「アカギさん!」
「お疲れ様」
職場である雀荘から出ると、壁にもたれるように立つアカギさんがいて私の頬は自然と緩んだ。
「ごめんなさい、締めの作業が中々終わらなくて…待ちました、よね?」
「いや。帰ろうか」
「あ、はい」
単にこうして仕事が終わった後迎えに来てもらうだけの関係では勿論無い。
元々アカギさんはこの雀荘のお客様だった。
月に2、3回来る程度だったが、初めて来た時に見た常人では成し得ない闘牌にすっかり魅了されてしまい、私が猛アタックした結果なんとか交際にまで至ったのだ。
それから私が仕事の日はほぼ毎日アカギさんが職場まで迎えに来てくれて近所の公園に寄り道してから帰る、といった日が始まりそれも今日で丁度1ヶ月が経つ。
「今日は誰もいませんね」
「そういう日もあるよ」
「せっかくだし少しだけはしゃいじゃおうかな…乗るの何年振りだろう、っと」
私はアカギさんが座ったベンチのすぐ隣にあるブランコに座り、地面を蹴った。
漕ぐ度に頬に当たる夜風が心地好い。
「アカギさんも一緒にどうですかー?」
「オレはいい…落ちないでよ」
「ふふ、落ちませんよーっ……あぁ!!」
「…だから言ったのに」
「う、すみません…」
調子に乗って足をプラプラしていたら、すぽーんという言葉がぴったり合う勢いで履いていたサンダルが宙を舞った。
ちょっと待ってて、とアカギさんは十数メートル先に飛んで行ったサンダルを拾い、渡してくれるのかと思いきや何故か私の足元にひざまずき。
「…アカギさん?これってもしかしてもしかしなくても」
「はい、足」
「やっぱり!?良いですよ自分でやりますから!」
「良いから。早く」
「、はい…」
されるがままにアカギさんの手が私の足を取り器用にサンダルを履かせて留め具を着ける。ただそれだけの動作に私は思わず見惚れてしまっていた。
触れられた所が熱を帯びた様な何とも言えない感覚がしてドキドキする。
きっと私の顔は今真っ赤なんだろう。
「ん。出来た」
「あっ、ありがとうございます…」
アカギさんの声でハッと我に返り顔を上げるとそこにはアカギさんの顔が目前で。
思わず出そうになった驚きの声は出る事無く一瞬の柔らかい感触と共に消えて行った。
「な、え、アカギさ…!?」
「あぁ、ごめん。つい」
「い、いえ…って今の、は、はじ…!」
「フフ…良いんじゃない、1ヶ月記念で」
アカギさんが悪戯に笑いながら立ち上がる中、どこかの童話に出て来そうな事をされ更には初めてキスをされて呆然としていた私は、またもやアカギさんからのキスで我に返るのだった。
そんな君が好き
「無防備」
「〜〜〜〜っ!からかってます!?」
「好きな子は虐めたくなるって言うだろ?」
「……(心臓が持たない…)」