「はぁーあ…」
本日何回目になるかも分からない溜め息がまた一つ。
「今日はクリスマスなのに…何で今日に限って佐原くんの所に行っちゃうわけ…?」
クリスマスと言ったら恋人がいるのなら恋人と過ごすのが普通ではないのか。
にもかかわらず私の恋人…伊藤開司は、「ごめん!どうしても頭数が足りないみたいで…夜には帰るからっ!」とだけ言って家を出て行ってしまった。
今目の前にあるのは苺のショートケーキ1つ。
先程コンビニに行って買ってきた物だ。
「何が悲しくて一人でケーキなんか食べなきゃなんないのよ…馬鹿カイジ…」
もし仮に二人でクリスマスを過ごせたとしても、金銭面から見て小洒落たレストランで食事といったような大した事は出来なかっただろう。
でもそれでも良かった。
好きな人と一緒ならたとえケーキが食べられなくてもプレゼントが無くてもそんなのどうでも良かったのに。
まぁ、そんな事をぼやいてももう遅いのだけれど。
一人で食べたケーキは、あまり美味しくは無かった。
―数時間後。
そろそろお風呂に入ってふて寝でもしようかと思った時、玄関からドタバタと忙しなく例の男が帰ってきた。
「たっ…ただいま…」
「…」
当然、無視。
着替えを用意して髪の毛を纏め上げていると、後ろから思いっ切り抱き着かれた。
「…離せ馬鹿」
「ごめん、ほんっとにごめん」
「うっさい馬鹿」
「…寂しかった?」
「……っ!1日中ほったらかしにしてた奴にそんな事聞かれたくな…」
あれ。
今指に何かはめられたような。
「…これ…」
「佐原のとこ行くとか言ってごめん…驚かせたくて…」
左手の薬指に光る物は、前にカイジとウィンドウショッピングをしていた時に見付けて一目惚れした指輪。
口に出したつもりは無かったのに、いつの間に…。
「前行った店に行ったらもう無くなってて…探しまくってたら遅くなっちまった…」
「…馬鹿」
「だからごめんって…!」
「そもそも何で今日買いに行くのよ」
「それは…給料日、昨日だったから…」
「…はぁ、」
何ていうかまぁ、カイジらしい。
さっきまで怒ってたのが何だか馬鹿らしくなって、思わず笑ってしまった。
「…貰って、くれるのか」
「…うん、ありがと。大事にする」
「そっか、へへ、」
そう言ってはにかむカイジが、愛おしい。
「でも今日の埋め合わせはちゃんとしてよね?」
「あぁ、勿論だ!」
「じゃあまずは…」
「?」
「今からコンビニ行こっか」
クリスマスは仕切り直し。
次は2つセットのケーキを買わなくちゃ。