神域と呼ばれる男が気まぐれに入った雀荘の扉から出てくると同時に、ぶわりとした強風に乗って桜吹雪が舞った。
もうこんな季節かと彼は目を細め、向こうの街灯に照らされた桜の木に視線を移す。
はらはらと舞う桜吹雪の一陣が去ったのち、狙いすましたかのように彼にとって現在もっとも愛しい人物がこちらに向かって歩いて来ていた。
その足取りは何処か軽やか。
短絡的に言えば千鳥足である。
「あらあら赤木さん偶然ですねぇ」
「…随分ご機嫌じゃねぇか。お嬢さん?」
「ふふう、大学時代の友達とお花見してたんですぅ。」
自我はあるが如何せん酒臭い。
酒に強い方である彼女がここまで酔ったのだ、相当楽しかったに違いないと赤木は考え何となく笑った。
手を繋ぐかと聞けば、名前はにっこりと微笑みその手をきゅっと握りしめた。
夜風に吹かれ、時折舞う桜の花びらに目を奪われながらそのまま二人は夜道を歩く。
他愛のない話題をぽつぽつと話しながら、赤木はいつもよりほんのりと熱い名前の手を心地よく感じていた。
彼女も、夜風の冷たさと赤木のひんやりとした指先を心地よく感じていた。酔いも少しづつ覚めてきたらしい。
春の夜中、ただ手を繋いで歩いているだけなのに何故ここまで機嫌がよくなってしまうのか。
夜間の静寂と暖かい空気が、名前達の雰囲気を柔らかく盛り上げている。
「赤木さんともお花見…したいです、ねぇ」
「ん?まだ呑み足りないってェのか。若いなぁお前も」
「ち、違います!ただ…その日しか見れない桜を、その日しか見られない赤木さんの表情と見たいだけです」
空いている左手で舞ってきた桜の花びらを掴み、名前は淡く微笑みながら赤木にそれを見せた。
それは数秒の後、ふわりと風に乗って彼方へと消えてしまった。
「今の花びらだって…同じことです。
私は、少しでも赤木さんを覚えていたいんです。
離れても、いつも赤木さんを思えるように。」
何処か照れ臭いその言葉は、自分には無縁だった青春時代のようで赤木は新鮮に感じられた。
例えその言葉が酔った脳からの、嘘だったとしても。
嘘という事実が明るみに出ない限り、それは赤木の中で真実として刻まれ続ける。
最も、名前の性格を思うと嘘である可能性はほぼ無い訳だが。何処ぞのフィクサーのようにさらりと着飾った言葉を発する事が出来るならともかく、赤木はどちらかと言えばそういう言葉は照れ臭さが混ざるせいで言えない人間に属する。
それは自身は一番自覚しているのだが。
ただ今回は素面の相手に言う訳ではない。
言ったところで、それを必ずしも覚えているとは限らないのだ。
この歳で愛しい想いの篭った台詞とやらを言うとは思わなかったと赤木は自嘲しつつ、ポケットに突っ込んでいた右手を出し額にかかる名前の前髪を上げてやりそっと口付ける。
そして出来る限り優しく、赤木は愛しい想いの篭った台詞とやらを言ってやった。
「言われようと言われなかろうと、俺は名前から忘れられるような薄っぺらい存在になんざなるつもりねぇよ」
ほんのりと赤い名前の顔が、ふにゃんと笑ったのを見た赤木も釣られたように微笑んだ。
素面でなくとも、今の名前さえ聞いてくれていたらそれでいいのだ。
気分が盛り上がってきたのか赤木は額だけでは飽きたらず、少し屈み名前の下顎を軽く掴み口付けてやろうとした
と同時に聞こえてきたのは、下品な男の笑い声とそれに対して面倒そうに世話を焼く青年の声。
静寂に包まれた夜の道から突然聞こえてきたものだから、流石の赤木も瞳孔を開かせ驚きの表情を浮かべた。
ふと視線を無しに戻すと、名前も似たような表情で笑い声のした方向を見ていた。
ぱっと繋いでいた手を慌てて名前が離したので、何事かと名前と同じ方向に再度視線を移すとそこには見慣れた卓仲間二人の姿。
しかもその二人の内、面倒な方は酔っ払っている。先程の名前よりも確実に酒臭い。
呆れた声音で先に口を開いたのは赤木だった。
「天よ…まぁた随分派手に酔ったモンだなァ?」
「あ、赤木さん!それに名前さんまで…!
ちょっと手伝って下さいよ…!天さんさっきから面倒で
「だぁれが面倒だってぇひろォォ!
よぉ名前!お前も酔ってンのかぁ!?赤いぞぉ!」
とても天のせいで酔いが一気にぶっ飛んだなんて名前は言えなかった。
「あ…ははは、まぁそんなところです……ひろ君も大変だなぁ…」
そうかそうかと恐らく名前の返答をロクに聞いてないであろう天は名前を引き寄せ、両肩を若者二人に支えられる形でまたも陽気に笑い出す。
天を先程から支えているひろゆきは、また人に迷惑を掛けたと胃が痛む思いがした。
先程の甘い空気は何処へやら。
赤木は赤木で、酒気帯びたせいか桜がより桃色に見えた辺り自分も酔いどれに近付いてきたかと思いはじめたらしい。
この際だからと酔っちまう方がいいかもしれない。
そう考えた赤木が不意に近くのコンビニへ立ち寄り、適当に選んだ数十本の酒とツマミを片手に天の家で呑み直そうと言い出すまでそう時間は掛からなかった。












墨さんの所でキリ番を踏ませていただき神域文を書いて下さいましたー!!!!圧倒的感謝っ…!
1000打のフリリク時は相互文を戴いたばかりだったので自粛したのですが、キリ番ならばと遠慮なくリクエストしちゃいましたうへへ(^q^)
私、店長は勿論なのですが墨さんの中年組が好きで好きで//(いきなり告白)
銀さんや沢田さんには無い魅力が出てますよねっ!!いや皆さん魅力の塊みたいなものですがねっ!!(何それ)
そして天さんww邪魔しないであげてwww
その後の飲みでも大いに暴れる事でしょう( ^ω^)ひろ頑張れ(笑)

なんか纏まりが無いですが…
墨さん、ありがとうございました(^^)家宝にします!w







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