?」




珍しく上手く言葉を発せない自分に
へたになったな、と自嘲して佐伯を見つめる
佐伯はいつもより余裕がないようにも見える
それでも今の僕よりは余裕そうだった。






「俺の答えは決まってるよ。でも」

不二が一番だからと爽やかに笑顔を作る佐伯は
本当にずるいと思う。
それはもう答えを言ってるのと同じってことを
わかって言ってるんだろう、それでいて
僕にそれを言わせようとしてる。





本当に、ずるい。











佐伯のことを好きだと認識したのは
結構あっさりとはやくに気づいた。

たまの電話の最中に待つんじゃなくて
理由なくかけられたらいいのに、
そう思う自分がいたことに気づいて
男とかそういうのじゃなく
佐伯が必要なんだって理解した。


















目の前の佐伯との距離は近すぎるくらいだった
少しだけ手を出したらもう触れられるくらい。










佐伯は待ってる。
僕の言葉を。












本当は決まってるんだ。


でもそれでもやっぱり恥ずかしくて。
いざ言おうとすると震えて声が出ない






それがまたもどかしくてこのまま伝わればいいのに、




そう願って佐伯のシャツの裾を掴んだ。














「ずるいなあ、不二は。」

「 、」













ごめん、待てなかった。





そう言って僕をぎゅう、と抱きしめる。


同じ学年で同じスポーツをしてるのに
随分逞しい腕だな、なんて思った。





それでも
居心地は最高に等しくて。
ここから出たくない、なんて思って目を閉じた







「佐伯、あのね」

「ん?」
















僕いま、しあわせかもしれない。






















佐伯にはそれで全部伝わったみたいだった。


視界が佐伯で染まって
ずるいよ、不二。

触れたところがぱちぱちとはじけるような
感覚にとらわれて


「さえ、」
彼の名前を呼ぶことも叶わぬまま、
もう一度、世界が彼で染まった。
















「すきだよ」





























end
(不二、ごめんな)
(ん?)
(かわいい)
(、!)









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