零は基本的に私に物凄く優しい、というか、甘い。
テスト前はいつも助けてくれるし(まぁクラスの皆にも教えているけれど)デートで遅刻しても我が儘を言っても嫌な顔一つしない。
以前「どうして零は私を怒ったりしないの?」と聞いてみた事があるけれど「え、何かオレが怒るような事した?」と逆に質問返しされてしまった位だ。
それだけ大事にされているんだなーと嬉しく思う反面、零に無理をさせているのではないかと不安にもなるがそれはそれでうまくやれているのだからきっと問題は無いのだろう。
そんなある日のこと。
「今日はありがと。また明日学校でね!」
「うん…ごめんね。今日は名前の家まで送ってあげられなくて」
「えっ、いいよ全然!逆にいつも零に送って貰ってばかりで悪いし、ね?」
「悪いも何も…それが男の役目だろ?とにかく、気を付けて帰ってね。家に着いたらメールでも電話でも良いから連絡する事!」
「ふふっ、はぁい。」
今日はこの後別の用事があるらしく、零とは駅で別れた。
デートの時は毎回零が私の家まで送ってくれていたので、こういう事は今日が初めて。
まぁそれでも別に困る事ではないので一人で帰るのに多少の違和感を感じながらも私は家路についた。
そこから私はすぐにお風呂に入り、自室でゴロゴロしていたらいつの間にか眠ってしまっていた。
―零の言葉を忘れたまま。
「…ん…、…………あぁぁ!!」
目を覚ました私はベッドから飛び起きた。
時計を見れば8時を回っている。遅刻ギリギリだ。
私は急いで制服に着替え、顔だけ洗ってご飯も食べずに家を出た。
幸い1限目が始まるまでにはなんとか間に合い、席で乱れた呼吸を落ち着かせる。
そして午前の授業をいつも通り終え、昼食の時間。
いつもお昼は零と一緒に学食で食べているので零がいる教室まで彼を迎えに行こうと教室を出たその時。
「わっ!…零?」
「名前…!」
いつもは自分の教室で待っているはずの零が何故か私の目の前に。
なんだか凄く焦ってるみたい。
「どうしたの……った!」
言葉を発したと同時に額に鈍い痛みが走った。…デコピンだ。
「な、何…」
「…昨日、あれからちゃんと家に帰った?」
「え、うん、普通に帰ってそのまま…あ」
―家に着いたらメールでも良いから連絡する事!―
…忘れてた。連絡しろって言われてたんだっけ…。
「ごめん…すっかり忘れてた…」
「朝だって電話もメールもしたのに」
「え?あれ、携帯……家に置いてきちゃったみたい…」
「もー…何も無かったから良いけど、すっごい心配した」
「ごめんなさい…」
「なんかオレばっかり名前の事好きみたいで馬鹿みたいじゃん…」
「…えっ、何?聞こえなかった」
「ううん、何も。とにかく無事に家に帰ったのならもう良いよ」
「ん…ごめんね」
…でも。
「なんか、嬉しい」
「何で?」
「だって初めて零が私に怒ったから」
「ふぅん…じゃあこれからは厳しく名前に接していこうかな」
「えっ!それはいい!」
「ふふ…冗談。でもあまり心配するような事はしないでね」
「はーい」
「昨日もそれで裏切られたからなぁ…」
「もー、だからごめんねってば!早くお昼食べよっ!」
心配させてしまったけれど、やっぱり愛されてるんだなぁって実感した月曜の昼。
優しい王子様
「…はっ!ごめん!おでこ大丈夫!?痛かったよね、ホントにごめん…!」
「(…愛されてるというより過保護に近い気もするけれど)」