今日は用があって駅前まで出て来た。
その用も済み、早々と家に帰ろうかとも思ったが、たまには若者らしく外でお茶でもしてから帰ろうと、普段はめったに行かないであろうカフェに入る事にした。
「うっ…!」
店に入って僅か3秒。
カイジは早くも後悔した。
やっぱり明らかに雰囲気が自分とは合わない。
「いらっしゃいませ。1名様でよろしいですか?」
「あっ、あぁ、はい…」
「おタバコは吸われますか?」
「はぁ…」
「こちらへどうぞ」
すぐに出て行こうとしたが、店員の素早い対応によりあっさりと喫煙席に案内されてしまった。
「(まぁ…コーヒーでも飲んですぐに出れば良いか…)」
水を持ってきた店員にすぐさまコーヒーを頼み、タバコに火を点ける。
そして辺りを見回してみると、営業の合間を縫って寛いでいるであろうサラリーマンや、仲睦まじそうに会話をするカップル、ガールズトークとやらに興じる女子3人組……女子………はっ!
カイジは咄嗟に視線を外した。
「(何でっ…名前がこんな所にいるんだよっ…!)」
そう。
ガールズトークをしていたのは、紛れも無くカイジの恋人である名前だったのだ。
そういえば今日は友達と遊びに行くんだーとか言っていた気がする。
でもまさかよりによってこんな所で会うなんて…万が一見付かったら絶対に馬鹿にされる。とにかく早くコーヒーを飲んでここを出なければっ…!
とりあえず目が合うなんて事の無いように窓側に視線を反らす事にした。
「……で、名前は最近どうなの?彼氏とは」
…ん?
何か今…彼氏とかって聞こえた様な…
「えー?別に、普通だよ」
「でも彼氏って何かヤバそうな事に首突っ込んでるって聞いたよ?」
「うん、あんま良い噂聞かないよね!」
「そんな男と付き合ってて大丈夫なの?」
どうやら今の話題は名前の彼氏…つまりはオレの話題になっているらしい。
「っていうか今仕事してないんじゃなかったっけ!?」
「嘘!マジで?」
うっ…痛い所を突かれた…
「んー、まぁね…」
…もしかして、名前はもうオレに愛想を尽かしたのか?
そりゃあ無理も無いが、こんな所で名前の本心を聞く事になるなんてっ…。
どんどん眉毛がハの字になっていくカイジ。
「別れた方が良いんじゃない?」
「名前なら他に良い人いっぱいいると思うんだけどなー」
その通りだ。
名前に似合う男なんて他に沢山いる…。
「…んー、それでも私は、アイツが良いんだよね。」
…え?
「そりゃダメニートだし最近少しお腹が出て来たけど…」
……。
「何だかんだ好きだなぁって思うし、アイツがいない生活とか…想像出来ない、かな」
っ…名前…!
「ま、まぁ名前が良いって言うなら良いんだけどね」
「いーなぁ、私もそう思える人欲しい〜!」
オレは少し温くなったコーヒーを一気に飲み干して店を出た。
その時のカイジの顔は、店に入った直後のそれとは全然違っていた。
ガールズトーク
名前が帰って来たら思いっ切り抱きしめるんだ。
そして言うんだ。
「愛してる」って。