この世にはどんなに抗おうとも変わらないもの、変えられないものがある。
例えば朝の次には必ず昼が来て夜が来たり、人は生まれて来た時から着実に死へと歩み始めていたり、私は女で彼は男であったり。
そんな事を私は彼に覆いかぶされながら考えていた。
「…ねぇ」
「なに」
「これは一体どういう状況なのかな」
「見て分からない?」
「分からなくはないけど…何するつもりなの」
「何って…セックス」
「っ、そんなにストレートに言わないでよ!」
「じゃあ何て言えば良い?」
「……」
目の前に広がるは、白い天井とそれと同じ色の髪を持つ少年の悪戯な顔。
そして背中にはひんやりとしたフローリングの固い感触。
言わずもがな彼…アカギくんに押し倒されている訳だけれども、どうしてこんな状態になったのか思い出せない。
確かいつものように夕食を食べてテレビを観ながら何を話すでもなくボーっとしていた筈なのに。
「何の冗談よ…」
「冗談だったらこんな事しない」
「何言っ…あっ!」
突然アカギくんの手が服の中に入り横腹を掠めた。
温度の低いそれが身体をなぞる。
「へぇ…柔らかいんだ」
「んっ、…くすぐった…!」
「じゃあここは?」
そう言って下着の上から膨らみを包むように触れられる。
「どう?」
「よく分かんない…っ」
気持ち良いか気持ち悪いかと聞かれればそりゃあ気持ち良いに決まってる。
別に初めてではないし、行為自体の良さもとうに知っている。
でも、言わなかった。というより、彼を前にして言えるはずがない。
そもそものこの状況がおかしいのだ。歳だって離れているのに、何故私を?
頭の中で警鐘が鳴った気がした。
崩れる。
このまま事が進んでしまったら、良くも悪くも間違いなく何かが崩れてしまう――。
「…っ、ねぇ、どうしてこんな事…っ」
「"どうして"?…名前を抱きたいと思ったから。ただそれだけ」
心臓が僅かに跳ねた。
今まで名前を呼び捨てにされた事が無かったからというのもあったけど、何よりアカギくんの目が、確かに熱を帯びていたから。
そうしている間もアカギくんは確実に私を追い立てるように攻め続ける。
「そんな事、言われても…困る…っ、」
「クク…満更でも無い癖に」
「誰が…んぁっ!」
胸部の圧迫感が無くなったのを感じた刹那、甘い刺激が走った。
器用にブラを外し服を捲し上げられて露わになったそこを、舌先で突かれたのだ。
「ほら。凄く固くなってる」
「言わないでっ…や、…!」
「強情っ張りだな…こっちは素直なのに」
中学生の癖に何て事を言うんだ。
もしかしてアカギくんはこういう事に慣れているんじゃないかとか色んな事が頭を過ぎったが、遂にはアカギくんの手が下腹部にまで伸び、言葉でも行動でも脳髄を刺激されて段々何も考えられなくなって来た。
そして、太ももに当たる堅い感触。
「…ねぇ、挿れても良い?」
「っぁ、ちょっと待っ…!」
「嫌だ…早く入りたい。名前さんの中に」
「…っ、」
顔を上げるとアカギくんが余裕の無い表情で私を見つめていて。
ここまで純粋に求められてしまうと、拒める訳が無く。
そして何より私も我慢の限界だったから。
「……」
私は無言でアカギくんの首に腕を回し、降参の意を込めて目を閉じた。
何かが崩れても良い。
それでも尚、君が近くに居てくれるのなら――
変わらないもの
結局私の方がのめり込んでしまっただなんて死んでも言ってやらない。