指輪がきらきらひかっている、




深夜、屯所の中庭に面した廊下で、さがるくんに会った。


「あ、」
「あぁ、ちょうどよかった」


藍色の寝巻きに身を包んだ彼は、そこ座って、と廊下の縁を指差した。なんだろう。おとなしく従って、庭に体を向けて縁に腰掛けると、さがるくんはなぜか庭に下りようとした。


「ちょ、さがるくん」
「大丈夫、草履あるから」


なんて用意がいいのだ。彼は懐からとりだした草履を履き、庭に下りて、あたしの足元にしゃがみこむ。それから、ごく自然なしぐさで、ひょいとあたしの左足を手に取った。ちょ、なに。舐めるとか?


「舐めないからね言っとくけど」
「なんでわかった!」
「きみの考えてることは大体わかる」


さらっとものすごい発言をかまし、さがるくんはあたしの足を持ってないほうの手で、再び懐に手を入れた。今度はなにがでてくるんだろう?注視していると、彼が取り出したのは小さな白い包みだった。上質そうなその包みの中から現れたのは、


「指輪?」
「そ。あげる」
「なんで」
「いいから」


銀色に光るその小さな輪っかを、さがるくんはあたしの左足の薬指にはめた。え、普通手だろ。なんで足だよ。


「よし。ごめんね引き止めて、もう行っていいよ」


え、ぜんぜんよくないよ。呆然とするあたしを置いて、さがるくんは草履を脱いで廊下にあがり、さっさと行ってしまおうとする。慌ててその背中に声を放った。(ああ、意外にも広い、背中)


「さ、さがるくん」
「何」
「結婚しよ」
「やだよ」
「即答かよ。じゃあなんで指輪。足だけどさ」
「きみは一生独身でいればいいよ」


その指輪はつまり首輪だから。
最後にそれだけ言いおいて、さがるくんは廊下の奥に消えた。

左足の薬指に指輪、月明かりを受けてきらきら、
一切装飾のないシンプルなそれは、たしかに指輪というより、枷にみえた。



(俺以外の男の前でくつしたをぬがないこと)
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