何時もの様に赤木が縁側で紫煙を燻らせていると、ガサリ、と目の前の植木が揺れた。
そうして現れたのは、これまた何時もの様に満面の笑みを浮かべた少女の姿。
「あーかーぎーさんっ!」
「…またお前か」
「えへへ、また私です」
また煙草なんか吸っちゃって、と少女は当たり前の様に赤木の隣に腰掛ける。
「そろそろ禁煙しないとダメですよ赤木さん。私の為に長生きしないといけないんですから」
「馬鹿言うな、禁煙なんかした方が直ぐにおっちんじまう」
「ふふ、確かにそれは否定出来ないです」
鈴を転がすように笑う少女をまるで猫の様だと赤木はふと思い、おもむろに喉元に手を伸ばして撫でてみる。
すると少女は嬉しそうに目を細めて手に擦り寄るのだから、あぁやはりこいつは猫だと赤木は笑った。
「もう、また子供扱いして」
「子供扱いも何も、子供じゃねぇか」
「違いますー!…ねぇ赤木さん。私、今日誕生日なんです」
「ほー、そりゃおめでとう」
「ありがとうございます…じゃなくて!もう16歳になったんですよ?結婚出来る歳になったんですよ?」
「なんだそりゃ、プロポーズか?」
「そうだって言ったらどうします?」
そう言って赤木を見詰める少女の目は真剣そのもので、赤木は思わずむせ混んだ。
「ッゲホ…!お前、あまり年寄りをからかうもんじゃねぇぞ」
「からかってなんか…!私、本気で赤木さんの事が好きです!」
「あのなぁ…」
確かにこうして気紛れにやって来ては好きだの何だのと言われ続けていたが結婚がどうのと言われるのは初めての事で。
赤木は小さく溜め息を吐き、煙草を灰皿に押し付けて立ち上がった。
「なぁ名前よ」
「何ですか…わっ!?」
「好きだって事は、結婚するって事はな、こういう事も、それ以上の事だってするんだ。それがお前に出来るのか…?」
名前を呼ばれ不思議そうな顔をして赤木を見る名前の肩を軽く押して馬乗りになり、耳元で低く囁く。
すると忽ち名前は顔を赤くさせて身体をびくりと震わせた。
「どうなんだ?」
「ひゃ、ぁ、あかぎさ…」
「言わないとこのまま続けちまうぞ?」
「っ……ん!」
名前の両手を片手で纏め上げ、もう片方の手を名前の服の中にゆっくりと入れて直に脇腹を撫で上げる。
首筋に寄せていた顔を上げて名前の顔を見れば、頬は紅潮し目には薄く涙が浮かんでいた。
少し虐めすぎたかと、赤木は名前の手を解放してやり一先ず離れようと起き上がる。しかしその瞬間、首に名前の腕が絡んだかと思えばそのまま思い切り引かれ再び名前に倒れ込んだ。
「っ、名前…?」
「…良いです…」
「ん…?」
「良いですよ…続き、して下さい」
「…はっ、何言ってやがる。その割には泣いてんじゃねぇか」
「そ、れは、ちょっとびっくりしただけでっ…でも、」
赤木さんだから、良いんです、と笑う名前からはとてもじゃないが年相応には見えない程の色気を感じ、赤木は思わず生唾を呑み込んだ。
が、その場の雰囲気に流されて名前を好き放題出来る程赤木も子供じゃない訳で。
赤木は名前の腕を解き身体を起こしてやると額を軽く叩いた。
「クク…ばーか」
「痛っ…」
「色仕掛けなんざ100年早いんだよ」
「色仕かっ…!?先に押し倒したの赤木さんの癖に…」
「何か言ったか?」
「っ、もう…何でも無いですー」
「…まぁでも」
「?」
「5年…いや、4年後に同じ事されたらどうなるか分かんねぇな」
「へ…そ、それってどういう、」
「フフ…さぁな。ほら、そろそろ帰んな」
名前の頭をわしゃわしゃと撫でてやると、一時は納得の行かない顔をしていたものの、直ぐに意味を理解したのか、約束ですからね、と来た時同様満面の笑みを浮かべて帰って行った。
そんな名前を見送り赤木は新しい煙草に手を伸ばす。
「……今日は、やめとくか」
が、その手が煙草に触れる事は無く。
「クク…あいつ、とんでもない物をせがむだろうな…」
赤木は手持ち無沙汰になった手をポケットの中へと戻し、来る名前の4年後の誕生日プレゼントを考えるのであった。
野良猫の躾け方
「飼い猫記念に鈴の付いた首輪でも買ってやろうか」
「っ…!?何か寒気が…」