「…寒っ…」
仕事を終え、晩御飯の買い物を済ませて家に帰っている最中の名前はもうすぐそこまで来ている冬の気配に身震いをした。
一人街を歩いていると、すれ違うのは家族連れや手を繋ぎ幸せそうな顔をしているカップルばかり。
そんな光景を見ていると、羨ましくもあり、少しばかり恨めしくもなってくる。
名前にだって恋人がいない訳じゃない。
ただ、会う時はいつも突然で、会えてもいつの間にかふらーっといなくなる猫のような人だったから、毎日一緒にいられるような関係ではなかった。
「早く帰ろう…」
最後に彼に会ったのはいつだっただろうか。
そもそもこの関係は恋人同士と言えるのか。
そんな事を自問自答しながら家路に着くと、
「やだ、鍵閉め忘れてた…」
確かに閉めたはずなんだけど、と慎重にドアを開けると、玄関には見慣れたスニーカーが。
「あっ…アカギ…さん?」
「お帰り。遅かったね」
「仕事でしたから…って、あ、お腹空いてます?すぐにご飯にしますね!その前にお茶…」
久しぶりに会えた喜びよりも驚きが先行して慌てている名前に、アカギは思わず笑みが零れる。
「それよりも、名前、こっち」
「え、あ…っ」
次の瞬間、名前の場所はアカギの腕の中で。
「手、冷えてる」
「もう冬ですからね」
「寂しかった?」
「え?」
「そんな顔してる」
「そりゃあ、久しぶりだし、寂しかった…です」
「フフ…じゃあ今日は朝まで離さない」
「…っ!」
「明日、休みだろ?」
「うぅ、そうですけど…」
「?」
「朝になったら、また行っちゃうんですね…、あ」
あぁ、言ってしまった。
負担になりたくないから言いたくなかったのに。
嫌われたくないのに。
一人自己嫌悪になり黙り込む名前を見て、アカギは本日2回目の笑みを零す。
「…何笑って、」
「いや、名前、どれだけオレの事好きなの」
「そんなの…言葉じゃ言い表せませんよっ」
「ふーん」
可愛い、と額や頬に唇を降らせるアカギ。
この人には一生敵いそうにないな。
幸せな温もりに包まれながら名前は思った。
二人の唇が重なるまで、あと10秒。
こんな寒い夜には
「そういえば…さっき言った事覚えてる?」
「え?」
「朝まで………………」
「…あ、…っ!」